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月と猫  作者: ジョーン
12/15

カナリアの巻

この話は大枠だけで表現されています。

ユーコフとカナリアの国→カークの帰還→ナナバの登場→各自の冒険→ラストバトル


一旦ここでエンディングです。12話なのでキリよく。

最大のスケール感でお送りします。


 カナリアは10歳の少女である。

特殊潮汐に飲まれ、カークの住んでいる汐見小屋に、兄であるユーコフとともに流れ着いた。


カークは出会った当初から、この兄弟がもとの世界に帰る手伝いをしている。


そろそろ帰っていいだろう。猫獣人であるユーコフはともかく、カナリアは女の子だ。

親も心配しているだろうに。



◇◇◇



 世界は凧のようなものだ。世界凧説。これは死んだ父が話していたことを、カークの師であるホシジマ老人が受け継いで研究しているものだ。


カークの父は、多数の異世界とつながることができる。

この汐見小屋に住んで、母と一緒に世界を行き来した。


両親は必要なもの、研究の成果はすべてカークに渡して来たが、なぜそのような生活をしているかまでは教えてくれなかった。


カークは王女であった母イアンナと、その近衛隊長であった父タムズの事を思い出していた。

久しぶりに、ユーコフ、カナリアと交えて、両親の話をした。


「カークのお父さんは、どんな人だったの?」

「なんでも色々教えてくれた。学校に行ってない俺は、父さんになんでも教えてもらった。

俺の父さんは死後の世界に行けたらしい。死の世界に行って戻れるなら、その時点で永遠の命を持ってるみたいなものだ」

「じゃあ、偶然死の世界に特殊潮汐で行くことができたら、お父さんにも会えるんだね」

「あ、ああ」カークが言いよどむ。


 カークは正直なところ、もう両親に会いたくない。

自分のせいで幸せな生活が失われた。父を殺したナナバは憎いが、ナナバを殺してもあの幸せだった過去には戻れない。


ひとりで生きて、ひとりで世界を渡って、ひとりで稼いで、二人の養子を養う。

それだけでもういいじゃないか。昔のことは忘れていいじゃないか……


「カークは、お父さんお母さんに会いたくないの?」カナリアが言う。

「ああ、そうだ。あまり考えないようにしていたけど、会いたくない」

「なんで?私には帰りたいだろうにって言うのに」

「そうだね、子供は親が好きで、親と一緒にいるのが当たり前だからな」

「なのにカークは親に会いたくないの?」


「ふふ、なんでだろうな、おかしいな」


◇◇◇


放蕩息子の帰還、そしてカナリアの王国。今回はそんな話になる。


『放蕩息子の帰還』というのは、昔話だ。

父が残した財産を、兄弟二人で分けた。兄は父を助けてがんばった。

弟は街でがんばろうとしたがすべて使い果たしてボロボロになる。


弟は、死ぬしかないという状況になって、やっと父を頼って家に戻る。


父は、

「死んだと思っていた息子が帰って来た」と喜んで、宴をひらいた。


愛ってのはそういうものだぜ、という故事。

そうは思ってもなかなか、帰れるもんじゃない。そうカークは思う。



◇◇◇




「カナリア姫、御帰還あそばされましたこと、心よりお祝い申し上げます」


特殊潮汐にいつものように飲まれ、潮騒が引いていくと、現れたのは明るい沼地。

石造りの壁や柱が建っている中庭のようなところだった。


夕日、または血のような赤い石に、ガラスか、あるいはアクリルで覆われた温室も見える。

宮殿の中庭といった風情だ。


突然の来訪を迎えてくれたのは、リバランテ大司教。

特殊潮汐の兆候があるたびに、カナリアが帰還してくれるかもしれないと考え準備してくれいていたらしい。


俺たちは神殿の沼の中で特殊潮汐から抜け出た。


赤い石をふんだんに使った神殿の風景に、あっけにとられているカークに、ユーコフは心配そうな顔で見る。

「カーク、カーク、今回も大変かもしれないけど、どうか、どうかカークは僕らを助けてほしい」

「いいとも。しかしそういう言い方をするっていうことは、今回も難しいのかな?」

「ふふっ、今回も、だね。カークにとってはいつものように、ちょっと訪れた異世界かもしれないけど、カナリアと僕にとっては最後の旅になるかもしれない」

「ああ、出来る限りのことをさせていただきます。ってこった」カークはそう答えた。



◇◇◇



リバランテ大司教はカナリアに、銀のネックレスにはめこまれた赤いルビーのような石を渡す。

「貴女様の心臓でございます」

カナリアはうやうやしくそれを受け取り「今日まで守ってくださったことを感謝します」と答えた。

カナリアがそれを胸につけると、ユーコフもカナリアに(ひざまづ)いて言葉を待つ。


「みなさん今日までよく耐えました。これからも力をあわせてポルバエルの国を守ってください」


沼のそばは、ちょっとした体育館くらいのサイズの屋根のある式典会場のようだが、

大司教と、お付きの人5名、騎士のようないでたちの人15名程度の、ささやかながら親近感のある会だった。



◇◇◇



さっそく作戦会議である。


「カナリア、いいお姫様っぷりだったぜ」そうカークが言うと、カナリアは得意げな顔になった。

お澄まししない、見慣れたいつものカナリアである。


「ユーコフ、じゃあ今回はどうなったらいいんだい?」


「どうなったらいいんだろうね?


このポルバエルの国は、国といっても、川の中に浮かぶ島なんだ。


むかしむかしから、『辰砂(しんしゃ)』という水銀の素材が産出されたのでこの島を中心に周辺領域を支配……

支配と言ってもたぶん、南は大草原なので、良い感じの国境線があるわけではないんだけど、支配していた。


だんだん水銀がとれなくなって、お金に困るようになって、川のむこうの天帝が、ポルバエルの国をすこしづつ切り取って、カナリアを妻にしようとして攻めてきたんだよ」


「ひどいやつだな」


「それで、僕はそれほど記憶がないんだけど、誰かがさっきの沼から僕とカナリアを特殊潮汐に飲ませて、生き延びてもらおうとしたはずだよ」


「カナリア、それで合ってる?」カークが言うと、カナリアがうなずいた。


「よし、じゃあ天帝の国を滅ぼして、ユーコフ大王を擁立(ようりつ)してやろう。世界最強のポルバエルの国を作ってみんなで幸せになろう!」


カークが明るい調子でそう言っても、カナリアは言葉を発しない。

カナリア自身が何を考えているのか、知りたいが、


「どうした、カナリア。そういえば、ご両親はどうしてる?」

「お父さんは死んじゃったと思う。お母さんはわからないな」


カナリアは、泣き出しそうな顔であるが、そこからあまり話をしたがらないようだ。

言わなきゃわかんないだろう!どうして欲しいか言いなさい!と言いたいが、カークはカナリアにとって、グズグズ甘えられる存在なのだろう。お姫様のお洋服を着たカナリアを抱き上げて椅子に座る。


「なあ、カナリア。今まで、色々なお姫様、女王様と出会ってきた。いろんな国があっていろんなお姫様がいる。

カナリアがお姫様だろうなぁってのは、なんとなく思ってたんだけど、カナリアの国、ユーコフの国に来て、俺は嬉しいんだぜ。

お前たちがお前たちの国を作って、『それからというもの、みんな幸せに暮らしましたとさ』

というエンディングを迎えることができるように、俺はお前たちになんでもしてやりたい。

ユーコフと一緒にザクザクと敵を殺したっていいし、ちょっと敵わない相手が出てきそうなら、

もう少し異世界を旅して、そいつに勝てそうなテクノロジーを持ってきて圧倒的に倒してやるんだ。

それは。楽しい、幸せなことだろう?『その黒猫の騎士は、英雄として語り継がれました』なんて言ってさ」


「うふふ、カークはお兄ちゃんと、いろんなところで英雄やってるもんね」

「カナリアだって色々活躍してるんだよ、知らないのかい?だから、今回だって三人で力を合わせれば、うまくやれるさ」


「…………でもね、私の国はもうすぐ滅びるのよ」

カナリアのその言葉を聞いて、ユーコフが静かに涙を流す。

「私たちはなかなかここに帰って来れなかった。何が原因で帰って来れなかったかわからないけど、今日ここで帰って来れたということは、きっとこの国に『きれいな滅び』をもたらすためだと思う」

