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祠の影  作者: 西川 笑里
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鍵穴

 由美子と美津子が家を出たのは、日が沈み、町が静寂に包まれる頃だった。昼間の役場での出来事が頭を離れない。祠の跡を埋めると電話で話していた男、藤尾開発の車、町長の裏に隠された意図。空には雲が厚く垂れ込め、月明かりさえ頼りにならない。町の混乱は夜の帳に隠され、遠くで犬の遠吠えだけが響く。由美子は懐中電灯と祖母の鍵を手に持った。美津子が隣で小さく息を吐き、白い霧が漂う。

「由美子さん、怖いね。でも、優太のためなら」

 美津子の声は震えつつも力強い。由美子は頷いた。

「うん。私も怖いよ。でも、行かなきゃ」

 二人は森の小道を進んだ。祠があった場所は、町外れの木々に囲まれた一角だ。昼間に見た崩れた屋根の記憶が蘇る。足元で枯れ葉がカサカサと鳴り、風が枝を揺らす音が不気味に響く。やがて、開けた場所に出た。そこには、祠の跡が広がっていた。石の台座が残り、屋根の瓦が散乱している。周囲には新しい土が盛られ、重機の跡がくっきりと残っていた。

 由美子が懐中電灯を台座に照らすと、積み上げられた石の一つがわずかにずれているのが目に入った。彼女は近づき、石に手を触れた。冷たい表面に、渦のような紋様が刻まれている。図書館の写真と同じだ。石を押すと、ゴロリと動いて小さな鍵穴が現れた。由美子は息を呑み、祖母の鍵を取り出した。鍵を差し込むと、カチリと音がして、台座の一部がずれた。土の下から暗い穴が現れる。

「美津子さん、隠し扉だ。優太が話してたの、これかも」

 美津子が目を丸くし、頷いた。

「行くよ、美津子さん。優太君たちが下にいるはず」

 二人は穴に懐中電灯を向け、石段が下に続いているのを確認した。由美子が先に降り、美津子が後に続く。狭い通路は湿気を帯び、壁に苔が生えている。懐中電灯の光が揺れ、影が不規則に踊る。数段降りると、広い空間に出た。石造りの部屋だ。中央に祭壇のような台があり、周囲に赤黒い染みが広がっている。由美子は写真を思い出した。あの紋様と同じだ。

 美津子が祭壇に近づき、台の脇に落ちている布切れを見つけた。優太の服の一部だ。彼女が声を震わせた。

「由美子さん、これ、優太の服よ。ここにいたんだ」

 由美子は頷き、部屋を見回した。祭壇の奥の壁に、細い隙間がある。そこからかすかに風が吹き込んでくる。美津子が隙間に耳を寄せ、目を輝かせた。

「何か聞こえる。声みたい」

 由美子も耳を澄ませた。確かに、微かに呻き声のような音がする。生きているのか。彼女は美津子の手を握った。

「助けよう。今すぐ」

 二人は隙間を広げようと力を合わせた。石が重く、指先が痛むが、諦めない。隙間が広がると、奥に小さな空間が見えた。懐中電灯を照らすと、土にまみれた二つの影が動いている。優太と翔太だ。美津子が叫んだ。

「優太!」

 影が反応し、弱々しく手を伸ばす。由美子と美津子は石をさらに押し、隙間を広げた。なんとか這い出せる大きさになると、美津子が優太を抱き上げ、由美子が翔太を引き寄せた。二人とも意識はあるが、衰弱している。由美子は涙をこらえ、懐中電灯を手に持った。

「美津子さん、早く出よう。町長が来る前に」

 美津子が優太を抱え、由美子が翔太を支えて石段を上がった。外に出ると、夜の冷気が二人を包む。祠の跡に立つ影が、遠くで動くのが見えた。藤尾開発の車だ。由美子は歯を食いしばった。町長の手が迫っている。二人は子供たちを連れ、森を抜けて家へ急いだ。


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