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第2話 未来からの使者

「あ、あの・・・」


「初めまして、パパ」


「パ、パパ!!?」


急に伊織は予想だにしない呼ばれ方をして頭が真っ白になってしまった。


「こ、声が大きいよ!静かに!」


「ご、ごめん・・・!」


想像以上に大きなリアクションをされ、慌てた様子で彼女は伊織に声を落とすように促した。


「いきなりこんなこと言われても驚くよね。驚かせようと思ったけど。へへへ」


「な、なにがなんだか・・・君は一体・・・?」


軽い気持ちでヒゲ大名を追いかけ、見知らぬパン屋を覗いたら急に身の危険を感じる事態になってしまい、元々のんきに生きてきた伊織は完全にキャパオーバーを迎えていた。


「私は夢子。20年後の未来から来たパパの娘」


「・・・はい?」


処理できる情報を遥かに超えてしまっているため、伊織にはもう驚くことしかできなくなっていた。


「えっと、そうなるよね。アハハ・・・」


伊織は頭の中が真っ白になってただただ口を開けてボーっとしていた。


「信じられないと思うけど、私はある大事な理由で20年後の未来からこの時代にタイムスリップしてきたの。


と言っても実は今パパが見てるこの姿は3Dプリンターで作った疑似的な体に未来の私のデータをインストールしただけで、タイムスリップできてるのは私の脳というか意識だけというか、本体は未来にあるの」


「は、はあ・・・」


「ん-リアクション薄いなぁー」


「え、あ、はあ・・・」


「と、とにかく!このままだと大変なことになっちゃうから、何とかパパにそれを伝えられるよう未来からこの時代に飛んできたの!」


ボーっと聞こえてくる言葉を右から左に聞き流す伊織を横目に夢子は必死に伊織に何かを伝えようとしていた。


「それにしても、かわいいなぁー」


もはや伊織は思ったことをそのまま口に出す人形と化していた。


「もう!しっかりしてよパパ!」


埒が明かないと判断した夢子はひとまず落ち着いて話せる場所まで伊織を連れて行こうとその場を離れようと伊織の手を取った。


その時―


「ここにいたのか」


「はっ!しまった!!パパ!!・・・キャッ!」


ドンッ


夢子の悲鳴を最後に、伊織は意識を失った。



**************************



「いてててて・・・な、なにが起こったんだ・・・?」


伊織は意識を取り戻すと、そこは見知らぬ暗い部屋の中だった。


意識を失う前の記憶も曖昧なため、何が起こっているのか全く理解できていなかった。


「ここはどこだろう?」


状況が飲み込めず5分ほどボーっとしたあと、伊織はやっと考えられるようになってきた。


見知らぬ部屋にいる事以外は、特に縛られている様子もなくこの部屋の扉も空いていて閉じ込められているというわけでもなかった。


部屋に窓はなく、どこかから漏れ出ているわずかな電子光で辛うじて部屋の中が見える程度だった。


「そういえば、確かヒゲ大名さんを追いかけて行ったら何か怪しい人たちに追いかけられて僕の娘だっていうめちゃくちゃかわいい子に助けられて・・・気を失ったような・・・?」


少しずつここまであったことを思い出し、今までの人生至上一番の緊急事態が起こっていることを理解し始めてきた。


「ここはどこだ!?」


先ほどのボーっと思った疑問が、今度は警鐘と共に訪れた。


どうやってここまで来たのかも、ここがどこなのかも、誰がここに連れてきたのかも何もかもわからない状況がどれだけ異常事態か、実感と共にとてつもない不安と恐怖が押し寄せてきた。


「と、とにかくここから出なきゃ!!」


伊織は気が動転しながら出口を探そうと部屋から出ようとした。


ガタッ


「あ・・・!!」


暗く足元も満足に見えない部屋で慌てて動こうとして伊織は豪快につまづき転んでしまった。


「うううう・・・」


押し寄せる不安と恐怖、訳も分からない状況、色んな事が頭を駆け巡って伊織は思わず涙を流していた。


「な、なんで、なんでこんなことに・・・」


昨日まで楽しく平和に暮らしてきた自分がなぜ、という理不尽とも思えるこの状況に伊織は溢れ出る感情を抑えきれなくなってしまった。


「あああああああ・・・」


泣き叫ぶ伊織の声は、無情にもどれだけの広さかもわからない建物の中にこだまするだけだった。


「なんで!なんでこんなことになったんだ!くそぉぉぉぉ!!」


誰一人として今の伊織を助けてくれるものはいない。

どうしてこんなことになったのか説明してくれるものもいない。


とめどない涙と鼻水を垂れ流し、世界中に自分しかいないんじゃないかと思ってしまうくらい、伊織は理不尽と孤独を感じていた。


「くそ!くそ!くそ!くそ!・・・え?」


どれほど泣き叫んだだろう。

ふと伊織はずっと握りしめていた手の中に何かが挟まっていることに気づいた。


今さら自分がずっと手を握りしめ続けていたことに気づくくらい、伊織はテンパっていたのだ。


伊織の手の中にあったもの、それは一枚の紙きれだった。

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