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月と猫  作者: ジョーン
7/15

ユーコフの巻

この話は大枠だけで、詳細を描写せずに表現しています。


ユーコフの過去、まじない師のやかた、退行催眠、ラストバトルと覚醒

 ユーコフは夢を見ていた。


 緑色の人影が、ユーコフを取り囲むように円状に立っている。

ユーコフのそばに穴を掘り、(あか)く塗った石板を三枚、三角形に埋め、その中央に大切そうなものを置いた。


「この国はもう終わりだ」

「この国はもう終わりだが、この宝物さえあればこの国は再度おこすことができるだろう」


緑色の人々は、表情が読めないながらも悲しそうである。

三角形に囲んだ石板に、さらに重い蓋をするように石板を乗せ、土をかけた。


「神よ、国を失う王をゆるしたまうな、都の陥落とともにわたしは死のう。逃げようとするものを助けたまえ」


緑色の人影たちは、その言葉ののち、一列になって歩き始めた。


ユーコフはその一団が遠くに離れて行く姿を見ていた。


一人の女性が子猫のユーコフを抱き上げて言う。

「私たちは必ずここに帰ってくる、それまであなたはここに居なさい」


緑色の人影たちは、ユーコフのもとを離れてゆく。

一列になって、歩いて浜辺を進んでゆく。水平線の向こうに北極星が輝いている。


僕は、置いて行かれたのだ。そんな夢だった。



◇◇◇


「今日は町へ行こう」


と、カークが朝食のハムを噛みちぎりながら言った。


「町?」ユーコフは聞き返す。


「そうだ。そろそろお前たちが帰る方法もみつけないとな。

残念ながらお前たちの世界がどこかいまも全くわからない、俺の占いでは出てこない。

雨の花というものを採りに行って特殊潮汐に巻き込まれたんだったよな?

そこから、街のまじない師に相談しようと思うんだ。ただちょっと人嫌いでね」


「人嫌いなのに町に住んでるの?」とカナリアが言う。

「不便なのは嫌なんだとさ、町の中に結界を張って住んでるんだ」

「ふうん?まあ町に行けるのは楽しみね」


別の世界、ではなく町と呼ぶのだ、きっとそれはカークにとってのホームタウンなんだろう。


◇◇◇


 元の世界に戻る手がかりを探しに行く。

そう伝えながら、カークは二人の反応を観察していた。

二人は「町に行ったら美味しいものを売ってるかな?」なんて楽しそうに話している。


早く二人を返してあげたいと思いつつ、遅くなったのはカークなりに手がかりを探していたからだ。しかし、彼らの持ち物や言動からは何の手がかりもつかめなかった。


その間にも二人から「早く帰りたい」と思わせる言葉や行動は見られなかった。

病気の父のために「雨の花」を採りに行ってたんだろう?