「カナリア、僕らは滅びない。僕らを助けてくれる人がまだたくさんいるかもしれない」ユーコフが言うが

「お兄ちゃん、私は私が存在するから争いが起きるというなら、ずっと異世界にいたい。帰ってくるんじゃなかったと思う」


カナリア自身が帰りたくないと思っていたのか。


「カナリアがいる限り、この国は滅びない」と、ユーコフが言う。

「私がいる限り戦いが終わらないなら……」と、カナリアが言いかけるが

カークはひざの上のカナリアをギュっと抱きしめて言う。

「女の子は、そんなことを言ったらいけない。カナリアが死んだら俺もユーコフも悲しい」


カークは、カナリアとユーコフを見ながら言う。

「乱世を終わらせる。そしてポルバエルの国を安定させる。それくらいなんでもないことだ」


しかし、二人とも笑顔を見せてはくれなかった。




◇◇◇



 カークの母、イアンナは異世界を渡る特殊潮汐に精通している。

イアンナの弟が神隠しに遭って行方不明になったからである。


イアンナの弟が10歳の頃、海沿いの洞窟を兵士とともに探検していた際に行方不明になり、半年後、領内で最も高い山の山頂で死体として発見された。


家族や臣下たちが悲しみに暮れる中、イアンナだけが原因を追究しようと怒りに燃えた。

イアンナの弟は発見時全く知らない土地の服を着ており、手に大きなダイヤルのついたボックスを持っていたためである。


イアンナはそれをもとに「特殊潮汐」について調べることができた。

ボックスのダイヤルを回すと、空気中に現在の座標と月齢と世界の流動性が表示された。

特殊潮汐が起きる場所、行先などがわかったのだ。


彼女が初めて遷移した世界に、話ができる黒猫である、カークの父タムズがいた。

タムズは特殊潮汐の存在を知らなかったが、イアンナのボックスを見て魔術でコピーすることができた。

これにより、二人は魔女とその使い魔としていくつかの世界を冒険することができ、やがて弟の死の理由を知った。


 弟は、まだ子猫だったタムズを助けるために、身代わりになっていたのだ。

タムズは猫の魔力を研究する施設から、イアンナの弟によって助け出され、弟はその時出来た傷で死亡した。


それから、イアンナとタムズは研究所を破壊し、持ち帰った知識をもとに特殊潮汐を一般化しようとした。

自分の国に戻り、特殊潮汐を使って国を豊かにできると父に進言する。


しかし、イアンナの父には当初理解ができなかった。タムズを護衛に置くのは良いが、余計なことをさせまいとした。


イアンナはタムズと、タムズの部下たちに、特殊潮汐を伝えた。

騎士ナナバはその時から特殊潮汐を使用できるようになっている。


やがて多くの奇跡的なテクノロジーを異世界から持ち帰ったイアンナたちは、海上に寺院を建て、特殊潮汐に対応した。


サン・マロの寺院は、犯罪者を異世界送りにし、冒険者を異世界から呼び込む。そういった場所になった。

逆に、異世界から追放されて流れてきた犯罪者も来る。冒険者も来る。

彼らは異界の特殊スキルやテクノロジーをみせびらかし、社会を混乱させた。



そうすると、イアンナは特殊潮汐そのものを禁忌とすべきだと思想を変えざるをえない。

バランスを取り戻すために尽力することを願ったが、やはりイアンナの父はそれを許さなかった。



タムズと結婚、それも許されなかったので、駆け落ちをした。

流れ着いた汐見小屋は、小さいながらも特殊潮汐が活発な良いエリアであった。

イアンナとタムズはこの小屋に住み、異次元の住人として世界を俯瞰(ふかん)していた。

異次元をわたり、異次元由来の特殊な能力を持った人間が出て来ると、

可能な限り平和になるよう尽力するのである。あるときはそれを粛正し、あるときはテクノロジーを平等に持たせる。


やがて産まれたカーク少年にも、特殊潮汐は秘匿すべき技術であると教えた。

しかし息子は成長すると、狭い世界に嫌気がさし、両親から逃げるように異世界に渡る。


カークの飛んだ先は、偶然にも両親の生まれ故郷だった。

騎士ナナバはカーク少年から、イアンナたちのいる座標を知った。

騎士ナナバはタムズを殺害し、イアンナを連れ戻し、騎士ナナバは騎士団長に就任する。




◇◇◇




 騎士ナナバは、自らの出世欲のためにタムズを殺し、イアンナを連れ帰った。

イアンナは幽閉され、他の世界に行くことはできなくなった。


しかしある日、ナナバは領主の様子がおかしいことに気が付く。

おかしい、我が主は冷酷な人間だが、愛する娘に対する態度さえ冷たい。

影武者と入れ替わっているのではないか。そう感じる。しかしナナバだけで調査をしても尻尾を見せない。


ナナバは、タムズの死に悲しみに暮れているイアンナに罵倒されながらも、

領主である父王がおかしいので調査を願った。


領主は、邪悪な異世界人の「背乗(はいの)り」によって、すでに亡き者にされていたのである。


イアンナとナナバの連携によって、異世界人の排除には成功したのだが国は乱れた。

イアンナはなんとか民意をとりまとめ、女王として国を治めた。


ナナバは自責の念から出家し、サン・マロの寺院から多数の異世界を渡り、異世界送りになった犯罪者を探し出して殺す役目を買って出た。


異世界人であれば問答無用で斬り殺すことができる、異世界切捨御免状を持って、旅立った。


そして今、ポルバエルの国に流れて来たのだった。



◇◇◇



「旅ィ~行けばァ~っカツーウラー~とヨオ」

ナナバは、サン・マロ寺院の僧の服を着ている。

青いヒラヒラとした体を隠すことのできる服、そして背中まで覆う、僧帽を着ている。


服の中に懐刀(ドス)を隠していたところで、誰も咎めはしない。


ナナバはずる賢いようだが、意外と真面目に異世界犯罪者を探しては殺している。

自らの世界をめちゃめちゃにした異世界人たちを許せないのである。


異世界犯罪者は、妙なスキルを好む。


最弱と思っていたら実は最強。ゴミスキルと思っていたらチート。

歴史修正主義の転生者もいる。

異世界転生者がいるところで、ナナバにとっては、正しい歴史が何なのかわからない。

そのため、殺害のためには十分に精査しなければならない。


妙なハーレムを作るくらいは犯罪と考えない。


裁判も無しに婚約者を断罪し始めるやつの近くは多い。

金の出所がわからないが妙に羽振りの良いやつの近くも多い。


正しい歴史が何なのかはわからないが、異世界犯罪者に歪められた歴史は許せない。


僧として世界を巡るというのも良い。だいたい、異世界犯罪者は聖女に近づき手籠めにしたがる。

だいたい聖女の方が異世界犯罪者にメロメロになっている。聖女が犯罪者の場合もある。

だいたい、異世界犯罪者は、金儲けしている僧と敵対する。



ナナバは世界をゆがめる異世界犯罪者を許さないが、酒だけはやめられない。

一緒に酒を飲むと、「殺すのはまあ明日でもいいか」と思うこともある。


ボルバエルにいるナナバは、もといた世界には無い酒を楽しみながら、

冒険者ギルドで酒をあおっているのだ。




◇◇◇




「冒険者ギルド?冒険者ギルドがあるのね?」カナリアがなぜか元気になった。


「なんで冒険者ギルドなんてあるんだ?」ユーコフも知らなかったらしい。


「もともとカナリアの国だろ?天帝がそうしたのか?」カークも疑問が多い。


リバランテ大司教が答えてくれた。


「天帝は異世界人なのです。天帝は、世界の構造を変えようとしました。彼にとって最も大切なものが『冒険者ギルド』とされています。詳細をお聞きになりますか?」


カークは、リバランテ大司教から、わかっている範囲の世界情勢を聞いた。

・天帝は、もと農民の子であったというが、異世界から転生した者と言われる。

・魔人を絶滅させ、複数の国を統べる王の中の王、帝王にまでなった。

・帝王独自の社会システムを作り、競争社会を作り出した。それが冒険者ギルドである。


「天帝がどういうつもりか、誰にもわかりません。『ナーロッパが無いならば作ったらいいのよ』と言っておられるようです」


カークは、ユーコフ、カナリア、リバランテ大司教に言う。

「私が思いますに、この世界は末期です」

「ポルバエルの国が滅びるしかないっていう意味?」ユーコフがくい気味に言う。

「違う。末期というのは、異世界犯罪者たちの巣窟になってしまっているという意味だよ。

異世界の技術というのは、秘匿すべきものだと前に言ったよね?」

「うん」ユーコフが答える。


「この世界は、異世界の技術、異世界転生者のスキル、そういったもので満たされすぎている。

異世界の技術を自分のものとして使う人間が多いということだ。

俺なんかは、持ち帰ったものをちょっと換金する程度なんだが、本当にラクに生きて行きたいなら、便利な特許を取って独占したり、すでに強い女をたらしこんだり、奴隷にする方が簡単だ」

「あんまり帰りたいとは思わないのね?」カナリアが言う。

「帰り方を知らないやつらが大半なんだ。そういう意味ではかわいそうなやつらだとも言える。

いままでのユーコフとカナリアと立場は同じだよ」


「じゃあ、帰りたい半分、帰りたくない半分か。カークとも同じだね」ユーコフが言う。

「そういえばそうだな」


リバランテ大司教は言う。

「その異世界の者たちをみな帰還させたら、我らの国は平和になるのでしょうか?」

「それは何とも言えません。すでに崩れたバランスを整えることは私の仕事のうちと思っているのですが…」


「じゃあ、どうすればいいのさ」ユーコフが言う。

「俺は、異世界人全員殺してもいいやと今思ってるよ」カークが珍しく好戦的だ。

「それはやめて!」カナリアが言う。


「あのね、カーク、わたしの国は滅びるのかもしれないけど、異世界人がなにかしたから滅びるとは思ってないの。

お兄ちゃんが言ったとおり、根っこの部分では、辰砂(しんしゃ)が採れなくなったから滅びる。

それは淋しいことだけどさ、異世界人がいなくなったら辰砂(しんしゃ)がもっと採れるようになるかというとそんな事ないじゃない?」

「そりゃそうだ」


「カナリア様、それではカナリア様をお慕いする国民たちの想いはどうなりますか」リバランテ大司教が言う。

「わたしは、この国に『きれいな滅亡』をもたらすために帰って来たの」

「違う、お前たちを幸せにするために俺はここに来た!」カークが言う。


「ユーコフ殿下、ユーコフ殿下は我らをお導きくださるだろうか」リバランテ大司教は潤んだ瞳でユーコフを見る。


「…………僕が産まれた理由というのも、たぶん異世界の技術だろう。人工的に強化した獣人を産まれさせるなんていうのは異世界人にしかできない。異世界人がいるから僕が産まれた。そういうことなら感謝してやってもいい」


