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祠の影  作者: 西川 笑里
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崩れた石

 由美子が家に戻った時、夜はすっかり深まっていた。森を出てから、頭の中で祠の屋根が崩れる音とあの不思議な紋様が繰り返し浮かんでいる。金属の欠片を手に持つと、冷たい感触が指先に残る。彼女は台所のテーブルにノートを広げ、昨夜の出来事を書き留めた。「子守 封」「藤尾」「渦と赤黒い染み」。これが優太と翔太を救う鍵になる気がして仕方ない。

 外からは町のざわめきが聞こえてくる。子供が消えた日から、静かだった町が急に騒がしくなっていた。


 朝が来るのを待つ間、眠りは浅かった。窓の外で、車の音や誰かの叫び声が断続的に響く。由美子は目を覚まし、テレビをつけた。地元局がニュースを流している。「町内で2人の子供が行方不明になって3日目。警察は川への転落を視野に捜索を拡大。町長は『安全第一で対応する』とコメント」。由美子は眉を寄せた。川への転落。祠の近くに川はないのに。彼女はノートを手に立ち上がり、美津子に会うことにした。


 美津子の家は商店街の裏手にあった。玄関先に花が植えられているが、今日は新聞記者が数人うろついている。由美子が戸を叩くと、美津子が顔を出した。目の下に隈ができている。


「由美子さん、早いね。どうしたの?」


「美津子さん、昨夜、祠に行ってきたんだ。聞いてほしい」


 二人は居間に座り、由美子はノートを開いた。金属の欠片をテーブルに置き、祠の屋根が崩れたこと、業者の会話を聞いたことを話した。美津子は目を丸くした。


「町長が急いでるってこと? 今、テレビで川の捜索のことばっかり言ってるよ」


「そう。祠のことなんか誰も触れない。隠したいんじゃないかと思う」


 美津子が欠片を手に取る。


「これ、祠を封じてたもの? 崩れた石の下に変な模様があったって……血痕みたいだったの?」


「分からない。でも、ただごとじゃない気がする。優太君のキーホルダーが祠で見つかったのに、警察は川ばかり見てて」


 美津子が息を呑む。


「由美子さん、警察に言おう。こんなの放っておけないよ」


 由美子は頷いた。だが、マスコミや捜索隊が騒ぐ中、警察が祠に目を向けるか分からない。それでも、やらないよりはいい。二人はコートを羽織り、警察署へ向かった。


 警察署は町役場の近くにあり、外には報道陣が集まっている。受付で事情を説明すると、佐藤巡査が奥から出てきた。由美子がノートを見せ、昨夜のことを話した。


「祠の裏でこれを見つけて、その後、業者が来て屋根を崩したんです。町長が急いでるって言ってました。子供たちが消えたのと関係あるかもしれない」


 佐藤巡査がノートと欠片を手に取る。眉を寄せた。


「藤尾さん、これは変ですけど……今、川の捜索で手一杯なんです。町長も『川が最優先』って言ってるし、証拠がこれだけじゃ動きにくい」


 由美子は唇を噛んだ。


「でも、優太君のキーホルダーが祠で見つかったでしょう? あそこには何かあるはずです」


「それは分かってます。ただ、祠を調べるにも人手がなくて……それに、土地の開発は警察じゃ止められません。役場の管轄です」


 美津子が声を上げた。


「じゃあ、どうすればいいの? 子供たちが消えたのに、川ばっかり見てて平気なの?」


 佐藤巡査が困った顔で頭をかく。


「報告は上げますけど、正直、決め手がないんです。マスコミも川に注目してるし……」


 由美子はノートを閉じた。警察が動かないなら、自分で調べるしかない。だが、さて、困った。町が川で騒ぐ中、祠に目を向けるのは自分だけだ。由美子は美津子を見た。


「美津子さん、商店街で開発の噂、もっと詳しく聞いてたよね?」


「うん、大きな会社が土地を買い上げて、工場建てるって。町長が『町の未来のため』って言ってるけど、なんか怪しいよね」


 由美子は頷いた。町長、田中健一。役場で聞いた「祠の件は急げ」が頭をよぎる。彼が川に誘導してるなら、祠を隠したいのか。彼女は決意を口にした。


「私、図書館でもっと祠のことを調べるよ。子供たちは間違いなく祠の辺りで何かあったはず。町長が何を隠してるのか、そらに藤尾家の過去とどう繋がるのか、確かめたい」


 美津子が小さく頷く。


「私も商店街で聞いてみる。誰か詳しい人、いるかもしれない」


 由美子は微笑んだ。町が川で騒ぐ裏で、二人が動けば何か見つかるかもしれない。だが、祠の紋様が頭を離れない。あの赤黒い染みが血痕なら、優太と翔太がまだ生きている可能性もある。時間がない。彼女は図書館へ向かった。町の過去が、答えを握っているはずだ。

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