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桃髪の暗殺者  作者: 村山龍香
#11 堕ちた法の番人
29/55

28.抗争の一幕

拳銃と刀を持ち、龍香は翌日には一門の助けに向かった。

「りゅ、龍香さん!?もう組の抗争には関わらないんじゃなかったんすか?」

「金も名声もまだ足りねえんだよ。こういうところで腕見せねえと腕の信頼は得れねえだろ。…それにだ、こんなポリ公の事も気にせず剣の腕を試せる機会はねえ」

そういうと、左腕で抱えてた黒布を解く。今と変わらぬ、柄には烏の焼き印が刻まれ白木の柄に隠れた茎には闇烏と銘が彫られた闇の刀剣商如月舞花と如月桜花によって提供されている一等級の日本刀。

「安心しろ、私の力はお前ら全員分よりある」

その発言が驕りでないことは一門の人間はよくわかっている。一門にいた時から拳銃の腕も剣術の腕も男衆がまるで歯が立たず、このような争いの場においてもいるかいないかで被害に大幅に差が出ていた。

「おっ、女まで出てきたぞ。苦しいのか?」

「違うな。私が出てきたということはお前らの負けが決まったってことだ」

そう返した瞬間、銃を抜く間も与えずに龍香は相手の懐に飛び込む。その女の非常に小さい初動から繰り出される刀の鞘による打突を避けることはできず相手の男どもは一瞬にして呼吸困難に陥り悶絶する。

「さて、血祭りの始まりだ。壺の中に入っても恨まない奴だけかかってきな」

まるでこの命のやり取りを茶番劇のように言う龍香は銃が不利になる間合いまで詰め寄ると抜刀し闇烏を振るう。その後この技で絶対的な信頼を築き上げ数多の暴力団関係者から一目置かれることとなる必殺神速の剣術。その必殺の一振りは一撃で目の前に立つ数多の人間を骸へ変える。

「一振りで4、5人を纏めて…!?何だこの女は!?」

「言っただろう。壺の中に入って恨まねえ野郎だけかかってこいってな。」

「く、クソッ!」

刃から逃れた男が鈍器を振り上げ、龍香に襲い掛かるものの軽く交わされる。

「そんな一撃必殺狙いの魔神斬りが私に当たってたまるか。得物ってのはこう振るんだよ」

避ける体勢に移行し刀を出せる状況ではなかったが左手に持っていた鞘は振れる状態であった女は白木の鞘を男の右腕の関節に向けて振り抜く。鞘では死ぬわけがないが、関節はどう鍛えたところで守りようのない股間や喉に並ぶ人体の急所の一つとして知られる。刀剣の扱いを極めた彼女のその一撃は、男の腕の機能を破壊するのには十分すぎる一撃であった。

「ガッ…ガァァァァッ!!」

「私をバールなんぞで倒そうとして命あるだけ幸運に思え。もうその右腕は切断するしかないだろうがな」

後ろで見ていた一門の人間も命のやり取りとは感じさせない圧倒的な華麗さと実力を見せつけた桃髪の女に見惚れていた。後ろに気を回すだけの余裕まであった龍香は素早く納刀すると戦いの最中であるにも関わらず気を抜いていた自身の陣中の人間たちに一喝する。

「見惚れてんじゃねえよタコ助共が!私は貰った金の分しか仕事しねえぞ!!」

「ハッ、ハイ!ありがとうございます!!それと申し訳ありません!!」

ある程度の片をつけ、状況打開に成功したところで一門の事務所に行き報酬を貰って事務所に戻る算段をこの時点で立てていた。あくまで助けるだけ、と断ったこともあり退けられることが確実な状況となれば何時までも戦っている理由もない。そうこうしながら邪魔をする人間を斬り伏せながら走っているうちに、相手方の事務所の監禁部屋らしき部屋にたどり着いた。

「まさか自分の組員こんなところに閉じ込めねえだろう。電話してヤクザじゃない人間出てきたら助けてやるよう言っとくか」

龍香は相手方の情報もある程度仕入れてから仕事を受けるか考える、というスタイルはこの時から変えていない。この仕事を受けた理由の内には龍一への恩や自身の剣術の腕前の宣伝というものも勿論含まれるがそれ以上に相手の組の利益の得方が気に入らなかった、というところが強かった。この組は一般人を攫ったり裏通りで薬物の接種を年端も行かぬ学生に強要し麻薬漬けにした上で金を毟り取るという表社会の人間を食い物にして利益を上げる、龍香の言う「悪党に見合った悪党らしい生き方」とは正反対の商売を行っていたのを看過はできなかった。仕事とは別にそれらの攫われた人を助けるということも行うことも考えていた。鍵の解錠技術などはなかったが、シンプルな南京錠や閂であれば刀で叩き斬れることをわかっていた龍香は抜刀し錠を破壊した。

