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1.テントを張る テントが張る

 ハープルを離れ、次なる町を目指してオレとプニマは旅を再開させた。加えて余計なついでもこの旅に同行している。


 オレは、ダミー用に買った空のトランクケースを片手に、ローブを静かに揺らしながら旅路を歩き続ける。


 プニマは白い髪の二つ結びをぴょこぴょこさせながら、清楚な服を身に着けてちょこちょこ楽しそうに可愛らしくオレの後を付いてくる。あとついでがプニマの横にいる。


 そうして歩みを進めるが、旅とは歩き続けるものではない。休息しなければならない時間が絶対に訪れる。それは、夜だ。


 夜の闇は、危険さを孕んで人の歩みを止めると同時に、眠りにいざなう黒いとばりだ。急いでいるワケでもない今は、無理に歩き続けることも無い。


 オレ達は今現在、道から逸れ、平野に足を踏み入れ腰を据えている。そうやって夜を迎え入れ、暗さを増して行く空と輝きを見せ始める星を頭上に野営の準備を行っていた。


「プニマ。平野で焚き火をする際には草を排除しておけ、特に枯れ草が広がる地域では絶対だ。火事が起きる可能性がある」


「はい……!」


「たまにだが、以前野営した者の跡が残っている場合がある。余裕があるならそのような場所を見つけて利用するほうが手間は掛からん」


「べ、勉強になります……!」


 オレとプニマは二人でしゃがんで草をむしむしし、安全に焚き火が行えるよう準備を整えていた。


 そのようなことをしているオレ達を他所に、ついでの女はテントを張り始めている。寝る用の、背の低い簡易的なテントを、だ。


「おいビッ乳。テントなど後でも良いだろう、こちらを手伝え」


「アタシは最初にテント建てる派なの」


「下品な女だ」


「なんでよ!?」


 ビッ乳は乳のでかさや存在でさえ下品だというのに口まで下品で救えないやつだ。


「デルコイノさんもテントの設営してて大丈夫ですよ。草むしりは私にまかせてください!」


「オレはテントを張ることはあるが、野営でテントは使わん」


「張るのに使わない……? クイズ……ですか?」


「アンタ。ぷ、ぷにゃに変な事言ってアタシに殺されたいのかしら?」


「下品なお前と違いオレのはウィットに飛んだ冗談だ、変な事を言っているのはお前だけしかいない」


「げひん……デルコイノさんの冗談……テント……あっ……。……お二人とも、えっちなの、ダメ、です……!」


「待ってアタシは違うから!?」


「やれやれ。お前のせいでオレまで勘違いをされたではないか」


 巻き込まれ事故を起こされたオレは、ビッ乳から文句を散々言われながらも草を毟る。


 オレは野営の際にテントは使わない。精精地面に布を敷いて簡易的な寝床を作り寝るだけだ。このスタイルは手間もかからず手荷物も増えず、設営や撤収に無駄な時間が取られることなく身軽に動ける。


 旅や町間の移動の際に発生する休息は、手間を掛けて時間を有意義に過ごす者と、効率を重視する者が居る。こうやって二分した場合、オレが当てはまるのは後者だ。野営における必要行動は、体を休め、飯を食い、寝るだけ。この行程に華やかさは求めていない。余計なものは足さずに風情を楽しむ派なのだ。


 効率重視の野営スタイルを取ろうとしているオレは、草むしりを終え、土を踏み固めてから薪を設置する。ローブの裏から取り出し、重ね、火がなるべく長く燃え続けるような組み方を――。


「アンタそれ……ローブから取り出してるように見えるんだけど……」


「そうだが?」


「薪よ?」


「薪だが?」


「あ、うん……。……ぷ、ぷにま、アタシのテントで寝ましょうね、着替えとか体拭くのも一緒にしましょ?」


「良いんですか……! ありがとうございます……!」


「でれへへへ……。……というか女の子が居るのにテント一つ用意しない男ってどうなの? ぷ、ぷにまの安全考えなさいよ」


「確かに目隠しとしてテントは必要だ。だが、それを用いる弊害はある。テントは、特にこのような平野では目立ち、遠目からでも視認され、動物や良からぬ輩が寄って来る可能性が上がってしまう。そして、男女を比較するとテントを用いる比率は女性の方が高い。となると――

