44.手入れ
某日の昼下がり。
事務仕事は龍二と真希に任せ、龍香は拳銃の分解清掃と刀の研ぎ直しを行っていた。慣れた手捌きで銃をバラし、煤などを取り払いすぐに元に戻す。
「早いっすね」
「自動拳銃なんてあんな下品なもんじゃないんでな。私の稼業は回転式拳銃に限る。」
「えー、でも連射とかできないと困りませんか?当たるとは限らないですし」
「お前が下手くそなんだよ。止まってる的であんなに散らしやがって、召し上げるぞ」
龍香のその言葉が彼女からしたら理不尽な怒りでもなんでもない、ということはこの場にいる2人はよくわかっている。射撃練習場で彼女は狙った箇所を外すことはまずない。自らの体術のみに頼らず剣術、銃撃の腕前も圧倒的な龍香はその力で自身の裏稼業を安定させている。
拳銃の清掃が終わると次は刀の研ぎに入る。砥石を用意し、軽く研ぐとすぐに白布で拭き鞘に納める。
「あれ、随分短いっすね」
「あまり使ってなかったからな。大体こういうのは本来プロに頼むもんで自分で手入れする物でもない。本当にやばい時は桜花に頼む」
「えぇ、でも桜花って信用できます?」
「私の手元に来る前の刀誰が研いでると思ってんだよ。巫女以外の仕事はあいつはちゃんとやるんだよ」
一方、如月神社社務所。
一見普通の神社の社務所だが、この神社の実態を知っている中でも特に舞花と桜花が気に入った者と巫女2人しか目に入れることのできない秘密の階段の下。そこに、巫女長如月舞花と如月桜花の二人はいた。
「ふぇっくしょん!だーれだ、私の事噂してんのは」
「噂を本当にしてるのなら大方龍香達だろう。」
「どうせロクな話じゃないだろ?私はこんなに真面目に武器の手入れとかやってるのにさ」
「そんなことはわかってるし、仕事でちゃんとやれとは私は言ったことないだろう。表面位ちゃんとしておけよ、あいつらはわかってるだろうがそういうところから信頼がな」
「へーいへい。やれることで頑張るよ」
舞花の話が長くなりそうだと断ずるなり適当に気のない返事をし、桜花は分解した自身の使用する銃器に目を向ける。拳銃しか持っていない龍香達とは異なり自動小銃や散弾銃、スナイパーライフルなど様々な銃火器を使用している彼女のそれはどれほど手馴れていてもそんなに早くは済まない。更には銃器に関しては販売前の動作確認や分解しての部品確認も行っており、銃器関連の仕事は桜花が一手に担っている。
「えーっと、とりあえず私の銃と売る予定のベレッタの調整が何丁だっけ舞花」
「8丁だ。お前の含めて9丁」
「で、ポンコツと桜烏の研ぎ直しがあって2日後まで…うっわ完璧1徹は確定だな」
「務めは」
「馬鹿かできるわけねえだろ!やる気以前の問題だわ、私は一人だぞ!」
「流石に冗談だ。じゃ、頼んだぞ。日が落ちた時と上がった時くらいには声かけるから」
「わーったよ、それっぽくするなら出てってくれ、あんたは巫女長だろ」
普段のやり取りと真逆になったようなやり取りを交わし、桜花は地下室に残り舞花は階段を上がり神社で表の務めに向かう。舞花がいなくなると、桜花の目からは普段の調子が消える。
彼女の武器商人として、刀鍛冶としての手入れや自身に与えられた研ぎという仕事への真摯さを知るものは少なかった。




