表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/24

8 おカネも金の沙汰次第です(1)

 ホンニュ鉱山。


「この辺すげぇぞ! 金鉱石だらけじゃねぇか!」


「こんだけありゃあよ、ちょっとパクってもバレねぇな!」


「おい、そこにドデケェのあるぞ! 金ピカだ!」


「すっげぇ! 掘ろうぜ!」


「よっせ! よっせ!」


「よっ…… おおっ?! 揺れてるぞ?!」


「地震か?!」


「あっ?! ドデケェのが動いた?!」


「あ、穴が空いたぁ! お、落ちるぅ〜!」



「イテテ…… 何だここ? 洞窟?」


「お、おい! アレ、さっきのドデカイヤツ……」


「ま、魔物じゃねぇかぁ?!」


「キュルルル…… ギュアアアアアア!」


「「「ひぇぇぇ〜〜〜!」」」




 ◇◇◇◇◇◇




 フウロギルド、会議室。


「ゴールデンスコーピオンの巣、ですか?」


「あぁ、ホンニュ鉱山の採掘中にぶち当たったらしい」


 ホンニュ鉱山はカサン王国最大の採掘場だ。

 魔鉱石を始め、金、銀、銅、ダイヤなどの宝石類も多く産出される。


 ゴールデンスコーピオンはサソリの中級魔物。

 全身が魔力をまとった純金に覆われ、物理にも魔法にも中程度の耐性がある。


「討伐はまだですか?」


「思ったより巣がデカいみたいでな、結構手こずってるらしい。第一発見者によれば、パッと見で10匹はいたらしい」


「パッと見でそれなら、全体で30、40はいそうですね」


「そうだな。考えただけで面倒くせえ」


 下手なダンジョンよりよっぽど危険だな。


「それにスコーピオンが暴れてあちこち落盤が起きた。通路が潰れちまってるみたいだぜ」


「しかも巣があるエリアは金鉱石の採掘場じゃ。マズイことになったの」


 金鉱石?

 それは大変だぞ。


「数週間もしないうちに経済格差が波及しますね」


「いや、既に中央商人は金貨の保留を始めておる。地方の貧困はずっと早く訪れるぞ」


「ウチの金貨量は大丈夫でしょうか? 発注者を保護できますか?」


「大丈夫…… とは言い切れんの。フーリンに打診しに行くか」


「えぇ、アポを取りますね」



「あの〜」


 ヒナ姉が挙手。


「ん? ヒナ姉、どうしたの?」


「おばあちゃんとユーマで話進んでるけど、私はどういうことかサッパリ……」


「私もよく分からないわ…… 経済格差? 発注者の保護?」


「2人が意図してるところが分からん。なんでフーリンに会いに行くんだ?」


 しまった、すっ飛ばして話しすぎたか。


「そうか、すまんのう。ユーマ、説明できるか?」


「分かりました。ざっくり説明します」


 お金の仕組み、解説といこう。




 ◇◇◇◇◇◇




「ゴールデンスコーピオンの話をする前提として…… まずカサン王国の通貨についておさらいしましょう。通貨単位は(ゴールド)で、政府が金貨を発行しています」


「政府としては金貨での取引しか認めておらんことになっておるな」


「え、でも銀貨とか銅貨とかよく見るよ? 買い物でも結構使えたりするけど」


「政府は金貨しか認めてないけれど、地方都市や郊外では依然として銀貨や銅貨が使える実態があるんだ。お店が独自に金貨との交換レートを定めたりしてね。それについて政府は黙認しているんだ」


「本当はダメだけど、それで地方や郊外の経済が回ってるから見過ごされてるのねぇ」


「それで、金貨しか認められてねぇってのが今回どう関わってくるんだ?」


「その前提があると、以下の流れが分かりやすくなります」



【1.政府が発行する金貨量が減る】

【2.物価が下がる       】

【3.中央商人が金貨を貯め込む 】

【4.地方の金貨が中央に流れる 】

【5.地方が貧困になる     】


「ここでは地方都市と郊外をまとめて『地方』と表現しますね」



【1.政府が発行する金貨量が減る】


「これは分かりやすいでしょう。ゴールデンスコーピオンのせいで金の採掘ができなくなり、必然的に金貨も発行できなくなります」


「そりゃそうだな。材料がなきゃ作れるワケねぇ」



【2.物価が下がる       】


「金貨が発行できずに供給量が減ると、物価が下がり始めます」


「これはどうして?」


「手元の金貨が少なくなるからモノが買えなくなるんじゃ。じゃから店は価格を下げないと売れなくなってしまう」


「銀行から金貨を引き出したくても『供給が無くて引き出せません』ってことになるのねぇ」



【3.中央商人が金貨を貯め込む 】


「金貨が減ることに気付いた中央商人が、地方に先駆けて金貨を貯め始めます」


「こ、これは何でだ?」


「相対的に金貨の価値が上がったからじゃ。『物価が下がる』ことはつまり『より少ない金貨でモノと交換できる』ことになるからの」


「金貨の希少価値が上がったとも言えますね」


「なるほど…… 金貨がレアになったから中央の人たちが欲しがるってことだね」



【4.地方の金貨が中央に流れる 】


「これが問題なのですが、地方の金貨が中央に流入してしまいます」


「どうしてなのかしら?」


「金貨を欲しがる中央商人が地方の金貨を回収するからです。先ほど言ったように、地方では銀貨や銅貨も使用されています。そこで中央商人はありったけの銀貨と銅貨を地方に持ち込み、金貨と交換するのです」


