プロローグ
本作は別れさせ屋という仕事を題材としておりますが、すべてフィクションであり、現実では学生が依頼することは基本できません。
また、グレーな職種であることは否定できず、色々な面から利用についても推奨することはできません。
その辺りを念頭に置き、あくまでも物語上の話として楽しんでいただけるよう切にお願い申し上げます。
世の中には、二種類の人間がいる。
それはたぶん、誰しもがどこかで聞いた文言で、誰しもが一度は考えたことあるテーマだと思う。
勉強のできる奴とか、できない奴とか。
運動のできる奴とか、できない奴とか。
陽キャだとか、陰キャだとか。
大抵はその後、努力で人は変われると続く。まるっきり嘘ってことはないんだろう。けれど、本当にそれだけか? とときどき言い返したくなる。
その最たる例が、顔面偏差値だ。
だってそうだろう。そうじゃなきゃ、ただしイケメンに限るなんて言葉、生まれないだろうに。
道を踏み外したのは、そんなことを考えだしてからだった。
陽キャに憧れたのは小学生まで。いつしか陰キャの誇りを忘れ、斜に構えながら「陽キャなんて死ねばいい」なんて尖っていた中学時代も終わってしまった。
そして気づけば、すべてを諦めて無気力になっていた。
最初は一軍に混ざりながら、ときには二軍、三軍にからむ一、五軍。それがいつしか、誰からも相手にされない半端者だ。
一軍には「キョロ充ぼっち」と馬鹿にされ、二軍、三軍には「おこぼれを狙うハイエナ」と馬鹿にされている。
それを知っていて、けど変えられなかったのはちっぽけなプライドだ。
それがいつしか、染みついた汚れのようにこびりつくだけなのだとしても。
陽キャでも、陰キャでもない。
コミュ力もない、友達もいない、彼女もいない。
将来の夢なんて欠片もなければ、趣味もなくて、ついでに期待されることもない。
やらなきゃいけないこともなくて、やりたいこともない。
なくて、なしで、ないない尽くしで。
そんなキングオブ底辺、カスの中のカス――「無キャ」が、自分、筵田喜一郎に冠された称号だ。
だから、その少女に声をかけられたとき、喜一郎はとっさに反応できなかった。
いつもなら「あ、ああ。邪魔したな」とそそくさ退散するのに。
その少女は、隣の幼馴染ではなく、こちらを見ながら恥ずかしそうに目を伏せたのだから。
「え、えっと。その、なんか、用?」
ああ、馬鹿かオレは。そんな風に毒付くのも一瞬だ。
少女の黒髪が春風にあおられる。
それだけで、彼女から目が離せなくなった。
「あの」
震える彼女の膝をみて緊張感が高まる。
唾を飲み込んだ音でさえ、今はシンバルのように鳴り響く。
意を決したように、少女はきつく結ばれていた唇を開いた。
「筵田くん。私と、付き合ってくれませんか」
何かが始まるんだと、期待した。
それこそ、大きな間違いだというのに。