じゃあはやく帰りたいと思ったって良いだろうに。

残された家族、少なくとも父と母を残して消えたのであれば、もっと帰ることに焦りを感じるものではないだろうか。


「カナリア、お前は母さんが恋しくて泣いたりしないのか?」

と、カークが問いかける。

「うん、恋しいよ、でも泣いたりはしないかな」

そういうものなのだろうか。まあ私に恋しいと泣いたってしょうがないからな。

聞いて悪かったなと、カークは少し思った。


◇◇◇


 汐見小屋のある世界は、汐見小屋だけで完結しているのだと、ユーコフは思っていた。

汐見小屋だけで、そこからあらゆる世界に行くことができたからである。

しかし、三方を海に囲まれた岬にある汐見小屋、その世界にも町があるようだ。


そういえば、当たり前だと思う。わからないものだ。


連れて来られたのは黒い町だった。

黒いアスファルトで覆われた大地、空中に線を這わせるための灰色の太い柱が何本も建っている。

山には鉄の塔が建っている。

空中にも地面を作って、黒いアスファルトで覆われた大地を作る。


そしてわが物顔で走る自動車。


背の高い建物たち。


なんて場所だ。まるで魔法だ。と、ユーコフは思った。

「この世界では、凧に乗らなくても自動車に乗ればいいから楽なのだ」と、カークは言う。

「凧に乗ったらあの電線とやらに引っかかるね」と、ユーコフは言う。

「わたしこんな服で町に来てよかったのかしら」と、カナリアは言う。


「どんな服だってかまうものか、堂々としてろよ」

カナリアは、ヒラヒラとした、レースのフリルがたくさんついている自分のような服を着ている人がいないので不安になっていた。


◇◇◇


まじない師の館は、町の中にある。

新しい建物ばかりの町の中に、ポツンと一件だけ古びた建物がある。


「地上げ屋が失敗したんだな、という風に見えるだろ?」とカークが言う。

「地上げってなに?」ユーコフが問う。


「ああ、もともとこの辺は、こういうちっさい建物ばっかり建ってたんだ。

でもそれをぜんぶ壊してビルやマンションにしたい。と、考える人がいっぱいいたんだ。

それを実現させるために、高いお金で土地を買いあげる仕事があるんだ。


だけど、この場所はどれだけお金を積まれても首をたてに振らなかった人なんだ!という風に見える。よね?」

「ほんとうは違うってこと?」

「そう、結界を張ってるから、この建物は周りの人には認識しにくくなってる。地上げ屋に売れば楽に暮らしていけるかもしれないのに、不器用なんだな」


◇◇◇


「聞こえてたわよ」


店内に入ると、黒衣に円錐形の魔術師帽子をかぶった女性が爪のお手入れをしていた。

カークはどうやらこの人目当てで来ているような話をしている。この色白で長い黒髪の女性がまじない師なのだろう。

カナリアは、まじない師が自分と同じようなレースのフリルをつけた服を着ているので落ちつきを取り戻した。カナリアのために、この町での普通の服も買って帰ろうとカークは思った。


「ご無沙汰だったね、ユカリちゃん」

「先月来たばっかでしょ」


「これを買い取ってほしい、買い取り金の一部でこの二人を見てやってほしいんだよ」

そう言うと、カークはポーチから二つのアイテムを出した。

「今回は完全変身後の狼男のキバと、大陸蛇の抜け殻だよ」

「また変なのを持って帰ったんだね、ちょっと調べるから時間ちょうだいね」


そう言うと、ユカリちゃんはユーコフたちに紅茶とケーキを出してくれた。

ヤマザキでごめんけど。と、ユカリちゃんは言うが、ミルクレープというケーキはとても美味しいものだった。


紅茶とケーキをいただいている間、ユカリちゃんは奥にこもって、カークの持ち込んだアイテムを調べていた。


「アイテムがお金になるかどうかって、なにでわかるの?」と、ユーコフが問う。

「それは、買いたい人がいるかどうかだよ、今はああいうのは、あんまりお金にならないと思う」

「お金になるときがあるっていうこと?」

「需要にあわせたアイテムを持ち込んだらお金になるよ、今なら『切り落とされたゾンビの腕』などがたぶん高値をつけてくれると思う」

「へえ、ゾンビの腕なんてウニョウニョするだけじゃん」

「好事家の間でゾンビが流行してるからね、狼男のキバと大陸蛇のぬけがらは、どちらも持ってると幸運やパワーの増強が見込めるので、本当はこっちの方が高値をつけるべきだと俺は思ってる。

