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7 初心者装備を貸しますが(2)

「ユーマ」


「ユーマ?」


「ユーマちゃん」


「ユ、ユーマ……」


「「「「誰を選ぶ?」」」」


ど、どうしてこんなことに……


本当に僕が選ばないといけないの?

ねぇ、みんな……


「「「「……」」」」


あぁ~ みんなの視線が刺さる~

早く選べと目が訴えかけてくる~


もう仕方ない、やるだけやるか。

1人1人検討してみよう。




◇◇◇◇◇◇




【ハロルドさん】


『俺と一緒に行くのか?』


頼れるギルマス。

腕っぷしが強くてみんなから畏れられてる。

頭の回転も速く、問題解決力が高い。



【ヒナ姉】


『私と一緒に行くの?』


ハツラツ受付嬢。

愛想がよくてどんな人の懐にも潜り込める。

全てのことに一生懸命な頑張り屋。



【アヤさん】


『私と一緒に行くのかしらぁ?』


母性溢れるメンター。

包容力があって話をするだけで心安らかになる。

つらいとき傍にいてほしい人。



【フミさん】


『儂と一緒に行くんじゃな?』


有能リーダー。

知識が豊富で交渉術に長けている。

ビジネスの場でこれ以上頼りになる存在はいない。




◇◇◇◇◇◇




検討した結果、僕が選ぶのは……


「ハロルドさん、お願いします」


「俺か、いいぞ」


いや、それはそうでしょ。

1択なんだが。


荒事になるかもしれない時点で、どう考えてもハロルドさん。

最適解。


「……そっか、ハロルドさんかぁ」


「……そうよねぇ、お仕事だもんねぇ」


「……ハロルドの方が頼りになる、か」


あれ、みんなの顔が暗い。

というか、怖い?

なんで?


「ど、どうしました……?」


「どうしたもこうしたもないよ! もう!」


「これ、未返却のリスト! この人たちから回収してくださいねぇ!」


「ほれキビキビ動かんか! それじゃあ……」


「「「いってらっしゃい!!!」」」


男2人、追い出されるように出発した。


「なんだなんだぁ? 乱暴なこった」


「僕もサッパリです」


う〜ん、イベント選択は難しいな。

仕事としては正解を選んだはずだけど。




◇◇◇◇◇◇




「まずはここだな」


「エルミさん、26歳男性。E級パーティの弓兵(アーチャー)です。低級のダンジョンクエストを受注してから何の報告も無いままです」


「失敗してそのまま面倒になって、冒険者もやめたんだろうよ。意気地なしが」


この世界は冒険者への間口が広いが、その分出口も広い。


初志貫徹できず、あっさり冒険者をやめてしまう人は後を絶たない。

エルミさんもその類ではあるだろう。


家のドアをノックする。


「エルミさん? フウロギルドのユーマです。いらっしゃいますか?」


返事は無い。


「エルミさん?」


2度3度繰り返したが、返事は無かった。


「留守ですかね…… 出直しますか」


「いや、待て。カーテンに人影が映った。ビビッて出てこねぇだけだ」


ハロルドさんはドアに立ちはだかり、


「オラァ! エルミィ! いるの分かってんぞ! ギルドじゃあ! さっさと開けろやぁ!」


ヤ、ヤクザ……

こんな横暴許されるのか? 

いやこのくらい圧が無いとやっていけないのか?


