来来ゾンビーズ
この話は大枠だけで表現されています。
怪異の出現、修行、各自の捜査、各自の意見、暗黒魔術師の出現、ラストバトルと暗黒魔術師の過去、大団円。
……とうちゃん!、帰ろう!、おうちに帰ってご飯食べよう!
……とうちゃん!、帰ろう!、おうちに帰ってご飯食べよう!
草木も眠るうしみつ時、その声が響き渡ると、戦場に散った肉体がよみがえり、声のする方へ歩いてゆきます。
……とうちゃん!、帰ろう!、おうちに帰ってご飯食べよう!
親を失った幼子の魂が、死者を呼び覚ますのです。
◇◇◇
「ということがありまして、夜な夜な歩きまわる死体に困っているのです」
そう話すのは、トウの国から来た道士、滅敬です。
「ゾンビですか、それはお困りですね!」
ゾンビの腕は高く売れる。そういう話を最近したばかりなのです。
そのためカナリアが少し上ずった声で答えると、マズイ、だめだぞカナリア。と、カークはカナリアの脇腹をつつきます。
滅敬は少し訝しげにしていましたが、話を続けます。
「このあたりでは長く戦争が行われています。サムライ同士で戦乱が続いているのです。
そのため、死者も出ます。
我々の道術で、可能な限り死体は遺族の元に送っておるのですが、それも妨害されておる始末。
なんとか解決できないか、我々もほとほと困っておりまして」
「できる限りのことをさせていただきます」
◇◇◇
カーク、ユーコフ、カナリアの三名は、今、武巖寺にお世話になっています。
武巖寺では多くの僧兵たちが、日々鍛錬を行っています。
「「「セイッ!ハッ! セイッ!ハッ!」」」
門下生たちで一体となって拳法の訓練を行っています。
カークたちも一緒になって白い僧服を着用して、パンチ!キック!と、複雑な角度で放てるように訓練しますが、なかなか上手くはいきません。
「みなさん、さすがに美しく技を放ちますね」そうカークが滅敬に相談します。
「あなたがた三人は、いずれ旅立たれる身。であれば、ここにいる間だけ、たった一つの技を極めることをおすすめいたします」
「たったひとつの技、ですか」
「最も強い技がどういったものであるかは、時と場合によるというのは、カーク殿も理解できると思います。しかしとっさの時にものを言うのは、頭で考える技よりも身体が覚えている技です。力あっての心です。あまり詳しいことは考えず、体に技を覚えさせることは、あなたがたにとっても利点があるでしょう」
滅敬は、晴れた太陽の下、実際に石畳の上で技を見せてくれました。
肩幅程度に両足を開き、つま先を真っ直ぐ前に向ける、自然な立ち方からの股間蹴り。
それを、右足だけで三度蹴りました。空を切る音が心地よく響きます。
「こう、蹴られた相手は、まえかがみになりますので、自分の身体を横に向け、顎に向けて蹴りを放ちます」
滅敬の真っすぐ天を衝くような蹴りに、「ヒュボッ」と音が聞こえます。
これが服の音なのか、技の速度によるものなのか、空を切る音なのかわからないのですが、ユーコフはとてもかっこいいと感じました。
「この、股間蹴りから上段の蹴りの連続技を『崩顎昇竜脚』と呼びます。とっさに出る技としては最も良いといえます。ぜひマスターされてください」
カークたちは、僧兵たちと同じ朝5時に目覚め、訓練を行い、道場を拭き上げ、作戦タイムにしました。
◇◇◇
「ねえ、ゾンビが動くのは夜なんでしょ?朝から起きてたらゾンビのこと探せないんじゃない?」カナリアが提案します。
「確かにそうだね、修行もするけど、僕らだけ別のスケジュールで行動させてもらおう」カークが答えました。
「今回の件はどうなったら終わりなんだろう?」ユーコフは疑問です。