 お前も色々思い当たることが有るだろう」


「……あぁ……そーね……。変なヤツから声掛けられたりするわ……。一番気持ち悪かったのは、良く使われる野営地で何組か一緒になったときおじさんが何度も声掛けてきたり、テント勝手に開いてきたことあったわね……。下心丸出しでムカついたからボコボコにしてソイツの服以外全部燃やしてやったわ」


「ひえぇ……そんなことあるんですね……怖いです……」


「大丈夫よ、ぷ、ぷにま。アタシが側に居るから問題ないわ。例えば、コイツが同じことしようとしてもボコボコにして骨まで燃やしてあげるから」


 オレは薪を組み終わり、背後から不愉快な視線を感じつつも火種の準備を始めようとする――と。


「あら、ヘンタイの割りにお上手だこと。火は任せなさい <ティンダー>」


 ビッ乳の声がするとともに、小さな火が緩やかに飛んできて組んだ薪の内部へと入り込んだ。


 時をオカズして燻る香りと熱を帯びた発光が微かに確認でき、放置していても火は燃えるのだと眼と鼻に告げてくる。


「ニュークミルさん凄いです……!」


「ふふん、アタシが居ればぷ、ぷにまの旅は何不自由なく過ごせるわよ。そしてアタシが居るんだから、危険性を考えてテント使わないよりも、女の尊厳を守るためにテントを使いましょ。女の子には女の子の空間が必要なんだからへへへ……」


「あっ、で、でも……」


 プニマは煮え切らない、というよりも、遠慮がちな眼をオレへと向けてくる。


 恐らく、自分だけテントを使うことが憚られるのだろう。


「キミが選ぶと良い。オレは旅人としての在り方は教えるが、強制はしない。選択権はちゃんとキミにある」


「えと、あの……はい……。目隠し、あるほうが……安心します……」


「そうか。そう思ったのならば、オレに遠慮をすることはない。そこのだらしない顔をしている女のテントを利用すると良い」


「でへへ……ぷ、ぷにまとおねんね……」


「ニュークミルさんお顔が……! よだれ、よだれが……!」


 プニマは自ら意志でテントを選んだ。その決断と意志は尊重しなければならない。そして、もしあのクソビッ乳が何か良からぬことをしでかしたのならば、即刻始末しなければならない。


 今夜の就寝は浅い眠りで済ませよう。そう考えながらオレは飯の準備をしようと道具を取り出す――が。


「あ、で、デルコイノさん、ご飯、作らせてください……!」


 ビッ乳の顔をハンカチで拭いているプニマから、そう進言された。あの女は上の口も下の口もだらしが無いな。オレもよだれをたらせば拭いてもらえるのだろうか……ふむ……。


「デルコイノさん!? どうしてそんな真剣な顔でよだれを……!? 私のご飯、楽しみなんですか……?」


「ああ。それもあるじゅるる」


「それ、も……? あ、まって、ふきふきしてあげますから……!」


 こうしてオレは、プニマからお顔をふきふきしてもらい、その後に作っていただいたご飯に舌鼓を打ちながら夜の闇に包まれていったのだった。にこにこした顔でプニマから見られながら喰う飯は、とても、とても美味だった。


 ――――


 ――――


 ――――ふむ。


 まだ、終わらない。夜はまだ、飯の後にも時間がある。


 焚き火の側に座り、一人で火を見ながらオレはあることを思い出す。


「あのハンカチ、ビッ乳の涎が付いていなかったか……?」


 たらふく飯を食い、血が腹に集まっている中、オレは最悪なことを気付いてしまった。


 ローブから皮製の水筒を取り出し、すぐさま口を濯いだ後に歯木しぼくで歯茎から血が出るまで必死に磨いてもう一度濯ぐ。


「ふぅ、危うく妊娠させられるところだった。プニマのハンカチも危ないな、明日には子宝に恵まれて赤ちゃんハンカチが――いや、彼女のことだ。綺麗に洗浄していることだろう」