リバランテ大司教は、ため息をつく。我らにできることは何もないのかと。


カークが言う。

「突然だけど、俺も一度母さんのところに行ってみる。お手上げだもんな。

リバランテさん、俺の母は異世界渡り、特殊潮汐の第一人者なんです。こういう場合の対処を教えてくれるかもしれない。

ユーコフ、カナリア、必ず俺は戻ってくる。そして解決に導く。二人は、一旦二人の力でこの世界の未来を考えてくれないか?」


「ええ、カークがいなくなるの?」カナリアが言う。

「困窮したので親のところに戻る。それが『放蕩息子の帰還』だからね」ユーコフが言う。

「うるせえな、お前の国ならお前がしっかり一旦決めろよ!」カークはそう言って笑った。




◇◇◇



 ユーコフは、いつものように凧を飛ばして凧に乗り、すでに小さくなったポルバエルの国とその周辺を見て回った。


ポルバエルはもはや川の中にある孤島ひとつしか残されていない。

しかし、特殊潮汐のためには水に囲まれているというのは最適であるといえる。汐見小屋にも似ている。


川は東西に流れている。北は寒すぎるので人があまり住まないが、針葉樹が生えている。今はポルバエルの難民が北に居を構えているだろう。集落を作っているかもしれない。

川の南は天帝領とされている。辰砂が採れたのも南が主だ。すべて奪われている。

ポルバエルの島と行き来できるハクバ、エンシンの街がある。


ハクバの街はユーコフの生まれた獣人研究所や学校、公的施設と軍の駐屯場があった。

エンシンの街には市場があり、食堂があり、傭兵施設があった。

冒険者ギルドとやらが作られるならばエンシンだろう。


平原ではいくつか火の手があがっていた。

あれが、天帝に対するポルバエルのレジスタンス行動の火なのか、冒険者の魔物討伐のための火なのかはわからない。


ユーコフは、異世界人たちの顔をみてやりたいと思った。

ナナバのいる冒険者ギルドの扉を開いたのである。


「ユーコフ!」「ユーコフだ」「殿下!」「ユーコフ隊長」


ユーコフが冒険者ギルドをくぐると、歓迎か罵声か、ユーコフを呼ぶ声があがった。

ユーコフは、これほどまでに注目を浴びるとは思っていなかった。

ポルバエルの王子という立場ではあるが、特殊潮汐に飲まれる前は、カナリアの守護を鬼神のごとき立ち回りを見せていた。武勇が敵陣営にまで聴こえているのである。

つまり、天帝領であるこの地にいると、いつ襲われてもおかしくない。

変装でもしてくればよかったと、ユーコフは思った。


冒険者ギルド、冒険者ギルドだ。


あまりポルバエルに従来無かった文化。

床も扉もすべて木造建築の建物に、木だけでは寂しかろうと天帝のタペストリーが掛けられている。

そして明るいランプ。魔導ランプかモンスターの油でも搾ったランプか。とても白くて明るい室内。

武器を取り扱う店、ポーションを取り扱う店、魔法スクロールを取り扱う店が並んでいる。

ユーコフは、自分の故郷なのに異世界に来たようで、少しめまいがした。


冒険者ギルドといえば、受付嬢と仕事依頼の掲示板。

どんな仕事があるのか知らないが、僕がここから依頼を受けることはないだろう。


受付の、おっぱいの強調された服を着た赤い髪のお姉さんが、妙にこっちを見ている。

だいたい、あの姉さんから話を聞くのが筋だろうが、ユーコフにはそんな気分になれなかった。


「殿下、お戻りだったのですね!」女騎士が声をかけてくれた。

「アイスリードさん、お元気だったんですね」

厚手の麻の服の上にビキニアーマーを着こんだアイスリードは、ユーコフの姉のような存在である。

おぼろげな記憶の中にうっすらと、厳しく鍛えられた記憶が残っている。


「アイスリードさん、なんですかその恰好」ユーコフがビキニアーマーを指摘する。

「これが意外とちゃんと防御できるんですよ、殿下、ここは敵地なので、私のアジトに移動しませんか?仲間も喜びます」

「わかった、色々現状を教えてくれ」

アイスリードは、修道士服の酔っぱらい、ナナバを紹介してくれた。

「この方は、私たちに協力してくださる修道士さんです。ナナバ・ゴルドマンさん」

「ああ、よろしくお願いいたしますユーコフさん、かねてよりお噂はきいております」

ナナバがそう言うと、ユーコフは身構える。

「ナナバ?よろしく」ナナバは、カークの父さんの仇。カークの目標のひとつだ。

できるだけ平常心を心がけ、アイスリードの後を歩いてアジトに向かった。


ユーコフがナナバの手から目を離すことはなかったが、アイスリードとナナバは比較的打ち解けているようだ。

同名の他人ということもあるか。カークが戻るまで監視を行おうとユーコフは思う。


アジトは広く、20名ほどが寝泊まりしているらしい。

天帝領の中に、ポルバエルの地下組織を作っている。ゲリラ戦にも限界が見えてきた中でユーコフの帰還である。

アジトが熱気に包まれた。


ユーコフはアジトの兵士の前で語り掛ける。

「みんな、ポルバエルのために今までありがとう。必ず僕らは勝利して、平和な世界を勝ち取るだろう。

3年前、天帝が嘘をついて僕らの国に攻めあがって来た時、ここにいるみんな、そしてアイスリード騎士は死にもの狂いで戦ってくれた。

特にポルバエルの川での戦いはすさまじく、多くの仲間が敵の矢に沈みました。

母は、僕と妹のカナリアとともに

『水の向こうにも都はあります。あなたたちが生きていたら必ずポルバエルは復活する』

そう言ってともに波に飲まれました」


兵士たちは涙を流している。嗚咽をもらすものもいた。


「みんなのこれまでのがんばりに報いたい。僕は、天帝を討つ。

この世界は、天帝をはじめとした異世界人たちにめちゃくちゃにされている。


僕らは、異世界人がもたらした多くのものを享受してきた。僕の存在もそのひとつだ。

だから、彼らは友人として迎え入れるべき人たちかもしれない。

しかし、この世界だって、彼らのおもちゃにされていい世界じゃない。

わが物顔で世界を牛耳る異世界人に、目に物をみせてやろうじゃないか。


僕は、沼を越えて異世界を渡り、天帝のような異世界人に対抗する力を手に入れてきた。

みんな、力と知恵を貸してくれ。今日がポルバエル復活の日だ」


ウオオオオ!


アジトにいる人は少なかったが、ユーコフ復活の報は地下を巡って全土のポルバエルレジスタンスに伝わった。



◇◇◇



「天帝を討つ、ぜひお手伝いさせていただきます」ナナバはそう言い、軍議に参加する。


・ポルバエルのレジスタンスは、ハクバとエンシンの2拠点にしか存在しない。300人程度が動ける。

・ハクバとエンシンの天帝軍はあわせて8千ほど。各将軍は異世界からの不思議な能力を使用する。

・天帝の治める領地は広大で、ほぼ、この大陸全土となっている。全軍を集めると兵力は150万を越えるだろう。

・天帝はまだ幼い女が好みなのでカナリアを自分のものにしようとした。


「ユーコフ殿下の帰還は、天帝を快く思わない他国のレジスタンス連中にも伝わっていることでしょう」


・他国のレジスタンスの規模は不明

・また、レジスタンスの中にも不思議な能力を持った者がいる。


「異世界の話題が出ましたな、異世界について、殿下はどのようにお考えですか」

「さっき言った通りだよ、全員排除したい」

ナナバはその言葉を嬉しく思った。

「異世界人は神に等しい能力を手に入れます。ユーコフ殿下はどのように退けますか?」

「僕の武器はこれだよ。夢拵(ゆめのこしらえ)という刀だ。すべての異能を反射する。

しかしこれで天帝が討てるかどうかはわからない。天帝の能力を知っている者はいないか?」


・天帝の能力は『世界』と呼ばれている。いわゆる全知に、物質創造の力が加わったものである。

・この力で、電気を産みこの世界にインターネットを作るなどの脅威を見せている。

・天帝の年齢は30前後。男。倒し方は不明。

・異世界人がどれだけ存在するかも不明である。


カークがこの場にいたら、良い作戦を考えてくれるのに。そうユーコフは思った。


ナナバは言う。

「わたしも、異世界人は許せません。異世界犯罪者たちは全員殺してしまおうと考えております」

「なにか良い手はあるのかい?ナナバ」

「はい。異世界人どもは、学校のクラスごと召喚されたり元の世界での死後に飛ばされたりするものがいます。

犯罪を犯して流されるものが私のターゲットですが、ただ召喚された者たちはただの漂流者です」

「そうだね、僕もそんな風に漂流した」

「わたしは、特殊潮汐に詳しいほうでして、殿下、ポルバエルの都で『異世界人の帰還屋』をはじめませんか」

「帰還屋?」


「はい。元の世界に帰りたいけど帰り方がわからない漂流異世界人であれば、どんどん元の世界に送り返してやるのです。召喚で来たものや、元の世界ですでに死した魂も、希望あれば帰します」

