37.神に仇なす者
事務所に帰還した龍香は各所に忍び込ませた盗聴器から得られる話を要約し、宝星街各所の暴力団及び根本の依頼主の舞花に聖白教会の情報を展開した。やはり、目的はただ一つ。
街の暴力団の金や街に出入りする小悪党を収入源とした運営をすること。
「まあそんなところだろうな。こんなチンピラと暴力団しかいねえ街に拠点を作るなんていい度胸してやがる」
「で、どうするんすか?乗り込みに行くんすか?」
「依頼が来るだろう。私はタダ働きはしない主義だ。舞花にあの教会を叩き潰せなんて依頼はされてないからな。」
そうして、日が経つ。案の定教会による布教活動は日に日に苛烈さを増していく。単純に布教活動が激しいだけならともかく、街のコミュニティが警察の介入を阻止するために彼らの過激な行動を揉み消したり鎮圧した、という話も珍しくはなくなってきた。
そして遂に龍香の予想通り、何件かのコミュニティの代表と舞花が聖白教会の武力制裁を要求の為に夜の警備事務所に駆け込む事態に発展する。事態の進展の予想を立てていた龍香は、即座に龍二と真希に攻撃計画を共有した。そして、盗聴器から得た情報でもう一つ重要な情報があった。
教祖の男から、信者の1人に自身の殺害依頼が行われていたことだ。
「…嘗められたもんだ全く。特に鍛練もしてない素人が私と戦って勝負になる訳がないだろうが。でだ。龍二と私は正面から行って奴らを捻じ伏せる。武器は拳銃以外はいらない、あんな素人共殺す気は私にはないからな。」
「えー、それくらいやってもいいんじゃないんですか?」
「あれ、姐さんの相方真希じゃなくて俺なんすね。」
「仕事だっつってんだろ。単純な喧嘩ならお前の方が強いからな。それに真希には別にやってもらうことがある。関係はあるが別件だ」
そうすると、龍二を会議室から外させ別件の仕事を真希に伝える。10分と少しで二人は部屋から出てきた真希の顔は、龍二が普段決して見ることのない狂気めいた笑顔を浮かべていた。
翌日、拳銃を持った二人は営業用の乗用車に乗り真希のみは黒いハイエースに乗り込む。
「留守番はどうするんすか?」
「一人非常勤で新しい奴入れてるからそいつに事務所は頼んでるよ。シェリル一人じゃ突撃されたらどうしょうもないからな。正面から行くぞ、裏から行く意味はない。」
「意外と最近人入れてるんすね。」
「色々あるんだよ。仕事の前だ、黙って運転しろ」
時間はたいしてかからずすぐに教会に着く。出迎えるのは、以前変装した龍香に喫煙を咎めたあの女であった。手にはナイフを持ち、どう見ても穏やかに迎えるような態度ではない。
「…私が誰かわかってんのか?」
「…この間いらしてた方ですよね?悪く思わないでくださいね…」
そういうとその信者の女、理沙は龍香にナイフを手に襲い掛かる。しかし、殺人に対して躊躇を見せ戦うための鍛練もろくにしていない女が相手にするには数多の命のやり取りを乗り越え抜刀にも暴力にも一切の躊躇のない龍香はあまりにも相手が悪すぎる。ナイフが刺さることなど当然の如くなく、手首を軽く抑えられて簡単にナイフを落とす。
「あーあ、喧嘩売る相手悪すぎだって」
「意味が違うんだよ、察しが悪いアマだな。私が普通の人間に見えんのかって聞いてんだよ。そんな殺す気も微塵も見えない鈍臭いナイフが私に届くと思ってんのか…さて、出てきてもらおうか、教祖さんよ私らはあんたに用があって来たんだよ。」
「何かね、村山龍香くん。やれやれ、こんな暴力団御用達の殺し屋が来てしまうとは私も相当嫌われたようだ。」
「黙れ。その暴力団の黒い金を吸い取りにこんな所で宗教こさえてエセ未来予知で信者集めてる俗物が何言ってやがる。…いいか、そこの女よく聞け。こいつに神の力なんぞない。信者の力がなきゃ何もできない、ただの雑魚だ。…それにな。神など存在するのであるならば、私のような人間はこの世にはいない」
「そうだ、よくわかっているじゃないか。君のような人間は存在してはならないのだよ。者ども、こいつらは神に仇なす不届き者だ!!やれ!!」
そう道雪が呼びかけると、大勢の男たちが武器を持ち龍香と龍二に飛びかかる。しかし、この二人に数などは無関係。軽い身のこなしで武器を二人とも躱し、力技で複数人を一気に薙ぎ倒す龍二と確実に人間の泣き所に重い一撃を叩き込み抵抗させずに沈める龍香。
「なっ、何!?これだけの人間を素手で…!?」
「数なんぞ関係ねえんだよ馬鹿がよ!荒事に慣れてもねえ素人が俺らに勝てると思ってんのか!!」
「クッ、クソッ!」
道雪の指示の元龍香達に襲い掛かった男たちが全滅すると、一目散に逃げる。
「はぁーあ、やっぱりただの雑魚っすね。信者や参謀の助けがなきゃなんもできねえじゃないっすか」
「こんな浅はかな考えでここに来る時点でオツムもたかが知れてんだ。…龍二。」
「わかってますよ、あそこに追い詰めるんすよね」
そう言うと、二手に分かれ道雪を追いかける。しかし、二人に追いつく気は最初からなかった。
2人は敢えて追い付かずに追いかけ、道雪を放送室に追い詰める。
「さーて、年貢の納め時だな白上道雪さんよ。うちらに喧嘩売ってくれてどうしてくれようか」
「クソッ…信者を増やしてこの街の金を得て心行くままに生きていく気であった、そのために情報で未来をある程度作ってそれを信じ込ませていく手はずだったのに…」
「ほーう?…ねぇ姐さん、笑っちゃダメですか?」
「笑ってやれ、策をめぐらせようとしてたやつがこんな単純な罠に引っかかるとは思わなかったよ。しかも自分から考えてることベラベラ喋ってくれるし手間が省ける。…なあ教祖さん、この部屋は何の部屋だか自分で分かってないのか?ここは放送室だぞ?」
そう、龍香達は最初から自分でこの男に鉄拳制裁を下す気など最初からなかったのである。放送室に追い込み、自分の企みを館内放送で流させ信者達にこの男がどれほどの悪劣な男かを自らで喋らせることが最初からの目的であったのである。
「まっ、まさか…!」
「その通りだよ、この部屋の配線を少しいじくらせてもらって館内放送とここの盗聴器をドッキングさせてもらった」
「そっ、だからお前が勝手に喋った闇金チューチューしてえだの情報使ってある程度予見できる未来で信じさせてただの全部駄々洩れっちゅうこと。あー信者の皆さん怒るだろうなー可哀想に」
そう言うと、二人とも一切手を出さずに部屋から出ていく。種が明かされ、信者をものとしか扱ってないことも露見すれば信者達の感情はどうなるかは日の目を見るより明らかである。
怒り狂った元信者達は、血眼になり道雪を探し回っていた。
「この野郎、騙してやがったな!!」
「金返せ!」
怒号が聞こえるなり、道雪はある場所をめがけて急いで逃げ出す。怒れる洗脳の解けた人間たちと真逆の方にある正面出口から、龍香と龍二は軽く出て行った。