「子供の霊が死体を呼び覚ます。というのであれば、子供の霊を鎮めるか、封じるかすれば良いんだと思うよ、さすがに死体がもう出ないように戦乱の時代を終わらせる。というのは大変だろう」
「小さい子が、夜な夜なお父さんを探してさまようのね」
「言葉の感じでは、とても小さい子だろうな、かわいそうなことだ」
「そのお父さんが誰かを特定することはできるのかしら?」
「うーん、子供の呼び声にお父さんだけが反応すればいいのに、なぜすべての死体が起こされるんだろうね」
口々に、疑問と解決策を考えますが、一向にまとまる気配がありません。わからない事が多すぎるのです。
「俺たちも深夜に歩き回り、その声の主に遭遇できたらいいな」というカーク。
「僕は子供のお父さんを探そうと思う。子供がいなくなった家庭がポイントだろう」と言うユーコフ。
「滅敬さんの言う、死体を遺族のもとに送るという道術というのも気になるわね」と言うカナリア。
確かにどれも重要です。カークは、夜時間、ユーコフは昼時間、カナリアは夕時間。
三交代でそれぞれ別の仕事をします。
1週間のうちに、互いに成果を報告しようと言いました。
◇◇◇
カークは、闇夜を徘徊する中で、傘を持って空を飛ぶ子供の幽霊を見つけました。
闇の中でも妙に輝いてみえるその子供は、滅敬の言うとおり
……とうちゃん!、帰ろう!、おうちに帰ってご飯食べよう!
と、言って死体を起こすのです。しかし言葉に生気が感じられません。台本を読まされているような。
本当は別の意味があるのでしょうか?
ゾンビ数体と戦い、腕を数本切り落として、油紙に包んだうえでポーチに格納しました。
ポーチの中は異次元を伝って拠点である汐見小屋に繋がっているので、道具は無限に格納できるのです。
子供の幽霊は、そんなカークを見つけて
……とうちゃん!、帰ろう!、おうちに帰ってご飯食べよう!
と、死体を起こすことと同じように語り掛けてきました。
カークは、その声を聴くと、子供の父親の姿が脳に浮かび、どのようなものか、わかりました。
子供の父親は、後ろ姿だけでしたが、斧を持ち、薪を担ぐ樵あるいは炭焼きの男だとわかったのです。
◇◇◇
カナリアは、滅敬から道術を学びました。
道術は、死者を魔術で動かすものでした。動かせるようになった死者の肉体を「キョンシー」と呼びます。
手順が複雑で、ものによると暴走し、狂暴なキョンシーになってしまいますが、厳しい訓練を乗り越えた滅敬は、キョンシーを正しく扱うことができました。
滅敬は、カナリアに不思議なアイテムを渡します。
この棒でキョンシーを叩くと、火花を散らしてキョンシーたちが従順になる、画期的な武器です。
渡されたそれは、霊罰棒と呼ばれていました。
カナリアはその夜、滅敬とともに、戦乱で死した死体を集め、
死体そのものを道術で墓場まで歩かせる秘法を行いました。
「キョンシーさまのお通りだ~!」と滅敬が叫ぶと、
「キョンシーさまのお通りだ~!」とカナリアも真似て叫びます。
「「邪魔するものは道連れにするぞ~!」」
滅敬は戦場を回り、死体を集めては武巖寺に安置するのです。
キョンシーが列を崩したら、カナリアが霊罰棒で叩き、列を乱さないように動かしました。
◇◇◇
ユーコフは、いなくなった子供がいるか周辺を聞き込みました。
すると、出て来る出て来る、うちの子供は二人、うちの子供は一人、向かいの子供は全員。
多すぎて情報を絞れません。
なぜいなくなったのか、まったくわかりませんでした。
◇◇◇
ふたたび、ミーティングの時間がやってきました。
「ここまでで、何か気が付いたことがあるかな?」とカークが話します。
ユーコフ、カナリアは、先にカークの考えが聞きたいと思いましたので、そう言いました。
