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童話類

思いを籠めたはなむけを




 新学期が始まった。


 転校した僕はクラスでいろんな子と会話する。

 前の学校のこと、好きな食べ物、苦手な教科、いろんなことを話す。

 この学校のこと、町の特徴、遊ぶところ、いろんなことを教えてもらう。

 新しく知ることだらけのこの町で、新しい家に僕は帰る。


「メールとかパソコンでやり取りできるから」

 そういって別れたものの、やっぱり寂しさは感じている。

「文字や声も良いけど、ちゃんと会って会って会話できたらな……」

 遠い場所にいる友達と連絡を取り合う。

 新しくできた友達からも連絡が来て、目を回すほどに忙しさを覚えた。


 そんな中、部屋の花瓶が目に入る。

 前の学校でもらった花束が、彩り豊かな花々が、僕の気持ちを染め上げる。

「水、足そうかな」

 僕はひとり呟くと、ゆっくりと階段を下りる。


 キッチンでコップに水を汲む。

 コップの水に僕の顔が映る。

 ゆらゆら揺れる水面の波を僕はじっと見つめていた。


「どうしたの?」

「花瓶に水を足そうと思って」

 話しかけてきた母を見て僕は答える。

「大切にしてるのね」

「うん。みんなからもらった花だから」

 またコップに目を戻す。水を少し入れすぎたのか、こぼれそうだ。

 コップに口をつけて水を飲む。


「そうだ!お母さん、携帯貸してよ」

「どうしたの?」

「もらった花を調べてみようかなって。種類とか花言葉とか」

「いいわね。でもほどほどにね」

 母はそう言うと携帯の画面の操作をはじめた。

「どうして?」

 母の言葉と行動がふしぎに思え、質問してみる。


「花言葉にはいろんな意味があるからね。深く調べるとモヤモヤしちゃうよ」

「そうなの?」

「お母さんも経験あるからね」

「そっか。気を付けるよ」

「花はどれもきれいだから、きれいなままで残しても良いのよ」

「うん、わかった」

 僕はそう言って、母から携帯を借りると、コップを持って階段に向かう。


 部屋に戻ると、過敏に水を差す。

 きれいな花を見て、僕も少し和む。

 母の携帯の画面をつける。

 そこには今日の日付と時間、そしてもらった花の写真が表示されていた。

 じっと見ていると、時計が一分先に進んだ。


 僕はそのまま画面を落とす。

(きれいなままで、か)

 空になったコップをと携帯を手に、僕はまた階段を下りていく。


 母を捜すと、庭で米粒サイズの小さな花に水を与えていた。

「お母さん、ありがとう」

 携帯とともに感謝の言葉を、僕は母に返した。

 

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