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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編百合

リナリアを君に

作者: 風土帽

 このお話には百合要素が含まれています。苦手な方はブラウザバック、バッチコイな方はスクロールを。



葛葉(くずのは) 小鞠(こまり):陰キャ。帰宅部だけどスクールバスで通っているので部活終了時間までは、大体教室で勉強している。友達が部活休みの時は、その子とだべったりして待つ。


九蘭 来楽々(くらん くらら):小鞠の友達。部活は演劇部の裏方。出席番号順で真後ろだったのがきっかけ。会話がなくても一緒にだらだらできる関係。


(なつめ) 奈奈(なな):陽キャギャル。運動部の助っ人として部活に参加する程度、基本帰宅部。基本誰かと一緒にいることが多いが、放課後は大体一人。小鞠と同じスクールバスで通っている。





 私には気になっている人がいる。

 決して恋愛的な意味ではない。


 高校に入学してから、一緒のクラスになっただけのギャルだ。

 ギャルって言い方はどうなのかと思うが、見た目も言動も陽キャそのものだ。少し苦手な部類だ。私のような飾りっ気も何もない陰キャとは違う。

 

 その子は先生にバレない程度に薄く化粧をしていて、リップも校則に違反しない程度のほんのり色づく系を使っている、と本人が友達にしゃべっているのを聞いた。実際たまにやる服装検査の時以外は、先生に注意されているのは見たことがない。

 まあ、それはこの学校の校則が緩めなのもあるだろう。私立で色んな所から生徒が集まってきているから、それに合わせたのだろう、知らんけど。







 今日も今日とてスクールバスに乗り込む。

 私は結構早い段階で乗るので、席は選び放題だ。一番前の運転席側の窓際の席を確保する。ここが私の定位置だ。



「おっはよー、こまっちー」

「おはよう」

「隣、いい?」

「どうぞ」

「ありがと」



 今隣に座ってきたのが私が気になっているギャル、棗奈奈本人だ。

 こまっちは初めて話したときから、そう呼んできた。特にイヤではないのでそのままにしている。

 彼女は乗る順番としては最後の方なので、大体相席か補助席だ。同じバスを使っていると分かって以来、朝は大体隣に座ってくるようになった。



「今日の一限ってなんだっけ?」

「世界史」

「うげっあの先生の話、眠くなるんだよな~」

「確かに。あの催眠ボイスはきつい」

「あははっ確かに!つーか催眠ボイスって、ぴったりすぎてウケる!」



 それからもあっちが話を振ってきて、私がそれに簡潔に答えるの繰り返し。

 自分でも愛想がない返答だと思うが、なかなか長い言葉を返すことができない。会話を続けるのが苦手なのだ。

 それでも当の本人は楽しいのか、ポンポンと会話が出てくる。



「でさ~「到着しました」あ、もう着いちゃったか~。じゃあまた教室でね」

「うん、また」



 バスの運ちゃんが到着を告げると、会話の途中だったがすぐに降りて行ってしまった。

 別にいつものことなので気にしないようにしている。



「ありがとうございました」

「いってらっしゃい」



 バスの運ちゃんはフレンドリーで、降りていく生徒一人一人に必ず声を掛けてくれる。大概はいってらっしゃいなどの挨拶だが、今日小テストあるんだとか言う人がいると、頑張れと返してくれる。



「あ、小鞠!」

「来楽々、おはよう」

「おはー」



 来楽々は入学初日から出席番号順が近かったのもあったが、アニメと音楽の話題で意気投合し高校では一番仲がよい友達といっても過言ではない。

 それに無言でも、気まずくならないので大概一緒にいる。



「今日もバスで奈奈と隣だったん?」

「そうだけど…?」

「バス降りてくときめっちゃルンルンだったから」

「関係ないんじゃないかな……」



 降りるときにルンルンなのは、いつもの友達に会えるからだろう。

 やっぱり気を遣って話してくれてたのかな、そう思うとなんか申し訳ない。

 


