97. 朝風呂と朝キス
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―――本日は7月16日の月曜日。
雫が目を覚ましたのは、午前の4時頃だった。
薄々理解していたけれど―――雫は『6時間』を寝ていられない性分らしい。
昨晩眠ったのが10時半頃だったことを考えても、概ね5時間強で自動的に目が覚めてしまう体質だと考えて良さそうだった。
洗面台で顔を洗い、洗口液で口の中を濯ぐ。
それからジャージに着替えて、髪を軽く整えてから家を出た。
未明ならではの、ぼんやりした明るさの街路を、軽く流すように走る。
この時間ならまだ涼しいし、車通りも殆ど無いので快適なジョギングが行える。
身体に血と体温が巡り、じんわりと汗を掻いてきた辺りで自宅へと戻った。
温めのシャワーで汗を流してから、朝食を摂る。
朝食にはパンケーキを焼いて食べた。小麦粉に牛乳とか卵とかを加えて、適当に混ぜて焼いただけのものだ。
パンケーキは焼くのに結構時間が掛かるから、普段あまり作らないのだけれど。今朝は何だかまったりしたい気分だったので、テレビを見ながらゆっくりと焼き上げた。
「うん、美味しい」
バターと少量のメープルシロップを掛けて、美味しく頂く。
朝から食べるには、ちょっとだけ贅沢な味わいだ。
付け合わせはいつものサラダストックと、レトルトのかぼちゃスープ。
温かいかぼちゃスープはほっとする味わいなので、朝食のお供として大好きだ。
一通りを美味しく頂いてから、いつも通り軽くストレッチを行う。
それから雫は『プレアリス・オンライン』のゲームを起動した。
*
ログインしたのは高級宿『憩いの月湯亭』の寝室。
同じベッドに眠っているユーリとプラム、イズミの3人を起こさないように気をつけながら、シズはベッドを抜け出て居間の方へと移動する。
『インベントリ』の中から取り出した衣服を身につけて、それからシズは自身のステータス画面を視界に表示させた。
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シズ
白耀族の聖翼種/能力倍率合計【268%】
〔操具師〕- Lv.17 【142%】
〔錬金術師〕- Lv.13 【118%】
〔白百合の天使〕- Lv.4 【8%】
HP: 49 / 49
MP: 131 / 131
[筋力] 13 (5)
[強靱] 18 (7)
[敏捷] 99+6 (37)
[知恵] 99 (37)
[魅力] 32 (12)
[加護] 101 (38)
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◆異能
《操具術》《特性吸収》《落下制御》《呪詛無効》《天使の輪》
《天翔る翼》《調合の妙》《盟約の主Ⅰ》《星白の友好者》
《呪具浄化》
◇スキル - 2202 pts. / 得意化:残り2回
〈☆操具収納Ⅱ〉〈☆武器強化術Ⅲ〉〈☆機械操作Ⅰ〉
〈☆効能伝播Ⅰ〉〈○服薬術Ⅱ〉〈○食養術Ⅱ〉
〈☆アルカ鍍金Ⅲ〉〈☆特性注入術Ⅰ〉〈☆錬金素材感知Ⅰ〉
〈○初級霊薬調合Ⅹ〉〈○植物採取Ⅰ〉〈○素材収納Ⅰ〉
〈○生産品収納Ⅰ〉【○伐採Ⅰ】【○鉱石採掘Ⅰ】
〈☆天使は皆のためにⅢ〉
〈☆聖翼種の浮遊能力Ⅹ〉
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〔操具師〕のレベルは昨日『ゴブリンの巣』の地下2階に籠ったことで、一気にレベル『17』まで成長している。
シズは基本的に戦闘職よりも生産職のほうがレベルが高いことが多いので、これだけ戦闘職側のレベルが高い状況というのは、結構珍しいことだと言えた。
また、手に入れたばかりの特殊職〔白百合の天使〕のレベルは、現在『4』まで上がっている。
これは主に昨晩、ユーリ達がログアウトする前に彼女達とベッドでイチャイチャしている最中に上がったものだ。
やはりと言うべきか、シズの特殊職の〔白百合の天使〕は、『恋人』の女の子とコミュニケーションを取ることで経験値を得る職業であるらしい。
(スキルポイントがだいぶ貯まっちゃってるなあ……)
何気に『2202』ポイントという、凄い量が貯まってしまっている。
2つまでなら、☆や○のマークが付いたスキルを一気に『スキルマスター』へと成長できてしまう程の量だ。
溜め込んでいても意味は無いので、積極的に消費すべきかもしれない。
(……とりあえず〈アルカ鍍金〉をマスターしてしまおうかな)
武器に錬金特性を付与する〈アルカ鍍金〉はスキルランクがそのまま持続日数に直結するため、余裕が有ればランクを伸ばしたいとは常々思っていたのだ。
そう思い、シズは『700』点のスキルポイントを消費して、〈アルカ鍍金〉のスキルランクを一気に『3』から『10』まで成長させてみる。
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★〈☆アルカ鍍金〉スキルをマスターしました!