だけども、実際に買いたいという人の求めるものを持ってくるのがお金持ちへの道なのだ」

「じゃあ、次にゾンビが出たらいっぱい切断してあげないとね」カナリアは妙に気合が入ったようす。良い子だ。お金は大切だからね。と、カークは言っていた。



お待たせ、と言いながらユカリちゃんがヒールをカツカツしながら戻って来た。

カークに伝票を見せて、カークはそれにサインをしていた。



「ありがとう、いつも助かるよ」

「こちらこそ助かってるわ。そんで、その子たちはあんたの子?かわいいね」

「いや、特殊潮汐に呑まれた子なんだよ、だけど帰り方がわからなくて、なにか手がかりがないかと思って、ここに来たんだ」


ユカリちゃんは二人をじっとみつめたのち、二人に言った。

「そう?カークの弟と妹として三人、ずっと一緒にいたらいいのよ」


「何が観えてる?」

ユカリちゃんは不思議なものが見えるらしい。

そのため、断定的なもの言いをする。カークは彼女のそういうところが嫌いだ。

彼女が人嫌いになった原因もそこにあるだろうが、カークはわざわざ指摘したりしない。


「なにも見えてないわよ、そんじゃあ定番の退行催眠といきましょう、どっちからやりたい?」

「退行催眠てなんですか?」ユーコフが聞く。


ユカリちゃんは、一段低い語り口でゆっくり、おどろおどろしく話す。

「退行催眠は、幼児期の感覚や、感情や、記憶へさかのぼる精神状態にすることよ。

一番古い記憶を越えて、さらに古い記憶を呼び覚ますと、人は……前世を……思い出す……」

「ひええ」

「前世…………」


二人とも、そんな怖い話をしていないだろ今。と、カークは思ったが、ユカリワールドを楽しんでみようと黙っていた。


「現在の問題、現在のなやみ、現在抱えている苦しみは、前世の因縁によるものなのじゃ。

前世での因縁をひもとき、なぜ今このように苦しみもがくのか、その理由を知ることで現世での悩みを、解決まではできぬとも……理解は……することができるじゃろう」

「理解」

「前世の理解」


「わたしの術は、そなたらの魂を前世にみちびく。

前世からの呼び声を聞き、今の力にするか、前世からの嘆きを聞き、今の嘆きに蓋をできるか。

そなたらにその勇気はあるか?」


「────前世の因縁と親からの因縁はどっちが強いですか?」

「────前世でいっぱい良い事してたら、現世はその影響でいい事いっぱいあるはずですか?」


……………………ユカリちゃんは、せっかく怖がらせようとしたのに、質問が帰ってきたことが恥ずかしかったようだ。

「アハハハ!アハハハ!ハッハハ!」


ひとしきり照れ隠しで笑うと、ユカリちゃんは、普通の声に戻してくれた。

「前世を気にするのは前世を気にしたい人がするんだよ、あんたたちは元の世界に帰る方法を探してるんだろう?」

「そういえばそうでした」ユーコフが言う。

「自分のことなのに、そんな調子で」

「なんででしょうね?」

「思い出したくないことがある、それほど帰っても楽しくない。そんなことだろうと思うけど」

「そうなんですか?」


なんでわたしに聞くんだろう?ユカリちゃんはそう思ってしまう。

「あんたたち、まさか記憶が無いのかい?カーク、気が付いた?」

ユカリちゃんは、カークを見てちょっと不安そうな顔をする。

「いや、気が付かなかった。記憶がないのか?」

「あると思うよ」と、ユーコフが言う。

「…………」カナリアは答えない。


「特殊潮汐は、わかっていないことが多いと言ったけどさ、俺たちの住む汐見小屋に流れてきたということは、比較的近い世界から来たと思ってたんだよ。

だけど、世界の凧が触れた先からさらに遠い別の世界へ飛んで飛んで、そういう連鎖飛びを繰り返すと、帰り方がわからなくなることはある。

特殊潮汐についてよく知っている誰かが、わざと連鎖飛びをさせて、俺のところに二人を寄越したのかもしれない」


「カーク、それは、この二人がもとの世界を追放されたかもという話をしてる?」

「いや、帰り方がわからないことのパターンの一つを考えているだけだ」

「この子たちのことを思うなら、適当なことは言ってはだめよ」

