53.必勝のタネ
「8億勝負…だと?」
「難聴かよテメエ。それ以外に何って言ったんだよ。」
「(バカな…奴の手は19のはず。後ろの女とつるんでカウンティングをしてることも間違いないはずなのに何を根拠に…)」
久山の疑問をよそに手の開示へと進む。
「21だ。ざんね」
「って思ったか?残念なのはお前の方だよ」
そう言い、龍香は自分の手を開示する。左手を若干不可思議な動きをさせた後出て来た手は後ろで見ている3人も驚くような手であった。
「ブラックジャックだ。私の勝ちだ」
「バカな…そんなバカなことがあるか!!お前の手は19のはず!!スペードのキングとハートの9の…!」
それを聞いた龍香は薄笑いを浮かべながらこの種明かしに入る。
「そうだな、確かに私は19の手札を伏せてここには置いたしカードも事前に用意して今ここですり替えた。だがこの場で私は不正をしてない。負けるのはお前で変更はない」
「お前今手札はそれで伏せたしカードも事前に用意してすり替えたって言ったよな?そんな明らかな不正しといてどうして勝つんだよ!?」
「まぁー一つその前に聞かせてくれよ。久山お前どうして私が伏せた手が19だったなんて知ってたんだ?確かに私らはカウンティングはしてたがアレでできるのは精々ヒットした時のバーストの確率がどんなもんかを探るくらいしかできねえし残りの山札がそれこそ数枚にならねえ限り相手の札の特定なんて困難だ。やっぱり答えなくてもいいわ、お前のやってたことなんてわかってる。このテーブルは素通しのガラスで伏せた手は鏡かカメラで情報はバーテンに飛んでいく。おい、動くんじゃねえよ!!」
指摘が始まり急にパソコンを閉じ始めたバーテンダーは龍香に大声を出されて驚き手が止まる。龍香の剣幕に驚いたのもそうだが、なによりこれ以上動くと久山の不正が明らかになってしまう以上手を止めざるを得ない。
「あのパソコンを改めてやってもいいがどうだ?まあどうせすっとぼけるだろうし一旦おいておこう。次の話だ。私がそういうことを疑ってるから目隠しをさせたいと言ったらお前は認めたか?」
「そんなことは好きにやればいいだろ。何を…」
「まあそこが話のミソだ。実はもう目隠しなんかはなっからしてたんだよ。その目隠しが布でも厚紙でもなくプレイングカードだったってだけの話だ。お前が見たハートの9はこれだ。」
そういうと、不自然な動きをした袖口からハートの9が出てくる。しかしそのカードは背面が今この場で使われているものとは違うものだった。
「これはゲームで使ってないカードで本物のハートの9はまだ未使用のカードの中だ。私は事前に用意したこのハートの9を伏せるカードとして使ったがショウダウンでこれを提示していない以上イカサマにはならない。アスリートがドーピング検査に引っかかる薬剤やルール違反の道具を持ってようが実際に服用したり試合で使ったりしなけりゃルール違反にはならないのと同じだ。相手を下に見すぎなんだよバカが。」
この種明かしと共に、龍香の勝ちが確定する。金を他人から引っ張った上での大負けであり、久山は震え崩れ落ちる。
「さて、西村さんだっけ?こいつの負けの8億、しっかり貰ってくよ。損失補填は自分で考えな」
「姐さーん。もう少し搾り取れそうじゃありませんでした?」
「いーや、あそこで金取ってさっさと逃げるのが大正解だ。あんな一般人があの単位の金賭けてビビらねえわけがねえからな。」
そう話してると、龍香の携帯電話に着信が入る。舞花からだった。彼女は仕事で用事がある時は必ず裏事務所の固定電話に電話をかける。仕事とは関係がないことは明白であった。
『もしもし、龍香かい?』
「おう舞花、どうした?あのカジノにポリ公でも来たか?」
『あんた勘いいねその通りだ。あそこで顔真っ青にしてた社長がビビってこっそり通報させてたみたいであんたらが店から抜けてから10分くらいで突入さ』
「わかった。用はそれだけか?」
『それだけさね。その言い方するってことは話し中か?』
「そういうこった。切るぞ。...ってことだ。確かにメンタルゲーだしあのまま叩けばもう少し取れたがポリ公に捕まりゃ全て台無しだからな。強突く張りは負けるんだよ」
「後もうひとついいですか?机の下からカードを覗いてるっていうタネを把握していたのはいいんですけど、どうして私たちにまでニセのハートの9見せてたんですか?」
「敵を騙すには味方からって言葉知らねえのか?お前らがあそこで19で厚張りしてくることに疑問覚える顔してこなきゃなにか仕掛けがあること勘づかれるだろ。ただお前ら私の賭けのやり方もう少しちゃんと知った方がいいぞ。相手をシバくために計画した勝負にあんなうちの会社そのものが傾く可能性あるだけの金賭けて危ない橋渡ると思うか?そんなもんはフリだけでいいんだよ。勝った負けたで顔を赤くしたり青くしたりするのなんて自分の裁量で笑える範囲でやるのが大人ってもんだ。負けましたで済まされない勝たなきゃいけない勝負をするのなら必勝のタネを用意してるに決まってる」
そう自身の考えを述べ、沙月に一千万ほどの札束を渡す。
「えっ」
「お前のおかげで一儲けできたから謝礼金と手切れ金だ。これも例のハメられた友人と山分けするといい。ただしっかり手切れ金含めて渡してるからな、今後二度とここやあのカジノには来るな。ああいうクソ野郎も寄り付くのが悪の世界だ。それともう一度言うがまとめて銀行口座にこの金入れるなよ。」
そう言い、沙月の持つカバンに札束を入れると玄関に無理矢理連れて行き靴を履かせて退室させた。
「さて、泡銭が大量に出てきた。無駄な労働を強要した私としちゃ雇用主として埋め合わせに娯楽か休息を渡すのが義理ってもんだ。仕事もないし私ら3人で一門傘下のバーで朝まで痛飲ってのはどうだ」
「おっ、いいですね!何飲んでもいいんですか!?」
「吐かねえ程度にしろよ」




