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3 クエスト報酬が払えません(2)

 脳が、弾けた。


 あぁ、分かった。

 これはコボルトの仕業じゃない。

 この辺りの生態からすると、ここを襲った本当の魔物は、


「ホーンラビットか」


 ホーンラビット、額に角が生えたウサギの低級魔物。

 コボルトと同じく群れで行動するが、危険性は段違いに低い。


 2種類の足跡は前足と後足、四足歩行の証だ。

 それなら口と糞の小ささも頷ける。

 そしてホーンラビットは縄張りに穴を掘る習性があるはず。

 ほぼ確定だろう。


 希望が見えてきた。

 ホーンラビット討伐なら5,000Gでも事足りる。


 だがその前に、だ。


「アイシャさん、よろしいですか?」


「はい?」


「なぜこれがコボルトの仕業だと思ったのですか?」


 アイシャさんがコボルトだと判断した理由が気になる。


「村役場の人を呼んで調べてもらって、結果を聞きにいったらコボルトだって言われました。それで冒険者を呼ぶようにと……」


「は?」


 いけない、ついぶっきらぼうな声が漏れた。

 しかし、役人がコボルトだと言った?


「本当ですか? 彼らがコボルトだと?」


「はい、間違いありません」


 ……いったい何をしているんだ。


 役所が魔物事件を扱う際には専門家を呼んで鑑識しなければならない、そういう規則があるはずだ。

 事件当時、この現場を専門家が見れば一目でホーンラビットだと判明したはず。

 今僕が見ても分かったんだから間違いない。


 それがコボルトだと?

 ふざけるな。


「アイシャさん、役場に行きましょう」


「い、今からですか?」


「はい、今すぐです」


 文句の一つも言わないと気が済まない。




 ◇◇◇◇◇◇




 村役場。


「アイシャさんの事件の担当者に会わせてください」


 着くなりそう言った。

 大分怪しまれたが、フウロギルドの名を出すと村長室まで案内された。

 ギルドの権力に感謝だな。



 村長室。


 恰幅のいいおじさんが薄目で僕らを迎え入れる。


「フウロギルドのユーマさんですか、本日は何のご用件で?」


 よくもまぁぬけぬけと。


「アイシャさんの事件についてお尋ねしたいことがあります。ご存じですよね?」


「……はて、何だったでしょうか。私が担当しているわけではありませんし、1つ1つ覚えてませんなぁ」


 それをアイシャさん本人の前で言うなよ。

 村長の第一印象、✕



 結局担当者を呼んだ。

 身なりがだらしない男性が入ってくる。


「アイシャさんの事件とやらは君が担当でいいのか?」

「はぁ、そうですが」

「だそうですので、詳しくは彼に聞いてくだされ」


 彼に詰め寄る。


「単刀直入に言います。アイシャさんの畑をもう一度調べてください」


「はい? なぜです? てかアンタ誰ですか?」


 言葉遣いもなってないな。


「僕はフウロギルドの職員です。アイシャさんにクエストを発注いただく前に、現地を見に来ました。」


「クエスト発注するんですね、だったらもういいじゃないですか。あとは冒険者がやってくれるでしょ」


「いえ、それが……」


 アイシャさんが口ごもる。


「その前に、再調査をお願いします」


「だから何で? コボルトだってんだろ」


「ねぇユーマさん、彼もそう言ってますから……」


 村長も割り込んできた。

 だけど、ここで退いてたまるか。


「コボルトでは無い可能性があります。再調査してください」


「だからあれはコボルトなんだって」


「それでもお願いします」


「しつこいぞ!」


「どの辺りがコボルトだったのでしょう、さっぱりです」


「どっからどう見てもコボルトだろうが!」



 ……言ったな。



 その言葉が欲しかった。



「あなたが、『どっからどう見ても』コボルトだと判断したのですか? 専門家ではなく?」


「あ……」


 失言に気づいたか、だがもう遅い。


「専門家を呼ぶのが規則ではないのですか? それを無視してあなたの独断で決めつけたと、そういうわけですか?」


「そ、そうなのか、君?!」


 村長が慌て出した。

 ようやくか。


「あ、いや、それは……」


「はっきりしたまえ!」


「えっと……」


 ダメ押しだ。


「まぁいいですよ、認めなくても。」


「へ?」


「え?」


「ユ、ユーマさん?」


「フウロギルドで専門家を呼んで調べてもらいますから。大丈夫です、当時も調べてもらってコボルトだったんですよね? だったら同じ結果が出るはずです」


「そ、そんな……」


「こちらの考えすぎということで終わり、何もありません。そうですよね?」


「あ…… う……」


「でももし、万が一、違う結果に、なんてことになったらどうしましょうね? どっちが間違っているか、憲兵と裁判所も巻き込んで、ゆ〜っくり話し合いましょうか?」


「そ、それはおやめください! 君、さっさと言え!

 独断なのかどうなのか!」


 村長は必死。

 これ以上大ごとにしたくないんだな。


「……すみません」


 彼から小さな小さな声が聞こえた、気がする。


「何ですか? 聞こえませんよ?」


「……すみまっせん、でしたぁぁぁ!」


 彼は地面に頭を擦り付けた。

 まぁ綺麗な土下座だこと。


「最初からそうしてほしかったな」




 ◇◇◇◇◇◇




 結局、コボルトは彼の独断による決めつけだった。


 当時は役場に常駐する専門家が出払っていた。

 最近コボルトの事件が近くで発生していたので、現場をよく見ずにさっさと決めつけてしまったという。

 他の仕事も溜まっており、時短のためと思って魔が差したらしい。


 何が時短だ、それで損をする市民にとってはたまったものではない。


 アイシャさんはホーンラビットの討伐クエストを発注した。

 今回は役場の不手際ということで、クエスト報酬からギルド手数料まで役場に負担させた。

 現在クエストは受注済み、直に解決するだろう。



「ユーマ、お疲れ様! 役場のミスだったって? 大変だったね」


「うん、市民を守るには役人の力が必須なのにね。忙しいのは分かるけど、手は抜いてほしくなかったな」


「そうだね…… でも、アイシャさんの畑を守れるのは良かったよ! クエスト発注のとき、すっごい笑顔だったから! 畑、元通りになるといいんだけどなぁ」


「時間はかかるかもしれないけど、アイシャさんならできると思う。息子さんにも協力してもらうみたいだしね。きっと元に戻るよ」


「うんうん、私もそう思う! それでね、ユーマ!」


 ヒナ姉が僕の両手を包むように握る。


「やっぱりユーマは頼りになるね! 本当に助かったよ!」


 率直な感謝が伝わってくる。

 小っ恥ずかしいことこのうえないが、悪い気はしない。


「うん…… でも仕事はまだまだあるから。ヒナ姉も頑張ってね」


「もっちろん! じゃあ受付に戻るね! ありがと〜う!」


 ヒナ姉はいつも元気をくれる、ありがたい。


「さて、今日も頑張らないと」


 肩をぐるぐる回した。

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