「そんなことをして、なんになる?」

「天帝と知合いだった。天帝と同じクラスの友人だったという人間が出て来るでしょう。そうしたら、天帝への近づきかた、天帝の倒し方にも具体的な展望が見えてきます」

「なるほど」


ナナバの案に従うことにした。

レジスタンスのみんなに、「回到世界 我想回家」の文を書いて国中に撒いてもらった。

現世に帰ろう!家に帰りたいのならば!という意味だ。

そして、これを見たものが、ポルバエルの国に来るように、しっかり噂を流すよう指示をした。


◇◇◇


 カナリアは、ウキウキしていた。

久しぶりに帰った故郷は、魔物がいっぱい出る世界になっているからである。

しかも、私がひとりでもズバズバ倒せる。そして、世界中の街で換金することができる。


リバランテ大司教は、カナリアに危険なことをさせたくないので、外には出てほしくないのだが、

カナリアを止めることはできなかった。


戦う幼き女王陛下は、リバランテ大司教を従えて、各国への巡礼の旅に出たのだ。


「いいでしょお兄ちゃん」

「お前、女王様なのに。まあなんかあったらすぐ呼べよ」

「わかった」


 リバランテ大司教は凧をあやつれないので、カナリアが飛ばした凧に乗ってもらう。

カナリアはまず、ポルバエルの北に逃れた元国民たちに会いに行った。

そこで、たった一人で「ウィングラプター」と呼ばれる(おおとり)のモンスターを倒した。

その素材は国民で分けるように言ったら喜ばれた。


川に「アルケオエイビス」という古代の鳥が出現して、渡る人々を困らせていたのでこれも倒す。


別の国にもわたり、カナリア一人で多くの強敵を倒した。また、カナリアに協力しようという者も多く

リバランテ大司教は、ポルバエルの女王であることをみなに伝え、その知識と交友関係をもとに多くの要人たちにカナリアを会わせた。大司教は大司教として、この旅をポルバエルのためにしようと考えている。


野宿も多かったが、カナリアは野宿もよく楽しんだ。

野党も出たが、カナリアは夜間も集中力を切らすことなくそれを退けた。


リバランテ大司教はカナリアとともに旅をする中で、カナリアもまた国のためにがんばろうとしていることを、なんとおいたわしいことかと、涙した。

そして、大司教は各地の聖地に残ったポルバエルの人々を同様に、魔物を倒す巡礼の旅に向かわせた。


不思議な事に、異世界人はモンスター狩りを積極的に行わない。

道中に出会った異世界人でもあるポルバエル人が言うには、モンスター自体、天帝が創造しているものである。

そのため、同じ異世界人はモンスターを狩ることを馬鹿馬鹿しく感じるためやらないという。


カナリアにはその馬鹿馬鹿しいという感情がわからなかったが、きっと天帝は嫌な奴なのだろうと想像した。


多くの成果、多くの友情とともに、カナリアは大陸全土を回る。心のままに。拳の向くままに。




◇◇◇



 カークは、皆と別れて、母の住む城にすぐに到着した。


「久しぶりね、カーク」


14歳の時、家を飛び出したカーク。家を飛び出したがゆえに父を殺されることになったカーク。

母は、カークを恨んでいるかもしれない。


「長き不明をお許しください。母上にあってはご健勝のこと、まことにお慶び申し上げます」

かつて祖父と会ったその領主の館で、今日は母がその座に座っている。


「カークよ、わが息子、今日は死んだと思った私の息子が帰って来た。まことに嬉しい日である。

宴を用意させましょう。どうかゆっくりこの城にとどまり、今後はずっと母を助けておくれ」


「ありがとうございます」


 領主として、母がカークに会う。カークもまた、領主の息子として母に会う。とても歓迎された。

 母は、怒ってはいなかった。ずっと心配していたという。

そして、カークの活躍を、異世界人から聞くことがたびたびあったということが誇らしいと言ってくれた。


 カークは、生きててよかったと思った。胸につかえていた大きな氷がやっと融け、すっかり力が抜けてしまった。


 しかし、カークはカナリアたちのところに帰らねばならない。

カークにとって大切なのは、ユーコフとカナリア、二人との約束。

いつまでも過去に囚われてはいけないのだ。我とわが身にムチを打って、母に聞かねばならない。



◇◇◇



 カークの来訪を喜ぶパーティには、多くの人が来てくれた。

世話になったコーヒーショップの父娘にも会った。メイもすっかり大人の色気のある娘に成長している。

こんなことをしている場合ではない、しかし、母の顔を立てるためにも、ここで抜け出すわけにはいかない。

そして母に教えてもらいたいことがあるのだ。


 焦るカークに対して、声をかけてくれる婦人がいた。

母さんと同じくらいの年齢だろう。黒髪で緑色の身体。魔人だろうか?


「あなたがカーク・ドゥマンドリさんですね?お会いできてよかったわ」

「こちらこそ、お目にかかれて光栄です。いつも母がお世話になっているようで」


彼女の名はツグミ・ルシバエと言った。ルシバエ?

「こちらこそ、子供たちが並々ならぬご恩を戴いていると思っています」

「まさか、ユーコフとカナリアのお母さまとは存じませんでした」


 ユーコフとカナリアが特殊潮汐に飲まれたことを確認したツグミは、自分自身も転移をしようと沼に飛び込むが、カナリア達とは別の世界に飛ばされた。

死者蘇生の秘法に半分失敗し、水の精霊ルサールカと身体を共有することになったという。

「ルサールカって乙女でしょ?乙女って歳じゃないのにですね、ハズカシイです」

「そんな事ありません、生きててくださって私も嬉しいです」


蘇生後、カナリア達を探したが見つからなかった。

水に住むルサールカ、あるいは河童たちは、特殊潮汐を待たずにある程度自由に世界を行き来できる。

ツグミママはルサールカたちに寄生する虫を発見し薬を作ってあげた。

ルサールカを治療する旅を続ける中でカナリアたちを探したが見つからず、この世界でイアンナに封じられた。


「でも、イアンナさんには良くしてもらってるの。私は人間だってちょっと忘れてたから」

「カナリアは、お母さまはどこかで生きておられると信じておりました。」

「いつか会えるといいわね。私はまだこの世界から動けないので」


そう言って、ツグミママは、カークに手のひらサイズの真っ赤な鏡を渡してきた。神殿の石と似ている。

「何か魔術的な効果がありますか?」

「いいえ、これはただの祭祀用具よ、ルビー、鏡の石、火炎剣。この神器がポルバエルの『国体』とされているのです」

「では、まだツグミさんがお持ちください。まだまだ祭祀をやっている場合じゃない状況のはずです。

だから、ポルバエルが平和になった暁にはぜひご一緒ください」

「…………わかりました、娘をよろしくお願いいたします」


「ユーコフにも何かありませんか?」余計なことを言っている気はするが。

「ユーコフ、彼にも、カナリアを助けてくれていつも感謝しています」



 ユーコフ自身は、ツグミの卵子を使って産まれた、試験管ベイビーである。

猫獣人であるというのも手伝って、ツグミにとってはきっと自分の子供という自覚が乏しいのだろう。

という印象を得たが、これ以上余計なことは言うまい。


つくづく、いろんな女王陛下がいるもんだぜ。とカークは思った。

「きっとユーコフとカナリアをここに連れてきます。その際はよろしくお願いいたします」

何をよろしくするかは言わないが。

「ええ、心よりお待ち申し上げております」と、ツグミママは言った。




◇◇◇




ようやく宴の喧噪が引き、すっかり人のいなくなった会場で、カークは母に問いかけた。



「母さん、話があるんだ」

「なあに?カーク」

「何を聞いたらいいのか、特殊潮汐について」

「なにかしらね?楽しい話だといいのだけれど」



「俺の仲間が、自分の世界を異世界人たちにめちゃめちゃにされているんだ」

宗悦禍(セクトエクスタシーミストフォーチュン)ね」

「いや、名称はわかんないんだけど」カークはすでに単語になっていることに驚き、研究されているものだと知って少し安心した。


 まだドレスを着用している母は、歳をとっても幼い頃に感じた美しさを保っているように感じた。

「特殊潮汐は秘匿すべき技術なのだ、と、父さんは言ったんだ」

「そうね」

「母さんは、この領地で特殊潮汐をみんなで研究しているのかい?」

「ええ、やむをえず。そうするしかなかったのよ」


カークは、これまでの事を話し、ユーコフ、カナリアのことを話し、彼らの世界がどうなっているかを話した。

母も、カークに語っていなかったカークが産まれる前の話、そして父が死んだ後の話を話した。


「母さん、母さんは俺を憎んでいると思ってたんだ」

カークははじめて、今までここに来れなかった思いを語った。

「俺のせいで父さんが死んでしまったから、ナナバを殺したらここに会いに来ようと思ってたんだ。

母さんに謝ろうと思ってて、許して欲しいと思って。ずっとあの日、汐見小屋を抜け出したことを後悔していたんだ。ごめんね、母さん、許してください」


カークは母の胸で、その思いを語った。


母は言う。


「後悔してるんですってよ父さん」

「そりゃあ、後悔もしなくちゃ。若いんだもの」


ん?