そう悩んでいるうちに、


「な、何ですか…… やめてくださいよ……」


恐る恐るドアが開き、エルミさんが顔を出した。


「おう、貸したモン返してもらったらすぐ帰ってやるよ」


「エルミさん、半年前に装備を借りてから特に活動していませんよね? 現在装備はどうなっていますか?」


「あ〜アレかぁ…… 家のどこかにあると思います」


「今返却いただけませんか? 次回クエスト受注時に再申請いただけましたら、また貸し出しますので」


「え〜探すのメンドイなぁ。またいつかでいいですか?」


こういう人はズルズルと先送りにしがちだ。

今やってもらわないと後で困る。


「いえ、今探してください。ここで待っていますから」


「そんな勝手なこと言うなよ! こっちだって都合があるんだ!」


「あァ?! こっちの都合さんざん無視したくせに何言ってやがる! 借りたモンは返す! ガキでもできることだろうが! 口答えしてんじゃねぇ!」


ハロルドさんがキレた。

味方だけど、迫力がありすぎるな……


「ひ、ひぃぃぃ! ごめんなさいごめんなさい!」


「ごめんなさいじゃねぇ! 今すぐ探すか、どうなんだ?!」


「すぐっ、すぐ探しますぅ〜!」


エルミさんが家の奥にすっ飛んでいった。


「見たかユーマ。この手のヤツらはガツンと言わないと動かん。丁寧なのもいいが、下手になりすぎは良くないぞ」


耳が痛いな。

僕は言葉で説得してばかりで、こういうパワーが必要な場面では何もできない。


暗に体を鍛えろと言われてる気もする。


「……精進します」



5分ほどして、


「これです、お返ししますぅ!」


「武具も防具も全部あるな」


「ほぼ新品みたいですね」


「それ装備してダンジョンに行ったんですけど、魔物が怖くてすぐ逃げちゃったんで……」


「根性がねぇな。装備がかわいそうだぜ」


「まぁまぁ、ギルドは冒険者の再挑戦を歓迎します。またお気持ちが向きましたらお訪ねください」


「は、はい……」


回収した装備はいったん郵便局に預け、後でまとめてギルドに送る。

持ち歩くには重いからね。




◇◇◇◇◇◇




「次ですね。ゴルドーニさん、17歳男性。D級パーティの魔法使いです。防具のみのレンタルですね」


「さっさと片付けるか。俺が行く」


「ここはご実家でご両親がいらっしゃるそうです。ですから声かけは優しく、お願いします」


「優しくか、やってみる」


ハロルドさんはドアをノックして、


「ゴルド~ニ〜? いるんだろ〜? ギルドのハロルドが来てやったぞ〜? ちょっとお話しようぜ、なぁ〜? ここ、開けてくれやぁ〜」


べ、別の意味で怖くなっちゃってる……


でもドアは開いた。


「あらハロルドさん、ギルドマスターがわざわざ何の用ですか?」


年配の女性、母親だろう。


「ちょっとな。ゴルドーニいるか?」


「えぇ、いますよ…… ちょっと、ゴルドーニ?! ハロルドさん来てるよ! アンタ何かしたの?!」


「うるっせぇな! 聞こえてるよ!」


「うるさいとは何だい! いいから早く来な!」


少しして、気だるげな青年が現れた。


「……何でしょう」


「防具、返せ」


「防具?」


「ギルドが貸し出した、初心者用のレザー防具です」


「あ、アレか……」


ゴルドーニさんの目が泳ぐ。


「あの…… アレなんですけど……」


「何だ、はっきり言え」


「その…… 壊れました」


「壊れただと? どこが?」


「……全部、です」


「全部? ヘルメットからブーツまで、全部ですか?」


「……はい」


全部とは驚いた。

普通全部損壊する前に撤退なり何なりするはずだから。


「でしたらこちらの紛失・損壊報告を提出していただけますか? それと補償金の支払いも」


レンタルするには無料だが、装備を失くしたり壊した場合は補償金を支払ってもらう。


ただし1部位につき50G、購入代金の4分の1に満たない。

装備を軽々しく扱ってもらわないための罰則というだけだ。


「補償金、ですか……」


「アンタ、補償金って何?! 装備壊したんですか、ウチの息子?!」


母親が慌てた様子で出てきた。


「はい、そのようです」


「アンタって子は……! 何で黙ってるの! さっさと言わないとダメでしょうが!」


「うるっせぇって! 俺の…… 俺のせいじゃねぇんだよ!」


俺のせいじゃない?

どういうことだ?


「ゴルドーニ、どういう意味だ?」


「何かあったんですか? お話ください、力になりますから」


「何、どうしたの?」


「……実は」


ゴルドーニさんはぽつりぽつり、話し始めた。



以前パーティでゴブリンの討伐クエストに向かったが、初めての魔物でみんな緊張していた。

ゴルドーニさんも練習した魔法がうまく出せず、なかなかダメージを与えられなかった。


そうこうしているうちに前衛の2人が逃げ出した。残ったのはゴルドーニさん含め後衛2人。

盾役がいなくなったことで一気に攻め込まれ、組み伏せられた。


後衛の1人はゴルドーニさんをおとりにして逃げた。その間ゴルドーニさんはゴブリンの集中攻撃を受けた。

防具がきしんで壊れていくのが本当に怖かったという。


なんとか隙を見つけ、防具を脱ぎ捨てながら命からがら逃げ出した。

それ以来家にこもってしまい、メンバーとも会わずギルドにも行かなかったということだった。



「アンタ…… そんなことが……」


「まぁ初心者で仕方ないとはいえ、前衛が先に逃げたのは気の毒だな」


「補償金うんぬんの前に、メンバーと話し合ってもらった方が良さそうですね」


「そうだな、アヤさんに頼むか」


「それでは紛失・損壊報告の提出だけ、今週中にお願いします。話し合いの場についてはそのときお知らせしますので」


「ゴルドーニ、お母さんにもう1度話してやれよ。心配してんだからな」


「……はい」


「では僕たちはこれで」



移動中、ハロルドさんに話しかける。


「色んな事情がありますね、特に新米冒険者には」


「魔物っていう未知と遭遇して命の危機にさらされるんだ。本性ってモンが現れるんだよ」


「難しいんですね、冒険者って」


「おうよ。だからこそ、その中を生き残ったヤツが『勇者』になるんだ」


勇者は、本当に夢のような存在なんだ。

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