2 リーダーがひどいのです(2)
翌日。
マルボウさんがオメロスさんを連れてきた。
「俺、彼女のとこ行くんだけど? ギルドがどうしたってんだよ?」
オメロスさんは明らかに機嫌が悪い。
難航するかも。
「少し話するだけだから、聞くだけ聞いてくれ」
「ったく、何なんだよ」
オメロスさんがマルボウさんの横に座る。
「オメロスさん、フウロギルドのユーマです。よろしくお願いします」
オメロスさんは27歳、マルボウさんより11歳も下。
この点もマルボウさんは負担に感じているだろうな。
さて、始めるか。
「オメロスさん、ギルドとして注意させていただきます」
「はぁ?」
「クエストに必要以上のパーティを連れていくのは望ましくありません、トラブルの元です」
「何でそんなこと言われなきゃいけないワケ? 俺が何したってんだよ?」
軽く指摘してもオメロスさんの態度はふてぶてしい。
踏み込むしかないか。
「スキルも覚えていない女性4人のパーティをわざわざ引き連れていらっしゃるそうで」
「……知ってんのかよ」
オメロスさんの声のトーンが下がる。
「おいマルボウ、お前が言ったのか、あァ?」
「……そうだ」
「いちいち余計なことしやがって、クソが」
いけない、矛先はこっちに向けさせないと。
「『クエスト攻略の対価は全ての人間にとって公平でなければならない』、冒険者規範にもそうあります」
「へいへい」
「攻略に一切貢献していないパーティにも報酬を配分することは、かえって不公平になります。今一度パーティのあり方を見直していただけませんか」
「知らねぇよ。あれだ、女4人は俺が育ててやってんだよ。後輩の育成ってヤツよ。ギルドはそれもダメって言うのかよ?」
育成は大変結構だ、しかし。
「彼女たちに成長する意思が無ければ意味がありませんね」
本当に「育成」ならね。
「スキルを覚えるなり職業を変えるなり、アイテムを使うでも何でもいいです、戦闘に参加する姿勢が無ければ『育成されている』とは言えませんよ」
「チッ、いちいちうっせぇよ」
「オメロスさん」
最後通帳だ。
「あなたはリーダーです。パーティの行く先を見据えて、メンバーの意思を再確認してください」
「オメロス、頼む」
マルボウさんが頭を下げた。
静寂。
「……そうだな、俺が悪かったよ。もうあのパーティは連れてこない。」
「オ、オメロス……! ありが」
「とでも言うと思ったか?! バカがよぉ!」
相談室に響く罵声。
あぁ、こういうタイプか。
頭が痛くなるな。
「オ、オメロス……?」
「俺の荷物持ちが偉そうに! だったらお前だけでクエストやってみろよ、なぁ?!」
「いや、それは……」
「できねぇよな?! ロクな攻撃スキル持ってねぇもんな、お前! 役立たずがよぉ!」
マルボウさんが胸ぐらを掴まれる。
いけない、止めないと。
「その辺りで、ギルド内の暴力はご法度です」
「ケッ」
オメロスさんが手を離すが、
「……」
マルボウさんは意気消沈か。
「来るんじゃなかったぜ、くだらねぇ」
「オメロスさん、待ってください」
声をかけるが、無視。
相談室を出る直前に振り返って、
「あぁそうだ、マルボウ」
「……何だ?」
「明後日、朝からクエストやるからな。遅れんなよ、ノロマ」
「……あぁ」
オメロスさんは出ていってしまった。
「すみません、うまくいきませんでした」
もっといい方法があったかもしれない。
悔やまれる。
「いや大丈夫、もういい。どうせこうなるだろうと思ってた」
マルボウさんも席を立った。
「これからどうするんですか?」
「変わらない、アイツに従う。それしかないんだ。」
マルボウさんは悲しげにそう言う。
仕方ない、ギルドはこれ以上のことはしてあげられない。
ルール違反、犯罪でもしていない限り手出しはできない。
犯罪……
「……マルボウさん、ちょっとお尋ねしたいのですが」
「何だ?」
「クエストの受注はオメロスさんが?」
「あぁ、リーダーだからって全部やってくれてる。そういうところもあるんだがな。」
「なるほど……」
現状ギルドができることはない、ただし。
「叩いて埃が出るのなら、出しておきましょうか。」
「……?」
◇◇◇◇◇◇
数週間後。
オメロスさんが検挙されたと憲兵から報じられた。
罪状は市民への脅迫、強盗。
「ユーマちゃん、これで良かったのよね?」
「えぇ、知った以上は見過ごせませんから。」
彼女にお小遣いをあげるためとはいえ、オメロスさん自身の取り分も少なくなっているのだ。
彼がそれに我慢できる性格でもないだろうと考え、受注したクエストを洗いざらい調べてみた。
それで発注者への聞き取り調査で発覚した事実があった。
オメロスさんがクエスト報酬とは別に金品を要求していたというのだ。
『俺たち以外に空いてるパーティは無い』
『渡さないならクエストは受けない』
『断ったらどんな目に遭うか知らない』
『夜道に気をつけろ』
言葉の圧と剣をチラつかせて金品を奪った後は、
『チクっても同じこと、危ない目に遭いたくなかったら黙ってろ』
とわざわざ釘を差していたそう。
立派な犯罪行為だ、野盗と相違ない。
そうして集めた証言とギルド側の資料を憲兵に提出した。
そして憲兵による調査が行われ、検挙まで至った。
見事な因果応報だ。
◇◇◇◇◇◇
さらに後日。
マルボウさんが訪ねてきた。
「オメロスに実刑判決が出た、終わりだな」
「はい」
オメロスさんの有罪が立証された。
冒険者資格は剥奪の上、10年は出てこれない。
当然、パーティは解体だ。
「俺は郊外の田舎に帰る」
「いいんですか? 冒険者は……」
「いいんだ、目が覚めたよ」
マルボウさんの顔は穏やかだ。
「俺にやれるだけのことはやった、冒険者に挑戦できた。それでもう十分だったんだ」
自分の中で整理がついたのか。
うん、いいことだ。
「田舎に帰ってからは何を?」
「親の畑を継ぐ、面倒も見てやりたいしな。俺は俺の人生を歩んでいくよ」
「そうですか、何よりです」
「世話になったな」
マルボウさんがギルドを後にする。
もうここには戻ってこないだろう。
背中を見送る。
「ギルドは冒険者の新たな旅立ちを応援します。どうかお気をつけて」
マルボウさんは軽く会釈して去っていった。
冒険者には夢がある。
しかし現実からは逃げられない。
1人1人、夢と現実の狭間で人生の歩み方を考えなければならない。
ギルドはその手助けをする場所だ。