顔を上げると、ハチワレ猫である父さんが、母さんの肩に乗っていた。

父さんの霊だ。実体がない。


「やあカーク、大きくなったね」昔と同じ優しい顔。

「ちょっと父さん、なんで俺のところには出てきてくれないんだ?」

「そりゃあ、お前、年ごろなのに父さんがずっといたら何もできないだろ?鬼太郎じゃあるまいし」

「いや、父さんも怒ってるかなと思ってたんだ」


「そりゃ、最初のうちは怒りもしてたけどね。いろいろあって怒りもおさまっちゃった。

父さんがやりたいと思ってたこと、お前の方がうまいこと色々やってるし、やっぱ、猫獣人って良いなと思ったもんだよ。月並みだけど、お前は俺の誇りだよカーク」


そう言われると、カークにも返す言葉はない。言うべきことは必ず言おう。

「ごめんね父さん、母さん」

「いいよ」「いいのよ」



父が話す。

「で、ユーコフ君とカナリアちゃんの世界が宗悦禍(セクトエクスタシーミストフォーチュン)に襲われている」

「あ、あの、専門用語は少な目でお願いします」カークが言う。


「対策する方法にはいくつかあるが、どれも手間がかかるぞ」


1.すべての異世界人を発見して殺す、または追い出す。

2.なんらかの方法で、異世界人の力を削ぐ。

3.該当する世界の最高神に会い、お願いをする。

4.世界の比重を下げ、世界を浮き上がらせる。


父タムズの霊が言うことには、この4種類が対策として考えられるという。

迷惑異世界人が少ない場合。一人や二人の場合であれば、1が行われる。

迷惑異世界人が多い場合、5人以上の場合は、2を選択すべきである。

迷惑異世界人がどんどんやってくる。そして、すでに世界の法則が歪められている場合は3を選択することがある。

3を選択したくとも、神が不在の世界という場合、または神がいない場合4が選ばれる。


タムズはいろんな世界に行くが、神に会ったことはない。

話を聞く限り、異世界人が自らを天使と思い込み、さらに神の肩代わりをしていると思い込んでいる。

そういう場合は4を選択するほかないという。


「世界の比重ってなに?」

「世界は連続した(カイト)であるという言葉を覚えているか?」

「はい」

「それは、概念図として(カイト)と言っているが、実際に特殊潮汐が自然に発生する場合、世界の比重、重さの軽いほうから重いほうへ、人やものが移動するようにできている」

「世界の重さですか」


「空中を飛ぶ凧が雨や風でだんだん比重が重くなり、誰も世話をすることがなくなり、沈む。

異世界人は意識的にその重みに逆行しない。それは、比重が重い方が魔法がよく使えるからだ」

「なるほど」

「世界の比重を下げ、世界を浮き上がらせる。これにより、異世界人が持つ不思議なスキルは失われ、魔術師は力を失う」

「俺の魔法もですか?」

「カーク、僕らの魔法は、月から産まれる。月が出ている限り僕たちは無敵、なんだよ」


「わかった、ありがとう、父さん、やってみるよ」



 それから、カークは、ユーコフとカナリアの世界の比重をどうやったら軽くできるかを研究した。

今まで出会った獣人たちの街のホシジマ老人と一緒にアレクサンドリア図書館を再度訪れ、天空城の人たちの意見を聞いて、あらゆる方法を探した。


協力してくれる彼らに、ユーコフとカナリアの世界に来てもらうわけにはいかないので、かなり慎重に話をしなければならなかったが、両親の助けも借りながら、カークは比重の下げ方を研究した。

ホシジマ老人だけは本人の希望で、異世界渡りを行ってもらった。父さんにも会ってもらった。


父タムズはいう。

「父さんと母さんが住むこの世界も、一度比重を軽くする操作を行っている。その時は、海の上に建てた寺院を中心に行った。

しかし、すべての異世界人を排除したうえでの作業だったので、ユーコフとカナリアの世界に対応できるかはわからない。

あの時はわざと魔力の大洪水を起こさせて、世界にホワイトホールを作ったんだ」


「事象の地平線、イベントホライズンだね」カークがそう言うと、

「専門用語はやめなよ」父は笑って言った。




◇◇◇



 三人が別れて、三か月が経過していた。

カークは再びユーコフとカナリアの世界に到着すると、互いの居場所がわかる魔道具、発振石(ビーコンリング)を使って会話を試みた。


久しぶりの作戦会議である。


「やあみんな久しぶり、元気だったかい?」カークが呼びかける。


「カーク!やっと帰って来た!話したいことがいっぱいある!」ユーコフがいう。

「わたしも!カーク今どこにいるのよ!」カナリアもいう。


「あれ?お前たち二人ともだいぶ離れたところにいるんだね?」

「僕はレジスタンスのみんなと一緒に、天帝領の王都にいる」

「わたしは大海溝(だいかいこう)にいる。海の底よ」

「冒険してるなあ二人とも」


ユーコフが叫ぶ。

「カーク!なによりまず言わなきゃいけないのはナナバだ!

カークはポルバエルの神殿にいるだろう?ナナバもポルバエルで異世界人送りをしている!」


ユーコフはレジスタンス組織で天帝の国力を削いでいる話、

ナナバの助けで帰れない異世界人たちを助けている話をした。


その言葉にカークは大きく動揺した。動揺したが、悟られないようにふるまおうと考えた。

「そいつは、そいつは、それはそれは」


ユーコフが続けて伝える。

「天帝の情報も頭打ちだ。出来る限りのところは集めたのでまとめて伝えよう」

「わかったよろしく」


「カーク、私はリバイアサンの龍堅皮を剥がしたわ、リバイアサンは人間社会の見えざる力をつかさどる龍なの。

龍堅皮を定期的に剥がすことで、人の社会の大局が安定するらしいわ」


「そいつは……それはそれは」カークは動揺が隠せない。


「いいなあ、僕もそっちの冒険もしてみたかった」ユーコフが言う。

「お兄ちゃんは能力者といっぱい戦ったんでしょ、たぶんそっちは私にはできないし」


「ああ、二人とも、本当に積もる話があるんだな」

カークは、落ち着かないながらも、「世界の比重」を安定させる話を二人にしようとしたが、整然と話せない。

二人がどこまで理解できたかわからない。カークもどこまで話したかわからない。


ユーコフは、カークの様子がおかしいことを察知している。

「カーク、ナナバは俺たちに協力してくれているけど、カークの父さんの仇なんだから、こっちは気にせず討ってください。助太刀が必要ならすぐ戻る。というか、「世界の比重」を安定させるんだから、一旦みんな合流しよう」


カナリアはそれに同意する。

「わかったわ、リバランテ大司教と一緒に、明日の朝には合流できる」


 リバランテ大司教は、カナリアとの旅を行うことで、レベルがカンストした。

カナリアになぜ適用されないかわからないが、リバランテは「ステータスオープン」して、経験値を貯めることで魔術レベルが上がることがわかったため、効率良くレベルを上げる工夫をした。


聖職者は、国中の聖地を巡礼することで経験値が入る。

天帝の法によって教えを忘れた人たちに、再度経典を渡して導くことでもぐんぐんと経験値が入る。

なにより同じパーティのカナリアが強敵モンスターを難なく倒すので、リバランテ大司教はレベルが255まで上がり、より精力的に国を回ることができるようになった。


レベルカンストしてしまった今は、みんなのためにポーションを製造し、エリクサーを製造することまでできる。

カナリアの飛ばす糸のない凧に乗せてもらって旅をしていたが、一度訪れた聖地であれば、リバランテ大司教の魔法ですぐに飛ぶことができるらしい。


リバランテの宗教はアマルガム経典宗教である。経典をもとに大魔法を使える。経典に封じたモンスターも、経典を通じて使役することができる。


アマルガムとは、混成ということだ。

世界の教えに無駄なものなし。

異世界人に寛容で、異文化に寛容なポルバエルの教えは、特に異世界人にとって魅力的に映ったらしい。

カナリアとの旅で出会った異世界人は誰一人敵対することなく、ポルバエルに向かった。


そしてリバランテ大司教も今、カナリアとともに、最後の作戦会議のためにポルバエルに向かった。



◇◇◇



 カークは落ち着いていない。落ち着いていないことを自覚している。

長年追い続けたナナバ。その父の仇が、河の中州に作られたこのポルバエルの神殿、同じ建物内のどこかにいる。


ナナバに会ったら戦う。討ち果たす。そう思っていた。

しかし、最近になって両親と和解したばかり。ナナバを討ち果たす意味は、無くなってしまった。


今もし戦ったとしても俺は負けるだろう。距離を置く必要がある。

嫌な予感しかしない。俺にとって悪いことしか起きないだろう。

ユーコフ、カナリアがこの場にいたら、彼らに無様な姿を見せないように振舞えるかもしれない。

だろうか。


赤い神殿内の広い道場のようなところからうめき声がする。

灯りが漏れている。俺は見るべきでないものを見るだろうという予感がした。


修道士服の男が、学生服の少女をナイフでめった刺しにしている光景がそこにあった。


「お前!なにやってんだ!」


「うん?」修道士服の男がフードを取る。


「おっお前がカークか!カーク・ドゥマンドリ!大きくなったじゃないか!」


「ナナバ!てめえなにやってんだって聞いてるんだよ!」


カークはとっさに駆け寄り、少女に回復の魔術をかける。

「ううっ……ぐううう」

怖かったろうに。回復と再生の魔法は通常であれば何時間かかかるところだが、妙に効きが良い。

「ゲホっ、ゲホッ」


少女を介抱するカークに、ナナバが言う。

「何をしてくれるんだいカーク、俺の仕事の邪魔をしてくれるなよ」


「お前の仕事は異世界人をもとの世界に戻すことだろう?」


「死して別世界にやって来たものは、死してもとの世界に戻る。道理だろう?」


「嘘を言うな!死にそのような価値はない!」


「何を言ってる。死んだことのないものの言葉より、死んでここに来た者の言葉の方が重いんだぜ」


少女を見やると、カークにすがるような眼をする。

この表情が、あの人の言う通りなので殺してください、という意味なのか、死にたくないですという意味なのかわからないが、カークの常識でいえば死は平等だ。


「余計な手出しをするんじゃない」

そう言うと、ナナバは懐剣を使って斬撃を放ち、少女の首を落とした。


ドっと落ちる少女の首。

おそらく、この少女にとっては、死んだ瞬間身体ごとフワフワと、光とともに空に飛んでいく想像でもしていたのだろう。そんなことはなく、首を失った少女は、自らが作った血の池の中に、自らの首を浮かべている。


