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2話 転轍

 サフォーリルの〈霧祓い〉たちには、起床時間や消灯時間といった行動規則のようなものは存在しない。任務の内容によっては、夜中に眠ることができないこともあるので、各々のペースでスケジュールを組んで生活することが理想とされているからだ。

ルエは、任務が無いときは、いつも夜遅くまで起きてゲームをしていることが多い。それは、イバンも同じである。

 サフォーリルの〈霧祓い〉たちは、ほとんどの場合、2人以上のチームを組まされる。経験の豊富さや特異能力を踏まえて、最大限の力が引き出せるよう考えて構成されるのだ。

つまり、チームの人数が少ないというのは、それだけ場数を踏んでいるか、もしくは、それだけ強力な特異能力を持っている、ということになる。

 ルエとイバンは、前者である。それぞれの特異能力自体は、決して強力な訳ではない。だが彼らは、サフォーリル屈指の〈霧祓い〉であった。彼らの強さは、1つは、特異能力の相性にある。そして、相性が良い、すなわち、似た特性の特異能力の持ち主同士は、互いに引かれ合う。


「イバンー、ビール取ってよー」


 ソファにふんぞり返っているルエが、だらけた声で言った。タブレットの画面をぼんやり眺めていたイバンが、自分が飲んでいたビールの入ったグラスをルエに手渡す。

 くるりと後ろを向き、ありがと〜、と言いながら受け取ったルエは、グラスに入っているそれを一気に(あお)った。


「っくはー! 朝から飲むビールは最っ高だね」


 ルエから返されたグラスを受け取ったイバンは、違和感に気づいて、ぱっと顔を上げた。


「ちょっと! 全部飲んじゃったの?!」

「飲むのが遅いからだよー」

「馬鹿、お前、味わって飲んでたんだよ。なのにまったく……」


 イバンはため息を吐きながら、タバコを1本取り出し、火をつける。ルエがねだるような目でイバンを見た。


「私にもちょうだい?」

「お前、これは好きじゃなかったろ」

「いいの! ほら、ちょうだい?」


 はい! と差し出された手にタバコを1本載せた。満足げな声で、ありがとー、と言ったルエはくるっと前に向き直り、深く吸った。

 ふぅ、と煙を吐いたルエは、くしゃっと顔をしかめて言った。


「あ゛ー……。もっと甘いのが良いなぁ……」

「だから言ったろ。ほら、返しな」

「いやぁ、いいよ、私が吸うから」


 その時、こんこんと扉を叩く音が部屋に響いた。


「イバンさんー? 入りますよー?」


 その声を聞いたイバンの目が、途端に輝く。

 扉を開けて入ってきた男の姿を見て、イバンは大きな声で叫んだ。


「ユノ君ー!! おはよう!!!」

「おはようございます。あれ、ルエさんもいたんですね」

「お泊り会ってやつだね」


 ひらひらと手を振って言うルエに、ユノは困ったような呆れたような表情を浮かべた。彼女のこういったテンションに対して、どう反応していいのか、よくわからない。


「イバンさん、朝からお酒なんて飲んで大丈夫なんてすか」

「大丈夫大丈夫! 今日は暇だからね」

「あー、えっと、その事なんですけど、さっき小夜さんから通達がありましたよ。14時に、7階の会議室まで来るように、って」

「はぁ?!」


 ユノの言葉を聞いたイバンが身を乗り出して驚きと落胆が入り混じったような声を出した。2人のやりとりを見ていたルエが、にやにやしながら言う。


「イバン〜〜、残念だったねぇ〜? 私はここで、ビールを飲みながら映画でも見て過ごすよ。せいぜい頑張りたまえ〜」

「こいつっ」

「えっと……小夜さんからの伝言には、まだ続きがあって」


 取っ組み合いになって盛り上がってる2人を、一歩離れたところから見ていたユノが、口を挟んだ。動きを止めた2人の視線が、ユノに向く。


「なんだよ」

「今回の作戦には、"狼"の2人を担当とするため、イバンはルエと2人で会議室へ同行すること、だそうですよ」

「はぁ?!」


 今度は、ルエが悲鳴を上げる番だった。


「なんで私まで?!!」

「そもそも、"狼"はニ人一組で任務にあたること、って言われてるでしょう」

「……ペア解消ってできるんだっけ?」

「できますけど……それをして困るのはルエさんの方ですよ?」

「そんなことされたら、俺も悲しい」


 はあ、とため息をついたルエは、いかにもめんどくさそうに言った。


「はいはい分かったよ、行けば良いんでしょ。まったくもう……」

「今何時?」


 イバンが尋ねると、ユノが腕時計を見ながら答えた。


「13時ですね」

「あと1時間しかないじゃん!」

「待って、落ち着いて。まずはカーテンを開けよう」

「その前に服を着てください」

「その前に風呂に入らなきゃじゃん!」


 上裸で忙しなく動く2人を残して部屋を出たユノは、足早に自分の部屋に戻っていった。やる時はやる2人だが、本当にやる時はやるだけなので、あまり当てにできない。基本的に、頼りにならない人たちなのである。

この人たちと一緒にいて時間を浪費するよりは、自分のことに時間を使うほうが有意義である。


 その後、見事5に分遅れで会議室についたルエとイバンは、小夜にしっかりと怒られた。なぜか、ユノも一緒に。

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