「俺の意見としては、ズバリ暗黒道士が存在する。
傘を持って徘徊する子供は、暗黒道士によって作られた自動霊魂だと思う。
造られた自動霊魂が死霊を呼び覚まして、いくさをやめないサムライ大将に売るんじゃないだろうか。
この世界は戦乱の世の中だというし、滅敬さんの動かす死体も奪われるようだし。
おそらく死者の扱いに精通した敵だと思う」
ユーコフは、その意見から、自分の説を追加しました。
「僕は、子供はサムライがさらっていったのだと思ったんだよ。すべての子供が兵士になれるとは思わないけど、元気な子供ばかり連れて行かれていたそうなので、親たちの嘆きは大変なものだった」
カナリアは、疑問を持っています。
「滅敬さん自身が暗黒道士ということはありえるわよね?滅敬さんに疑惑を隠したまま魔術を習い続けるのは危険じゃあないかしら」
カークがまとめる。
「もしもカナリアをさらうなら、昨夜がちょうどよかった。滅敬さんが暗黒道士ならば、すでにカナリアはさらわれていると思う。
依頼人でもあるし、滅敬さんの疑惑は先に晴らそう。滅敬さんに心当たりがあるようならば、暗黒道士を倒しに行こう。
滅敬さんが知らないと言い始めたら、その霊罰棒とやらで子供の幽霊を叩いてみようじゃないか」
◇◇◇
三人そろって滅敬さんのもとに行き、現状を報告します。
各人の個人プレイはやめ、ここからは問題解決のために団結するのです。
「暗黒道士というものがいるかどうか、まだわかりませんが、きこりの姿というものが気になりますね。人手が必要でしょう。われわれも探索にお付き合いいたします」
滅敬さんが暗黒道士かもしれないという疑惑は拭い去れませんが、
武巖寺の僧兵全員で周辺の山々から木こりの道士を探し始めます。
やがて、いくつかの木こりの家が疑惑の対象に浮上しました。
そのうち雨桐という男が過去に滅敬の弟子にいたことがわかりました。
彼が、暗黒道士でしょうか。
◇◇◇
滅敬は思い出します。
「滅敬道士、あなたほどの能力がありながらなぜこの国のサムライたちの戦いをやめさせられないのですか?」
「雨桐、われわれが求めるべきは無為自然であり、サムライのどちらかに加担するようなことがあってはならない。どちらかが勝利してどちらかが法を作ったとしても、それは宇宙の原理「道」ではないのだ」
「多くの人がすべてを失ったとしても、道はそこにあると言うのでしょうか」
雨桐は、息子を失い、滅敬が考えていた以上にサムライたちを恨んでいたのだろう。
山にこもり、禁じられた術を使用して、死者をよびおこし、死霊軍団を用いてサムライを皆殺しにする計画なのだろうか。そう滅敬は思います。
しかし、修行中の雨桐がそこまでの術を身に着けることができたとは考えにくい。
雨桐が知らない奥義はまだたくさんあり、彼自身がキョンシーを使役する状態にはなっていないはずなのです。
◇◇◇
カークたちは、月の出る夜、かがり火を焚きながら、滅敬ら武巖寺の僧兵たちと、子をなくした親たちとともに、雨桐が隠れ住んでいる山に訪れました。昼に来ても現れないかもしれないからです。
すると、山頂の方から大声でよびかける声があります。
「待っていたぞ滅敬道士、そしてカーク!カーク・ドゥマンドリよ!」
「なぜ俺の名を呼ぶ、貴様は誰だ」
そこに見えるのは、黒い道士服を着て短髪にひげをたくわえた、筋肉のたくましいガッシリとした男でした。
山頂には檻が設置されており、さらわれた子供達が閉じ込められています。
「おとうさーん!」
「助けて―!」
こいつが雨桐か。誰一人、彼の行動の真意がわかりません。
「俺はお前と同じように、異世界をめぐり、大いなる力を手に入れた!