カークはその光景を戦慄とともに見ていた。


ナナバは落ち着いたふうにカークに語り掛ける。

「久しぶりだな、タムズさんの息子カーク。お前の親を殺したのは俺だからな、俺のやることが気に入らないっていうのは立場上よくわかる。

そして、もしお前が俺を殺したいっていうなら、ちょっと戦ってすぐに殺されてやろう。

タムズさんのところに俺も行くのだ。父を誇りに思うなら、父に対して恥ずかしい戦いはするなよ?」


カークは言葉が出ない。この場から逃げ出したい。

自分がやっているのが間違いかもしれない。戦うことが間違いかもしれない。

戦ってナナバを倒すべきかもしれない。戦っても勝てないかもしれない。


カークは震える手で、刀を取り出そうとした手を下ろす。


その瞬間、ナナバはカークに3歩で距離を詰め、右こぶしをカークの左ほおに強くお見舞いした。

「情けない戦いをするんじゃねえって言ったんだよ」ナナバのそう言うセリフを、彼は薄れゆく意識の中で聞いていた。



◇◇◇



 ユーコフとカナリアの世界を救うと決めたとき、異世界人を全員殺してもいいと言っていたじゃないか。

俺はなんて覚悟の弱い男なんだろう。そんな後悔が、カークに悪夢を見せていた。

それは、階段を登ろうにも足が上がらない、そして登った先にも暗い部屋がある。そんな夢だった。


 ──カークが気が付くと、ユーコフ、カナリアが、まくらもとにいた。

みなで何やら話し合いをしている。

リバランテ大司教もいる。ナナバと、幽霊猫の父さんがいる。


「父さん?」

「おお、気が付いたかカーク」


「うーん、負けたよナナバ、父さんまで出されたら俺の戦う意味が無くなってしまった」

「ははは、はやく俺を殺してくれよ」ナナバは笑っている。ムカつく男だ。確かに殺したいが。


「今回の作戦会議はみんな必要だろうと思って集まってもらった」ユーコフが言う。

「そうだね、みんなの力が必要かもしれない」

カークは、自分の息子に興味がないツグミママの事を思い出し、ユーコフに対して立派だなと思った。

ユーコフの隣には、麻布の上にビキニアーマーを着こんだ女騎士さんもいる。

のちに彼女はアイスリードという名であると知る。


カナリアは何も言わない。通話の時とはうって変わって緊張の面持ち、お姫様の面持ちである。

これもまた、カークは立派だなと思った。


リバランテ大司教は俺に回復魔法をかけてくれたらしい。

「カーク様こそが今回の作戦のすべての(かなめ)と存じております。なにとぞ我らの国をお救いください」


「大司教様にそのような言葉をいただき恐縮です。できる限りのことをさせていただきたいと思います」

カークは立ち上がってリバランテ大司教に頭を下げると、作戦会議を始めた。




◇◇◇



ホワイトボードの前に立っているカーク。

ふだんは三人でやる話も、大人数となると話が変わってくるもんだ。


「えーでは始めたいと思います。ポルバエルの明るい未来。皆様とともに考えていければと思います」


パチパチパチパチ まばらな拍手がおきる。

やりにくい。と、カークは思う。


「まずですね、認識合わせです。

この世界には異世界人が多くなりすぎているので、それが問題である。いいかい?ナナバ」

「ああ、問題ないよ」

「昨夜私は修道士ナナバが女子高校生を殺害する現場に遭遇した。これについて本人から説明願いたい」


ナナバは立ち上がってホワイトボードの前にでる。

「俺の使命は、異世界犯罪者の殺害だ。異世界から来て、わが物顔でこの世界を好き勝手にやるやつを殺すのが俺の仕事だ」

ユーコフがさえぎって言う。

「異世界から来たものを元の異世界に戻すと約束している、すべて殺すのか?」

ナナバが答える。

「すまんな、それは半分嘘だ。全員を無事に帰しているわけではない。

俺は自分の主君を異世界犯罪者によって殺された。だから異世界から来て、好き勝手に世界を改変するものを憎む。

何の悪事も行わず、素直に帰りたいというやつは帰す場合もあるが、昨日の少女は貴族に成りかわり、何人も殺しているようなので殺害した。本人は死後、自分のもといた世界に戻れると信じているだろう」


ユーコフはもの言いたげにしているが、カークはそれを遮って言う。

「今回の目的のひとつは、異常発生している異世界人をこの世界から追い出すことだ。ナナバのやり方が正しいか間違っているかの判定はあまりしたくない。ユーコフ、いいだろうか」

「異世界人を減らすことに文句はないよ。良くはないけど理解した」ユーコフは言う。


カークはそこから、世界の比重を軽くする必要があると伝える。

誰もがスケールの大きさに口をつぐんでいた。ナナバにとっても初めて聞いた話らしい。驚きが見て取れた。


「具体的にはどうするのですか?」リバランテ大司教である。


「パターンはいくつか考えております。現世界で最強の異世界人は、天帝です。


1天帝を中心とした「不屈の九人(ナイン)」という魔法で、天帝一人に世界すべての魔力を注ぎ込み、新世界を創造させ、異世界人全員を移住させます。

2天帝を倒し、天帝の宮殿で、カナリアを中心とした「不屈の九人(ナイン)」を展開し、イベントホライズンを呼び込みます。

3このポルバエルの神殿と、カナリアが行ってくれていた大海溝(だいかいこう)の底と、古代人の都市遺跡の三か所で、それぞれ別の「不屈の九人(ナイン)」を起動し、世界に中規模な魔力大洪水をおこします。エネルギーボールを月に投げると、月はそのエネルギーを受け止めてくれるでしょう。


という、天帝に協力させる場合、天帝を倒す場合、天帝無視である程度解決させる場合の3種類です


不屈の九人(ナイン)は、8人の守備が魔力を高め、ひとりのエースに力を送り、エースがエネルギーボール投げる魔法です。


そして、タイムリミットがあります。3週間後にこの世界で『スーパーブルームーン』が発生します。それまでに準備を整える必要があるのです」


じゃあみんなどう思う?と、カークは問いかける。

いつもだったらユーコフとカナリアだけに聞けばいいのに、全員に聞くんだ。まあ、やりにくい。


ユーコフが言う

「僕は2が良い。天帝を倒したい。安全策で3も良い」

カナリアが言う

「わたしは3かな、古代人の都市遺跡も今は安全になってるわ、2はちょっと怖いかな」

父さんが言う

「カーク、立派になって。父さんは1が好みだなあ、天帝がどんな人か知らないが。」

ナナバが言う

「俺は天帝を殺したうえで3番にするのが一番軟着陸だと思う」

リバランテ大司教が言う

「わたしは1が良いと存じます。現在レジスタンス活動の規模が大きくなっておりますので、天帝にとっても利点があるでしょう。1が断られたら2という形でいかがでしょう」

騎士アイスリード卿が言う

「わたしは2です。天帝が倒せればなんでも」


カークは思う。三択だっつってんだろ。どいつもこいつも、二個選んで複雑にしてるんじゃねえよ。

アイスリードさんみたいな回答が一番いいのだが。しかし、世界の行く末を左右するものだ。

どうすればいいのだろうか。カークは少し考えて口を開いた。


「別の話になるかもしれんが、この世界は俺にとって、ユーコフとカナリアの世界だ。

ユーコフ、お前は立場上カナリアより偉いんじゃないの?

許されるなら、ユーコフに決定させたい。そして二人の本当の人生は、この勝利の果てに自分でつかみ取る。

そういう形にしたいが、見てきた限りカナリアが重視されている。

男より女という意味か、猫獣人だから人という概念から外れるのか。

リバランテさん、アイスリードさん、ポルバエルのことを教えてください」


リバランテにとっては、カナリアは宗教的母体のひとつ。

カナリアが偉いことに本質的に理由はない。偉いから偉いのである。経典をひもといて説明しようとリバランテが考えていると、アイスリードが先に口を出した。


「カーク様、私たちの国はすべての良いものを取り込むべきである。という性質があります。

人の数だけ神がいて、武器の数以上に流派があり、思いの数以上に魔法があります。


しかし、良いものの中にも、災いをもたらすものがあります。

もとは我らの国も男が治めておりましたが、神と武器と魔法の選択を誤り国が乱れました。


そのため、新しいものが世に蔓延(はびこ)ると、女の王がその有用性を占います。

そのため、女の王が常に選ばれます」


「占いは男でもやるけども」カークが言う。


「男は野望を秘めるものです」リバランテ大司教が補足してくれる。


「そうだろうか、そんな受け身のことだから天帝どもに国を取られるんじゃないのか?