「そうかな。すまん」お前も適当じゃないのか?とカーク思うが、ユカリちゃんなりに考えているんだろうと思いなおす。


「では、猫の少年、おじょうちゃん、お姉さんにお名前と、住所と、現在わかっている最も古い記憶について、この紙に書いてちょうだい」


ユカリちゃんは問診票のようなものを二人に渡し、書かせた。


◇◇◇



「ではユーコフ・ナナロ、きみは、ユーコフ・ナナロで間違いないね?」

「はい、ユーコフ・ナナロです」


ユーコフは黒を基調とした部屋で、白いベッドに横たわっている。

リラックスした服に、「夢ホスト」と書かれた帽子をかぶっている。

ユカリちゃんは、香をたき、ユーコフの肩や腰を温めてリラックスさせる。


リーン



ユカリちゃんの手にベルが握られている。長く響きよく通る音。

3分ごとにそのベルを鳴らす。


リーン


「リラックスして、眠ってしまってもかまわないよ。わたしの声が聴こえるね?」


「はい」


カークとカナリアは、部屋の壁際で、その施術を見ていた。

「これからユーコフは、退行催眠に入ります。記憶障害、あるいは呪いに打ち勝つには

その呪いを倒す人間が必要なのよ、カーク、カナリアちゃん、準備しててね」


カークとカナリアは「夢ゲスト」と書かれた帽子をかぶっている。ちょっと恥ずかしい名前だ。

「これは夢だ」とわかった明晰夢の中ではなんでもできる。

しかし、夢かどうかを判定することは難しいので、道糸巻(アリアドネリール)と呼ばれるアイテムを渡された。道糸巻(アリアドネリール)の先端を回転させ、回転がいつまでも止まらないのであればそれは夢。明晰夢を発現して無敵の力を得られる。


リーン


「ユーコフ、あなたは妹のカナリアと雨の花を取りに来た」

「はい」


リーン


「その時の様子を教えてちょうだい」


リーン


◇◇◇


カナリアはカークの手を握り、上目遣いでいう。

「私が悪い子だったらカークは私を嫌いになる?」

カークは、そんな、男に媚びるようなカナリアにちょっとイラっと来たので、

「お前が悪い子だったら嫌いになるさ」

と、冷たく突き放した。


◇◇◇


カークが目覚めると、カナリアとユーコフが話していた。


「私がやってないといえばやってないの」

「ああ、そうだったな、やってない」


ユーコフは表情がうつろで、カナリアはユーコフにずっと言葉をかけていた。


「お母さんは雨の花をとってくるって言ってたでしょ」

「ああ、お母さんは雨の花をとってくるって言っていた」

「私はお母さんと一緒に雨の花をとってくるの」

「ああ、カナリアはお母さんと一緒に沼に行く」

「あなたは来てはだめ」

「それはできないよカナリア」

「なんて聞き分けがないお兄ちゃんなんだろう!」


リーン



◇◇◇


ふたたびカークが目覚めると、ユーコフは暗い森の中にいた。

「お前がユーコフか!」4人の剣士に取り囲まれて刃を向けられている。

「その通りだ、お前たちが天意の刺客ということだな」

「覚悟するがいい、カナリア姫の命を取ることが天帝の意思だ」

「全員明日には俺の朝飯だ!」そう言うとユーコフは筋肥大の秘法を使用して、身体強化を行いビーストとして剣士につかみかかろうとしている。


リーン


◇◇◇


ふたたびカークが目覚めると、

「カナリア!お兄ちゃんだぞ!」

「まあ、お兄ちゃん、はじめましてお兄ちゃん!」

「お土産を持ってきたんだ、雨の花だよ、カナリアが探してるって言ってた」

「それを探してるのはお母さんなんだよ、しょうがないお兄ちゃんだね、でもありがとう」


リーン


◇◇◇


再びカークが目覚めると、ユーコフはとある城の中で王とみられる男と話をしていた。


「ユーコフ、お前の首があればあちらの立場も保たれる」

「この首でよければ喜んで差し上げます」

「すまない、カナリアのことは心配するな、お前はよくやってくれた」

「もったいないお言葉です」


リーン


◇◇◇

再びカークが目覚めると、ユーコフはベッドの上にいた。

周囲はビーカーやフラスコ、多くの書物がうず高く積み上げられて、光る巨大なガラスの器がある。研究所なのだろうか。


「お前は7番目のユーコフ。最後のユーコフだ。ユーコフ七郎(ナナロ)

