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6 勇者のタマゴがおりまして(2)

 お話会の時間になった。


 子どもたちが20人、その保護者が10人ほど。

 司会はヒナ姉に任せて、僕は傍らで待機する。


「は~い! 今日はみんなのために、冒険者さんが来てくれました~! 拍手拍手~!」


「「「わぁ~~~!」」」


 ヒナ姉、上手だ。

 そういうお姉さんみたい。

 今回にぴったりの司会だな。


「それじゃあまず、冒険者さんに挨拶してもらおうか! お願いします!」


「みんなこんにちは、俺たちはB級パーティで……」


 各々の自己紹介と冒険者になった理由、大まかな戦績を話してもらう。


 みんな目を輝かせて聞いてくれている。


「……ありがとうございました! じゃあみんな、ここから質問タイムで~す! 冒険者さんに聞きたいことが、ある人~?」


「「「は~い! はいはいはい!」」」


 全員の手がバッと上がる。


「じゃあ~ そこのボク! 何を聞きたいのかな?」


「えっと…… 1番儲かったクエストって何ですか?」


 げぇっ、いきなりそんなのか。

 最近の子はちゃっかりしてるな。


「儲かったかぁ…… う~ん、君にはまだ早い話かもしれないよ?」


「早くないよ! お金欲しいもん! だから冒険者になるんだ!」


「私も!」


「ボクも!」


 賛同する声がちらほら。


 こんな小さいころからこの世は金ってことを知ってるのか。

 可愛げが無いよぉ。


「そうだなぁ…… じゃあ、具体的には言えないけど、ちょっと例えて教えるよ。君、お父さんやお母さんは働いてお金を稼いでるだろう?」


「そうだよ!」


「その1年分」


「え?」


「お父さんやお母さんが1年間、頑張って働いて貯めたお金を、1回のクエストで稼いだりする。とっても大変だけどね」


「え、1年分って……」


「「「「えぇ~~~!」」」」


 驚きの声が響く。

 子どもたちだけでなく保護者からも。


 B級が受けるクエストだと1万Gを越えるのも珍しくない。

 中には5万Gなど、かなり高額になるものもある。


 その分難易度も高いが、1度攻略してしまえばしばらくは落ち着いて過ごせるだろう。


「すっご~い! いいなぁ、僕もそのくらい欲しい~!」


「努力すればきっとできるさ。応援してるよ」


 いい感じの受け答えだ。

 裏の事情をちょっと明かしつつ、具体的なところはぼかしてる。

 これなら大丈夫そうだな。


「じゃあ次、聞きたい人~?」


「「「は~い!」」」


「じゃあ~ そこのお嬢ちゃん!」


「えっとね、1番強かった魔物って、何?」


 お、子どもらしいいい質問だ。


「1番強かったかぁ…… お前たち、どう?」


「そりゃあ徘徊する(アンデッド)黒騎士(ブラックナイト)じゃないか? 火力高くて回復カツカツだったからな」


「俺はデビルリザードがキツかったな。魔法耐性高かったから、俺が役立たずでつらかったよ……」


「私はブリザードワイバーン。ずっと空飛ばれて攻撃が届かなかったじゃない。あの持久戦、ホント疲れたんだから」


 さすがB級、上級魔物の名前がどんどん出てくる。

 子どもたちも興奮した様子で聞き入っている。


「リーダーはどうなんだ?」


「俺かぁ…… 色々いるけど、強いて言えばサキュバスかなぁ」


 ん?


「サ、サキュバス?」


「そう、催眠魔法で淫夢(いんむ)見せてきただろ?

アレがリアルですごかったな。ボンキュッボンの女の子が俺の腰の上で」


「あ、ありがとうございましたぁ~! 強そうな魔物がいっぱいだね、うん! じゃあ次に行こう!」


 あ、あ〜〜〜っぶねぇ?!

 ヒナ姉、よくやった!


 なぁ~に言ってんだオメェはぁ~?!

 子どもの前だぞ!


 本当に手ごわかったとしても、言葉を選べ! 

 そのまま言うな!

 逆に純粋なのか?!

 さっきの感心返しやがれ!


「さきゅばす? どんなだっけ?」


「いんむって何?」


「ぼんきゅぼん?」


 ほら子どもたちがざわついてるだろうが!

 保護者も引いてるぞ!


「次行こうね~! 次~!」


 急転直下、ハラハラしながら見守るハメになった。



「……はい、ありがとうございました! おっと、もうこんな時間! 残念だけど、次が最後の質問で~す!」


 アレ以降は変な質問も受け答えは無かった。

 このまま何事も無く終わってくれ……


「じゃあ~ ボク! ボクが最後! 思う存分聞いちゃって!」


「はい、えっと、その、うんと……」


 もじもじしてる。 

 恥ずかしいのかな?


