33.高すぎた勉強代
依頼が入って一週間。いつも通りの準備を整えた龍香と真希は非正規社員の藍太を呼び出し、計画のおさらいが行われる。件の暴走族のリーダー格の少年達を真希に任せ、龍香は藍太と共に下っ端を制圧して処分する算段となった。
「なんか普段と逆ですね。こういう時って龍香さんが頭行きませんか?」
「ヤクザに喧嘩売るって言うのはこういうことだって言うのを死ぬ前に焼き付けられるのはお前だと思ってな。準備してる間にやってたことも看過しがたいからな」
「龍二さんは…」
「あいつはこういう仕事には関わらせないことにしてんだよ。キックバックもくれてやるから、お前は黙って私の言う事を聞いておけ」
龍香達が準備のために時間を使っている間にも被害が多発していた。バイクのけたたましい音は鳴りやまず、うっかり一人で出歩いてしまった女を集団で強姦したり通りすがりの会社員の男に集団暴行を行い金品を強奪するなど被害は相次いでおり、誠一からもこのままなら近々街を見回ることを示唆されており依頼の遂行には時間はかけれなくなっていた。
「ポリ公がこの街に介入する前に片づける。翌日決行だ。車は二台使う」
翌日、少年達はいつも通り宝星街の表通りをバイクで荒らしていた。バイクを乗り回した後にアジトに戻るとそこには招かれざる客が二人いた。
「よお、やんちゃは済んだか青臭えガキ共が。」
少年たちの顔は一気に青ざめる。わずか一月ほど前にこの女と相方の男に十分な人数差があったにも関わらず成す術もなくやられたことを忘れてはいなかった。
「こ、この女…」
「ああ?相変わらず礼儀がなってねえなあクソガキ共が!!」
そう言い放つと龍香は言葉を放った少年に蹴りを入れ横転させる。馬乗りになると拳銃を突き付け続けざまに怒鳴り散らす。集団で悪さを働いているだけの少年達に、自分の人生の大半と同じだけの歳月極道として極道相手に渡り歩いてきた人間の剣幕と実際の武器を使われての脅迫の恐ろしさには耐えれない。
「ガキが調子に乗りやがって!!上等決めやがったクソガキはテメェだろゴラァ!!脳天に風穴開けられてぇか、アァ!?」
「ヒッ!?すんません、勘弁してください!」
「すんませんじゃねえだろうがボケがよ!!おい藍太!!こいつら全員攫え!!」
「ハッ、はい!」
指示された藍太は素早く全員を気絶させ、事前に渡された睡眠薬を全員に飲ませてすぐさま二人で車に運び込む。
「しかし龍香さん急に怒鳴らんといてくださいよ、腰抜かすじゃないですか」
「あんなんでビビってる時点で三流だよ。もう少し悪党らしく肝作っとけ。…お前、車の運転は?」
「一応できます。無免許ですけど」
「じゃあいい。給金は事務所で後でやるから、全員下ろし終わったらお前はあがっていい。…主犯の馬鹿共はあんなもんじゃ済まさせねえよ。」
数時間後。少年達のリーダー格3人は手足を縛られ、今まで経験したことのない異常な臭いの中アジトとは全く別の離れた倉庫で目覚める。
「…!?ここはどこだ?…あっ!」
少年はすぐさま立ち上がろうとするが手足を自由に動かせず芋虫のように這いまわるだけだった。他の少年達も同じく立ち上がることもできずに這いまわる。それを確認し、黒い清掃作業着を身に纏った不気味な清掃作業員の格好をした少女が立ち上がる。
「やっと目が覚めたのかな?フフッ、龍香さんこんな楽しい仕事を渡してくれるなんて」
「なっ、なんだ?何をする気だ!?」
少女は、書き記すまでもなく神崎真希だった。少年達とさして変わらぬ年である少女の笑みであったが、その少女の笑みは可憐ながらも状況と真希の狂気に満ちた青い目を考えると震え凍えるほどの不気味さ恐ろしさを孕んでいた。
「格好見ればわかるでしょ?お掃除だよ、お掃除。」
格好を見ればわかる、と言いながらも真希の手元にあるものは釘打ち銃とチェーンソーであった。普通の清掃でこんなものを使うはずがないことは言わずともわかるが、あえて真希は続ける。
「まぁ掃除って言っても君たちみたいな誰からも歓迎されない人達のお掃除だけどねぇ!」
そう言うと少年のうちの1人に釘打ち銃で両の足に釘を打ち込む。通常経験することなどまず間違いなくない痛みに、凄まじい叫びをあげる。
「がぁぁぁぁぁぁ!!」
「いい声で鳴けるじゃん。私知ってるよ、貴方達あの街で女の人強姦したとかしてたんでしょ?穴を穿って気持ちいいくせにやられるのは痛いんだ?まあすぐ痛くもなくなるよぉ!キャハハハハハ!!」
