3話 微妙なズレ
何ヶ月ぶりの更新なのでしょう………
感想もらえると嬉しかったり嬉しかったり嬉しかったり!!
「14時に集合って、言わなかったっけ……?」
サフォーリル中央区、特別警察局7階会議室。部屋には3人。拗ねたような顔をしているルエ、真面目そうだが何を考えているか分からない表情のイバン、珍しく真剣な面持ちの小夜。
部屋は緊張に包まれていた。
「今回の任務は絶対に失敗できないから時間厳守、ってちゃんと伝えたはずだけど?」
「んぇ〜、そんなこと言われたっけ、イバン〜?」
「さあ? 時間厳守、だなんて、聞いたことないや」
「そんなはずないでしょう、ユノには、メールで、しっかり文字に残るようにして伝えたんだから。
それに、そのメールを送ったのは一昨日だし」
「本当? ユノ君、結構時間ぎりぎりで俺らのところに来たけど」
「はぁ……? あぁ、もう、分かった。ユノにも、後でちゃんと伝えとくから……」
眉にしわを寄せてため息をつくと、小夜は切り替えるように顔を上げた。
そもそも、この2人が時間を守ることなんてほとんどない。なので予め、集合時間を30分早く伝えていたのだ。少しくらい困らせても、バチは当たらないだろう。
「今回の任務は、特にルエには嬉しいものだと思うよ」
「私?」
「そ」
小夜は短くそう言うと、ルエの耳元に口を近づけた。ルエもそれにつられて、顔を小夜の方に寄せる。
小夜がごにょごにょと何か話すと、途端にルエの顔がぱあっと輝いた。
「ほんと?!」
「うっるさ」
顔の近くで大声を出された小夜は、思わずルエから距離を取った。それでもなお、ルエは興奮した様子でじりじりと小夜に近寄りながら問い詰める。
落ち着け、というようにルエを手で制した。
「ちょっと落ち着いてよ……。あと、足踏まないで」
「ごめんごめん。だって、小夜が後ろに下がるんだもん」
「分かったって、分かったから離れて。ほら、イバンが訳分からないって顔で固まっちゃってるでしょ?」
ちらりとイバンを見る。完全に蚊帳の外で、不思議そうな顔をしてこちらを見ているイバンが可笑しくて、ルエはくすりと笑みをこぼした。
「楽しそうだね?」
「なんとね!」
ルエがきらきらした瞳で言う。
「ノアちゃんがここにツヤーに来るんだって!!!」
「ノア?」
「この前見せたでしょ!! "歌姫"のノアちゃん!」
あー、とイバンは頷いた。彼の記憶が間違っていなければ、ノアというのは2年ほど前にデビューした歌手だかアイドルだかで、その翌年には、数々の新人賞を受賞。その歌声もさることながら、ルックスも良いことから、世間では"歌姫"と呼ばれている人気者である。
そういえば以前、ルエに勧められて、一緒に聞いた記憶がある。
「覚えてるよ、カンテンのカントリーソングっぽいやつだった気がする」
「そう! それ! あの曲は、有名ってわけじゃないんだけど、故郷の風景を思い出す、ってファンの間じゃ人気なんだよ」
「ふーん」
「興味なさそうだね」
「ないもん」
ルエが頬を膨らませて怒った。
イバンは普段、歌などというものをあまり聞かない。そもそも音楽というものにも興味がなかった。もちろん、ノアの事も、名前を知ってる程度だった。
イバンにとって重要なのは、ノアがどんな人物かではなく、彼女が今回の任務にどう関わっているか、だ。
「そんなことよりさ、任務の内容を教えてよ。民間の警備会社でも、警察局でもなく、〈霧祓い〉に回ってきた、ってことは、それなりに大きな仕事なんだろ?」
大きな仕事、と聞いて、ルエの表情も少し引き締まった感じがした。重要で危険な仕事ほど、見返りも大きい。ルエがこの表情をする時は、たいていそういった大きな仕事の時だが、今回に限っては、大ファンであるノアが絡んでいるというのが理由だろう。
「まあね。
さっきも話した通り、近々、ノアがここでライブをするんだって。君たちには、ノアがここに滞在するまでの間、彼女を護衛してほしいんだ」
「そのライブって、いつ開催なの?」
ルエが聞くと、小夜がぽかんとした表情になった。
「1ヶ月後だけど……。ノアのホームページにも載ってるよ?」
「えっ!? 嘘……気づかなかった」
「ちょっと待って、ノアのライブがもうすぐそこまで迫ってるのに、宣伝とかはしなくていいの?」
イバンの質問に、またしても小夜が困惑した表情を見せた。
「もうしてるけど……」
「ほんと? ポスターとかネットでは、そんな情報1度も見てないよ?」
「あれぇ? なんでだろう……。確かにしたはずなんだけどな。まあいいや、麗十のところに行って問い詰めてくるから。
とにかく、君たちには、ノアの護衛を頼みたいんだけど、okしてくれるよね?」
「もっちろん!!」
ルエが機嫌よく頷いた。断る理由もなかったので、イバンも首を縦に振った。
「オッケー、ありがと。
じゃあ早速、明日から任務に就いてもらうから。よろしくね」
「明日から?!」
ルエとイバンが、声を揃えて聞き返した。驚きと若干あきれたような顔のイバンとは裏腹に、ルエは瞳をきらきらさせている。
「そ、明日から」
「うっはー!! やったねイバン!!」
「そんなに急に言われても、準備ってものが……」
「なにを準備するのさ」
「しばらく休めない時は、事前に沢山休んどくんだよ」
「いつも休んでるじゃん」
「……」
すっかり口をつぐんだイバンを見て、小夜はにやりと笑みを浮かべて言った。
「じゃ、よろしくねイバン」
不服そうなイバンをからかうように、小夜は続けた。
「私もこのあと用事があるから、ほら、帰った帰った」
「はぁ……分かったよ。その代わり!」
「うん?」
「その代わり、こいつとは別行動ってことでいい?」
はしゃいでいるルエを指差してイバンがいった。ルエはそれに気づくと、すんっと静かになった。
小夜は、この2人のこういった関係性がとても好きだった。
「んー。本当はダメなんだけど、今回は特別ね。上には私の方からなんとか言っとくよ」
「やけに聞き分けが良いな?」
「まあね。君には何としてでもこの任務をこなしてもらわないとだからさ」
「あぁそうかよ」
冷めた表情になってしまったイバンとルエを交互に見ながら、小夜が口を開いた。
「じゃ、解散!」