「逃げろ!安心しろ、私はお前たちを助けに来た!」

部屋の中には何人かの女性が閉じ込められていた。極道の女には皆見えず、攫われてこの後は裏風俗で無理矢理に体を捧げさせられるか組の女奴隷として擦り切れるまで使われるかであることは明白であった。流石に見送るまでは難しいので女達には自分が通ってきた道を教え、その通りに歩けば悪いヤクザに見つかる可能性は低いということ、その逃げた先につければ安全な所へ連れて行ってくれる人間がいる事、自分の事については助かった後は全て忘れ絶対に口にしないことを言いつけ解放した。しかし、全員がすぐさま出ていくことはなかった。その中に一人、龍香の事を見知る女がいた。

「龍香…貴女…」

「…美鈴、なんでこんなところにいるんだ。まあいい。今見ていることは全て忘れろ。施設の子供一人引き取ったとか言ってただろ。こんなところにいるべきじゃない」

「血錆の匂いがする…それに貴女が持っているそれは日本刀?まさかそれを振るったんじゃ」

「だったらなんだ。私を逮捕するか?そんなことを言ってられる状況じゃないことは…」

問答をしているうちに、監禁部屋の錠が破壊されたことに勘付いた男たちが入ってきた。

「何をしている!」

「チッ、だから喋ってる場合じゃねえってんだ!」

美鈴から目を切り、男たちに一気に距離を詰める。警察官の前だというのに闇烏を抜刀し一気に全員を斬り伏せる。あまりの躊躇のなさに美鈴は一瞬呆気にとられてしまうが、すぐさま意識が戻る。

「龍香!!何やってるの!?」

咎める美鈴に再び歩み寄り、美鈴の顔面を思い切り殴打する。普段静かに怒りを見せるはずの彼女の語気はこの時ばかりは非常に荒々しかった。

「んなこと言ってられる状況じゃねえのがまだわからねえのか!!あんたここにどうやって連れてこられた、ええ!?司法なんてもんは私やこいつらみたいなまともな道を外れた人間には通用しない、そしてあんたはそんな連中の違法行為によって無理矢理ここに監禁されたんだろうが!!あんたが今ここから助かるには逃げてった女たちと同じ風に私の事を見なかったことにして出てくしかねえんだ!!わかったらさっさと出て行け!!」

「いえ、何があろうと貴女を逮捕するわ。必ず更生させてみせる」

そう美鈴は龍香の目を見据えて言う。これ以上話しても無駄だと判断した龍香は説得を放棄し、別の部屋に向かった。何より、不当に捕まっている堅気の人間は彼女だけではないし攫われている一門の人間もいる。

「付き合ってられるかバカ女め!もういい、勝手に死にやがれ!」

「待ちなさい!村山龍香!貴女を殺人と銃刀法違反の現行犯で逮捕する!」

そう叫ぶも、元々走っていて足が解れている龍香にいくら警察官とはいえ監禁部屋に閉じ込められ、しばらく動いていなかった美鈴は追いつくことはできない。あっという間に美鈴の目線から龍香は消えていった。


そして、監禁部屋を全て開けて回り救出可能な人間は全て救出し龍一から報酬を得て事務所に帰還した龍香であったがその後あれ程逮捕すると息巻いていた美鈴は今日に至るまで二度と龍香の元へ来ることはなかった。勿論、逮捕状や捜査令状を持って警察官が来るようなこともなかったのである。

やがて月日が流れ、表向きの警備会社も上手く行き裏の稼ぎで赤字分を補填したりせずとも充分存続できるようになり、裏事業に関わる社員も少人数とはいえ迎え龍一門の後ろ盾はなくとも彼女の力量が認められて仕事も増えていった。

最初のうちは気にしていた美鈴の事もじきに頭から抜け落ち、今になって「そう言えばいたな」と思い返す程度になっていたのであった。

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