19.表の世界との付き合い
某日、村山警備裏事務所。
スーツを着た、真希や龍二も知らぬ男が龍香と談笑していた。見知らぬ男であることに加え、更には筋者にも見えない。上の事務所にいる人間としては、些か不自然な人間であった。
「はい、まぁ私の方は変わりなく過ごしておりますよ。...そろそろ部下の視線も気になりますのでお引き取り願えますか?」
「わかったよ。またどっかのタイミングで来る」
こっそり物陰に隠れその様子を確認していた2人の事にはやはり龍香は気が付いていたらしい。男を帰し、鍵を直ぐにかける。即座に拳骨が2人の頭に振り下ろされ、2人とも蹲る。
「営業中にコソコソするな馬鹿共が!気が散るだろうが!」
「痛っ!」「痛い!」
「っつ〜。姐さん誰なんですかあの人?客でもなければスジの人にも見えなさそうでしたけど」
「...警察だよ。」
「えぇ!?まずくないですか!?」
「まずくねえよ。うちらの仕事なんて警察と仲悪かったら一発で終わる職業なんだぞ。表の世界の番人とは仲良くやるのは必要なんだよ。なにか起きた時にガサ入れ入っちまうしな」
しかし、龍二の事務所には警察が来た覚えは無い。警察への応対が手慣れている龍香の姿には違和感を覚えた。
「姐さん捕まったりとかしたんですか?」
「してねえよ。麻薬やら拳銃やらトカゲの尻尾みたいな端くれ事務所に押しつけに行ったことはあるけどな。警察と仲良くできないヤクザなんてろくでもねえんだ。来たことねえってんなら尚更縁切って妥当な事務所だったってことだよ。もう壊滅させたけど」
最後に不穏な言葉を足したことに龍二が当たりをつけ質問する。
「もしかして今日来たのって前のあの...」
「関係ねえ。あんな暴力団同士のチャンバラなんぞ嗅ぎつけて最初からその場にいて私に任意同行頼むくらいしか私を捕まえる方法はない。まぁどっちみち一門で地元の祭りの元締めやら半グレの不動産屋やらやってた私が今更普通の警備会社の運営なんて真っ当なことしてねえのなんて向こうさんだってわかってんだ。向こうは真っ当な会社だとは認識してないが私は表社会には手を加えてないし寧ろ警備会社の表の仕事では世間に利益を齎してる。害がない極道なんて向こうは手を出さないんだよ。」
言葉を切り、龍香は二人を部屋に帰す。
「どうでもいいけどお前ら今日はオフだろ。部屋着で事務所出てくるな。迷惑だ」
一方、龍香達の事務所から少し離れた警察署。龍香の元に来ていた警察官が戻っていた。
「桐島さんお疲れ様です。また件の警備会社ですか?」
「ん?ああ。村山のところのな。客の情報を喋る必要はないとか適当にはぐらかされたがまだGとは関りは持ってるみたいだな。あの一門は表社会に迷惑がかかるようなヤクザじゃないから令状要求とかは必要ないが定期的に監査はしておいた方がいい。それに気に入らない暴力団の情報はくれるし」
この男の名は桐島誠一。組織犯罪対策部、通称マル暴で龍香が龍一門に身を寄せてた時から務めている警察官だ。
「でも、ほっといていいんですか?たまに俺たちが令状出そうとしたヤクザがたまに神隠しにあったように姿を消すってアレ、あの人が犯人だって噂が…」
「あくまで噂の範疇を俺らの中では超えないし、仮にそうだったとして捕まえようがねえだろう。死体もないし殺った痕跡もないし何よりアイツらが事件としてうちらに持ってくるはずもないし失踪として受け取るしかない。それに暴力団員が行方不明になったところで誰も必死には動かない。害がないと見る他ないな」
「でも、気になって」
「おう涼太一つ耳打ちしといてやる。こんな部署にいてそうするのも難しいだろうが裏の世界とは過干渉は禁物だ。俺らが表の世界の番人だとしたら裏の世界にも同じような役割の人間がいる。村山たちなんかはまさにそうだ。そっちの連中は流儀を踏みにじろうもんなら俺らみたいに法律に乗っ取った制裁なんかじゃなくてあっちの流儀に基づいた制裁が待ってる。最悪死ぬことも覚悟する必要があるような過酷なな。令状がない限りは定期的に情報を交換する程度にしておくのが最適な関わり方だ。それにしつこい様だが表社会にあの一門と村山は迷惑ではない、それどころか村山に関しては警備会社の事業では寧ろ俺たちにとっても利益をもたらしてる。あくまで取引相手だと思っとくのが一番だ。ああいう人もいないと世の中回らないんだよ、警官がこれ言うのもアレだけどな。」
涼太と呼ばれた後輩警察官はそれを聞き、それ以上の追及は控える。しかし、誠一の言葉とは異なり彼は純粋な正義感として、ヤクザの存在を許すことはできなかった。その信念を訴えたいことは顔に出ていたのか誠一は更に言葉を添える。
「まだ腑に落ちてなさそうだな。これも足しておくが、そう言う正義感を持って連中と接するっていうのなら異動願かなんか出してこの部署からは立ち去ったほうがいい。黒い噂なんてお前が知ってるんだ俺が知らないわけがない。その黒い殺しだなんだってこと請け負ってるそいつらがお前のことを狙って来た時どうするんだ?万が一どころか億が一にも助からねえぞ。わかったら過干渉はするな。」
厳重に釘を刺し、誠一は荷物を纏めすぐさま席を立った。
場所は戻り、龍香達の事務所。
「拳銃とかってどうしてんすか?」
「見られたら一発アウトだから自室にある金庫からいらねえ時は出すなよ。この事務所に麻薬とかは入れないようにしてるけど流石に拳銃は持たない訳にはいかないからな。」
「まぁ机の上に置きっぱなしなんてアホなことは億が一にもやりませんけど。でもあの警官こっちに首突っ込んできたらどうするんですか?」
「あの人はその辺のこと弁えてるから令状ない限りは来ないよ。ただ後輩がしゃしゃろうとしてて抑えてるとは言ってたな。まぁ龍二、安心しろ。こっちのことを不必要に取り締まろうとするなら表の人間だろうと例外はねえよ。」
付け足した言葉がなくともその龍香の目は龍二に自らの考えを明確に伝えていた。
不要にこちらに関わるような堅気の人間は必ず殺す、と。
「...こっちの世界に不意に踏み込んでから姐さんに出会ったことを今改めて幸運だと思いましたよ。俺も殺られてたかもしれない」
「お世辞として受け取っとくよ。別に私の機嫌とったところで給料は上がらねえけどな。」