スキルの効果に一部変化が加わりました。
★新たに〈☆エンハート鍍金〉のスキルが修得可能になりました。
このスキルを修得するには[敏捷]が『200』必要です。
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―――すると、視界の隅に表示させているログウィンドウに記述が加わる。
スキルマスターにより『スキルの効果に一部変化が加わる』というのは、シズも既に想定していたことだったけれど。
後者の〈エンハート鍍金〉という、アルカ鍍金より更に上位スキルっぽいものが出現したのについては、全く予想もできていなかったことだ。
但し、修得には[敏捷]が『200』必要とのことらしい。
現在のシズの[敏捷]は、装備品への鍍金を含めても『99+6』なので、まだ半分程度しか条件を満たせていないことになる。
〈エンハート鍍金〉のスキルが修得できるのは、当分先の話になりそうだ。
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〈☆アルカ鍍金Ⅹ〉
錬金特性を消費して装備品に一時的な特殊効果を付与する。
装備品毎に錬金特性を『2つ』まで付与することができる。
付与した特殊効果は『240時間』経過後に自動的に効果を失う。
鍍金の成功率が『10%』向上する。
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〈アルカ鍍金〉のスキルはランクを『10』へ成長させたことで、効果が10日間持続するようになった。
またスキルマスターによる追加効果で、装備品に同時に『2つ』までの錬金特性を付与することが可能になったようだ。
今まで以上に、装備品をより強化できるようになったと考えて良いだろう。
「―――シズ姉様」
「うおっ」
不意に耳元のすぐ傍から名前を呼ばれ、シズは飛び上がりそうなほど驚く。
見ればそこには、いつのまにかイズミが立っていた。
「お、おはようイズミ。あんまり驚かさないで欲しいかな」
「すみません、シズ姉様。おはようございます」
そう告げてから、イズミはソファに腰掛けているシズの身体の上に、そっと腰を下ろして座ってくる。
先程までベッドで眠っていたイズミは、身体に何一つ服を身に付けてはいない。
急に裸の女の子が身体の上に座り込んできたことに、シズは内心で動揺する。
「居間でおひとりで何をしてたんですか?」
「イズミがそろそろ起きてくるだろうとは思ってたからね。どのスキルを伸ばすか考えたりしながら、時間を潰してたんだ」
「ああ―――すみません。待っていて下さったんですね」
「勝手に待ってただけだよ。ね、今日も一緒にお風呂に入らない?」
「はい。シズ姉様にお誘い頂けるなら、喜んで」
一度身に付けた衣服を再び脱いで、シズも裸になる。
それからイズミと一緒に東屋の方へ行き、常に熱い湯で満たされている露天風呂のほうに、掛け湯だけ済ませてから身体を浸らせた。
「ふあぁ……」
「あぁ……。良い、お湯ですね……」
「そうだねえ……」
朝風呂の贅沢感というのは、一度体感すると病みつきになるものがある。
本当はユーリやプラムとも一緒に入れると良いのだけれど。残念ながら彼女達はあまり早起きな方では無いようだ。
「……2人には申し訳無いですが、シズ姉様を独占できるのは嬉しいです」
そう告げて、ぴたりと隣から身体を寄せ付けてくるイズミ。
その仕草が可愛らしくて、思わずシズは顔が綻んだ。
「イズミが嬉しいと思ってくれるなら、私も嬉しいかな」
すぐ隣にあるイズミの顔に、シズは自身の顔を近づける。
察して瞼を閉じてくれたイズミに、シズはゆっくりと口吻けた。
「……っ!」
唇をこじ開けてイズミの口腔内に舌先を侵入させると、彼女の口から熱い吐息が零れ出る。
たっぷり30秒ほど掛けてイズミの口の中を堪能してから、ようやくキスを止めて顔を離すと。その時にはもう、イズミは軽く息が上がっていた。
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▽特殊経験値を『185』獲得しました。
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ログウィンドウに経験値を獲得した表示が出て、ちょっと笑ってしまう。
ディープキスひとつでも、地味に結構な量の経験値が入っているのが面白い。
「イズミ、好きだよ」
「あ、ありがとうございます、シズ姉様ぁ……」
思いを伝えてから、再び彼女と唇を重ねる。
今度は触れ合うだけのキス。―――感触を長く楽しみ合うためのものだ。
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お読み下さりありがとうございました。




