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桃髪の暗殺者  作者: 村山龍香
#11 堕ちた法の番人
32/55

31.東雲藍太

そして、数日後。

村山警備の裏事務所に二人、社員でないにも関わらず暫くいた人間が二人いたが片方は別の所へ行くことが決まった。

「お世話になりました龍香さん。もう普通には生きていけないことは決まりましたが、これからもたまに会うことはあるかと思います」

「おう。情報源として頼りにすることもあるかもしれねえ。まあ小指は取られないように生きて行けよ」

住む部屋もこれからの仕事も見つかり、しばらく泊まらせていた茶髪の元女子大生の女は荷物を纏めていた。龍香は龍一門と如月神社に電話をかけ、彼女を働かせてやってほしいとわずかばかりの慈悲で持ちかけた。如月神社の方は舞花に即座に「やらされた仕事だったとはいえ元風俗嬢を巫女としてお務めさせられるわけがない」と断られてしまったが、一門の方は龍一が厳しく指導はするがキャバクラ嬢としてなら紹介はできるとなんとか引き取り先を探してくれた。勿論、一門お付きの情報収集のための機関とするための教育も含まれていた。

「そういや名前聞いてなかったな。覚えといてやるから名前は教えてからここ出てけ。」

「はい。私の名前は今泉銀子と言います。では龍香さん、重ねましてお世話になりました。」

銀子と名乗ったその女はもう一度頭を下げ、出て行った。以後、子を名前から外した銀という源氏名でキャバクラで働きつつ、情報をかき集めて売り渡せば利益が出そうな相手に売る情報屋としての二足の草鞋で生きていくことになる。

そして、もう一人ここに残る男、瀬川藍太。育ての母を殺害した気持ちの整理がつかず、未だにこの事務所にいた。しかし、その気持ちの整理を待ってられるほど龍香は寛容ではない。

「おい、てめえも流石に出てけ。いつまでも社員でもねえ奴ここに泊めてやるほど私は寛容じゃねえからな」

「人を殺したんですよ俺。しかも育ててくれた…」

「私に殺させようとしたくせに何言ってんだお前。だいたい私がお前の立場でもあんなバケモン殺してたよ。いつまでも気に病んでんじゃねえ。一応あと1日は待ってやるからさっさと出て行け」

そう言うと外回りの仕事があると真希と共に外に出て行ってしまった。藍太と、事務所内での仕事のみの龍二がその場に残る。

「まぁ姐さんもそう言ってるし俺としても一人の時仕事もしてねえ野郎が近くにいると気が散る。早く出てけ、辛気臭い顔でいつまでもいられると気が滅入る。…気持ちはわからんでもないけどな」

「…あんたも人を殺したのか」

「一人な。銃撃ってまずって死んじまった。それ以来引き金に指も当ててねえ。人殺ったって重さはだからわかる」

「龍香さんはああ言ってるけど」

「いや、姐さんは嘘はついてねえだろうな。あの立場なら姐さんは何の迷いもなく斬る。」

「なんでわかるんだよ。ずっと一緒に働いてるだけで他人だろう、あんた」

そう言われると深く息を吐く。

「…フーッ。俺は姐さんの過去も知ってる。ちょっと噂聞いてここきて1週間前に実物見たお前とはわけが違う。…姐さんはな、自分の父親を殺して極道になったんだよ。お前が捕まった年齢にもならねえうちにな。この話は絶対姐さんにはするなよ」


そうして、仕事が終わり龍香と真希が帰ってくる。真希はすぐに寝てしまい、龍香のみが事務室には残る。話しやすい環境ではあった。

「龍香さん。」

「なんだ。」

「俺、どう生きればいいですかね」

「司法で殺人を咎める奴はいないだろうな。だがお前はもう終わりだ。堅気を名乗れる日が来ると思うな。」

「ですよね。…龍香さん。決めました。俺をここで雇ってください。何でもします」

想定外の答えに目を丸くするが、すぐに答えを切り出す。

「確かに、うちで仕事する分にはお前みたいなろくでなしでも問題はないな。いいだろう…だがあいつらと違って直接雇う事はしない。お前あのデカブツと一緒にいただろう、単に喧嘩屋なだけじゃあいつと仕事がダブる。うちは少数精鋭が基本スタイルだからな。…支度金は少しは分けてやる、連絡先教えてここから出て行け。必要あるときに呼ぶ非常勤でなら雇ってやる。」

意外とあっさり非常勤とはいえ雇うことを認めた龍香だった。

「…ありがとうございます」

「殺させたのは私でもあるからその分だ。思うところがなきゃ雇いはしねえ。…ところでお前、名前聞いてなかったな。」

「せ…()()()()です。よろしくお願いします。」

瀬川美鈴に引き取られた時に名乗らなくなった彼の本来の氏名を、彼は敢えて名乗った。

それは司法の元正しく生きるという育ての母の教えを捨て、ろくでなしの両親のもとで生まれた司法と切り離された世界に堕ちたことを示す行為。


司法を信じ、どんな者も法の救いを受けると信じた女は救われずに殺され引き取った少年は法に見捨てられ自身の育ての母を殺して堅気の道を捨てた。法が彼を救うことはなかったのである。

仮に普通に意識を持ち彼女が生きていたら何を思うのかはもはや誰にもわからなかった。

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