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祠の影  作者: 西川 笑里
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決着

 由美子と美津子は、ドアを叩く男たちの音に息を殺した。優太と翔太がソファで小さく震えていた。

 家の外では藤尾開発の車が不気味に停まっている。男たちの声が怒りに満ち、木の軋む音が響く。


「開けろ!」


 由美子はポケットの「藤尾開発」の紙切れを握り潰した。祠の地下で優太たちが目撃したのは、業者が隠そうとした過去の証拠だ。町長が祠を崩し、跡を埋めて開発を進めたかった理由。彼女は美津子に囁いた。


「佐藤さんが来るまで耐えよう」


 美津子が優太を抱きしめ、頷いた。すると、遠くでサイレンが鳴り始めた。男たちの動きが一瞬止まり、懐中電灯の光が乱れる。パトカーの音が近づき、家の前に停まった。佐藤巡査の声が響く。


「そこまでだ! 手を上げろ!」


 男たちが慌てて車に逃げ込むが、別の警官が道を塞ぎ、動きを封じた。由美子がドアを開けると、佐藤が駆け寄ってきた。


「由美子さん、無事か? 子供たちは?」


「ここにいます。祠の地下に閉じ込められてた。町長が関わってる証拠もある」


 由美子が紙切れを渡すと、佐藤が目を細めた。


「町長か。わかった、すぐ調べる。それまで安全な場所に避難してください」


 警察が男たちを連行し、由美子たちは美津子の親戚の家へ移った。

 翌日、町は騒然となった。町長が逮捕され、藤尾開発の不正が新聞に載った。祠の地下から見つかった古い記録が、戦前・戦後の失踪事件を裏付け、町長がそれを隠そうとしたことが明らかになった。住民たちは動揺したが、数日後には日常に戻り、祠の話を避ける空気が漂い始めた。


 祠の跡に新しい封印が施された日、由美子は祖母の鍵と手紙を手に立っていた。佐藤が近づいてきて、疲れた顔で言った。


「田中は認めましたよ。開発で金が入るから、祠の過去を消したかったって。だが、妙なことを言ってた」


由美子が顔を上げた。


「妙なこと?」


「『あいつらに頼まれた』って。藤尾開発の背後に誰かいるらしい。県庁の名前も出てきたよ」


 由美子は息を呑んだ。町長は操り人形だったのか。祠の秘密は、この町を超えて広がっている。

 そこへ美津子が優太を連れてやってきた。


「由美子さん、ありがとう。本当に」


 由美子は微笑み、優太の頭を撫でた。


「美津子さんが頑張ったからだよ。でも、これで終わりじゃないみたい」


 美津子が目を丸くした。


「終わりじゃない?」


「うん。祠の過去を隠したのは町長だけじゃない。もっと大きな力が動いてる」


 由美子は祖母の手紙を見た。

「他の土地にも子守りの神が眠る」

 そうだ。藤尾家の務めがまだ終わっていない。

 美津子が優太の手を握り、頷いた。


「なら、私も手伝います。優太がまた危なくなる前に」


 二人は祠の封印を見た。石の記憶は静かに眠っているが、その奥にもっと深い闇が潜んでいる。由美子は決意を新たに、次の手がかりを探す準備を始めた。


             第一部 完

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