18.休日
「さてと、私は外出してくるけどついてくるなよ」
某日、村山警備。今日は珍しく龍香自身がシフトを空けており仕事を3人に割り振って完全に自身は休みとしていた。
服を軽い物に着替え、ついてこないようにといいどこかへ出ていく龍香。その足取りは、誰にも追えないものだった。
彼女の趣味は賭博くらいしかない。事務所にボードゲームこそ置いてはあるものの、ただの暇潰しでしかなく別に楽しくてやっているわけではない。いつも通りに裏カジノに足を向け、日が落ちる頃に店を出る。極道にとっての最盛の時間に街に繰り出す理由。それは、悪の世界でのルールを通させること。龍香は、唯一の慈善事業として堅気の人間にちょっかいをかける極道気取りを目に見える範囲だけでも成敗していた。元いた組のこともあり、そう言った半端者の悪を見ると無性にイライラするのである。夜の繁華街を歩いていると、そう言ったチンピラはやはりいた。
「なあ〜姉ちゃんいくつ?俺らといい事しない?」
「やめてください!」
嫌がる女子大生ほどの年齢の女に男達は近寄る。その男達3人の背後に龍香は近寄り声をかける。
「ふーん、いい趣味してるね。私と遊ばないか?」
声をかけられ男たちが後ろを振り向くとそこには豊満な四肢と美しい顔立ちの女がいた。そんな女に遊ぼうなどと言われた男たちは下心を隠そうともせず近付いてくる。
「お姉さん、いいんで?」
そう気色悪い声を上げながら胸に手を伸ばしてきた男の鼻っ柱に強烈な拳骨を食らわせる。抵抗する事も出来ずに、男は一撃の元倒れる。
「誰が下で遊ぶっつったよ脳みそ海綿体が。喧嘩に決まってるだろうがボケ。」
「テッ、テメェ!」
大柄な男が激昂し近寄るが、この程度の相手など造作でもない龍香の顔に焦りが出ることは無い。そして龍香は一目で見抜いていた。大柄な男2人と小柄な男とがいて、大柄な方の序列は低いことを。
「あ?やるか下っ端が。そっちのチビだろう頭目は。」
「...!?なんで序列が...!?」
小柄なチンピラは、龍香の顔を凝視する。ある程度顔を見るとみるみる血の気が顔から引いていき、急に畏まりだす。
「し、失礼しやした!!すみません!!」
「あー?私の顔がわかっててこんなことしてんのか?」
「い、いえ!今後はこいつらにも言って聞かせますので...!」
「ならとっとと失せろ!白い天井見つめて生活したくねえんならな!」
そういうと、倒れた男を引きずり、もう1人の子分の耳を引っ張りそそくさと男は立ち去った。
「お、親分?なんであんな女にあんな頭下げて」
「この馬鹿!!本物のヤクザだよ!!俺らみたいな半グレと訳が違う、指詰められたりしたらどうするんだ!!」
「ええ!?」
「チッ。大丈夫か、お前。」
慌てて逃げた男たちを見送り、龍香は女に声をかける。
「あ、ありがとうございます。」
「お前もこんな時間にこんなところ彷徨くな。こんな時間のこういう所にはあの手の股間に頭ありそうな野郎がふらついてんだ。どうしても来たきゃ昼にしろ。」
「すみません、クラブに行きたくて」
「やめとけ。お前みたいな奴から金召し上げて他の女と遊ぶようなのばっかりだ。まだ将来があるんだからこんなところのクラブ遊びなんてやめとくんだな。」
「随分色々言うんですね。親でもないのに」
「悪いけど親御さんより説得力があるんだよ。ほらよ」
そう言うと、龍香は袖をたくし上げ女に左腕の刺青を見せる。十字架に巻き付く昇龍の彫られた左腕に女は驚きを覚える。
「…普通の人ではないんですね。」
「ああ、生憎世間一般でいうヤクザって立場だ。わかったろう、ここは私らみたいな連中の場所だ。大方ホスト狂いかなんかだろうがさっさと立ち去れ。」
龍香はそのまま女の方から目を離し、立ち去ろうとする。
「なんで助けたんですか?」
「…世間知らずなお前に教えといてやる。本物の悪党はな、お前みたいな奴には関心などないし関わろうともしないんだよ。そして私はお前みたいに中途半端に首を突っ込んだりさっきのチンピラみたいにお前みたいな一般人にちょっかい出す悪にもなりきれない半端な奴が嫌いなだけだ。…もういいだろう。二度とこんな時間にここには来るな。親がどうとか言ってるのなら真っ当な家族もいるんだろう、こんな暗がりには飛び込むべきじゃない」
「貴女には家族はいないんですか?」
そう問われ、一瞬足を止めるがすぐに龍香は立ち去って行った。
「家族ね。いなかったことにしたいよ。」
ある程度夜の街を見て回り、龍香は事務所へと帰っていった。パソコン部屋に籠りきりのシェリルを除いた二人は仕事を終えて事務所で賽子で遊んでいた。
「ヨット!」
「うがあああ!!なんで揃うんだよ!!」
「…うるさいぞお前ら、仕事は終わったのか?」
龍香の声が聞こえると、二人はドアの方に向き直る。
「あっ、おかえりなさいませ姐さん!バッチリです!」
「終わってんならいいよ。私はもう寝るから、あんまり騒ぐなよ」
そう言うと、さっさと龍香は自室に向かう。部屋には刀が立てかけられ仕事用のスーツが吊るされ、タンスの中には替えのワイシャツと私用の服が数着入ってるだけの女性の住む部屋としては簡素すぎる部屋だ。
「仲間はいるんだよな。変な感覚だ」
そう小さく漏らし、すぐに龍香は眠りについた。