「何も知らない地方民はされるがまま、金貨との取引に応じるんじゃな」


「金貨の価値が上がってるって知らなかったら、断る理由もねぇしな」


「何だかかわいそう……」


「かわいそうなのはここからだよ」



【5.地方が貧困になる     】


「そうして金貨がすっかり中央に回収された後、地方で銀貨や銅貨を金貨に交換してもらおうとしても、金貨の交換レートはすごく上がってしまっています」


「金貨を持ってる中央の人たちからしたら、交換してあげる意味が無いわよねぇ」


「手元には価値が下がった銀貨と銅貨ばかりになっちまうワケか」


「ここで地方の発注者保護に繋がります。クエスト報酬を銀貨や銅貨でしか払えないとなれば、冒険者から敬遠されかねません」


「通貨じゃないモノでもらっても困るもんね。銀貨や銅貨報酬のクエスト、受けなくなっちゃうかも……」


「じゃから儂らギルドが発注者と金貨を交換することでカバーしようという話になるんじゃ」


「そういうことだったんですねぇ」



「だから金貨の減少に手を打たないと、ギルドとしても不都合があるんです」


「でもよ、本当にそんなことになるのか? ちょっと疑問に思うところがあるんだが」


「なんじゃ?」



【Q.地方のヤツらもバカじゃない、中央商人との金貨交換なんて断ればいいんじゃないのか?】


【A.脅されるので難しいかもです】


「地方民が金貨の価値に気づいたとしても、彼らにこう言うんです」


『こっちの商品は金貨で買え。そっちの商品は銀貨と銅貨で買ってやる。嫌なら金輪際取引しない』


「ひ、ひどい! 脅迫だよ、そんなの!」


「こんなこと言われちゃったら、悔しいけど応じるしかないのかしらねぇ」


「中央商人の権力を最大限利用して圧をかけてくるんじゃ。断ればその見せしめに、他の取引も潰されるかもしれんの」


「ちくしょう、ダメなのか……」


「じゃあじゃあ、これは?」



【Q.銀貨と銅貨もお金として使えるよう、政府が決めちゃえばいいんじゃない?】


【A.経済が大混乱するので難しいです】


「いきなりそう決めちゃったら大問題になるんだ。今まで何てことなかったモノが突然『今日からお金にします』なんて言われたら、どうなると思う?」


「そっか…… 金貨以外のモノが突然お金になっちゃったら、みんなびっくりするよね」


「前世で政府が『円に加えてに銀や銅も通貨にします』なんて言ったら経済大荒れじゃろうな。偽通貨もたくさん出回って、日本が傾きかねん」


「エン……? ニホン……?」


「ハロルドさんは気にしなくていいわよぉ。私からも質問いいかしら?」



【Q.金の採掘量が減ったのなら、金に混ぜものをした新しい金貨を発行して供給を維持したらどうかしら?】


【A.アリですが、できればやめておきたいです】


「確かにそうすれば供給量は維持できますが、別の問題が発生します」


「別の問題って?」


「仮に従来の金貨を『ガチ金貨』、混ぜものをした新金貨を『ザコ金貨』としましょう。ガチ金貨に代えてザコ金貨が発行され、国中に流通したと考えてください。するとどんな問題が起こるか?」


「ヒナ、どうなると思う?」


「えっと…… ガチ金貨とザコ金貨の両方が流通してることになるよね?」


「そうだね、それで?」


「う〜ん…… えっと…… なんとなくだけど、ガチ金貨を使うのは嫌で、ザコ金貨ばかり使うようになる、かも」


「そう、そこじゃ。みんな混ぜものの無いガチ金貨を手元に残したくなる。ザコ金貨を手放してガチ金貨を欲しがるんじゃ」


「そうなるとさっきと同じで、中央商人が地方からガチ金貨を回収する流れになります」


「結局今までの金貨の価値が上がるってのは変わらないのねぇ」


「お金の話、難しいよ……」


「全くだ、頭がいてぇぜ」


「とにかく、フーリンの協力を得られるまではギルドの金貨を使って発注者を守るぞ」


「あぁ、分かった」


 クエスト発注に支障があってはいけないのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