男が大きな野望を持って、俺の国は誰にも触らせないと統治するべきじゃないのか?」

カークがそう言うと、ナナバがそれを止めた。


「カーク、お前は今、異世界犯罪者になろうとしている。それ以上言うと、俺はお前を斬る」


カークは、ナナバを見てしばらくお互い目をあわせていた。

会議場に緊張の時間が続く。


やがてカークが視線を切って、

「ユーコフ、カナリア、この世界はお前たちの世界だ。

たとえ、色々なことを異世界で学んで来たにせよ、この世界はお前たちが決めることになるなら、

そこにいるナナバ修道士も異論はないはずだ。リバランテ大司教さん、アイスリード卿。

この兄妹(けいまい)二人が決める世界であれば、皆もついてきてくれるでしょうか?」


「無論です」「もちろんです」二人が答えた。


「では、会議としては、決定しないということが決定した。ぺンディングってやつだ。ユーコフここまでで、何かコメントが必要だろう。カナリアも、あとで何を言うか考えとけよ」


ユーコフが言う。

「僕は、カナリアを守るために産まれてきた、カナリアのことが大切で、カナリアさえ幸せなら他はなんでも良いと思っているくらいだ。知らない人もいるかもしれないけど、僕は試験管で産まれた強化獣人なんだよ。

だから、正常な人間でない。と、思っている。だから、情けないけどカナリアの決定があればそれに従うしかできない。カークが言うようなユーコフ大王というのにはきっと成れない。それは僕が作られた生命だからだ」


カナリアが言う。

「わたしは、いつもそう言うお兄ちゃんの思いを利用して今まで生きてきたと思っています。

お兄ちゃんがいないと生きて行けないのに、お兄ちゃんが私を守ってくれるのでずっと甘えていました。

できれば、これからもお兄ちゃんはわたしを守って欲しいし、それ以外は何もいらないです。

いろんな世界で、いろんな女王様を見てきました。欲を言えば、図書館の館長さんみたいな女王様に私はなりたい。

だけど、そうはいかないわよね。私は滅びゆくポルバエルの女王になり、お兄ちゃんが私を守ってくれる。

そういう未来になると思います」


 図書館の館長さんみたいな女王様ってなんだ?アレクサンドリア図書館のサワコ館長みたいになりたいのか?

確かに上品だし、知識も豊富だし、人の心にも造詣が深そうな気がするが。

カークがぼんやりしていると、リバランテ大司教とアイスリード卿の目が輝いていることに気が付いた。


お前ら、こういうのでもいいんだね。

図書館みたいな国を作るのか。カナリアは愛されてるな。ユーコフには殻を破ってもらいたいなあ。


カークが締める。

「では、じゃあ、三週間後のスーパーブルームーンに向けて、各自できることを分け合いましょう。

キリの良いところでまた会議を行いますのでよろしくお願いします。

父さん、ナナバ、本件が終わるまでずっといられるんだろ?助けてくださいますね?」

「ああ、そのつもりだ」「いいとも」


二人もなんだか満足そうだ。やりにくいぜ。



◇◇◇



 ユーコフは引き続きアイスリード卿が一緒に行動する。

カナリアも引き続きリバランテ大司教が一緒に行動する。


と思っていたが父さんの提案でチームの分散が行われた。


カナリアとともに戦っていたものの中では、かなりの数の人間が高レベル化してしまったという。

ユーコフは天帝の連中をずいぶん引き入れ、天帝の領土を削っているが、その中でも明らかな高レベルメンバーはいない。


 天帝はすでに「魔王として悪魔を産みながら、皇帝としてナーロッパの世を統べる」という、大魔王状態である。

たぶん、彼(彼女?)は、自分が倒されるストーリーを夢想しているのだろう。

どいつもこいつも、破滅が好きなのだ。


なので、レベルカンスト僧侶たちをレジスタンス軍に編入してもらい、レジスタンスの選抜メンバーにも高レベル化をしてもらうべく、モンスター退治に回ってもらった。


 軽めの軍紀と強い絆にのっとって運用されるレジスタンスの社会に、高レベル僧侶を入れることで、先走って功を取ろうとするメンバーたちからも落ち着きが産まれた。

また、高レベル僧侶たちは、軍に宗教的規範をもたらすことが布教活動とみなされたのだろう。

1週間とかからずに、リバランテ大司教と同じくレベルカンストしてしまった。


 ナナバは引き続き異世界人を元の世界に送る。 


 カークはリバランテ大司教に不屈の九人(ナイン)を経典化してもらうと、それを複製して世界中の拠点に説明を行いに行った。

一日に回れる拠点に限りがある。しかし、各地の僧侶はユーコフの送り出した選抜メンバーとともに、

すぐに使いこなせるようになってくれた。


 カークの父タムズは霊体なので、物理的距離を無視できる。

あらゆる場所に現れ、連絡、補助、補強をした。


このままスーパーブルームーンを待てば、主要三拠点だけでなく、世界中どこでも不屈の九人(ナイン)が発動できる。


 しかしスーパーブルームーンまで一週間というところ。

真昼の月が輝く午後のこと。ひとりの男がポルバエルの神殿を訪れた。

青い鎧に尖った兜。従者も引き連れずに、男は、神殿上空に不思議な力で静止したまま言う。


「カナリアを迎えに来た。俺の正室として連れて帰る」


天帝ハリカルナッソスの登場である。



◇◇◇




天帝ハリカルナッソスは異世界人である。

彼の持つ「世界」のスキルは、当初「だれかの世界を助ける」という慈悲と捨身に満ちたものだった。

いつしか、たくさんの「世界」を助けていくうちにこの「世界」は自分の世界だったと知り、能力が覚醒する。


天帝がポルバエルの神官たちに言う。

「レベルカンストした人がいっぱいいるじゃないか。この世界のモンスターには限りがあり、僕がせっかくバランスを考えて配置しているのに、裏技、チートを使ったらだめだろ」


