第1話 聖剣コレクター追放される
俺はノエル・ハーヴィン16才、勇者パーティー所属の荷物持ちにして隠れ聖剣コレクターだ。
「おい!! ハーヴィン!! ボサっとしてんじゃねぇ! この役立たずがっ!! もう剣がダメになった、次の剣をよこせ!!」
迫り来るハイオークの群れを相手にしながら罵声を飛ばしたのがこの勇者パーティーのリーダーであり、この国の第一王子であるウィル・ハイグランド。
俺がこっそり聖剣の力を使って身体能力を強化しているとはいえもう剣をダメにしたのか。
これじゃあいくら剣があっても足りないなと内心、思いながら用意していた獲物を渡すと。
「いつもぐずぐずしやがって……クソ! 数が多すぎる!」
「全く、役立たずの荷物持ちがいるせいで散々ですわ!! ウィル様、もう魔力が……」
このお嬢様口調で豪華な戦闘用のドレスに身を包んだ金髪の魔法使いが、カーリア・アグノール。
先程から考えなしに魔法を撃っているせいで、魔力が尽きかけている様子だ。
カーリアは勇者に嫁ぐために同盟国からやってきた、どこぞのお偉い様の娘らしい。
言ってしまえば最強の勇者の子を孕むため、政治的に送り込まれた使者という感じだろう。
どうしてこんなピンチになっているのかというと、俺が注意したのに、大した警戒もせずに進みウィルがトラップを踏んだからだ……つまり、俺は全く関与していない。
「ウィル! やっぱり引き返そう! もう少し剣の腕を上げてからの方がいい!」
「ハーヴィン!! 口が過ぎるぞ!! 訂正しろ!」
この男は重戦士のグランバルド・ハイル、巨大なウォーハンマーを使う大男だ、ウィルの護衛として国がスカウトしたらしい。
「普段、なんの役に立たないくせに、言う事だけは一丁前だな!! 荷物持ちの分際で!」
俺がこんなことを言うのは理由がある、それは……このダンジョンは俺が攻略済みでもう聖剣がないからだ。
実は前にこっそり聖剣をウィルに渡したことがあったのだが、わずか一夜で壊された。
ウィルの戦い方は単純明快、聖剣の能力で底上げされた身体能力にものをいわせ力任せに切りつけるといったもの。
なのでウィルの腕が上達するまでは、聖剣は決して与えないと決めた。
このダンジョンに来ても無駄足になることが分かっていた。
だからここにくる前に“聖剣は必ず見つかるわけじゃない、だからもう少し腕を上げてから挑戦しようと”説得はしたが聞く耳持たずにいまに至る。
「ああ!? テメェ……この俺に意見しようってのか? ふざけやがって、ここまで来てのこのこ帰れるかよ!」
「アイテムボックスの魔法が使えるだけの平民がウィル様に意見するなんて……なんて身の程しらずなのかしら!!」
「分かった……ならもう止めない」
これ以上言っても無駄だと思い聖剣の出力をあげた。
すると、ウィル達はあっという間にハイオークの群れを片付け、聖剣が本来眠っている最奥の間に到着した。
当然、祭壇に聖剣の姿はない。
「なっ……クソッ!! またかよ!! どうして聖剣がない!!?」
「ウィル様……きっとこの平民のせいですわ! そもそも貴方が……」
「勇者様その通りです! この男はいるだけで害悪です! 早く追い出した方がいいかと!」
また始まったか……カーリアもグランバルドもウィルの機嫌が悪くなったりすると、気に入られようとして何でもかんでもすぐに俺のせいにする。
「そうだ……全部お前が悪い! お前といると聖剣が見つからないんだよ!! テメェなんざ追放だ!! ダンジョン中でくたばりやがれ役立たずが!!」
「その通りです!! アイテムボックスのスキル持ちなんて探せば腐るほどいますし、もっと従順な人間を見つけるのがいいと思いますわ!!」
感情に任せて追放するなどと言い出すウィル、いい機会かもしれないな……。
実は俺の夢は冒険者になりのんびり暮らすことだったりする。
今まで聖剣探索をしていたせいで冒険者なんてやる暇がなかったが、全世界の聖剣をほぼコンプリートしてしまったせいで目的がなくなってしまったのだ。
「アイテムは全部置いていけよ? いつも戦ってる最中にコソコソして気持ち悪かったんだよ!」
「こんな薄暗い場所で死ぬなんてお可哀想ですわね? 無数にあるトラップを一つも作動させずに入り口まで行ければ生きて帰れるかもしれませんわよ? ふふふ!」
「気の毒なものだ! ハハハ!」
よし! やったぞ! 脱退したと知れ渡ればかどが立って国王に目をつけられるかもしれないが、追放という形だったらそんなこともなく平和に冒険者ができる!
「そうか分かった、ならここでお別れだな」
「ああ、清々したぜ! じゃあな役立たず!!」
そう言いウィル達は来た道を戻り、迷路の奥に消えていく。
「さて、じゃあ“転移の聖剣“を使って帰るか! まずは冒険者登録だな……」
行き先は……そうだな、魔界から一番離れたリルドの街へ行くか! あそこだったら平和だしのんびり暮らせそうだ。
面倒なことも起きないだろう! よし、楽しくなってきたな! 俺は興奮を抑えられずに鼻歌を歌いながらダンジョンを後にした。
「よし、人目につかない場所ならこの辺りだろう」
転移は一度行った場所にしか出来ないが、リルドの街だったら一度だけ行ったことがある……懐かしいなあの宿屋はまだやっているだろうか?
かつてないほど穏やかな気持ちになりながら目的地へと向かっていたが、途中であることに気付く。
「そういえばあそこのダンジョン“行きと帰りで構造が変わったり罠の場所も種類も変わる“んだったっけ……」
「ま、いっか!」
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