そう言うとその後は頭に釘打ち銃を突きつける。少女がその引き金を引くことに微塵の躊躇もしないことは、火を見るよりも明らかであった。
「やめろぉ!やめてくれぇ!!俺たちが悪かった!!反省するから!!」
「ここで言っても仕方ないから地獄で言って欲しいなぁ~」
聞き苦しい命乞いを一切意に介さず次々と釘を打ち込んでいく。馬乗りになり、体を痙攣させ糞尿を垂れ流し言葉を発さなくなるまでそれは続く。
「…逃げなきゃ、逃げなきゃ!!」
少年のうちの1人が、その異常な光景に恐怖を覚え錠前のついている扉に駆け出す。勿論、対応する鍵は真希が自身で持っていたのだから番線カッターなども持ち合わせていない少年が空けることなどできるはずがなかった。そして首にはチェーンソーの刃が当てられる。
「仲間放っておいて逃げるんだ?まあそれが見たくて君の縄だけわざと抜けやすくしといたんだけどさ。」
次は命乞いすらもさせぬ間にチェーンソーを動かし、首を斬り落とす。鮮血が周囲に撒き散らされ、首と胴が離れた少年の胴が横たわる。残りの1人の少年は最早茫然自失、叫ぶことも僅かな希望にすがり逃げ出そうとすることもできずに全ての活力を奪われた。
少年が最期に見たものは、今まで出会ったどの人間よりも恐ろしい狂気が溢れ出た目と顔をした銀髪の少女が自らの腹部にチェーンソーをあてがう光景。少女の狂気を具現化した邪悪な高笑いを聞くことはできず、彼の全てが終わった。
…一方その少し前。沖の上で、残った下っ端の少年たちが動力源もないゴムボードの上で目覚める。手足こそ縛られていないが着脱の難しいベストが全員につけられ、更に何かが仕込まれ重い。
「ここはなんだ?」
「目覚めたかボケナス共。この海がお前らの墓場だ。斬ってやろうかとも思ったがお前ら如きを斬ったら刀に失礼だと思ってな。だから銃弾一発で全員あの世に送ってやる」
「待てよ!殺す気かよ!!」
そう怒鳴られるも、場数の全然違う龍香はろくにたじろがない。悠然と笑みを浮かべ、返す。
「ああ。基本堅気にゃ手を出さないのがうちらの流儀だがお前らは堅気の人間じゃないと判断する他ないんでな。今日は冥土の土産に極道を怒らせたらどうなるかってのを教えてやろうかと思ってな。だがお前らはまだ幸運だ、お前らの頭目三人がどうなってるか今聞かせてやる」
そう言うと、龍香は携帯電話のイヤホンのジャックを引き抜き真希に繋がっている電話をスピーカーで流す。その先では、真希によって生み出された地獄の解体劇が行われ肉と骨をチェーンソーで切り刻む通常生きていれば聞くことは絶対にあり得ない音が流れていた。その音に紛れて入っているかすかに聞こえる真希の鼻歌が少年達の恐怖を一層に駆り立てた。
「…さて、冥土の土産は十分だ。お前らも沈んでもらうか。」
話は終わりとばかりにゴムボードとつながっている縄を解くとモーターのついた小型船の柵に結び直し沖に向けて船を進める。ゴムボードも引っ張られてついていき、ある程度沖に出た時。
拳銃を出し、少年達のうちの1人に掠めつつ、ゴムボードに穴が開くように発砲した。
泳ぎが極端に苦手な者はいないはずなのに全員が思った通りに泳げず、陸に戻るどころか次々と海の中に沈んで行ってしまう。海とプールとでは泳ぎの勝手が違うにしても、いささか不自然な沈み方だった。
「なんだ、これ…!?」
「なんかベスト着てんだろ、その中に合計一キロの釣りに使う錘仕込ませてもらった。浮かない錘なら高々一キロでもこんなところで溺死させるには充分な重量なもんでな。…そうそう、この沖は鮫がうようよしてる超危険海域だ。鮫の嗅覚は血液を25万倍の量の水で薄めても嗅ぎつける驚異的な嗅覚ってことは伝えておく。それじゃあな」
「このアマ…呪ってやるからな…!!」
「死に際ぐらいらしくしてたらどうだ。お前らみたいなハナクソの呪いなんぞあったところでたかが知れてんだよ。司法と関係ない世界線の人間怒らせたらどうなるかのいい勉強になっただろ、勉強代として溺死するか鮫に食われとけ」
穴が開き、萎んだゴムボードを引き上げ龍香は悠々と引き返して行った。銃創により負った傷から流れる血を嗅ぎつけ鮫が次々と集り、沈んでいった少年達を食い荒らした様を龍香が眺めることはなかった。




