41.喧嘩狂いの若人
某日。街の中のとあるキャバクラ。
若い女性と話したがる男に散財させ利益を得るこの場の閉店間際に、そんな目的とはかけ離れた女が来訪する。女は待機している女には目もくれず一人の灰色のドレスを着た、この場では目立つボブカットの短髪の女を指名する。
女の源氏名は銀と言った。
「龍香さん!お久しぶりです!」
「銀子。ちょっと話聞きたくて来たんだが閉店時間過ぎてもいいか。こっそり金も渡してやる」
「勿論です!」
その女の本名は今泉銀子。現在はこのキャバクラで仕事をしつつ、暴力団関係者なども来店するこの店で情報収集を行い一門の人間や龍香に情報を売り渡す情報屋を兼業しつつ生計を立てていた。本来の閉店時間が過ぎた後に龍香への接客を始める。彼女の事はオーナーは勿論知っているため、追加料金をこっそり受け取ると本来は客を締め出す時間にも関わらず彼女を通す。
「ここと情報屋の収入がありゃ大学なんかもう一回入れんだろ。その気はねえのか。」
「はい。もう親にも勘当されましたし身寄りもないので…ところでお酒か何かお作りしますか」
「いらん。仕事中に酒は入れない主義だ。こんな時間に来てるんだからこの街の馬鹿共の話を聞いて覚えてる限りで教えてくれって話で来てんだ、それ以上でもそれ以下でもない」
「はい。まぁ最近はあまり荒事もなくて落ち着いてますね。…一つ例外はあるんですけど。龍一門の1人の若い組員がこの街で暴れまくってて龍一さんでも手が負えないとか」
「ほーん。この街で暴力団関係の怪我人が最近出まくってるってのはそれか。どっかで喧嘩してそうだな」
一方、街の路地裏。
一人の喧嘩屋とその一門の若い組員が、揉めていた。
一人は村山警備の非正規社員東雲藍太。どちらも喧嘩屋としてはかなり腕が立つ人間であった。
「なら殴り合いでケリつけっか、コラ」
「上等だこのクソチビ。かかってこい」
そうして路地裏での格闘が始まる、しかし。
「こんなところで喧嘩してんじゃねえよ!!」
たまたまその場を通った大男により、血糊が道に飛び散らぬ以前に一瞬にして二人とも気絶させられ制圧された。その男二人をあっという間に制圧した男は、言うまでもなく斉藤龍二であった。
「馬鹿かこいつら。…もしもし、姐さんっすか?」
『龍二か?どうした?』
「街中で喧嘩してた馬鹿2人潰したんすけど、こいつらどうします?」
『…とりあえずそこいろ。真希に電話して車出してもらって事務所に連れて行け。』
「承知っす~」
軽い調子で電話を切り、言われた通りに真希を呼び事務所に連れて行った。
「う~ん。…どこだここ」
「おう、気が付いたかクソ間抜けが。路地裏で喧嘩とか高校生みてえな真似しやがって。ポリ公に見つかったらどうする気だ」
「ゲゲッ、龍香さん!?なんでここに…」
「程を弁えねえ馬鹿に折檻してやるために連れてきただけだよ。金髪のクソバカは一二回タダ働きさせりゃいいがお前、龍一さんに日頃説教食らってるのに手の早さが治らねえらしいな。それを外部の人間の私が罰するなら実力行使しかねえからな…おい龍二」
「なんすかー?」
「目が覚めて早速だが死にたくなるくらいに折檻してやれ。ただし死んだら私がお前を殺すからな」
「…おいっす。指詰めたりとかは」
「私はその手の古臭いけじめの取らせ方は嫌いだ。とにかく死なない程度にならいくらでもぶん殴っていい、龍一さんに許可は貰ってる」
そうすると龍香は応接部屋から出ていき、龍二に始末を任せる。
「気絶させて送り返すか…お前、名前は」
「藤沢龍也ってもんだが、あんた龍香さんの腰巾着だろ?そんな奴に俺が」
全て喋らせることもなく、龍二は脇腹に凄まじい勢いの回し蹴りを龍也と名乗った組員に叩き込む。
「その腰巾着に秒殺されたのはどこのどいつだ馬鹿野郎がよ。死なねえ程度に俺が喧嘩の仕方を教えてやる」
喧嘩の仕方を教える、とは言ったものの龍二のそれは喧嘩ではないし龍香も喧嘩相手として龍二に任せたわけでもないことを言っている。これは喧嘩ではなく、ただ一方的に龍二が喧嘩狂いの組員を拳で悔恨させる折檻であった。鈍い殴打の音は数分で収まり、龍二が龍香の待つ事務室に再び気絶した龍也を投げ込む。龍二はジャケットに多少の乱れはあるものの無傷であり、格の違いを見せていた。
「お疲れ。掃除めんどくせえから引きずるなよ」
「折檻のせの字もねえっすよ、2、3分で気絶しちまいました。んで、これどうするんですか」
「とりあえず一門の事務所に連れて帰ってやれ。お前事務所の場所くらい覚えてるだろ」




