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桃髪の暗殺者  作者: 村山龍香
#11 堕ちた法の番人
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29.瀬川藍太

瀬川美鈴が失踪して数ヶ月後。1人の大柄な少年が、暴行罪によって少年院に送られた。

少年の名は通名瀬川藍太、本名東雲藍太。...記すまでもなく、児童養護施設より瀬川美鈴に引き取られた少年である。

生まれの運に見放されろくでもない両親の下に生まれ、彼が物心もつかないうちに両親は暴走運転の末に事故死し当たり前のごとく親族からも勘当を受けていたため誰一人として藍太を受け入れる者はおらず生まれた時から児童養護施設で育ち続けてきた。施設出身ということは最初は気にならなかったが、学年が進み知識を身につけた子供が増えるとからかわれるようになった。

無論、それを黙って見過ごす程荒れた環境で育った藍太は寛容では無い。反撃の為に空手を習得し、からかわれる度に過剰すぎる程に殴り返していた。まだ幼く力が無いうちはアザができる程度で済んでいたが、やがて彼も歳を重ね力が強くなっていき怪我の程度も冗談で済むような範疇を逸脱し始める。報復でとどめているとはいえ流血沙汰はしょっちゅうで果てには骨折する者まで現れるようになってしまう。

喧嘩に明け暮れ、やがて彼を表立って詰る者はいなくなった。ストレス発散に使おうとして、わざわざ痛い目を見に行く者などいはしない。瀬川美鈴が里親として彼を引き取ったのは、その頃だった。

彼女は母親として、彼が健全に育っていけるように司法に準じて生きていれば必ず報われると説き、彼が手を振りあげないように尽力をした。その甲斐あって彼はしばらくして喧嘩をしなくなった。...しかし引き取られて3年後、彼が高校に入学した時。


彼女は警察官としての仕事に出向いた後、帰ってくることは無かった。

数日間はひたすらに家事をこなし、帰りを待ち続けた。しかし1週間経っても帰ってこないとなると、流石に大人に相談し始める。

そんな時のある時。高校の中でいじめを見かけた。普段ならば止めるだけ止めて、自分が殴られてももう美鈴のために拳は振り上げないという決意の元黙っていただろう。

しかし、いつまでも帰ってこない美鈴の事もあって殺気立っていた()()()()()()()()()()()()()()。トレーニングは続け、大人の体になった彼の殴り合いの強さは知らず知らずの内に通常の高校生の範疇を大幅に超えていた。止めようとした彼を殴った報復として拳を振り上げ、いじめていた男子生徒3人を意識が吹き飛ぶ程に殴りつけ2人が喀血し意識朦朧として倒れ、主犯格の男子生徒をさらに殴っていた所に男性教員が複数人がかりで抑え込み、漸く昼休みの地獄は終わった。

警察を入れることを良しとはしない高等学校内の出来事とはいえ、ここまでの事態になってしまった以上警察に通報した生徒もおり、彼は暴行罪で逮捕された。

そして教員はいじめを黙殺し、誰も彼を助けなかった。そして成人し少年院から出た。違法行為をした者が咎められなかった現実に絶望した彼が、今更司法の元で正直に生きれるはずはない。美鈴がいなくなり前科持ちになったことから職も見つからず道を踏み外し、暴走族の端くれとしてさらに没落していく。

そんな中だった。彼は反社会勢力とも関わりを持つようになり、1人の女の噂を知ることとなる。

とあるビルでやっている凄腕の警備員が集まる警備会社の女社長である、と表立っては語られるがその裏の顔は狙われたことを知ったら死を覚悟しなければならないとされる究極の人斬りである、というその女の事を。


その女の名に、この男は聞き覚えがあった。


そして現在、村山警備裏事務所。

そこに、髪を金髪にした大柄な男が電話もかけずに押しかけてきた。

「龍香さん!いらっしゃいますか!?」

「うるせえな営業時間外だ。帰んな」

いつも通り、アポイントを取らずに来た人間に対して冷たくあしらい男を龍香は帰そうとする。しかし、しばらく名前を聞かなかった警察官の名を聞き態度は変わる。

「俺、瀬川美鈴の息子です。母の事を何か知りませんか?」

「…気が変わった。ちょっとくらいは話聞いてやる。上がれ」

そうして藍太は事務所に入る。真希は仕事でいなかったが、龍二は事務仕事のため電卓を弾いていた。

「…本当に普通の警備会社ですか?」

「わかってて来てんだろ。私が堅気から道踏み外して何年経ってると思ってやがる、お前ほぼ反社のチンピラだろ。そのくらい見てわからなきゃこっちの事務所に上げはしない。美鈴が泣くぞ、もう生きてんのかもわかんねえけど」

「そうだ。俺が話があって来たのは母の話です。…俺が暴行罪で逮捕される直前に、母は失踪しました。その直前、龍香さんの所に何度も行ってるっていうことも覚えてて」

失踪した、という言葉で龍香の目は鋭くなる。

「お前、逮捕までされてんのか。で?その逮捕されたのってのは何年前だ。」

「6年前です。」

「…なるほどな。先に言っておくが死んでる可能性は非常に高いし仮に生きていたとしても私らは探しようは基本的にない。精々私の肩の荷が少し軽くなっただけだ。…ただお前をそのまま帰す気にもならなくなった。おい龍二。こいつの分の毛布用意してやれ。しばらくここで泊まっていいぞ。」

やけに親切な龍香であったが、親切にするには勿論理由があった。

現在、6年前一門と争った組が細々と龍一門と争うための資金をかき集めているという話も小耳にはさんでいる。しかし、武器等の取り寄せで痛恨のミスを犯していたために龍香達はそのことを知っていたのであった。調達ルートの中に如月神社が含まれていたのである。桜花伝いに情報が流れてしまい周知されることになる。かなりあくどい風俗経営により資金を得る体質は変わっていなかったようで資金の大半が麻薬と風俗によって賄われていた。その調査を纏めてシェリルに振り、龍香は事が起こる前に資金の巻き上げと殲滅の為に乗り込む気であった。その期間、たまたま来た藍太には美鈴の事もあり少しの間置いておこうと考えたのである。


「お待たせー。相手の組織のメンバーと働かされている奴とかみんな打ち出したわよ。…ただ酷い営業者ね、結構な人数が重度の薬物中毒になってるらしくて助けようがない可能性もあるかもしれないわ。医者もちょっと呼んだ方がいいんじゃないかしら。そんな都合のいい医者が」

「いるから呼ぶ。私の職業も把握してるからいいだろう。さて、構成員と捕まった奴はっと...」

働かされている女の中に、2人見覚えのある女がいた。

1人はいつかの路地裏でチンピラから助けた女子大生、もう1人はあの瀬川美鈴だった。

「...生きてたのか。あれから6年も」

生きてたことに感心はしつつも、同時に哀れむ気持ちも出てきていた。


6年もあれから生きていながら龍香の元に1度も来なかったということは、生きてはいるが無事ではないということなのだから。

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