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1話 バディ

ゆっくりじっくりことこと煮詰めていきます。

 某日 某所

 行動記録 病院内安全確保作業

 気温:26.3℃ 天候:晴れ


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「イバン! そっちお願ーい!」

 栗毛色の髪の女が、後ろを振り向き、叫んだ。

 イバンと呼ばれた男が目で頷くと、右手を前に出し、何かを引き寄せるような動作をした。イバンに襲いかかろうとしていたアクルースたちの動きが止まる。次の瞬間、体が内側から破れるようにして弾け飛んだ。


「ルエ、こっちは終わった。そっちは?」

「私はもう終わってるよ、ほら」


 ルエが指さした方を見ると、そこには、地面に横たわる小型のアクルースの群れがいた。みな、白目を向いて泡を吹き、体を小刻みに痙攣させている。

 数秒の後、震えがおさまると、それらの体は霧散して消えていった。


「なーんか、あっけなかったねー? 毎回これくらい簡単だと良いんだけどなぁ〜」

「まだ気を抜くなよ、ルエ。2体、こっちを見てる」

「ん〜?」


 ルエは悟られないよう、顔を動かさずに視線だけ動かして、辺りを探ったが、姿はどこにも見えない。

 ルエは僅かに首を傾げて、分からない、という仕草をした。暗闇に溶け込む性質があるのか、それとも、何かに擬態しているのか。警戒を解かないよう、無構えの体勢を取り、気配を探った。


「どこにいるのさ」

「両方とも、ルエが見てる方だよ。俺の後ろ、崩れた瓦礫の上と、西の廊下に面した扉の前」

「へ〜? 前よりも精度が高くなったんじゃない?」

「お前とは違って、ちゃんと訓練を受けてるからな」


 ルエは頬を膨らませて、むすっとした表情をしたが、イバンの雰囲気が変わったのを感じて、すぐに気を引き締めた。

 床を薄く覆う砂が何かに圧され、大きな足跡を微かに残した。2つの気配が、ゆっくりと動き出す。足跡のすぐそばの床が黒く濡れた。


「こいつら、だいぶお腹が減ってるみたいだね」

「うーん」

「どうしたの?イバン?」

「お腹がすいた」

「……あっそ。だから静かだったのね」

「うーん」


 イバンが気怠げに返事を返した。そうしている間にも、アクルースと2人の間合いはどんどん詰まっていっている。崩れ落ちた天井から射し込む光が、アクルースの姿を浮かび上がらせた。

 細長い頭に、しなやかな体躯の蜥蜴(とかげ)のような見た目で、体中に粘液がまとわりついており、黒に近い藍色の体からは、僅かな腐敗臭が漂ってくる。

 イバンが武器を構える。思わず後ずさりしたくなるほどの緊張感を放つその姿は、先程までの彼とは別人に見えた。


「日の光が当たらない所では姿を隠せるっぽいな。ルエはサポートを頼む」

「うい」


 2体のアクルースがイバンに飛びかかる。イバンの剣が閃いた。顔に飛んできた爪を剣で受け流しながら、間合いを詰める。アクルースの腕を脇に抱え、顎をかち上げると、むりやり地面に叩きつけた。


「ルエ!」


 もう片方のアクルースが次の動きに入るより早く、ルエの法術が場を支配した。

 アクルースたちの動きが止まる。

 イバンによって地面に組み伏せられたアクルースは体を激しく痙攣させている。

 イバンがもう片方へと、視線を向けた。

アクルースは低い唸り声を発しながら、じりじりと後退し、日の光が当たらない陰へと姿を隠した。


「イバン」

「分かってるって、そんなに()かすなよ。

 もう、術はかけてある」


 どこからか、硬いものが砕ける音と、柔らかいものを掻き混ぜるような不快な音が重なって聞こえた。

 イバンの足元に転がっていたアクルースの痙攣は既におさまり、体が霧散をはじめていた。


「これで最後かな?」

「うん、病院内のアクルースは全部片付けた。早く帰ろ? お腹ぺこぺこだよ」


 イバンとルエは、ゆっくりと歩きだした。崩れた天井から射し込む陽光が、ゆっくりと宙を舞う埃を、白く浮かび上がらせている。

・アクルース

 ある日、突然現れた謎の生命体。全身が黒い霧に包まれており、特別な兵器でしか有効な攻撃ができない。


・霧祓い

 アクルースに対抗できる唯一の武力。

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