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桃髪の暗殺者  作者: 村山龍香
#5 閑話(2)
15/54

14.神崎真希のある日

「暇だなぁ」

ぼやく少女は、普段の事務所でなく離れの倉庫に一人いた。

今日の神崎真希は倉庫での番を命じられていた。掃除屋としての仕事のためだ。

薬品や別室の清掃をしていると、目の前に黒い1台の車が止まる。普段真希が運転をするその車のナンバーを真希が見間違えるわけもない。

来たのは村山龍香だった。

「真希!仕事の時間だ!」

「はーい」

ドアを開けると、心地よく眠った男と共に入ってくる。勿論、薬で眠らせてだ。

「今回はここでこいつに死んでもらう。解体は任せた。()()()()()()()()()()()()()()()()()。じゃ、後よろしく。」

薬で眠っている内に殺害してしまえば声も漏れず、離れにある倉庫でそれ専用の備えも想定しているこの場において死体の持ち出しの必要もない。周囲への配慮の必要を龍香がわざわざ諭した理由はただ一つ。眠っている間に殺すわけがないと踏んでいるからだ。実際、龍香がその場を立ち去っても真希は地下室に男を連れていくのみで薬が切れるのを待つのみだった。

「…?ここはどこだ?…!?なんで縛られてんだ!?」

「ああ、お目覚めですか。でも今からもう一度寝てもらいますよ。」

「お、お前あの辻斬りんところの掃除屋!これ解け!」

目覚めて錯乱する男を真希は冷たい笑みを浮かべながらナイフを持ち近づく。

「解くわけないじゃないですか。どれくらい男らしく散るかを見るために待ってたんですから」

「やめろ!近づくな!」

「…期待できなさそうだしもう静かにしててくれますか?できるだけ痛いようにしますから」

そう言うとマスクとゴーグルを下げた真希は男に近付き、口に布を丸めて入れナイフを手始めに膝に突き刺す。わざと痛覚を覚えるように刺し刺された男は布のせいで声にならない悲鳴を上げる。

「ンーッ!」

「えーと、意識あるままお腹捌くのが痛いんでしたっけ?まぁ死んじゃったら面白くないしとりあえず目玉片方抉りましょうか。見えたほうが怖いですよね」

そう言う真希の顔は、もはや齢17歳の少女がする顔ではない。幾多の人間を殺め、その骸を眺め興奮を覚える一人の快楽殺人者。

仕事ではなく、興奮を得るための餌として目の前の縛られた男を見ていた。というより、そう言うように見るようになるよう桃髪の女から教育をされていた。

「ふふふっ、痛みが消えるまでみっともなく息して私を楽しませてくださいね。」

目を抉り、爪を剝ぎ、骨を潰し、ナイフを突き立て真希は男の反応を見る。しかし爪を剥ぎ指の骨を潰す段にもなると男はとうに失神していた。ナイフを横に捌き内臓を切り開くのをやめ、チェーンソーの電源を入れる。

「もう壊れちゃった。根性ないなぁ」

生きながらにして物言わぬ姿となり、だらしなく失禁した男に躊躇なく少女は刃を入れた。

「…ふぅ。龍香さんですか?終わりました。地下で焼いて帰ればいいですか?一応樹海に捨てることも考えてバラバラにしましたけど。」

「随分時間かかったな。お前の事だからどうせ薬切れるまで待ってたんだろ。」

「まずかったですか?」

「いや、()()()()()()()()()。ただ地下室でちゃんと殺ったんだろうな。」

「はい。声が万が一外に聞こえるとまずいですし」

「ならいい。臭い消しだけちゃんとして焼いて帰ってこい」


翌日。この日は龍二のみが仕事で出払い龍香と真希は仕事もなく事務所でのんびりしていた。シェリルのみは龍二と連携して仕事をしているようでパソコンに張り付き、地図を眺めたりメールを打ったりしている。

「しばらくは掃除の仕事がメインですか?」

「いや、面白くもねえだろうが外回りだな。龍一さんや私が睨みきかせてるからどいつも大人しい。今日は多分仕事もねえだろうからゆっくりしていいが明日は龍二と一緒に如月神社行ってこい。刀の手入れの用品とお前の使ってるSIGの弾が入ってきてるはずだ。龍二と舞花は確か会ったことないはずだからちょうどいいだろう」

「闇烏はどうするんですか?」

「見てもらう必要あるなら私が行くがメンテナンスの道具あれば私で何とかなる範囲のことだからいい。それに一門の方に用事がある。シェリルはパソコンのメンテ、暇なのはお前ら2人。適当に雑談しながら行ってこい」


