4 商工ギルドはお友だちから(1)
「ユーマ、いいかの?」
フミさんが僕を呼ぶ。
「はい、何でしょう?」
「商工ギルドとの定例会じゃ、同席せい」
フミさんは度々僕を渉外に連れて行ってくれる。
経験を積ませてくれるのだ。
「はい、喜んで」
「よし、では午後イチで出る。準備しておくように」
「ギルド」と呼ばれるものは2つある。
1つはウチのような冒険者ギルド、もう1つは商工業者連合という意味の商工ギルドだ。
冒険者には必要な物が多い。
武器や防具、アイテム、食料、宿……
一方商工業者としても冒険者は大事なお得意様だ。
商隊の警備や護衛のクエストを発注することもある。
2つのギルドは持ちつ持たれつの関係というわけだ。
◇◇◇◇◇◇
フーリン商会1号館。
「フミさん、ユーマさん、お待ちしておりました」
僕らを出迎えてくれたのは、フウロ1番の商人であるフーリンさんだ。
商工ギルドの会長を務めており、ウチとの窓口係。
背筋がピンと伸びた、人のよさそうなおじさんという印象。
「フーリン、今日もよろしくな」
「よろしくお願いします」
フーリンさんがフミさんに深くお辞儀する。
やっぱりフミさんってすごい人なんだ。
親戚でよかったぁ。
「さぁ、始めるかの」
広い応接室で話し合いが始まる。
「フーリン、今度はどんな冒険者がいるんじゃ?」
「そうですな…… まずは新しい酒場が近々オープンしますので、その宣伝ができればと考えております」
冒険者は広告塔にもなる。
有名なパーティが使う装備やひいきにする店は自然と評判が広まる。
そのため商工業者は自社製品やサービスを積極的に提供してくる。
冒険者も製品やサービスをお得に利用できてwin winというワケ。
さながらスポンサー契約のようだ。
「酒場というと、花屋のヨルサの息子か?」
「ご存じでしたか。ようやく開業資金が集まったようで。
ちょっと抜けたところはありますが、やる気はあるみたいですよ」
「酒場は若者向けか?」
「はい、モダンなインテリアを揃えた上で、低価格とボリュームで差別化を図るようです。酒よりも食事の方に力を入れてますかな」
「だったら若い男のパーティが良かろうな」
「フレッシュな感じがあるとなおよしです」
「ユーマ、適当なのはいるか?」
僕はウチの冒険者リストを持参してきた。
今の話から条件に合ったパーティを見繕う。
「それですと…… 最近C級に昇格したパーティがいますね。平均年齢21歳で勢いがあります。男女比は2:2です」
「C級ですか…… B級ではいませんか?」
微妙だったか。
ランクは高ければ高いほど宣伝効果が高い。
「ちょっと年齢が高めになりますが、1番低くて平均28歳です。男女比3:1です」
「そうですか…… う〜ん、それならB級の方がいいかな?」
「20代なら大丈夫じゃろう。そっちにしてはどうじゃ?」
「その通りですな。ではB級でお願いします」
こうして条件に合ったパーティを1つ1つ選んでいく。
「では次に、ジュエリーショップの新装開店の宣伝です」
「あぁ、サルエルのところか。女性ターゲット専門にするとかなんとか」
「そうです、何でもご存知ですね。それで女性がいるパーティ、できれば全員女性でお願いしたいのです。」
「ショップに魔法道具の類は?」
「一部あります。ですがメインは非冒険者向きです」
「ならルックス重視かの」
「そうなりますな」
「ユーマ、どうじゃ?」
非冒険者向けだから実績は弱くていい、ルックス重視……
難しいな、女性の容姿をどうこう言えるほど経験が無い。
いっそヒナ姉、アヤさん、フミさんでやったらどうだ……?
いけないいけない、集中しないと。
とにかく女性パーティを探そう。
「女性だけとなるとかなり限られますね…… C級以上にはいません、D級に2パーティだけいます。1つは平均年齢17歳の、近所の友だちで組んだパーティ。もう1つは平均年齢36歳の、ママさんパーティです」
「う〜ん、どっちもちょっとなぁ……」
「若すぎるとジュエリーのイメージに合わんし、ママさんはなぁ…… サルエルの店には少し野暮ったいかもしれんのう」
「女性3人ならそこそこのパーティ数がありますが」
「でしたら3人で探してもらえますか?」
「分かりました、少しお待ちください……」
妥協と検討を重ねつつ、話し合いは長く続いた。
「……これで以上です、ありがとうございました」
ふう、終わった。
紹介したのは合計7パーティ、後で各リーダーに連絡しないと。
「では次に移るとしようか」
「えぇ、アレですね」
フーリンさんが席を立ち、本棚から一冊引き抜いて持ってくる。
本の名前は、
『要注意冒険者一覧』
つまるところブラックリストだ。
先のオメロスさんのように、冒険者は時として市民に害をなす。
そのようなトラブルを回避できるよう、注意すべき冒険者を共有しておくのだ。
「オメロスは追加したか?」
「追加しました。投獄済みなので心配無いとは思いますが、一応。他に追加する冒険者ですが、こちらでは3人把握しています」
「誰じゃ?」
「ユルカ、モールド、ロズワールです」
「……どこかで聞いた記憶があるヤツらじゃな」
「ウチにも苦情が来たことがある3人です。お酒でトラブルを起こしがちだとか」
「そうです。彼らはみな違うパーティですが、酒癖の悪さが目立ちます」
「そうか…… すまんのう」
フミさんがしゅんとする。
「フミさんが謝ることはではありませんよ」
「彼らは具体的に何を?」
「まずユルカですが、とにかく乱暴です。店員に大声で怒鳴り散らす、他の客に喧嘩をふっかける、防具屋でケチをつけて値切る…… 宿で暴れてベッドやドアを壊したりもしました」
危ないな、とてもじゃないけど近寄れない。
出禁になる店も宿も増えるだろう。
「ユルカは33歳、騒ぐ若者が我慢ならないと言ってるそうで」
「年増のやっかみじゃな、全く。できるだけ場末の宿に誘導しておけ。宿側も客が増える分には良いじゃろう。必要ならウチから補償金も出す」
「分かりました、気にしておきます」
フーリンさんが本にメモする。
こうして手作業で要注意人物を更新していくのだ。
「モールドは酔うと女癖が悪くなります。手当たり次第に声をかけて、断ると怒鳴るそうです。それで女性の夜間の外出に不都合があるのです」
「ギルドで見かける限りは大人しい人ですが、お酒が入ると性格が変わるようですね」
「強く指導せんといかんのう。酒場に近づかんよう言っておく」
「お願いします。それでロズワールですが、誰かに危害を加えたりはしないのですが……」
フーリンさんが言葉に詰まった。