 ハンカチのベビーラッシュはプニマの清潔さがあれば大丈夫だろう。要らぬ心配をしてしまったな。


 一安心しながら、オレは焚き火に眼を向ける。


 音が鳴り、熱を帯びた光りが静かに辺りを照らしている。平原には風も無く、環境音も無く、ただ静かな夜だ。空を見れば星が輝き、地を見れば深い闇が何処までも続いている。


 だからこそ――――テントの中で小さな声を出しながら話そうが、オレの耳には聞こえてくるのだ。あの、二人の声が。


 今現在、二人はテントの中で体を拭いている真っ最中なのだ。


 プニマは未だ、ビッ乳に自分が悪魔の血を引いていることを明かしてはいない。やはり怖いのだろう、奴隷としての過去が彼女に恐怖を与えてしまう。故に体を拭く時も、川で体を洗う時も、プニマが頭を洗うときは一人でこっそり洗っているのだ。それをビッ乳が、一切怪しむことなくプニマを全肯定し受け入れていることは、あの頭も尻も軽い女の唯一褒められる点だな。


 ――そう、思考していても声が……聞こえてくるのだから仕方がない。聞き耳を立てながらあまり聞かないようにしておこう。


「ニュークミルさんの、おっきい……すごぉい……」


「触る? 触って良いわよ? というか触って? 寝るとき枕にしてくれてもいいわ」


「い、いえ……!? さすがに……でも……ちょっとだけ……」


「でへへちっちゃなおててが……やん、くすぐったい……」


「あ、ご、ごめんなさい……! わぁ……わぁ……ぽよぽよもちもちしてます……ずっしりしてるのにふかふか……きもちいぃ……」


「アタシのおっぱい好き? ずっと触ってたい? ずっと触りたいならずっと一緒にいましょ?」


「…………ニュークミルさん、スタイル良い……わたし、ちっちゃぃ……」


「ちっちゃいのいいじゃない!!なだらかなおっぱいとかつるんてしたおなかとかほそいあしとかうでとかぷにぷにおまたちょうかわいいわよすっごいかわいいわよちょーかわいいわァ!!」


「こえ、こえ……!! ニュークミルさんこえ……!! デルコイノさんに聞こえちゃ居ます……!! しーっ!」


「ごめんなさいあまりにもぷ、ぷに、ぷにまがかわいいから……。……アタシ、太くない……? え、デブじゃない? 比べれば比べるほどアタシデブなんだけど……どこもむちむちしててデブい……ぷ、ぷにま、見捨てないで!! アタシデブだからって見捨てないで!!!!」


「おでぶじゃないですよ大丈夫ですよ……!! しーっ! しーです!!」


 ふむ。なるべく聞かないようにしているが、聞こえてくるならば仕方が無いな。


 あのクソビッ乳の肉体などどうでも良いが、良くやったぞクソビッチ。そうか、プニマの体型とはまさにロリロリしいロリたるロリ体型か……興奮してきたではないか。


 オレは女性の裸をむやみやたらに見たりはしない。それは純愛に反する行為だからだ。しかし、想像はする、寧ろ、想像でする。


 あちらのテントは静かに騒がしいが、こちらのテントは荒々しく騒がしい。闇夜の平原で抜くというのも乙なものだ。今夜はロリ系の妄想や耽美本で致すとしよう。


 思い勃ったら屹立という言葉もあることだ。早速始めよう。後程体を拭く分、後を気にせず存分に致せる。


 あちらの二人は体を拭き終わったら寝ると言っていた。なし崩し的にはなってしまうが、夜の見張りはオレから始まり、後でビッ乳を叩き起こせば良い。


 故にオレは見張りの時間を全て使い、妄想でロリを堪能したのだった――――。


 ――――……結局、徹夜をした。



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