17.報復
そして、三日が経ち。美月の遺品の携帯の解析が終わった。
「龍香ー終わったわよー。とりあえず電話番号から回線総当たりですぐわかったけど勘違いじゃ困るからちゃんと確固たる根拠も合わせてね」
「ルートなんかどうでもいいんだよ。結論を言え」
「貴女つまらないわねえ。まぁこいつよ」
そう言い、シェリルは依頼人に関する情報を細かく書いた一枚の紙を差し出す。その書かれた男に、龍香は見覚えがあった。
「龍二、ちょっと来い。」
「何ですか姐さん」
「怪我の具合はどうだ?明日私を殺ろうなんてナメたこと考えやがったクソ共を殺りに行く。お前も来い」
人を斬りに行く仕事に、真希ではなく龍二を連れていく。その意図は極めて分かりやすいものだったが、龍二は確認を怠らない。
「真希じゃなくて俺って辺りでなんか臭いんですけど、俺に関係ある奴が犯人ですか?」
「関係はねえな、ありはしたが。こいつだ」
シェリルが纏め上げた依頼人の情報の紙を読み、龍二は納得する。
「成程。ちょっとこれは俺が一発くらいはどつきたくなる奴ですわ」
「だろう?まぁ腰巾着共は私が殺る。シェリル、外部の掃除屋の手配をしてくれ。派手に殺りに行くし真希には今回の山は触れさせない。」
「了解。火葬屋が儲かるわね」
「金なんぞどうでもいいんだよ。この世界でナメられることは死と同義語だ。見せしめの意味合いもある」
「北条とは連絡が取れんのか!」
「数日前から全く連絡が取れません。…?」
正面の戸から音がし、男は振り返る。他の男たちが入り口に行き、暴力団の事務所に踏み込もうとした連中を追い払おうとした。
「なんかの間違いじゃねえのか?帰んな。」
「間違いで来ると思うなよ。それとも手首ぶった切られたのに私の顔を忘れたか?」
「…お、お前は…!!辻斬り龍香…!!」
上がりこんできた女に男が慌てて銃を抜こうとするがそれは叶わない。銃を抜くより遥かに早く刀が抜かれ、男は後ろに倒れる。
「至近距離で銃使う馬鹿がどこにいるんだよ。5年前にも言ってやったのに忘れたのか。辻斬りって通り名は好きじゃないが今日だけは辻斬りになってやるよ。組員総崩れの恥を残して地獄に落ちろゴミ共が」
次々と男たちが襲いかかるも、龍香にはただの一つも傷は入らない。集団を見切り、必要最小限の刀の軌道で全員に確実な致命傷を負わせる一対複数を前提とした無双の抜刀術。龍二はここに来る前以来に龍香が刀を振るうところを見ているが、そこに殺意が加わった時の強さをこの場で目の当たりにしその圧倒的な強さに震えさえも出る。
「…すげえ」
「見惚れてる場合か。あのタヌキ親父殺しに行くぞ。」
そして一方その奥では、この事務所の主が大慌てで脱出の準備をしていた。
「クソッ、あの無能め!あの小娘めどこまでも邪魔を...」
「邪魔で悪かったな、霧ヶ崎さん。」
しかし、その脱出は間に合わなかった。そう、龍香の殺害を依頼した人間は嘗て一般人を薬漬けにして闇に落とす組との麻薬取引を行おうとし、龍香に企みを看破されたうえ手痛いしっぺ返しを食らった龍二が所属していた組の組長であった。組員に多大な被害を出した上に足元を見られた為麻薬取引でも大赤字を出し、更には龍香が裏社会でその実力で幅を利かせるようになった為に組としての権威が著しく下がっていき、その事で龍香に強い恨みを持つようになっていったのだ。
「脱出の準備っすか〜いい身分すね〜お手伝いしますよっと!!オラァ!!」
後ろから出てきた龍二が嘗て自分が世話になった男に向けて鼻っ柱を思い切り蹴り上げ続け様に顔面にも凄まじい威力の右ストレートを見舞う。歯が何本か折れる嫌な音がし、痛みで悶える。
「りゅ、龍二貴様...誰が面倒を見てやったと思って」
「嘗ての恩なんか知るかこのデブ親父が!テメェのみみっちい姐さんへの恨みでこちとら左腕生ハムのスライスにされかけてんだ!!」
龍香が間に入り、更に顔面に蹴りを加える。口から血を流し悶える男に、龍香は龍二に促す。龍二は、懐から拳銃を取りだし組長に投げ渡す。
「最期だから試してやる。その銃で自決しろ。」
「姐さーん、趣味悪いっすよ」
「いいんだよ。私はバツに賭けるがお前は?」
「俺もバツっすよ。賭けになりませんって。」
組長は一旦は自分の顬に拳銃を当てる。しかし、引き金を引く瞬間に龍香の方に拳銃を向けた。しかし、龍香が倒れることは無い。弾など、最初から入っていなかったのだから当然の結果だった。
「ほらー。俺2年くらいはこれの下にいたんすよ〜?性根くらいわかりますって姐さーん。」
「ふん、底抜けの腰抜けなのはよく分かったよ。こんな奴斬るのは闇烏に失礼だ。祈りの時間を与えてやるか。ロシアンルーレットでもするか。あとは祈れ。手下もいなくなった貴様にできることなどそれだけだ。」
そう吐き捨てると、龍香は懐からリボルバーを取り出し、弾を一発篭めると右手で回す。ある程度回して閉じると、撃鉄を起こす。そして組長は祈る。自身に凶弾が向かわず、再び目を見開くことが叶うことを。しかし、その祈りは通じず額を龍香が放った弾丸は貫き息絶えた。祈りなど、通じるはずがなかった。
「姐さん今日はほんと趣味悪いっすね。」
「その通りだよ、最初から5発入れてんだから弾足した時点でルーレットになんかなってねえよ。6/6で当たりなんだから祈っても無駄だ、あまり私をナメるなよ。」
極雀会の事務所に乗り込んでわずかに1時間ちょっと、あまりにも圧倒的な殲滅劇に実際に本気で人を斬る姿を目の当たりにした龍二は感嘆するしかなかった。
「しかしたったの一時間ちょっとでこれですか」
「ちょっと久々に本気出したわ。あまり私をナメてもらっちゃ困るんでな。多少手を抜いたほうが美容の為なんだがそんなことよりメンツのが大事だ。さて、掃除屋呼ぶか…」
「…姐さん美容の事なんて気にしてたんすね」
「…お前も後で殺すか」
それからしばらく後、村山警備のトップを狙った組がわずか一週間のうちに存続不可能なほどに組員を崩され解散に追い込まれた、と裏社会の風の噂で出回った。極雀会の傘下のバーなどは龍香と龍一門で手分けして傘下とし、更に強力な地盤を構築していった。
「結局、ただの当て馬になっただけみたいね」
「ふざけんじゃねえってんだよ。龍二は仕事行かせらんなくなって補充要員臨時で雇って仕事でもねえのに火葬屋大回しで癇癪持ちは謹慎させて大赤字だ。今回出てった金はロイヤリティーで徴収してくしかねえな。品はねえが金がなきゃ経済は回らねえ」
愚痴る龍香であったが、引き入れた傘下の店の上納金によって賄うどころか以前より収益が増えたことに気が付くのは、しばらく後の決算の時であった。




