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7「クチナワ」

 どうぞ。

 先手必勝で叩きつければ勝てる。大太刀とはどういう武器なのかを考える前に、俺のバトルスタイルはそういうところに収まりつつあった。動きがのろい敵は叩く、動きが早い敵もおそらく叩きつけが当たれば勝てる、とくれば当然だ。


 やってくるモンスターはプラントリザードばかりで、これがゲームだったら運営の手抜きを疑うところだ。ときおり変異種が現れるだとか、野良の亜人種が出るだとか情報に書いてあったのだが、特別なことは何もないようだった。


「何かあるとしたら……工場の中か?」

「ん……」


 ナギサは不思議そうに首をかしげていた。


「外だと可能性レベルでしか強いのはいないんだけど、中にはちゃんと配置されてるんだ。クチナワナンバーっていう、警備員みたいな敵が」

「倒せる?」

「今の敵だと弱すぎて、ちゃんと戦えないからさ。強くても、この大太刀があれば」

「ん、信頼あつい」


 余裕の戦いばかり繰り返していても、技術は身に付かない。ほんの数時間しか戦っていないのに、すでに頭打ちになりつつあった。初心者が誰でも倒せるプラントリザードの素材は、いちおう買取保障してもらえるだけで、稼ぎにはならない。


 そびえたつ威容は、ただの廃工場だと分かっていても不気味だった。二十年以上繰り返された調査の結果、ここにはほとんど何も残っていない。それでも劣化しない謎の材質でできた建物は、召喚なのか3Dプリンターなのか、それなりに強力なモンスターを呼び出す。工場の機能は、そういう意味ではいちおう生きているようだ。


 工場へ入った瞬間に、ほこり臭さとカビ臭さと錆びの匂いが押し寄せてきた。いわゆる鉄の匂いではなくて、ぼろぼろになって剥がれた古い赤錆の匂いだ。


 そんな中に、ゆらりと浮かび上がる影があった。


「シュォウ……」

「出た、「クチナワの二つ防人」だ……」


 ごつい体格に常人の二倍はあろうかという長い首、槍を構える動きは悠然として、迷彩服めいたくすんだ緑に似つかわしい軍人らしい雰囲気を際立たせている。


「ド素人だからな、俺。ほんと頼む」

「ん。全力」


 敵は槍を突き出してきた。体をねじるようにしてかわし、ぐっと引いた大太刀を勢い任せに突き出す。敵も驚いて、瞬時に起こした槍で大太刀が流された。


「ん、危ない」

「シェアッ!」


 完全にがら空きになり、腕も伸び切って脇が開いたところへと、クチナワは槍を叩きこんできた。防ぎきれず、中途半端に腕を引いたせいで、脇腹をぶっ叩かれたうえに槍を巻き込んで転げる醜態をさらす。


「シュァ……」

「痛ってぇ……!」


 敵は槍を手放したが、取り戻そうとやっきになって、俺を踏みつけようと足を上げる。しかし、横合いから伸びてきたガラスの槍が、おおざっぱな動きを止めた。その隙を狙って、俺は大太刀に与えられたスキル〈流刃〉を発動する。


「シャッ!?」

「っと、あっぶな……」


 この大太刀を簡単に説明すると、リモート操作できる二本の替え刃があって、かなり自由に変形できる、毒持ちのアクセサリーだ。誰が使ってもとんでもなく強い代物だ――当然、こんなチートアイテムを与えられたら、素人だって強くなる。


 スキル〈流刃〉は、浮いている刃を高速移動させたり、本体の刀身を変形させる技だ。真後ろからの急襲をどうにかかわしたクチナワは、しかし横薙ぎの一閃を避け損ねる。踏ん張ってこらえようとした敵は、足元に仕掛けられていたビー玉を踏んで、どてっと地面に倒れこむ。


 振り下ろした大太刀が、ゴシャッと敵の頭蓋骨を打ち砕いた。


「た、倒せたな……」

「ん。最大効率だった」

「いや、そういう話じゃなかっただろ」

「協力には、まだ課題多め」


 戦闘ではかなりスパルタらしいナギサは、冷静にそう言った。俺から見ても間違いなくそうだったので、これからは大太刀のスキルをひとつずつ使っていく時間だ。


「これ、武器スキル伸びないんだよな……」

「ん。仕方ない」


 ジョブや武器にはレベルが設定されていて、上がると新しい能力やより強力なステータスを獲得できる。剣士がレベルアップして連続斬撃を覚える、というのがもっとも有名なところだろうか。〈ゴミ使い〉が成長したらどうなるのか、なんて想像もできないが、おそらく武器スキルは成長しないだろう。


「ナギサたちのスキルレベルって伸びてるか?」

「ん、まだ。アイテムひとつ作っただけ」

『わしはずっと伸び続けておるぞ。ちょいと〈格納庫〉をカスタムしておっての』

「お、おう……これからも仲間が増えるかもしれないから、よろしくな」


 首の長いリザードマンのような「クチナワナンバー」たちを倒しながら、俺たちは廃工場の奥へと進んでいった。いちおうは警備員という立ち位置のはずなのだが、工場がストップして役割が形骸化したからか、強さのバージョンアップはいっさい行われていない。三十年間で人間がずっとレベルアップし続けているわけではないが、どうやっても型落ちになることは免れない。


 どれくらい強くなったのかを確かめたくて、免許証を端末にスキャンして、ステータスを確認した。レベルは六まで上がっているものの、ステータスはあまり変化していない。ジョブはステータスの土台になっているので、習得できるスキルを扱うのに有利なステータスがぐんぐん伸びていくはずだった。


「うーん……やっぱり、俺もスキル特化なんだな」

「ん。当然」


 スキルを使えば何ができるのか、それは少しずつ見えていた。考えながら歩いていると、ふと悲鳴が聞こえた。


『きゃああーっ!?』

「ナギサ、行こう!」


 一も二もなくうなずいたナギサと一緒に、俺は悲鳴の聞こえた方に駆け出した。

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