「目覚めと名を賜り、ありがとうございます」

「お前は遺伝子操作を全く行わない、純粋なユーコフだ。カナリアを、この国を守ってくれ」

「わかりました」


リーン


◇◇◇

再びカークが目覚めると、ユーコフは先ほど目覚めた研究所をたった一人で破壊していた。

「うおおお!」

見える限りの設備を壊し、口から炎を吐き出しており、書物に火を放っていた。

乱暴に、癇癪をおこしたように暴れまわり、嘆きがこちらに伝わるようだ。


「そこに誰かいるのか!」ユーコフはなんと、夢の中にいるカークを見つけ出した。

カークはとっさのことで、ここが夢か現実か判断できない。

火を吐く魔人と化したユーコフに対して素手で組みあい、力をはかる。

「ユーコフ!やめろユーコフ!何があったんだ!」



リーン


◇◇◇


再びカークが目を覚ますと、森のそばで、人々がなにやら大切なものを埋めているようだった。


「私たちは必ずここに帰ってくる、それまであなたはここに居なさい」

ユーコフによく似た猫を抱き上げた女性は、いとおしむように猫に口づけをし、涙を流していた。


鎧をまとった人たちは、ユーコフに似た猫を置いて、戦いにおもむくようである。


「カーク」

「ユーコフか」


そばにいたのはいつもの見慣れたユーコフである。

「頼む、僕と一緒にあの人たちを助けてほしい」

「ああ、わかった、お前の大切な人なんだろう」


カークとユーコフはポーチから凧を出して、空に飛翔する。


リーン


◇◇◇


 敵の軍は僕たちをだまして弱体化させたうえで攻めてきた。

やつらは、自分たちが世界の中心なので、自分たちに従えという連中だ。

僕たちの国はやつらとあくまで対等にやってきた。

あくまで対等で、互いにそうだと思っていた。

しかしやつらの新しい王は自分のことを天帝と名乗り無理な要求を重ねてきた。


「なるほど、ひどいやつらだ」


だから、カークお願いだ、やつらを次元のはざまに送り込んでくれ、ルナカノンで。


「よしきた」カークはポーチから次々とルナカノンのための凧を出した。

ルナカノンは月の光の力をらせん状に反射させることで異次元の扉を強制的に開く魔術である。


しかし、凧が飛ばない。ルナカノンには特殊なレンズがついた凧を飛ばさないとなにもできないのである。

「なんで飛ばないんだ?」

「はやくしないと味方がどんどん死んでしまう!」

「わかってる!飛ぶはずなんだよ!」


ユーコフの焦りがカークにも伝染してきた。

いつしか自分の乗っている凧も揚力を失い墜落する。

どういうことだ?ポーチをさぐると道糸巻(アリアドネリール)が手にふれた。


道糸巻(アリアドネリール)は、これが夢かどうかの判定に使用することができる。

カークが道糸巻(アリアドネリール)を回転させると、ジャー!っと音を立ててリールが回る。

回る!回る回る!これは夢だ。ここからは明晰夢だ!


「ユーコフ喜べ!これは夢だ!」

「どういうことだい?」


こういうことさ!


◇◇◇


月明りの中、カークは巨大化し、炎を吐く猫獣人として、地平線を覆い隠すほどの敵軍の中に躍り込んだ。


「うおおおおお!」


敵兵たちの周囲からどよめきが起き、一部はカークに反撃をこころみる。

しかしカークは足元の敵兵を踏み潰すだけで沈黙させることができる。


「ユーコフ!お前も来い!」


カークが叫ぶと、ユーコフの体も巨大化する。


「「うおおおおおおおお!」」

二匹の巨大魔獣が数万の敵をすべて殲滅し、朝になるまでに一人残らず皆殺しにした。



リーン!


