第4話 War of Life Festival
キィィィィィィン
高い電子音がしたかと思うと伊織の視界はホワイトアウトした。
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『War of Life Festival に出場する方はお近くのコンソールからエントリーしてください』
派手なネオンが騒がしく明滅するビルがごちゃごちゃに並び、空中には無数のモニターが浮かび、どこかバイオレンスな雰囲気がする街。
『次のバトルはレートレベルαです。要項をよくお読みなってからエントリーしてください。
なお、サブミット後のトランザクション変更は一切できませんのでご了承ください』
機械的な女性の声が街中に響く。
どこから聞こえてくるのか不明だったが声は確かに街中に聞こえていた。
「・・・う・・・ん」
ホワイトアウトしていた視界がだんだんクリアになると、伊織は先ほどとは違う別の場所に立っていた。
ホワイトアウトしていた時間はほんの数秒で、外に出て移動する時間はなかった。
「こ、ここはどこだろう?」
非現実的だとは思いつつも、頭のどこかではこうなるんじゃないかと思っていた伊織は先ほどに比べればまだ冷静さを保っていた。
「さっきの機械・・・やっぱりあれが移動できる装置だったんだ」
アニメや漫画、映画をそれなりには観る伊織はこの不可思議な現象の方が、見知らぬ建物に監禁されるよりも理解に難くなかった。
そのため致命的なことの見落としに、この時の伊織は気づいていなかった。
そして、この異常事態を簡単に飲み込んでしまっていることの異常さにも気づいてはいなかった。
「外に出られたのはいいけど、これからどうしたらいいんだろう?」
「よお、お前さん、新人かい?」
道端で途方に暮れていると不意に後ろから声をかけられた。
振り返ってみるとそこには中肉中背の日に焼けた肌にサングラスをかけた緑髪のモヒカンが特徴のタンクトップの男性が立っていた。
「あ、あなたは?な、なんの新人ですか?」
「このワールドの新人かどうかに決まってるだろ?
なんだお前さん、ここが何のワールドなのかわかってなくて入ってきたのか?
ここはオープンワールドじゃないからそう簡単に入ってこれるもんじゃないんだが、どうやって入ってきた?」
「え・・・っと・・・」
サングラスの男は訝し気にこちらをのぞき込んできているため、本能的にマズいと思った伊織はとっさに嘘をついた!
「じ、実は僕の知り合いにコアな人がいて、その人から教えてもらってここに来たんです!」
「そんな簡単に教えられたっけな?まあいいや。ここのワールドではユーザーをあれこれ詮索しないってのがルールだ。
絶対なものはスマートコントラクトだけってのが鉄則。そうだろ?」
「そ、そうですね!」
とりあえずなんとかやり過ごせそうだと思った伊織は軽率にももっと情報を引き出せないかと、そこからさらに会話を合わせようと試みた。
「そういえばここは何するところでしたっけ?」
試みた結果、出だしからど直球の質問だった。
「・・・大丈夫かぁ?ここは国家間の代理戦争も行われるようなワールドだぞ?
そんな状態でよくここに来たもんだな。
お前さんの知り合いは詐欺師かなんかか?」
「ちょ、ちょっと、そういう雰囲気もありますね。アハハ・・・」
「・・・なんか可哀そうだな。
ここはWar of Life Festival、通称WoLFのワールドだ。
スマートコントラクトによって契約されたモノを巡って殺し合うシンプルな対人戦、つまりバトルロイヤルが行われるワールドだ。
基本的には銃を使うことが多いが、中には光線刀や、ハンマーや弓なんかを使ったりするプレーヤーもいる。
たぶん、お前さんの知人はきっとFestivalに負けて誰かを連れてくるみたいな契約でもさせられたんだろうぜ」
「こ、殺し合い!!?
え、でも殺し合いなのに負けても生きていられるの・・・?」
殺し合いという思ってたよりも恐ろしいワードに伊織は驚愕を隠し切れない。
「お前さん何を言ってるんだ?
ここはメタバース空間だぞ?ここで死んだって本物の自分が死ぬわけないだろう」
「メタバ・・・」
ここで伊織はこれ以上驚きの反応をするのは危険と感じ、ひとまず合わせることにした。
「そ、そうですよね!それにしても本当にリアルと変わらないですねここは!」
「そりゃお前さん、ここはReentrancyGuard社製だからな。
裏の世界のワールドは全てRG社製ってもんよ」
「そ、そうか!じゃあ、ここで死んでも命までは取られないんですね。安心しました」
「そりゃ早とちりってもんだ。国家間の代理戦争も行われるって言っただろ?
裏社会ではベットできるものに制限はねぇさ。
つまり、命も賭けられるってこった」
「え・・・」
流石にこれは驚きを隠すことはできなかった。
その時-
『それではエントリー受付を終了します。プレーヤー表を出力しますので各自確認をお願いします』
「お!早速今日の目玉、ベット下限MAXのレートレベルαのFestivalが始まるぜ!」
サングラスの男は近くに浮いているモニターを指さして言った。
「レベルαは領地やノーベル賞レベルの特許が賭けられたりするんだが、個人でも命を賭ければ参加できるようになってる。
つまり下限は命ってとこだな。これが一番盛り上がるのよ!観戦しなきゃ損ってもんだ!」
興奮気味のサングラスの男を尻目に、伊織はモニターのプレーヤー表を眺めていた。
そこで、信じられないものを見てしまった。
「・・・ぼ、僕がエントリーされている!!?」