「いやいや、あたしあの子と中学一緒だったけどあんなに嬉しそうなの初めて見たよ?」

「それくらい高校の友達といる方が楽しいんじゃない?」

「ううん、あれは友達といるとき以上の浮かれ具合だよ」

「だとしても客観的に見て、でしょ?本人がどう思っているかはわかんないよ」

「客観的に見てあれだったら、もう確定だと思うんだけどな~」



 …そんなこと言われたら、少しだけ期待してしまうじゃないか。

 いや、絶対ない。大事なことなのでもう一度言おう、決して恋愛的な意味はない。





 ――――――――――――――――――――




「よっしゃ、終わった終わった~」

「部活行こうぜ!」

「おうよ!」



 今日の授業が全部終わって、いの一番に教室から飛び出していくのは野球部の人達。その後はだらだらと準備しながら、他の部活の人達が続々と教室を出て行く。



「んじゃ、またの~」

「ん、また明日」



 来楽々は演劇部の裏方をしている。まだ、劇の準備はないが基礎練習は裏方も行わなくてならないらしい。

 私は帰宅部なので、これからスクールバスの時間まで時間を潰さなくてはならない。宿題でもやるか。



「奈奈、ばいじゃね~」

「じゃね~」



 あ、棗さんの所も部活に行ったみたいだ。

 さて、宿題、宿題。



 ガガッ



「おっつー」

「……お疲れ」

「何してんの?」

「今日出た宿題」

「ふーん」



 教室から人がいなくなると、前の席の椅子をまたぐように棗さんが座ってきた。

 自分の友達がいなくなったからといって、私なんかの所に来なくてもいいのに。

 さっさと宿題片付けて、本でも読もう。



 カリカリカリ


 じー


 カリカリカリ


 じー



「……あの……」

「はえ!?な、なに?」

「いや、なんでそんな驚くの?そんなに見られるとやりずらいんだけど…」

「あ、そ、そうだよね~」



 たはは~と言う感じで笑っていたが、彼女にしては珍しく歯切れが悪い。

 


「…私見てても楽しくないよ」

「うちは楽しい」

「そっすか」

「そっす」



 う゛~分からない、彼女のことが全然分からない。

 こんな陰キャが勉強しているところを見て、何が面白いのか。



「……こまっちの手、綺麗だね」

「ぶえっ!い、いきなり何!?」



 いきなり何を言うんだ、この子は!?

 びっくりするじゃないか!


 ん?待て待て、なんでこんなドキドキしてるんだ?

 他の友達からも言われたことはあるが、その時は驚きはしたがこんなに動揺しなかったぞ?



「ねえ、触ってもいい?」

「うえ!?い、いいけど?」



 驚きつつ、すぐオッケーしてしてしまった。

 棗さんは許可をとってから、私の手を握る。優しく感触を確かめるかのように触ってくる。

 うわっ棗さんの手もスッベッスベじゃん。



「スベスベだね~。何か手入れしてる?」

「い、いや特には。乾燥したらハンドクリーム塗ってるだけ…」

「へ~、じゃあ元から綺麗なんだね」



 な、なんか凄く恥ずかしい!

 ここまで褒められたことないよ!?

 でも、それを言うなら……



「棗さんの手もスベスベで綺麗だよ?」

「ほえ?」  

「それに薄化粧もしていて女の子らしいし、私なんかといても楽しそうに笑うところとか、体育の時全力でやっててかっこいいところとか、んで勝ったときは本当に嬉しそうにするところとか―――」

「ス、ストーーップ!!わ、わかった、分かったから。もう言わないで」

「…………あ…………」



 やってしまったあああぁあぁあああ!!!

 うっわ、今めっちゃキモいこと言ってた!いっつも思ってたこと言っちゃった!しかもオタク特有の早口で!

 ヤバイ!穴があったら入りたい!いや、もう自分で掘って埋まりたい!


 と、とりあえずこの場から逃げよう!

 って、あああああああ!手握られたままだったあぁあー!


 終わった、私の平凡な学校生活は今まさに終わったよ。



「すんませんしたぁあ!」

「いや、謝らんくていいよ。うちが勝手にびっくりしただけだから」



 わああああ、優しいけど顔見れねえええ!

 絶対引いてるよ、困った顔してるよ!

 でも、手は離してくれないんだね!逃がさないよってか!?こええよ!