この子供達を開放してほしければ、俺の部下たちと戦うがいい!」
そう雨桐が言うと、音楽とともに、夜の空中に画像が浮かび、彼の持つキョンシーが紹介されます。
《ブラッドキョンシー》
自らの血液が増幅するキョンシーである。
ゾンビとして生まれ変わった時に、心臓から無限に血液が生産される改造を施された。
血を鋼のように固めて武器を作り出すことができる。
生きた人間は噛まれずとも、その血を浴びるだけでもキョンシー化してしまう。
《電撃キョンシー》
電撃気功波での戦闘ができるキョンシーである。
電撃気功波を放ち、空中浮遊をする。雷光とともに物理攻撃を行うため、目で動きを追うことは困難である。
《ドラゴンキョンシー》
強大な力を持ったまま死した、古代の人型ドラゴンをキョンシーとして使役するもの。
本体が過去に持っていた特殊魔力は、キョンシーとして生まれ変わった時に失われる。
しかし破壊を求めて暴れまわる姿は、雨桐さえ手をやく。
《メカキョンシー》
全身をナノマシンで武装しているキョンシー。
人をキョンシー化した時点でナノマシンの培養のための苗床にされるため、破壊するためにはメカキョンシーがキョンシー化させた人間すべてを破壊する必要がある。
ナノマシン自体を凝縮、硬化し、自らの切断した腕から大砲のように発射することができる。
雨桐は、これらのキョンシーと戦えと言うのでした。
◇◇◇
「…………なんだか、やる気を削がれちゃったわ」
カナリアが雨桐の姿を見て言いました。
「なんでだよ、あいつが今回の黒幕、暗黒道士ということだろ、倒さないと終わらないぜ」
ユーコフは意欲的です。
「ふはは、これを見ろ!」
雨桐は、山頂までに特設リングを複数用意していました。なぜか全員と戦わせようというのです。ユーコフの目が輝いてきました。
「カークどう思う?」カナリアが問いかけます。
「あの強化キョンシーたちは、この世界の技術じゃない。おそらく、特殊潮汐を利用して、異世界の技術を自分のものにして自分のためだけに使用している。
雨桐のやってることを許すことはできない。自分のいた世界をめちゃめちゃにするために使用するなんて、最も恥ずべき行為だ」
カークも真面目なのです。
「でもさ、さらわれた子供はどうやら現時点で無事だし、ゾンビを兵隊として使用したいというわけでもなさそうだし、暗黒道士の子供の幽霊さえ押さえたらこんな戦闘しなくていいんじゃないかしら?」
「そういえば、そうだな」カナリアは、カークが冷静になってくれて、少しほっとしました。
「滅敬さん、どう思われますか?」
カークたちにとっては、彼が依頼人になるので、滅敬さんが方針を変えるならば、その意見も重視したいのです。
「雨桐は止めなければなりません。われわれは、キョンシーを使役することが可能ですが、それはあくまで死者を尊重する立場でなければなりません。あのように冒涜的に強化して戦わせようなど到底許しがたい。雨桐に引導を渡さねばなりません」
「カナリア、この世界の技術でないものは、この世界から無くさねばならない。カナリアも手伝ってくれるね?」
「しょうがないわね、チームだからね、ちゃんと応援するわ!」
◇◇◇
雨桐の過去1
雨桐は、何年も前、この土地でも名の知られた有力者の家に住んでいました。
雨桐夫婦に子供が産まれたことを人が知ると、周辺の村からも祝いがとどくほどでした。
雨桐が、息子である子墨の才能に気がついたのは、子墨が2歳のころでした。
はじめは何もない空中とお話をしたり、何もない空間に水をあげようとしたり、一人でおままごとをしているのだとおもっていましたが、子墨のいる部屋では花瓶や衝立などの物が倒れているようなのです。