「あの、冒険者になると、モテるって、本当、ですかぁ?!」


 会場に響く、切なる問い。

 子どもたちからも保護者からも失笑が聞こえる。


 でもそういうのが気になるお年頃だろう、分かるよ。


「モテる、かぁ…… 俺はよく分かんないな」


「いやリーダー、お前はモテてるだろ。酒場で女の子の食いつきすごいじゃん」


「あ、そうなの?」


「自覚無いのやめろよ、みんなお前が取っていくくせに……」


 アレ、ちょっと、メンバーも様子おかしくない?

 ドロドロしてきてない?

 やめてよ~うまく流してよ~


「そういえばリーダー、3日前の夜、可愛い子と2人でどこか行ったよな? アレどうなったの?」


「はぁ?! それ、ホント?!」


 僧侶の女の人がすごい剣幕に。


 あ、そういう関係なの?


「ちょっとどういうことよ! 説明して!」


「いや、苦労してる子みたいでさ、『ちょっと静かなところで相談したい』っていうから、それで……」


「誘われてんのよ、それぇ! なんでノコノコついてっちゃうの、キィ〜!」


 リーダーに襲いかかる僧侶。


 まずい、昼ドラ展開になっちゃった!

 なんか保護者まで興味津々に見てるし!


「お二人とも、ちょっと落ち着いて……」


「落ち着いていられるかっての! この前『浮気しない』って約束したよね?! それなのにぃ~!」


「違うんだって、誤解だよ」


「何が誤解なのよぉ!」



 ヒナ姉の仲裁も聞いてくれない。


 こうなったら……!


「はぁ~い! 注もぉ~く!」


 声を張り上げる。

 みんなの目がこちらを向く。


「ということでね! 冒険者になっても人間関係の問題というのは多々あるものでございます!みんなも横にいるお友だち、それから気になるあの子に、『嫌なことしてないかな?』『もっと仲良くなるにはどうしたらいいかな?』なんて考えみてはいかがでしょうか?!お父さんお母さんにもぜひ聞いてみましょう!」


 早口でそれっぽいことをまくし立てる。


 みんなが突然のことで混乱してる今が逆にチャンス。

 しれっとお話会を締める……!


「はい、以上でお話会を終わります! ありがとうございました!」


 一同、ポカンとしたまま。


 もう1度!


「ありがとう、ございました!」


 ヒナ姉に視線を送る。


 気づいてくれ!


「あっ! みんな、せ~のぉ!」


「「「「ありがとうございました~!」」」」


 よし、かけ声をかけてくれた。

 なんとか終了の流れにできたぞ……



 その後、子どもたちが帰るのを入り口で見送った。


「いやぁ~ 疲れたね。子どもたちの質問って、結構鋭いね」


 パーティがほざきながら僕に近づいてくる。


「……みなさんにはもう少し付き合っていただきます」


「え?」


「ハロルドさんに、今回の件を報告しましょう」


 労いの前に、冒険者とは何たるかをみっちり教え込んでもらう。

 覚悟しろ。




 ◇◇◇◇◇◇




 待合スペースの片付けをしながら反省会。


「はぁ~ 途中までうまく行ってたのに、なんでああなっちゃったんだろう……」


「ヒナ姉のせいじゃないよ。落ち込まないで」


 パーティにはハロルドさんの烈火のような説教を食らってもらった。


 クエスト受注はしばらく休止して、リーダーの女関係を洗いざらい吐かせるらしい。

 ぜひともそうしてくれ。


「それでも、子どもたちに冒険者のことを知ってもらうってところはクリアできたんじゃない?」


 いい面も悪い面も知ってしまったが。


「そうだけど…… 何だかなぁ、もっとうまくできた気しかしないよ」


 珍しく落ち込んでる。


 うまくいかないことなんてたくさんある。

 僕も失敗してばかりだ。


「じゃあ、次こそは大成功させようね」


「えっ?! 次、やるの?」


 ヒナ姉が顔を振り上げる。


「やらないの?」


「え、あ、やる! やります!」


 クエストじゃないんだ、失敗しても何か失うわけじゃない。

 失敗したら反省して、再挑戦すればいいんだ。


「そっかぁ~! ユーマもやりたいって思ってくれてるんだ~!」


 正直、そこまでやりたいとは思わない。


 だけどせっかくヒナ姉が努力してるんだ。

 できるだけ支えてあげたい。


「じゃあじゃあ、次はも~っと人を呼びたいな! 町中の人呼んでさ!」


「だったら会場も借りないとね。司会も責任重大になるよ?」


「まっかせなさい! ハキハキしゃべるのは得意だから! 町中の人前でも、きっと、緊張せずに話せるから…… 多分……」


 急にしおれちゃった。


「そこも練習だね、付き合うよ」


「助かる~! 約束だからね!」


「はいはい」


 本当に実現するかは分からない。

 絵空事で終わるかもしれない。


 だけど、こうしてヒナ姉と将来の話をするのは、楽しい。

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