◇◇◇



明晰夢の後には覚醒がある。


カークはユカリちゃんの店でユーコフの退行催眠を見ていたことを思い出した。


そばにはカナリアがいる。

不安そうに俺の手を握っている。


「カナリア、カナリアは悪い子なんかじゃなかったよ、大丈夫」

カークがそう言って頭をなでると、カナリアは涙目でうなずいた。


ユーコフが目覚めた。

ユカリちゃんが、ユーコフの催眠を解いて覚醒するようにうながしたのだ。


「最…高…!!」ユーコフは涙を流していたようだ。


ユーコフはカークを見て飛び起きて抱き着いてきた。


「カーク!ありがとう!最高の体験だったよ!」

「ああ、俺も最高だったよ、最高の戦いだったな!」


カークとユーコフは、二人で抱き合って再会を喜んだ。



◇◇◇


 ユカリちゃんが言う。

「今回は退行催眠だったから、もとの世界に戻るきっかけだけわかれば良いと思ってたけど、なにか別の成果があったみたいね」


カークが言う。

「カナリアは、思い出すまでもなくユーコフの過去を知っているんだろ?」

カナリアはうなずく。

「ユーコフは、試験管で作られた強化魔獣で、カナリアを兄として守るために生まれた戦士だ。そしてそれは7体目の最後のユーコフということだ。

カナリアは守らなければならない存在で、命を狙われ、殺されるかもしれないところがいくつかあったが、それまでのユーコフがカナリアを守ってきた。

そしてそれらの記憶をすべてこのユーコフも持っているようだ」

ユーコフはうなずいた。


「そして、父となった猫の記憶もユーコフは持っていた。父となった猫は、あの鎧の形でいえばおそらく1700年ほど前のものだ。

猫の遺伝子が残されていたんだろう、その古代の猫戦士の遺伝子をもとに、カナリアの母が卵子を提供してユーコフが産まれている。それはおそらくカナリアも知らないことだと思う」


ユーコフが言う

「僕はあまり記憶がないのですが、いつも緑色の人が国を失う夢を見ていました。

妹であるカナリアを守らなきゃっていう思いと、その緑の人を守れなかったという思い、それだけがずっと心にありました。

たくさんのユーコフの記憶があるから、どれが本当の僕の記憶かわからないんだけど、わからないんだけどさ、今日は緑色の人たちを、カークと二人で大暴れして助けた夢を見たんだよ。

最高だった。最高だったよカーク。

ユカリさんありがとう。ずっと悲しいものが心の奥にあったんだけど、ただの夢かもしれないけど、なんだかすっきりした。歴史はもちろん変えられないし過ぎ去った過去は戻らないんだろうけど、僕はここにきて本当によかった」


なんで、カナリアは最後の夢の中に登場しなかったんだ?と思ったが

おそらく抱きかかえた彼女が、カナリアの前世かなにか、なのだろう。たぶんだけど。

と、カークはこっそり納得した。


◇◇◇


ふたたびユカリちゃんは三人に紅茶を出してくれた。

大福もちをくれた。あわしま堂で悪いけど、と、ユカリちゃんは言ったが超うまい。とユーコフは思った。


「カナリア、カナリアの退行催眠は本当にいらなかったのかい?」

「うん、わたしは過去のことは大丈夫」

「なんでもやっつけてあげるけどな!僕とカークで!」


「ユカリちゃんの言う通り、無理に帰らなくて良いならそれでもいい。

兄貴とふたりで、これから先も手をとりあって生きて行く方法を探していこう」

「カークもいてほしい」

「カナリアは甘えっ子だな、ちゃんと俺の言うこときくか?」

カナリアは力強くうなずいた。


◇◇◇


かわいかったので、帰りにミスターマックスで二人の服をたくさん買った。


「もっと良い服きせてやりなさいよ!」とユカリちゃんは思った。



おしまい


お読みいただきありがとうございました。

インセプション、進撃の巨人、イソラ、金印、その他の混ぜ合わせでした。


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