雨桐は、子墨自身が歩き回って倒して遊んでいるのかと思っていたのですが、やがて子墨のいる部屋のものは空中に浮いていることが多くなりました。
「子墨、子墨お前は天才だ!」
雨桐は幼い我が子をかかえあげて喜びました。
◇◇◇
場面は闘技場へ戻る。
ブラッドキョンシーとの戦いにむけて、カークはユーコフと作戦を練ります。
今回の戦いは、敵を倒すことと同時に、こちらが全く無傷でなければいけません。
キョンシーとの戦いに敗れると自分もキョンシーになってしまうからです。
「一方的な殺戮では面白くない、第一のリングはこれだ」そう雨桐は言い、闘技場を紹介します。
そこは足場の悪い沼の闘技場でした。最初に戦うのはカークとなりました。
ブラッドキョンシーは自分の血液をジャックナイフに変え、カークに迫ります。
カークは、短剣に月光の光をまとい、斬ったものを異次元に飛ばすことができます。
一進一退の攻防のなか、少しカークが優勢に傾いたころ
「奥義!血極監獄」
沼のリング上空に血の檻があらわれ、カークとブラッドキョンシーを閉じ込めますが、沼の水分で血が重くなり、ブラッドキョンシーは動きを止められます。
カークは、肥大化したブラッドキョンシーにとどめを刺しました。
◇◇◇
雨桐の過去2
子墨が5歳の頃、雨桐の不在のある夜遅くに、盗賊となったサムライたちが家を襲いました。
盗賊たちが雨桐の妻、召使いの女たちを含めて全員の服を剥ぎ、着ている物をすべて奪って戦利品とし、雨桐の帰宅前に逃げ出そうとしていました。そこに声が響き渡ります。
「待ちなさい、盗賊といえども道理はわかるはず、下着くらいは置いていくのが人の道というもの、さもなくば命も持っていくがいい」
そう、母が盗賊たちに叱りあげるのです。
盗賊のリーダーは
「くちはばったいことを言う女だ、望み通りにしてやろう!」
そう言って雨桐の妻に刀を突き立て、一息に刺し貫きました。
それを見ていた女官たちはどっと泣き崩れ、子墨も、母のすがたを見て叫び声をあげます。
「やかましいわ、お前たちもみちづれに行きやがれ」
女官と子墨もともに野党たちの刀のえじきになりました。
不要な殺人だったはず。盗賊団は血に濡れた衣類もいっしょに盗んで逃げようとしましたが……。
不思議なことに、強い恨みのあるキョンシーとして蘇った子墨の母が、その爪とキバで盗賊たちのリーダーを殺すと、
いましがた殺されたばかりの女官たちもいっせいに起き上がり、盗賊たちを皆殺しにしたのでした。
やがて何も知らない雨桐が帰宅すると、
さびた鎧に身をつつんだ武装キョンシーたちと、着物を着ていない女官と妻のキョンシーたちが、子墨の幽霊にぬかづき、微動だにしない風景でした。
子墨の霊は父の姿をみとめると
「父ちゃん、おうちに帰ってご飯を食べよう」そうとだけ言います。
◇◇◇
場面は闘技場へ戻る。
電撃キョンシーと戦います。
ユーコフが戦うのですが、電撃キョンシーはリングアウトで反則負けを喫しました。
「こんなの勝負じゃない!もう一度やれ!」と、ユーコフは言いましたが、勝った側がゴネるとは。と、誰も聞き入れてくれませんでした。
◇◇◇
雨桐の過去3
雨桐は、家族の死から武巖寺に入ります。
しかし、武巖寺で教わるものは、雨桐にとって理解しがたいものでした。
雨桐が子墨に命令すると、子墨はキョンシーを思いのままに動かせます。
すべてのサムライを殺してこの世界を平和にする。その思いにかられて寺を出て放浪しました。
やがて、雨桐と子墨は特殊潮汐に呑まれてしまいます。
