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桃髪の暗殺者  作者: 村山龍香
#8 生者と死者
21/54

20.禁忌を犯した日

某日。

斉藤龍二はさる暴力団の依頼により、重役の警護の為に出払っていた。その時。

「...!狙われてる!!」

咄嗟の判断で警護対象を伏せさせ凶弾をかわすと臨戦態勢に入る。こういう時龍二は相手を見つけたら素早く懐に潜り込み投げ飛ばした上で固めに入り、瞬時に無力化を計って引き渡す。しかし今回はそれはできなかった。

「(余りにも距離がありすぎる。銃で攻撃するしかねえ!)」

龍二は相手が死なないよう、足を狙い狙撃したつもりだった。しかし龍二は余りにも動く敵相手に撃たなすぎたせいで自身の技量を読み違えていた。腿を狙ったつもりが、完全に胴体を貫いていた。力なく相手は崩れ落ち倒れる。職業としては満点の対応であったが、龍二は尻餅を付き倒れてしまう。

「...嘘だろ。殺しちまった。」

その引き金は余りにも軽かった。軽く引いたその指先1つで、人の命は容易く消え去って行った。その事実は、仕事の時間にも重くのしかかる。それでも仕事だけはこなし、事務所に戻る。今まで、この男は戦いに主戦場を置きながら1人も人を殺してはいなかった。

「...お疲れ様です。戻りました。」

「お疲れ...?お前随分()()()()な。ちょっと仕事頼もうと思ってたがいい。部屋に戻って寝てろ」

「いや、やりますよ」

「いいから寝てろ。上司命令だ。」

様子を察したのか龍香はすぐに部屋に帰させてしまう。実際、そこまで傍から見て極端に顔色が悪いわけではなかった。これが咎められる行為でない事や警察が来てどうこうなるような事態でない事は5年にわたり龍香の下で働いている龍二にはわかっている。


しかし、人を殺した事実は消えない。


龍香が人を殺す所に立ち会っていたこともあり、龍香や真希が人を殺した話を聞いていたこともある。しかし、自身で手を下すとこれほどまでに違う。布団に潜り忘れようとしてもあの力なく倒れていく男の姿が目から離れることはなかった。


翌日。何故か龍二の仕事は無くなっていた。

「あれ?俺今日仕事じゃ...」

「ここんところずっと働いてただろうから()()()()()()。私がやる。お前は今日オフにした。部屋で休んでろ。」

ここで人の様子を察することには疎い龍二にも龍香が明らかに自分に対して譲歩をしている事がわかった。普段は多少オーバーワークだったとしても明確に疲労が見えない限りは仕事を自分から負担したりはしない龍香が今日に限ってそこまで働きすぎてる訳でもないにも関わらず何故か仕事を自身で負担してまで龍二を休ませようとしている。何かに気がついて配慮をしていたのは明白だった。

「姐さん...」

「喋んな。休み入れてやったんだから黙って休んでろ。」

普段通りの厳しい一言も挟むものの、普段と異なり蹴飛ばしも小突きもしない。しかし、礼を言うことも冗談も言うことも出来ずただ自室のベッドに戻るのみだった。

昼になり、龍香は本来龍二の仕事であるこの日の組に依頼された傘下店の帳簿の監査に向かうため外出していった。真希は泊まりがけで龍一門で仕事をしており、事務所には龍二とシェリルのみが残る形になった。

「...あら、私一人ここに残ってたつもりなんだけれど。貴方仕事は?」

「オーバーワークだってよ。休んでくれって」

事務所のソファにいつも通り腰かける龍二であったが、その声にはどことなく張りがないことをシェリルは見抜く。更には、今の龍二は普段の武闘派のヤクザを見慣れているシェリルからしたられっきとした違和感を覚える姿であった。

「...ふーん。まぁ、ゆっくり休みなさいな。」

そう、基本的に拳銃を携帯しているはずの龍二のスーツの左肩は下がっていなかった。拳銃を休みとはいえ、事務所に出ているのに持っていなかった。沈黙に多少の含みを加え、シェリルはパソコン部屋に戻った。

夜。今度は真希が帰ってくる。

「帰りました〜って龍二君しかいないのか。」

「おかえり。姐さんなら仕事だ。」

「ならチェスでもやろうよ。私もう暇なんだ。」

「いや、気が乗らねえわ。悪い。」

真希の暇潰しを断る珍しい姿を見せる。真希は意外な顔をしながらもチェス盤を元の場所に戻し、向かいに座る。

「何かあったの?」

「...人を撃った。相手は死んだ。」

「ふーん。でも仕事の流れでしょ?龍二君が気に病むことないんじゃないかな?」

人1人の命が無くなってるという告白をしたにも関わらず、真希の反応は軽い。龍二を思いやってではなく、本当に軽い反応であることは龍二にはよくわかっていた。

「人1人殺してんだぞ俺が。なんでそんな...」

「だってそんなの承知で襲ってきたんでしょヤクザの人を。刃向けられて撃ちませんなんてバカのやることだよ。それに人1人殺したらもう何人殺っても変わらないよ、これから撃ち放題」

「お前ッ...!」

龍二は真希の胸倉につい掴みかかる。しかし、真希は龍二が怒ったことはわかっても自身の発言の何が不味かったかには全く考えが至らない。彼女の脳は、最早それがわからないほどに壊れていた。

「なんで怒ってるの?意味がわからないんだけど」

「...悪い。でもどうしてお前そうなんだよ。俺が斬られた時はあんなに怒って」

「それは龍二君は仲間だからだよ。知らない人1人死のうが私に関係ないし」

どこまでも、少女の考えは龍二には理解ができない。以前2人で出かけた時にも話には挟んだが、人を殺めたという事実が重くのしかかっている状態の龍二にはその壊れた少女の発言のほとんどが受け入れられないものであった。

「...もういい。今日はお前と話しててもいい事なさそうだ。1人にしてくれ。」

「なんだ。つまんないの」

不満そうな顔を見せ、真希は自室に戻る。しかし、その時龍二はふと思った。

真希は、やはり生死の価値観に関してはどうしようもないほどに壊れている。一方、龍香はどうだろう。殺人を禁忌とすることを自分に再三言い聞かせ、実際それまで武器の携帯はさせてもいつでも堅気に戻れるようにと殺しには一切関わらせてこなかった。行動や言動を振り返るとその箍が外れているようにはとても思えなかったのだ。

なら、どうして彼女は殺しをするのか?今一度、龍二は龍香に答えを求めようと考えた。

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