52.大勝負
それから更に一週間後。
龍香は黒山沙月、今泉銀子、斉藤龍二を引き連れ件のカジノに向かう。沙月は以前と変わらない服装だが、銀子は普段クラブで着ているドレス、龍香と龍二は普段仕事で着ているスーツを身に纏う。
「ギャンブルに俺まで付き合うんすか」
「仕方ねえだろ、女三人でナメたこと言われたらやってられねえんだ。形だけでも見た目でわかる喧嘩に長けた男が一人いたほうがいい」
「姐さん一人で何とかなるんじゃないですか?」
「確かに何とでもなるけど流血沙汰のリスクが上がるんだよ。その気も起きねえようにさせとくんだよ」
普段は徒歩で行くが、今日に限っては車で行く。
「歩いて行けるくらいの距離じゃありませんでしたっけ」
「こんな異様な額の金入ったケースと金詰めるための段ボール持って歩けるかよ。お巡りに声かけられたらどうする気だ。龍二さっさとケース乗せろ」
「了解っすー。」
「後ろの席手狭で申し訳ねえが沙月と銀子は後ろ乗ってくれ。」
ケースを積み終えると言われた通りに銀子と沙月が乗り込みカジノに向かう。
「ようこ…なんだ後ろの男は」
「ああ?俺は姐さんの付き人だよ。都合悪くなったら手出したりとかされても困るんでな」
「ってなわけだ、こいつには見守り人としていてもらう。あと勝負場所は選ばせてやったんだ、やることはこっちで指定させてもらうがいいか?」
「トランプでできて俺がルール知ってるゲームなら問題ない。どうせ勝てるからな。」
「ナメた思考してやがるな、まあいい。ゲームはブラックジャックだ。カジノ通いでまさかルールわからないなんて話はないだろう。サシ勝負だから賭け方はポーカーのやり方の踏襲で構わねえ。スプリットやダブルダウンとかの細かい特殊ルールもなし、ディーラー側プレイヤー側でわかれもしねえからヒットに制限もない。レイズかフォールドかの判断はお互いにヒットを止めた段階で行う取り決めにしよう」
「別に構わないが、シャッフルは誰がやるんだ?」
「シャッフルマシンを用意した。これに任せてその後は山札をかき混ぜるのはお互い禁止で。あとはお互い名乗ったうえで勝負しようか。私はお前の名前を連れから聞いてるが一応お前からも聞いておこう。」
「変な女だな。まあいい、俺の名前は久山真一という」
「建設会社のボンボンだってな。私の名前は村山龍香だ。お前と違って背景は何もない」
お互いに見た目上有利不利が出ないように準備はしていた。しかし、それは見た目の上。
実際には久山はイカサマを、龍香達はカウンティングを行っている。お互いがお互いに相手には言わない隠し武器を持っていた。相手の手のヒントはなく手の内がバレていることが前提、さらにカウンティングを銀子と共に行いながら進めるこの勝負は通常のブラックジャックとは大幅に異なる。手の内がバレていることが前提である以上、ポーカーのやり方での常套手段となるカマかけは一切通用しない。自身の手がブラックジャックである時に大きく勝負を仕掛けることも当然できない。山札の残りがわかっていても龍香には不利ではあった。そんな中滞りなく勝負を進め、残りの山札が少なくなる。ここで、龍香は勝負に出る。明らかに不自然な賭け方に銀子も沙月も龍二も戸惑いを隠せない。カウンティング役を担っていて相手の手が見えずともある程度読める銀子の驚きはさらに大きい。
龍香の手は19、カウントからすると久山の手は21であるのが濃厚だというのに龍香は金の積みあいを始めてしまう。実際読みは間違っておらず久山は3枚の札の合計は21であり、手で勝てるはずはない。暫くしていると、入口から男が一人入ってくる。
「盛り上がってるねえ、真一君!」
「おっ、来た来た。紹介しよう、アミューズメント会社の社長の西村楓太さん。この人にもお金積んでもらうから」
そう言い、紹介された西村という男はそこまでで既に3億円積まれている卓の上に更に5000万を積み上げる。
「…成程な。そういうのがありならこっちもやらせてもらおう。10分待ってもらおうか」
そう言い、龍香は電話をかける。指定した時間の後、やってきたのは普段とは異なりスーツスカートを身に纏った舞花だった。
「ギャンブルに私を巻き込むなんてあんたバチが当たるよ…」
「とか言いながら協力してんじゃねえか。あんたがそういうことするなら私も同じような事させてもらうよ。舞花、金出してくれ」
「仕方ないね、ほら受けて更に5000万。4億円だっけか」
こんな調子で更に金は無尽蔵に積まれていく。億単位どころか1000万単位のやり取りにでも縁のない沙月は眩暈がしてしまうほどの応酬であった。そのまま8億円まで積み上がる。
「(どうする…俺は西村から金引っ張って15億までならいけるがこんな調子であっちに仲間呼ばれたら流石に押し負ける…しかも相手は見るからに反社会勢力だ、その資金力が測れない…)」
金の積み合いに限界を感じた久山は、逡巡した後にこう切り出す。
「なあ村山さん。俺はもう無理だ。この8億円でコールしたい。賭け金は青天井といったがこれで終いにしよう。レイズしないで欲しい」
「青天の約束だろうが。じゃあそれを嫌だって私が言ったらどうする気だ」
「ルール違反の違約金としてこの金の10%…8000万を支払う。8000万かコールして勝負かのどちらかにしてもらいたい」
「じゃあそれがどっちも嫌だって言ったら?」
「警察に通報する。ここが暴力団関係の持ち物でガサ入れから基本外されているカジノと言えど流石に現場を抑えりゃ捕まえざるを得まい。俺は親父や西村のコネで揉み消せるがあんたらはどうだ?」
「きったねえな、暴力よりタチ悪いじゃねえか。…まあいい、そう言うんだったら吞んでやるよ。ただそうなったら隠す意味もねえからネタバラシしてやる。久山残念だったな、読み違えてるよ。私が舞花を呼んだのはハッタリだ。舞花が積んでた金は私の金だ。お前の読みだとこうやって方々から金に縁のある知り合い連れてきて無尽蔵に積むって想定だったんだろうがこいつが積んだ分よりさらに乗せるとなると闇金から借りる必要が出るほどの金だ。もちろんそんな金にもなりゃ夕暮れにカラスがカァと鳴いただけで一割も金利が付くような地獄みたいな借金だいくら私でも返せねえ。大体この金全部すっ飛ばされるだけでもうちの組は破綻する、ギリギリだったんだわ。」
「…そうか、じゃあ」
「じゃあレイズなんてのは流石に認めねえぞ。お前からコールを切り出したんだハッタリに騙された自分が悪いと思って受け入れろ」
言葉を遮り、龍香は強く制す。脅しをかけた以上、更にそれ以上のことも久山は言えなかった。
「…それもそうだな。じゃあ8000万で」
終わりにしよう、と言いかけた刹那。
龍香から再びその言葉を遮り出された言葉は予想だにしないとんでもないものであった。
「ああ?久山テメエなんか勘違いしてねえか?私の選択は8億勝負のコールだよ、勝手に終わった気になるな」