飛んだ先の世界では、特殊潮汐の研究がとても進んでいました。
雨桐は子墨のために、そして故郷の世界を平和にするために研究を重ねて、最強のキョンシー軍団を作り帰還します。
◇◇◇
場面は闘技場へ戻る。
ドラゴンキョンシーと戦います。
「ここは私が」そう言って出てきたのは滅敬でした。
滅敬は、普段は道士として人の姿で生活をしていますが、実は現代の竜人間なのです。
「古代の竜人間の力がどれほどのものだとしても、道から外れた姿はあわれ。私が引導を渡します」
鉄の板を敷いたリングでしたが、互いに退くことなく、足を止めてパンチを撃ち合います。
疲れが全く体に出ないドラゴンキョンシーが勝利するかと見えましたが、滅敬はキョンシー調伏の印を込めたパンチを繰り返していました。
実際にパワーが削られていたのはドラゴンキョンシーの方だったのです。
やがて、撃ち合う音が消え、土煙が晴れるとそこに立っていたのは滅敬でした。
◇◇◇
雨桐の過去4
ふたたび特殊潮汐を経て、もといた世界に帰還した雨桐と子墨の霊でしたが、雨桐の命令を聞かず、子墨の霊はサムライの皆殺しを実行します。
夜半おそくにサムライたちが住んでいた村を全滅させ、子墨と同じような子供だけを残し、全員をキョンシーに変えてしまったのです。
「やめろ子墨!これは母さんの望んだことではないぞ!」
……とうちゃん!、帰ろう!、おうちに帰ってご飯食べよう!
雨桐は、取り返しのつかないあやまちを犯してしまったのです。
◇◇◇
場面は闘技場へ戻る。
「わたしがメカキョンシーと?」カナリアはカークに抗議します。私は戦えない!と。
「大丈夫だ。この霞で出来た服、旬霞服を着ていれば、物理攻撃は当たったように見えてすべて異次元空間に衝撃が飛ばされる。
この効果は、満月じゃなくても良い、月の光が出ていれば大丈夫。幸い今日は満月だから俺たちに死角はない。
それは、カナリア、お前にとってもそうなんだぞ。
顔と、お前の拳と足だけは守られないので、ガードをしっかり考えていれば大丈夫だ」
白い道士服の上に旬霞服を羽織ったカナリアに、ユーコフがテストで、パンチを浴びせるのですが、カナリアには衝撃もありません。
「どんな物理攻撃でも?」
「ああ、どんな物理攻撃でもだ。例えば炎をまとっていたり、特殊能力が付与されていたとしても、その効果が波及するのは次元のひずみ、異次元の彼方だよ」
嫌なら僕が戦うから!というユーコフをおさえて、カナリアはメカキョンシーの前に出ました。
開始直後に放たれたメカキョンシーのナノマシン砲を受けても、カナリアのダメージがありません。
メカキョンシーに勝機はなく、メカキョンシーはリング内を逃げまわりました。
やがてカナリアの霊罰棒が少しづつナノマシンの霊を無力化することに成功し、メカキョンシーは武力も鎧ももたないただのキョンシーになってしまいました。
鎧を失ったメカキョンシーに、カナリアが霊罰棒でとどめを刺そうという時に
「お母さん!」という声が聴こえました。
子墨の霊が、正気に返ったのです。
◇◇◇
大団円です。
「子墨、子墨や」
「おかあさん」
メカキョンシーもカナリアの攻撃で正気に返り、母の危機を前に子墨も正気に返ります。
二人は互いに抱き合い、カナリアは、ずっとこうしておいてあげたいと思いました。
やがてすべてを失った雨桐が、降参だとばかりに両手をあげてリングにあがりました。
「降参だ、すまなかった、子供たちは無事だよ、滅敬道士、申しわけありませんでした」
カーク、ユーコフ、カナリアの三名と滅敬道士もリングにあがり、話を聞きます。