翌日、龍二と真希は言われた通り如月神社に向かう。

「真希ー運転頼むー」

「私の免許証偽装なのくらい知ってるでしょ。本物の免許持ってるんだから龍二君運転してよ。偽免許で違反で捕まったらめんどくさいし」

「まだ姐さんの偽免許使ってんのかって思ったけどそういやまだ免許証取れる年じゃ本当はないのか。でも姐さんの指示なら運転するじゃん」

「龍香さんは私の上司、龍二君はただの同僚。偉い人の言うことには逆らわないのがこういう世界じゃ普通でしょ?」

「そう言われちゃ返す言葉もねえわ。しゃーねえ、運転するよ。酒も飲んでないし大丈夫だろ。」

そう言い、龍二が運転席に、真希は助手席に座る。如月神社は龍香達の事務所からは意外と遠い場所にあり、車でも一時間ほどはかかってしまう場所にある。

「そういやこんなパシリとはいえ一緒に仕事するの珍しいな」

「そういえばそうだね」

依頼があればほとんどの場合自分で動く龍香と異なり他の三人は自分の専門の仕事をしている。龍二は事務所の会計と用心棒のような人殺しには絡まない暴力の仕事。真希は殺しと証拠隠滅。シェリルは情報収集や情報操作などのアンダーグラウンドな仕事をしている。それぞれがそれぞれに別々のタスクをしているため、同じ事務所で共同生活こそすれど事務所の人間と共に仕事をするのは基本龍香となり一緒に仕事することは少なかった。

「姐さんがいねーから気になること聞けるんだけど、仕事辛くないの?」

「何が?」

「いや、お前いつも姐さんの殺った後の現場の後始末とか殺したりとかしてるんだろ?メンタル的にさ」

「普通の人じゃできないことをやってるのって楽しくない?優越感っていうかさ」

真希は、普通に生活している上では龍二とも仲良くしていて龍香や依頼人にも礼儀正しく対応するできた人間である。しかし、龍香によって殺しの仕事の片棒を担がせるためにこの少女の倫理観は徹底的に破壊しつくされた。その少女の感性は、龍二には理解できない。

「・・・うーん、聞いた俺が悪かった。仕事楽しいんならいいわ。」

「龍二君はどうなの?」

「俺?俺は姐さんに忠誠誓ってるから。楽しいとかなくても忠義のために仕事はきっちりやるぜ」

そうこうしているうちに、如月神社に着く。本殿は当然のように無視し、真希は社務所に向かう。

「あれ?あっちじゃねえのか?」

「こっちだよ。ごめんください、村山警備です」

くぐり戸を叩き、中にいる巫女を呼び出す。

「おっ、礼儀がなってると思ったら真希ちゃんじゃん。あのチンピラと違って人ができておどぅあ!?」

大柄な巫女が真希に親しげに話しかけてるのを遮り奥の中背の黒い巫女服を着た女が思い切り引っぱたく。

「お前が人できてないのに何を言ってるんだバカタレが!それに桜花お前境内の掃除もしてないだろ!」

「えぇーいいじゃん今日のお務めは真面目にやったじゃんよー舞花ー」

「務めは真面目にやって当然だし終わってないから言ってるんだよ!今すぐやってこい!」

竹箒で更に尻を叩くと乱暴に舞花は箒を投げつけ、掃除に向かわせる。この強い主従関係に、真希と龍二は既視感を覚えて顔が緩む。

「どこかの誰かさんみたいだね、桜花さん」

「全くだ。既視感しかねえや」

「やれやれ、見苦しいところをお見せしたね。そちらのお兄さんは斉藤龍二さんか、初対面だな。はじめまして、ここの巫女長をしてる如月舞花と言う。」

「えっ、俺の事知ってるの?」

「龍香がいつも言ってるぞ、『お互い身体だけデカいやつが出来悪くて困る』ってな。」

真希が口を抑えて笑う一方で龍二は頭を抱える。抱えつつも要件を伝える。

「...えーと、うちらが来た要件はわかってんのか?」

「ああ、わかってるよ。そちらのお嬢ちゃんが使ってる拳銃の弾と日本刀の手入れの為の砥石やらなんやらだろ?ちゃんと全部現品で抑えてるよ。料金は現金で受け取ることになってるがあるかい?」

「言われなくても持ってきてるよ。こんなもん小切手やクレカで買うの頭イカれてるやつがやる事だ。ほら。」

龍二が懐から札束を取り出し、舞花に差し出す。

「はいお納めありがとうよ。しかしこれだけの金をポンと払う辺りあいつ相当稼いでるみたいだね。」

「俺や真希も給料はそれなりの額もらってるからな。料金は高いけどそれに見合う仕事は姐さんはやるし毎日忙しそうにしてる。あとだな」

「もういいお前が龍香に惚れ込んでんのはわかった。とりあえずあいつにたまには刀のメンテナンスに来るように言っといてくれ。あいつ自身のメンテナンスは素人にしちゃうまいがやはり乱雑さも目立つ。使うもんだしプロのメンテナンスも必要だ。それと真希」

「なんですか?」

「多分お前も龍香みたいにこれから数え切れない程の人間を黄泉の国に送っていくんだろうがくれぐれも自分と周りは大事にしろよ。もう戻れないし戻そうとも龍香はしないだろうが、お前はお前だ。私もこんな商売してるから褒められた生活してる口じゃあないが、ちょっとこの間の姿見てて怖くてな。少し気になったから一応神職者としての一言だ。」

「...?はい。」

よくわからずに返事をした真希の様子を見て、舞花はこの少女がどういう育ちをしたのかの大凡を察した。

「...あまり気にしても仕方なさそうだね。用事は以上だろ?龍香に宜しく言っておいてくれ。あと境内に賽子やら花札やら持ち込むなとも言っといてくれ。桜花が悪ノリするから。じゃ、またよろしく。」


神崎真希は、自分が思っているよりは多くの人に気にかけられている。しかし、凄惨な育ちをした彼女はそれに気付くことはできないのであった。

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