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桃髪の暗殺者  作者: 村山龍香
#13 閑話(5)
35/55

34.壊れた少女

某日の道場。村山龍香、斉藤龍二、神崎真希、東雲藍太の4人が集まり合同での演習が行われていた。

「龍二、お前は今日は教える側だ。そっちの金髪に喧嘩の仕方教えてやれ」

「承知っす。って言うかこいつ雇ったんすか?」

「非常勤だけどな。人殺した野郎道に放ってなんかされても困るからな。んでもって真希はいつも通り私とだ。」

「はーい」

そう言い、戦闘の演習が始まる。龍二と藍太は明確に攻守を交えた訓練をするが、龍香はいつも通り、真希には相手の攻撃に対するカウンターとなる合気の技しか教えない。筋力トレーニングもそれなりにしているとはいえ、直接戦闘がある可能性がある仕事をしているにしては傍から見ると不十分に見えた。

そのまま時間は経ち、演習は終わった。

事務所に戻るとシェリルはいつも通りにパソコン部屋に引きこもりキーボードを叩いていた。真希は疲れたのかふらふらと自室に向かいすぐ寝てしまう。ドアも空きっぱなしで寝てしまったため、寝息を聞いた龍二が閉めに行く。

年相応の可憐な寝顔を見せる少女を見て、すぐにドアを閉める。そこに眠る少女はここで働くにはあまりにも不釣り合いに見えた。

「姐さん、なんで真希ってああなん」

「詮索屋は嫌われるって言ってんだろ。前話してやった昔話が大サービスだ。昔の事ならこれ以上私についてもあいつについても話すことはない。」

「…えーと、そしたらなんで俺には喧嘩の仕方とか攻守両方教えるのに真希には守備しか教えないんすか?」

「あいつに攻撃教えたらどうなるかわかるだろ。だから教えない。」

そう言われれば、龍二は納得する他はない。龍香も真希もこの事務所内では自分の仕事についてはある程度は隠すものの、殺害手段や依頼内容の一部は終わった後には意外と普通に共有する。しかし二人の話口には一点異なることがある。龍香は殺人に対して楽しそうに語ることは決してない。一方真希はその事を本当に楽しそうに語るのだ。人を殺すということの重みを一度誤射とはいえ体験した龍二にはとても信じられない程、彼女の殺人を行ったり死体の滅却を行ったりしたことを語る語り口は楽しそうなのである。

そんな少女が自分で特段準備もせず徒手格闘のみで人を殺しに行けるようになったらどうなるかは明白であった。真希が人を殺すところを見たことは龍二はなかったが、どういう風に仕事をしているかは簡単に想像がついてしまうほど真希の生死の価値観は壊れている。

なぜそうなっているのかは、龍香以外には誰も知らなかった。


三年前。

とある風俗店から真希を連れ出した龍香は、無理矢理に裏事務所の社員として契約させ殺人の仕事の片棒を担がせるようになる。その当時の真希はまだ殺害も死体処理にも抵抗を見せていた。

「おい真希、私と一緒にこいつバラすぞ。鋸持ってこい」

「何をしてるんですか!?そんな…!」

しかし、反抗的な態度を見逃すほど龍香は寛容ではない。

「黙れ。いいから持ってこい」

すぐに顔面を殴打し、持ってこさせる。真希が来た最初の頃は、衝動的に銃を乱射してしまっただけであり殺人は悪いことだという認識を真希は持っていたのだった。そんな真希を自身の手足として使うべく、龍香は20にもならないこの少女の感性を徹底的に壊すための教育をわずか一年で行ったのだった。自分で直接標的を斬ることを極力控え、街から離れた隠し倉庫に手足を縛って連れて行き敢えて真希に殺させる。銃を乱射したこともあれは悪くないことだと説き伏せ、相手を優位のままに殺害した時には褒め称えた。相手を殺していい人間だと刷り込まれた真希は自分は殺されて当然の人間を始末しているだけだと言い聞かせていた。

そして、いつしか神崎真希は自ら壊れる事を選んで行った。

龍香の圧に負けたわけでも仕事だからと割り切った訳でもなく、最初は龍香が怒らないようにやっていた自身と関わりのない人間を一方的に苦しめ死に至らしめる行為に不思議と彼女は興奮するようになった。誰もできない誰にも楽しめない恨みを溜め込んだ人間を自分の好きなように苦しめ殺せるという謎の優越感が彼女の中でできあがっていった。

普段生活してる上では極めて普通の少女であったが、その皮を破り出た彼女の狂気を見たものは恐怖で震え上がるほどのそれを内包した少女へと変わっていった。事実、真希は龍香と異なり特段腕力が強い訳でもないが反撃を許すことはほとんど無かった。いや、まるで血気盛んな子供の遊びのように残虐な殺害手段を取ろうとする異常な精神を少しも隠そうとしない彼女に恐れを抱き反撃ができないのである。それほどまでに龍香が膨れ上がらせた真希の狂気は圧倒的であった。仕事に対する抵抗感、殺人に対する躊躇がなくなったとともに龍香は仕事の割り振りを自分の考えた通りに振るようになりそして真希はそれに対して一切の反抗を見せなくなった。その時には、もう真希の脳や精神は完全に普通に世間に加わり生きていけるような状態ではなくなっていた。


「…普通に生きてたらどうなってたんでしょうね」

「そんなもん誰だって同じだ。私だって普通の家族に囲まれて今の年齢になってりゃ堅気で生きてたかもしれねえし、お前だって受験に成功してりゃグレて私に会う事なんかなかっただろう。あいつも中学高校にまともに通わせられるだけの財力はある両親の元に生まれりゃ働くのもまだで今頃大学受験か就職活動する年頃だろう。…だけどな、龍二残念だが私らは誰もそうはならなかった。更にお前は誤射で人一人殺しただけだが私も真希ももう数える事すらできない程に屍の山を作り上げた正真正銘の壊れ物だ。だからくだらねえこと考えてねえであいつはそういう人間だと思っておけ。仮にアイツをいきなり堅気の世界に放りだしたところで人殺しをやめる事などできはしない。そうはならなかった時点で、そんな架空の話は終わりだ。」

最後には冷たく話を切り、龍香は自身の部屋に向かう。その日は特に何もその後話すことはなく全員が眠りについた。

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