高レベルの寺院の僧たちが異常を察知して攻撃魔法を放つ。

連携し、大魔法を放つための時間稼ぎを数人が行い、巨大魔法「無支祁(むしき)の手」を発動し、3万の猿の手がハリカルナッソスに殺到し、彼を捕えて石に封じようとした。


「強い。初めて見たよこんな魔法」


しかし、「世界」のスキルは石の牢を彫刻に変え即座に牢を破り、僧侶たちに魔法無効フィールドを展開する。


「話くらいは聞いてくれてもいいじゃないか」


宙にとどまったまま語りかける天帝に、凧に乗ってあらわれたカークが答える。

「高いところからものを申す男だな」

天帝はカークの飛来を見ると言った。

「俺は天帝だからな。お前こそ、この天帝に対してその態度でいいのか?」


カークは凧の高度を下げることなく、

「同じ目線に立ってやらないと、子供は安心して悩みを打ち明けてくれないからな」

天帝はわずかな怒りを覚え、右手を広げる。

「頭が高いぞ、クロネコ獣人よ」


カークは(おく)すことなく問いかける。

「何をしに来た?」

「お前たちが、こそこそとやっている事を、俺が知らないはずないじゃないか。そう思わない?」

「止めに来たのか?」

「カナリアはどこにいる?カナリア姫を迎えに来た。来週のスーパームーン。俺はカナリア姫と結ばれ、新しい世界の創造を行う」


こいつは、なぜそれを知っているのだ?カークがそう思っていると、天帝の足元に両手足を縛られた女が現れた。

「カーク様、申し訳ございません」アイスリード卿。捕まっていたのか。


アイスリード卿はそのまま落下し、しぶきをあげて沼に着水する。

僧侶たちが急いで魔法無効フィールドの外に彼女を運び出し、治療を行うようだ。


「人質は不要ってことか?」カークが天帝に言う。

「俺はカナリア以外のすべてが不要なのさ。カナリアはどこにいる?この神殿にいるのだろう?」

「世界の創造がしたければ、お前だってスーパームーンを待てばいいだろうが」

「スーパームーンまで待てないよ、一度で満足できるわけないじゃないか」


異変を感じたカナリアが広間に現れる。


「おお、カナリア姫、俺の身体には余る部分がある。そなたの身体のよくできあがっていない部分を刺しふさいで、国土を生み出そうと思うがどう思うか?」



カナリアは、少し考えて、天帝に言った。

「きもちわるいです」



カークが間に入る。

「告白もせずに大人になった男はいないんだぜ、お前も告白して、フラれて、やっと大人になれたんだ。諦めて帰るがいい。ロリコン野郎め。」

「悲しい、悲しいよカナリア。この世界に来て俺はこの世界を……」

「お前の身の上に興味はねえんだよ」カークが天帝の言葉をさえぎる。彼にとって20年ぶりの屈辱だった。


「この黒猫が、人の恋路を茶化してんじゃねえぞ!」

「ハハハ!もしこれが恋ならばきみには無理なんだよ!」


「やはり滅ぼしてやる!」

天帝は自らの背中に暗黒を背負う。巨大な暗黒から、続々とモンスターが産まれてくるのだ。


「来い!月が出ている時の俺は最強だぜ!」

カークは首が3本、手が6本となり、すべての手に短刀を持っている。彼の周りにはいつのまにか無数の攻撃用凧が飛翔していた。


次々と産まれるモンスターは、カークの分裂させる凧に、次々と貫かれる。また凧は強力な電撃レーザーも放つ。

天帝の眼が魔力を込めると見たものを殺すことができるが、カークの三つの首は三つの心臓を持っている。

心臓がひとつつぶされても別の首が心臓を再生しながら戦うので、いくら攻撃してもカークを倒しきることができない。


天帝は背中から巨大触手を繰り出しカークと直接斬り合う。

カークの剣はそれぞれ別の属性がついた魔法剣をランダムに車輪のように斬り込む。

天帝は、カークの剣を属性ごとに正しく対処しなければ致命傷になるのだ。


しかし天帝もまた、切られても次々と身体を再生させる。斬り合いながら、瞳術(どうじゅつ)を利用しカークを追い込もうとするが、カークもやはり即座に再生する。


天帝はこの世界から無限に力を得る。カークはこの世界に加えて、真昼の月から無限に力を得る。勝負はつかないかに見えた。


何百と切り結びながら、天帝が口を開く。

「告白して、オッケーを貰わなくてもいいのさ。女を奪いわがものとする。

戦場のならいである。(つつし)んで敗北を噛みしめたまえ」


天帝がそう言うと、カナリアの足元に暗闇が現れ、カナリアは暗闇に飲まれた。

カークがカナリアに視線を送り、天帝を見ると、天帝も忽然(こつぜん)と姿を消しているのだ。



◇◇◇



カナリアが攫われたことで、ユーコフは大きく動揺した。

「すまん、俺がついていながら」カークがユーコフに謝る。


「あの野郎、カナリアさえいればいいだって?」


「カナリアがロリコン野郎に凌辱(りょうじょく)されると思うと、胸が張り裂けそうだ。

すぐに天帝宮に向かうぞ!」


全軍に、今日天帝を殺すと伝え、何があっても即座に対処できるように準備せよと伝えた。

ナナバと父、そしてリバランテ大司教らの軍。可能な限り最高の編成で天帝宮に向かった。



◇◇◇



カナリアの位置は、発振石(ビーコンリング)で把握している。

カナリア以外誰もいらないと言った天帝だったが、天帝宮は7層の門に阻まれており、空中にも封印が張られている。


カークの父タムズが言う。

「7つの門か。冥界神でも気取っているのか?

ユーコフ、7つの門は、俺たちの力を削ぐと同時に、天帝自身がひとりの人間としてカナリアと向き合うために、すべてのスキルを失う部屋を維持するために作られている。これを抜け、最後の部屋で天帝ハリカルナッソスを殺すのだ」



◇◇◇

第一の門は力の門である。

レベルカンストした兵士たちと、門をこじあけて進んだ。


第二の門は剣の門である。

ナナバは門の守護者を見止めると、異世界犯罪者と断定し、それを勝負の上で斬り殺した。

「この魔剣自体が異世界転生したものだ。血を吸うようだ」と言った。


第三の門は耳の門である。

カークは無音の中で生きる聴覚の魔、「耳鳴千万」を、殺虫スプレーの魔法で倒す。


第四の門は妖怪門である。

目に見える妖怪はただのモンスターだ。タムズが斬るべき正解を常に教えてくれるので、全員でことにあたり、妖怪を倒した。


第五の門は軍門である。

騎馬が配置されており、軍馬のレースで勝敗をつけた。

ユーコフが騎乗する。相手の軍馬は半浮遊の魔術で重さを感じることなく駆け抜けるが、ユーコフの馬は、ユーコフ自身が魔術で加速させ勝利を勝ち取った。


第六の門、第七の門は、それぞれ異世界人が守っていた。

離縁を申し渡された天帝の妻だった者。そして、天帝の幼馴染だった者。

カークはためらいながらも元妻を殺し、ユーコフも、天帝に思いを遂げさせたいと思う幼馴染を斬った。



◇◇◇




「カナリア!」


全員が天帝の寝所にたどりつくと、カナリアは白衣をまとって縛られている。


「ついにここまでたどりついたか、俺はお前たちを……」天帝がそう言おうとしたところ、


「問答無用!」ユーコフは、力を失った天帝ハリカルナッソスの首を一撃のもとにあっけなく落とす。


ユーコフにとって、カナリアを傷つけるものは、誰一人として許すことはできないのだ。



◇◇◇



天帝ハリカルナッソスの身体が失われたため、スーパームーンを待たずに世界改変が起きる。

地響きと、原因不明の爆発音がそこかしこで響き、雨が降らないのに稲妻が走り回る


「まずいぞ、不屈の九人(ナイン)の準備をするのだ」タムズが言うので、リバランテ大司教は世界中に連絡し、準備をさせた


「お兄ちゃん!」カナリアとユーコフが抱き合う。


ナナバが言う。

「カーク、お前もしかして、この二人に世界を作らせようとしているな」

「天帝が余計な知恵をつけやがったからな。このままだと、ユーコフとカナリアがまじわり、不屈の九人(ナイン)の魔力を受けて二人で世界を誕生させるだろう」

「兄妹だろ?どうかと思うぞ」

「うーん、しかしこっちの常識を押し付けるわけにはいかないんだよ」


ユーコフが言う。

「カーク、天帝を倒したから、ここでイベントホライズンを起こそう」

「そ、そうだな!」カークがためらいがちに答える。


しかし、ユーコフは驚きの提案をする。

「カナリアにはさせない、僕がエースになる!」


ユーコフが力強くそう言うので、ナナバとカークは目を見合わせて、ぐっと握手をし、ユーコフに向き合い気合いを入れる。


「「ああ!そうだ!お前がエースだ!」」


カナリアも無事だった。

「天帝は本当に気持ち悪い男だったわ、死んで良かった人なんていないけど、死んで良かったって思う」



その場にいる全員で、崩れた天帝宮を中心に、世界全体で不屈の九人(ナイン)を発動する。



 巨大なエネルギーボールを、

ユーコフは全力で月に向かって投てきした。


空に向かって伸びる一筋の光は、空を貫いて宇宙の彼方まで届いているように見えた。

やがて、大きな魔力の渦が、その光を中心にらせんを描いて登って行く。


この世界にあふれた魔力が、すべて月に還って行く姿を、国中のものたちが見上げていた。



◇◇◇



大団円です。



「スーパームーンじゃなくてもよかったのかい?」ユーコフが言う。

「スーパームーンの時の方が、魔力の吸収量が多いから、時間を待って完全に魔法の無い世界にしたかったのに、若干魔力が残ってしまった」そうカークが答えた。


「しかし、ほぼすべての異世界人が力を失い、異世界人たちは一般人としてここで暮らすか、

特殊潮汐で家に帰るだけしかできなくなった。俺はユーコフ本当によくやったと思うぜ」

ナナバがユーコフの顔をくしゃくしゃと撫でて褒める。


「やめてくださいナナバさん、みんなも協力ありがとうございました」

「お兄ちゃんあのピッチング、めっちゃかっこよかったよ」

「そうだろ、お前にそう言ってもらえるのが一番嬉しいぜ」


リバランテ大司教とアイスリード卿は、そんな二人を寂しそうに見ていた。

「みなさんのおかげでこの世界は、世界の比重が戻りました。私もせっかくレベルカンストしたのに、

普通の人間と同じ力になってしまった。少し寂しいですね」リバランテが言うと、

「何言ってるんですか、モンスターもいなくなって、異世界犯罪者も力を失う。

我らだけレベルカンストしていても全く意味がないでしょう」そうアイスリードが答えた。



みんなで、ポルバエルの神殿で宴をもよおした。



世界中の人々をポルバエルに招待した。



 天帝を倒して、大陸は空位になったのでポルバエルがすべて治めても良いのではと、他国の人たちに言われた。

そのためユーコフは、異世界で学んだ知識を頼りに世界を「州」で分け、ポルバエル合衆国とし、二院制の議会で国家を運営するように構築した。


カナリアは、ポルバエルの神殿にすべての書物を集め、その館長として国を支えた。


今後もいろいろあるだろうが、比較的近代化した世界になるだろう。



◇◇◇



「とまあ、めでたしめでたしってことで、国に封じられても良かったのに」

カークがそう言うと、ユーコフもカナリアも怒って言う。


「「なんで一緒に帰ろうって言ってくれないんだ!」」


二人を置いてこっそり汐見小屋に帰っていたカークに、自力で特殊潮汐を探して渡って来たユーコフとカナリア。


二人が詰め寄った。

「カークは冷たすぎる」

「カークは人の心がわからない」


「お前たちの世界はいいのか?」


どうやら、ポルバエル初代大統領は即座に辞任し、さっそくリバランテ大司教に後をお願いしたらしい。

神殿の方も、こっちはアイスリード卿にお願いして、異世界から新刊をいっぱい持ってくると約束をして出てきたらしい。


「告白もせずに大人になった男はいないんでしょ、カークも誰かに告白しなさいよ」と、カナリアは言う。

「俺だってまだ子供なんだぜ、勘弁してくれよ」


「カークの将来が心配だから、このユーコフ元大統領が手伝ってやるよ」

「お前が元大統領だったら、俺は宇宙大統領だ」カークがおどけて言った。


「ははは、にぎやかになって良いじゃないか」カークの肩で幽霊猫のタムズが言った。



二人の世界から、何も持ち帰らなかった。

ユーコフとカナリアを再び持ち帰ったのだ。



おしまい


お読みいただきありがとうございました。

ポル=バジン、モンサンミッシェル、黄巾党の乱、FF5のボスたち、海御前様、その他詰め合わせです。


一旦ここでエンディングですが、今後も同じ登場人物を使いたいので、完結にはしません。

今後ともよろしくお願いいたします。

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