表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/5

第1話 始まりのを告げる猫

現実世界を拡張して電脳空間にもう一つの世界を実現したいわゆるバーチャルリアリティの世界。


少し前まではアニメや映画の中の物語だった仮想世界が、今は現実となりつつある。


それがメタバース空間。


人々はその夢のような世界に夢を馳せながら、アニメや映画のように完全に没入できるメタバース世界の完成を今か今かと待ちわびていた。



********************




「あー今日も1限からかー。流石に単位落としすぎたなー」


都心から少し離れた郊外の駅からポチャッとしたフォルムが特徴的な見た目中年の大学生、倉田伊織くらたいおりは気怠そうに歩いて出てきた。


まるでどこかの未来から来た動物型ロボットのアニメに出てくるガキ大将のようなボーダーのTシャツを着たしじみんは講義に出るために大学を目指して歩いていた。


ほんの少し前までは世界的に流行した病のためリモートで講義を受けられていたのだが、結果的に全体の成績が落ちる傾向にあったため実際に赴いて受ける講義が再開されていた。


「別に大学に直接行ったからと言って成績上がるわけでもないんだけどなー」


大通りをてくてくと歩きながらぶつぶつ言っている伊織をすれ違う人は変なものを見るかのような目線を送ってくるが、当の本人は一切気にしていなかった。


「あーめんどくさいなー。休校にならないかなー・・・ん?あれは?」


ふと前を見ると見知った顔の男性が歩いているのが見えた。


「あれはヒゲ大名さんじゃないか?おーい!」


昔から何かと面倒を見てくれるヒゲが大名っぽいとみんなからヒゲ大名の名で親しまれてる近所のおじさんを見つけて伊織は手を振って声をかけた。


「あれ?聞こえないか」


距離が離れていたため伊織の声はヒゲ大名は聞こえていないようだった。


ヒゲ大名は在日フランス人で、日本には相当長く住んでいると太陽は聞いていた。


いつもピシっとしたパーティーに着ていくような赤い蝶ネクタイがポイントのオシャレな燕尾服に身を包んだ不思議な人だった。


伊織はよく悩んだり、困ったことがあると決まってヒゲ大名に相談し、その度にヒゲ大名は親身になって寄り添ってくれていた。


伊織は講義のことも忘れてヒゲ大名を追いかけた。


しかし、わずか1分で息が切れた。

肩で息をしながら既に姿は見失っていたものの、ヒゲ大名が歩いて行った方を目指して歩いた。


少し歩くと大通りを曲がったところにいい香りのするパン屋が見えた。

なぜかそのパン屋は少し目を離すと見失ってしまいそうな希薄な気配のするパン屋だったが、いい香りに誘われパン屋にくぎ付けの伊織はそんなことにはまったく気づいてはいなかった。


「うわー!いい匂い!美味しそうだなー!」


よだれを垂らしながらパン屋をのぞき込むと、そこに、見慣れない服を着た数人の男性と、ヒゲ大名が密談している姿が見えた。


「あ!ヒゲ大名さん!」


声をかけようと中に入ろうとしたところで中の会話が聞こえてきた。


「首尾の方はどうなっているデボン?」


いつもの太陽のように明るいヒゲ大名とは違い、神妙な面持ちで彼は問いかけた。


「順調です」


パン屋にそぐわない黒づくめの服に身を包んだ男の1人が答えた。


「ネコが馴染むには時間がかかる。油断するなデボン」


「はっ!」


ヒゲ大名は男たちに何か指示を出していたようで、一通り指示を出し終えると懐からスマートフォンを取り出し目を落とそうとした。


その時


ガタッ


伊織は壁についていた右手を滑らせてしまった。


「誰だ!?」


(しまった!)


「そこに誰かいるデボン!?」


ヒゲ大名の緊迫した問いかけが店の壁越しに聞こえてきた。


それでも通りを歩く通行人には聞こえないのか、何事もなく歩く姿がひどく非現実に思えた。


「誰かに聞かれたやもしれぬ。外を見て来いデボン」


「御意」


見たこともないデザインの黒い服を纏った男たちが伊織のいる方へ向かってきた。


(まずい、見つかる!)


普段は大らかが服を着て風呂敷を大きく広げたようなヒゲ大名を相手に、場の雰囲気からか伊織は危機感を感じ見つかってはいけない気がした。


男たちはすぐそこまで迫っていた。

一歩、また一歩と近づいてくる。


その時


「こっちよ」


あと一歩で見つかるという時、不意に伊織は誰かに手を引かれた。


「あ、あなたは・・・」


「しぃ!静かに」


なぜか先ほどまでその存在に気づかなかった店と隣の建物の間の細い路地に伊織は手を引かれ身を隠した。


フワリと鼻をくすぐる小麦粉と香ばしいパンの香りに包まれながら、手を引いていた誰かが静かに振り返った。


口元に指を立て、静かにするようにと伝えるその姿は、まるでそこだけ光が刺したように明るく、白く咲いた花のように無垢な笑顔の女性だった。


緊迫した時の中にいるはずなのに、まるで時間が止まったかのように彼女から目を離せないでいた。


「気のせいか」


黒づくめの男たちはしばらく外を見回し、 "誰もいない" ことを確認したあと店の奥へと戻っていった。


「行ったみたいね」


凛とした声が耳元で囁いた。


「こんにちは」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