30.親子の最期
数日後、闇医者八坂永斗を伴い龍香、真希、シェリルの3人は件の組に向かった。
「高く着くぜー。ヤク中の世話なら普通の仕事でもするけどこれ裏稼業だろ?」
「利益が出る必要ある仕事じゃねえから赤字にならねえ範囲なら出してやるよ。トントンなら十分だ」
真希の運転で事務所に向かい、1人で乗り込む。相手方の人数や現在の警戒度から見て1人で行っても倒し切れると踏み、一応念の為真希にも武装をさせたものの1人でやりきる構えで踏み込む。その見込みは正しかったようで、1時間ほど3人で待機していると真希の携帯電話に着信が入る。
「終わりだ。方がついたからとりあえず着替えと清掃用具持って入ってこい。」
組のトップを殲滅させ、組織運営を機能不全に陥らせ後は所有してる小さい事務所や店舗を回り無理矢理に働かされている人間達の解放に向かう。...しかし、それはとても残酷なものであった。
「依頼通りヤク中を克服させられそうなやつはうちで面倒見てやる。させられないやつは知らん。うちでは面倒見ないからお前の好きにしろ」
「悪いことをするけど殺すしかないだろうな。生きてても不幸なだけだ。」
「これしか基本解決方法ない人に好きにしろって随分ねえ。八坂さん、医者なら助けるために全力を尽くすんじゃないの?」
「赤髪の姉ちゃん日本人的な感性をどっかから受け取ったのか?助けちゃいけない命ってのも世の中あるんだよ。命は助かっても寝たきりで死なせてやることも法に縛られてできずに10何年も家族に苦しい思いをさせることもあるし、それが原因で死んでたかもしれない外傷が理由で理性の壊れた野郎は生かしておけば言われのない誰かを傷つける。そういう連中を死力を尽くしたポーズだけ取ってあえて見捨てるのも医者の仕事だ。それに俺は好きにしろと言っただけで殺せなんて一言も言ってないからな」
もちろん、殺すと決めた龍香は真希と共に止まりはしない。
助けられない、という永斗の所見が出た人間には容赦なく刀を振り下ろし弾丸を打ち込んでいった。
そうして選別を進めてるうちに、見覚えのある女の1人目に会う。
「お前は見覚えあるな。こんなとこでなにしてんだ」
「…本当にヤクザだったんですね。見ての通りです、貴方の言う通りにホストに財産も時間も奪われて親にも勘当されて破滅しました。まあ一緒に働いてた人とは違って幸いなことに薬物はまだ接種してませんが」
「不幸中の幸いだってわかるのなら結構だ。おい永斗、こいつは」
「所見出すまでもねえだろ。こいつ薬やってねえよ」
「まあいいか。お前、少しはうちで救済策講じてやる。ついてこい。…あと、うちらが何してても騒ぐなよ」
結果、永斗に薬物依存の治療のために見てもらえる人間はほぼ半数となりどうあがいても依存症から抜けないと判断された人間は一人を除き、全員が龍香と真希によって殺害された。
「…仕方ないとはいえやはりあまり気分良くはねえな」
「楽しくありませんね、撃っても何が何だかわかってないんですもん」
気分を害している理由は二人で異なることは伺える様子であった。そして、どうやっても助けられないという所見が出ているにもかかわらず、一人の人間は例の倉庫に生きたまま連れて行った。
「龍香さん、ところでなんであの人だけ殺さなかったんですか?お医者様も救える見込みなしって所見出してましたよね?」
「奴にも酷かもしれんが、これは見せてやらねえといけねえだろう」
その後、もう一人車に乗せた女子大生は裏事務所に置いて龍二とシェリルに一旦任せると今度は藍太を車に乗せ、再び例の倉庫に向かう。
「龍香さん、どこに連れていく気ですか?」
「…てめえの面倒見てた瀬川美鈴が奇跡的に見つかったから一応会わせてやろうと思ってな。ただお前の知っている美鈴じゃもうなくなってる。それを見て今後どうするかは自分で決めろ。あと、ベルトもう一本位巻いた方がいいぞ。」
そうして、倉庫の地下室に連れていくと意識がある瀬川美鈴がそこにはいた。髪は伸びきり、腕には幾多の注射痕がつきボロボロにされた名前を言われなければ同一人物であるとは到底認識することはできない醜悪な姿で。
「この人を気持ちよくすれば薬をくれるんですか?」
「とりあえず黙っとけ売女」
余計なことを喋る前に美鈴を気絶させ、会話ができる状態にする。
「…何ですか。何なんですかこれはッ!何の冗談ですかこれは!!」
「冗談じゃねえ。これが六年前にてめえ残して失踪した瀬川美鈴だ。重度の薬物中毒に陥って股開けば薬貰える以外のことは何一つとして頭にねえどうしょうもねえ売女になっちまってるがな。…法律は必ず人を救えるって信じてたのにその信念も全て薬でぶっ壊されてやがる。法が全ての人間を救えるわけではないってことを自分で証明しちまうとは何とも皮肉な話だ。」
…話は再び六年前に遡る。
龍香は他にも攫われた人間の解放のために奥に向かい、自身の目の前で殺人行為に及んだ彼女の逮捕のために龍香の言う事を無視して龍香を追いかけようと美鈴は追いかけた。しかし、監禁部屋に閉じ込められてろくに動けなかった美鈴はいくら警察官として必要な鍛錬は納めてるとはいえ日頃戦闘や暗殺の為にそれ以上に身体を鍛えている上に動き回って身体が解れている龍香にはとても追いつけるような体の状態ではなかった。
そして、彼女の言う通りに脱走しなかったことで暴力団員に見つかり、再び監禁される。用が済んだ龍香が助けに来るようなことは当然なく、数時間後に身ぐるみを引きはがされた美鈴は複数人の男に強姦された。
初めは当然の如く抵抗の為に様々な手段を取った。しかし、数十分を待たぬうちに男のうちの1人が中に入っている薬剤は麻薬であることは間違いない注射器を手に取り、美鈴に無理矢理注射する。
「あああああああああああああっ!!」
そして、美鈴に襲い掛かる未知の快感と幸福感。快感に屈服した美鈴が抵抗することはなくなり、薬物によって破壊された美鈴の脳からは今までの警察官としての誇りや、司法に対する忠誠心は全て消し飛んだ。そしてすべてを失ったその後は捕まった組の風俗嬢として藍太のことも当然の如く忘れ、薬を得るために男に媚を売り身体を捧げ堕落していった。
そして時は経ち、堅気の人間は死んだものとして捜索を打ち切り、誰も彼女の事を気に留めなくなり今に至る。六年に渡る麻薬漬け性交漬けの日々で、もはや誰にも救いようのない怪物と化していた。
「…殺してください。こんな人母じゃありません。こんな、こんな」
「成程な。…だが甘えんじゃねえよ。現実を受け入れるなら、こいつはお前が殺せ。殺した方がいいとお前が判断したならそれはお前が手を下すべきだろう」
「なんでですか!龍香さんは殺し屋じゃないですか!」
「暗殺者は稼業だ。私は辻斬りでもなんでもねえ、好き勝手に殺すのが好きなわけじゃねえんだよ」
そう言うと、その場に置いてある以前舞花からもらった廃品で作られた刀を藍太の元に投げる。
「そのナマクラならぶっ壊れても私は構わねえ。あとはてめえで決めろ」
その刀を拾い上げると、藍太は女に向けて、刀を振り下ろす。
「うっ…うあああああああああああああ!!」
たった数年とはいえ自分を育ててくれた人間の血を浴びた男の叫びが、地下室に木霊した。