「雨桐、お前どうしてこんなことをやったんだ?」両手を後ろ手に縛られている雨桐に、滅敬が問いかけます。
「死体を思うままに操ることができるわが息子の魂は、すでに狂気に囚われていました。
母を無残に殺されたのだ、無理はない。そう思っていましたが、日に日に増大する子墨の恨みを背に、
だんだん、私自身が殺人をすることに対して嫌気がさしてきたのです。そこで、特殊潮汐で渡った先の異世界で、カークさんたちの噂を聞きました。異世界を旅して難題を解決できる、カークさんたちであれば、死んだ妻と息子を救ってくださると思ったのです」
だから、わざわざ自分たちが不利になるような闘技場と、ルールのある戦いを仕掛けてきたのか。
カークは雨桐のことを少し同情しました。リングが無ければ、負けはせずとも、もっと苦労をしただろうと思ったからです。
「買い被られたものですね、私たちに奥様と息子さんを救う方法などありません。
滅敬道士の方がよほど、良く供養してくださるでしょう」カークは答えます。
「いえ、異世界の技術を取り入れてしまった以上、この世界で、キョンシーと我らは生きられません。
どうか、妻と息子を引き取ってくださいませんでしょうか」
「?引き取るってなんだい?」ユーコフが疑問です。
その問いに、雨桐が答えます。
「死んだ妻と息子にはふびんですが……私は……この世界で…………再婚…………したいのです」
ズバン!
「あんた、自分が再婚したいからって、この息子を捨てようっていうの?」
カナリアが突然雨桐に対して股間蹴りを放ちました。
「二人はとっくに死んでる!俺はもうこんな生活は嫌なんだ、息子も君に少しなついているようだし」
子墨とその母を見やると、二人は手を振りながらこちらを見ています。
「お姉ちゃんありがとう!」
ズバン!
カナリアの股間蹴りが再び雨桐に炸裂します。
「うぐぉおぉぉ」
「まさか、カナリア、あれをやる気か」カークがどよめきます。
「あれを!やる気だな!」ユーコフが嬉しそうです。
「こんなクソ親父に生まれて!子供がかわいそうだわ!思い知れ!」
ズバン!
三度の股間蹴りで雨桐は股間をおさえて苦しんでいます。
雨桐の顎に狙いを定めながら、カナリアが会場のみんなに宣言します。
「いくわよ! 3! 2! 1!」
カナリアの合図にその場にいた全員が心をひとつにしました。
カウントダウンが終わると同時に、雨桐に向けて真っすぐに崩顎昇竜脚を放ったカナリア。
雨桐はリングの外で気絶していました。
◇◇◇
それから、雨桐は武巖寺の僧として修行をやりなおし、キョンシーたちは滅敬道士がきちんと供養することになりました。
いまだに子墨の霊は世界を渡りながらうろうろとしていますので、どこかで会うことがあるかもしれませんね。
「特殊潮汐のことは秘匿すべきだ、ということが、イマイチわからなかったけど、今回のことでよくわかったよ」ユーコフが言います。
「世界は比較的すぐに崩壊するからね、今回みたいに」カークが言います。
「自分でも意外なんだけど、私もけっこう戦えるということがわかったわ」と、カナリアが言います。
こうして、ベビーキョンシー騒動は終わり、三人は汐見小屋に戻りました。
カナリアは忘れていますが、キョンシーの腕、高く売れるゾンビの腕はいくつか持ち帰ったので、生活は少し楽になったようです。
おしまい
お読みいただきありがとうございました。
幽幻道士、闘将!!拉麺男 、ショーンマイケルズ(WWE)、常盤御前などの詰め合わせです。
こんな話を書いて何がしたいのか、とは、私自身も思います。世界の崩壊は由々しき事態ですね。
次回はできるだけ場面展開をせず、お花屋さんでも。