「ね、顔あげて?」

「いや、ホントすんませんした」

「顔、あげて」

「はい」



 ガチトーンで言われたらあげるしかねーべ。

 恐る恐る顔を上げると、棗さんの顔は夕日に負けないくらい真っ赤だった。



「もう、いきなり褒め殺しとかビックリするぢゃんか」

「ご、ごめ「謝らない」はい」

「で、どうして急にあんなこと言ったの?」

「い、言わなきゃだめ?」

「言わなきゃ手、離さないよ」

「う~」



 ほら、早く早くというふうにせかしてくる棗さん。

 未だに顔は真っ赤だけど、とても真剣な表情。彼女は表情がコロコロ変わるけど、こんな表情(かお)もするんだ。



「…ずっと、思ってたことだから」

「……」

「棗さんが私なんかの手を褒めるから、棗さんの方が綺麗なのにって思ったら、なんか、止まらなくて…」



 私の声はどんどん尻すぼみになり、顔もどんどんうつむいていく。彼女の顔を真っ直ぐ見ることができない。

 今の私の顔は、きっと棗さんに負けないくらい真っ赤になっていることだろう。



「そっか。でもね、こまっちは自分なんかっていうけど全然そんなことないよ」

「そんなことあるよ」

「あるの!」


 グイッ


「うわっ」



 彼女が駄々っ子のように反論してくる。

 と思ったら、突然握られたままの手を引っ張ってきた。私はその勢いのまま、前のめりになった。

 彼女の綺麗な顔が目の前にある。思わず見惚れてしまった。 



「ち、近いよ」

「ほら、可愛い」

「そ、そんなこと・・・」

「まぢかわいい」



 恥ずかしくて顔を逸らす。

 不意に頬に柔らかい感触がして、すぐ離れた。

 一瞬、何があったか分からなかったが理解したら私の心臓が駄目な気がした。



「へへっうばっちゃったー♪」

「…………~っ!?!?」



 こっこ、この人、今、ほっぺにキスした!?気のせいじゃなかった!!

 全身が心臓になったみたいに、バックバクしてる。未だに手は繋いだままなので、このドキドキが彼女に伝わってしまいそうだ。



「ねえ、今、ドキドキしてる?」

「そ、そりゃあもう……」

「えへへ、うちもめっちゃドキドキしてる」 



 そういってさらに手をぎゅっと握ってくる。

 はわわわ!なんだなんだ!?今日はどうしたんだ!?



「ね、うちがキスした理由わかる?」

「え!?え~と……?」



 まともに頭が働かないのに、そんなことを聞かれても!

 理由?どういうことだ?ただの好きにしては度が過ぎる気がするし、でもそんなことあり得ない。ましてや女の子同士だし・・・。

 でもと何でばかりで全然答えがでない。

 結局、私が絞り出した答えは――――― 



「…わ、わかん、ない……」

「……そっかー、わかんないかー」



 何とも曖昧で、質問の答えにはなっていない返事。

 そんな返事でも、棗さんが少し満足げに見えたのは気のせいだろうか。

 


「期待してもいいのかな。(ポソッ)」

「今なんか言った?」

「んーん、何でもにゃ~よ?」





 キーンコーンカーンコーン



 部活終了のチャイムがなる。そろそろスクールバスの時間だ。

 結局、宿題は一つも終わらなかった。



「うちらも帰ろっか?」

「うん。でも、手……」



 そうなのだ、しゃべっている間も手を握られたままなのだ。

 いつの間にか、恋人つなぎになってるし。



「ん~?いいぢゃん、このままでも」

「いや、その…」

「イヤ?」



 ぐっ!上目遣いにその顔は反則だと思います!

 顔がいいのに、その仕草はいかんとですよ!?



「イヤ、じゃないけど、片付け、できない、から……」

「よかった~。じゃあ、片付け終わったら一緒いこ?」

「うん」



 急いで広げていたノートと筆記用具を鞄に突っ込む。

 ふと、自分の手のひらを見ると真っ赤だった。きっと顔も赤いままなのだろう。

 このまま外に出るのはちと恥ずかしい。



「終わったよ」

「じゃっいこっか!」

「ふえ?」



 そういうと、がっつり手を繋いでくる。しかも、恋人つなぎで。



「あ、あのあの!?」

「んー、手繋ぐのヤじゃないっていったぢゃん」

「い、言ったけど!」

「さっきの質問にちゃんと答えてないから、バツとしてうちが降りるときまで手を繋ぐのだー」

「ふぁあい!?」

「何それウケる。で、どっちなん?」

「あ、えと、イヤじゃない、けど、恥ずかしい・・・です」

「あははっ!じゃあ、このままね!」

「は、はひっ」



 ――――――――――――――



 君が悪いんだよ?うちが理由を聞いても真っ赤な顔で分からないって言うから。

 期待させるような反応をするから。



 ねえ、君はいつかこの恋に気づいてくれますか?




リナリアの花言葉:この恋に気づいて


 最後まで読んでいただき、誠にありがとうございます。

 短編2作目も百合でした。たまに突発的に書きたくなります。最近ギャルと普通の子のアンソロをみたからでしょう。放課後のシーンのところで、むずがゆ~ってなりながら書いてました。なんかむず痒いけど、ドキドキするみたいな感じが読者の方に伝わっていたら幸いです。

 ここからは執筆中の話です。この話を書くに当たって自分の高校時代を思い出していたのですが、私のようなオタクにも優しいギャルがいたなと。その子達は絵を褒めてくれたり、クラスが変わっても廊下で挨拶をしてくれたりといい子達でした。その時からギャルは仲間意識が強いというのと、素直っていう印象があります。


 さて、色々書きましたが私は百合が好きです。でも今連載中の逃げ姫は人外相手ですが、主人公はノーマルです。たまにそういう描写は出るかもしれませんが。百合ものは発作的にまた書くと思いますので、好きな方はまたよろしくお願いします。

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