96. 水着準備会
昨日は勝手ながらお休みを頂戴致しました。申し訳ありません。
お陰様で一番厳しい所を超えまして、現在の体調は回復に転じております。
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「それじゃ―――2日間お疲れさまでした」
「お疲れさまです!」
「お疲れさまですわ」
「お疲れさまでした!」
お互いを労い合い、4人で冷たいドリンクが入ったグラスを軽く打ち鳴らす。
―――ここは高級宿『憩いの月湯亭』の一室。
シズ達は既に『ゴブリンの巣』での狩りを終え、都市へと帰還していた。
何ならユーリ達は既に、一度ログアウトして家族との夕食も済ませている。
現在時刻はちょうど夜の『20時』頃。シズ個人としては、これからユーリ達が睡眠のためにログアウトするまでの2時間は、是非とも彼女達と共にイチャイチャして過ごしたいところなのだけれど。
「えっと……今夜は何か、やりたいことがあるんだよね?」
そう聞いていたので、シズのほうからユーリに向けて問いかける。
ユーリがそれに応えるように、小さく頷いた。
シズ達は今日『ゴブリンの巣』で行った最後の戦闘で、敢えて遭遇したゴブリン達から『殺される』ことを選択した。
―――いわゆる『死に戻り』というやつだ。森都アクラスまで帰還するのに必要な時間を短縮するため、死亡することを選んで一瞬で都市まで戻っている。
そこまでして時間の節約を行ったのは、ユーリが何か後で、宿の部屋で皆と相談しながら決めたいことがあるからなのだという。
「それでは―――これから皆で話し合って、シズお姉さまに着せる水着のデザインを決めたいと思います!」
「……は?」
可愛い笑顔で淡々と告げたユーリの言葉に、思わずシズは目が点になる。
けれどこれは既に同意が取れていることらしく、ユーリが提案した言葉にプラムとイズミの2人は、即座に頷くことで同意してみせた。
「え? ……水着?」
「はい。全てのプレイヤーに配布されているのですが、ご存じなかったですか?」
「あー……。『海の日』のやつだっけ。一応見た気がする」
確かアップデート内容に目を通した際に、そんなことが書いてあった気がする。
「……でも、どうして私の水着のデザインがどう、って話になるの?」
「あ、お姉さま。まだ水着の実物をご覧になっていませんね?」
「確かに見てないけど……」
「『インベントリ』に入っておりますので、一度実際に確認してみて下さい」
ユーリにそう促されて、シズは自身の『インベントリ』の中身を確認する。
そこに確かに『水着』のアイテムが格納されていたので、早速取り出してみた。
「……スクール水着?」
中から出て来たのは、何の変哲もない紺色のワンピース水着。
いかにも学校の授業とかで、着用しそうなやつだった。
「こんなにつまらない水着、シズお姉さまに着て頂くわけにはいきません!」
「……別に水着なんて、何でも良くない?」
「駄目です! お姉さまにはカワイイ系の水着を着て頂くんです!」
「ええ……?」
ユーリの話によると、全プレイヤーに配布されたこの水着は、デザインや色合いを自由に変更することが可能な、特別な水着であるらしい。
だからユーリは今からこの水着をいじって、シズにもっと似合う別のデザインのものへと加工したいようだ。
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自在加工の水着
物理防御値:0 / 魔法防御値:0
装備に必要な[筋力]:0
【形状自在加工】【色彩自在加工】【損耗耐性】
【瞬間装備変更】【陽光耐性】
『海の日』用としてプレイヤーへ配布された水着。
形状や色合いを設定して自分の好きな水着に加工が可能。
元々着用している装備品から一瞬で着替えることもできる。
【陽光耐性】は着用者が任意にオン/オフ切り替えが可能。
身体を焼きたい場合にはオフにすると良い。
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スクール水着の詳細を見てみると、確かに【形状自在加工】や【色彩自在加工】といった、今までに見たことが無い特別な効果が、この水着に備わっていることが判る。
試しに『赤い水着』になるように意識してみると、それだけで水着の色合いが、紺色から鮮やかな赤色へと変化した。
『白い水着』になるよう意識すると、同様に白色へも変化する。とはいえ流石に白にするのは、濡れると透けそうな気がするのでちょっと怖いけれど。
(……別にスクール水着のままでも良いんじゃないかなあ?)
どうせ明日1日しか着ない装備品なのだから、シズとしては特に拘る意志も持てないというのが正直なところだ。
だけど―――そんなシズの気持ちとは裏腹に。シズの目の前ではユーリ達3人による『どんな水着を着せるのが一番似合うか』という侃々諤々の議論が、今も激しく繰り広げられていた。
「天使なのですから、シズお姉さまは可愛くあるべきです!」
「いいえ! お姉さまはスタイルが良いのだからセクシー系こそ似合う筈です!」
「シズ姉様は露出が多い水着が絶対似合う」
「………」
3人の様子を、どこか遠い世界のことのようにシズは眺める。
特に拘りは無いけれど。3人が決めてくれるなら、もうそれで良いやと思った。
「うぅ……。シズお姉さま、水着を一旦こちらに貸して頂けますか?」
「お、話し合いは終わったのかな?」
「いえ、まだ終わってはいないのですが」
20分ほど経って、3人がシズのほうへとやってくる。
ユーリとしてはシズに『可愛い系』の水着を着せたいらしいのだけれど。プラムとイズミの2人は『セクシー系』の水着を着せたいらしい。
その結果、多数決で押し負けたので、取り敢えずシズに一度セクシー系の水着を着せることになったようだ。
(……まあ、あんまり私に『可愛い系』が似合うとも思えないしなあ)
ユーリには申し訳無いけれど、正直シズとしては有難いかもしれない。
セクシー系ということは多分、ビキニとかになるんだろうけれど。シズとしても可愛い系の水着を着せられるよりはまだ、そちらのほうが抵抗感も小さいからだ。
「というわけで、お姉さま。一度こちらを着てみて下さいまし?」
「あ、うん。了解……」
プラムの手で返ってきた水着は、案の定というべきか黒いビキニの水着だった。
まあ、別に露出面積が多いぐらいなら、シズとしてはさして抵抗もない。
すぐに服を脱いで水着に着替え―――ようとした所で、プラムに止められた。
「お姉さま。この水着は【装備変更】と念じれば、一瞬で着替えられます」
「あ、そうなんだね」
「はい」
教わった通り、水着を手に持った状態でシズは【装備変更】と念じてみる。
すると、今まで身に付けていた衣服や防具が全て『インベントリ』の中へと収納され、代わりに一瞬で黒いビキニの上下だけを身に付けた格好となった。
「うわ……。急に薄着になるから、ちょっと不安になるね、これ」
思わずシズがそう告げるけれど。それに答えてくれる言葉は無くて。
見れば―――3人の視線が、まじまじとシズの身体へ向けられていた。
「くっ……! 悔しいですが、セクシー系の水着も超お似合いです……!」
「ふふふ、とうとうユーリさんも観念してお認めになりましたわね!」
「シズ姉様は肌がとても白いですから、黒い水着が似合いますね」
どうやらユーリが折れたことで、シズが明日着る水着はこの黒ビキニに決まったらしい。
……できればパンツのほうは、もうちょっと露出を減らして、パレオとかにして欲しかった気もするけれど。まあ、別にこのままでもダメでは無いだろうか。
それからはシズの水着が決まったということで、3人の水着のデザインを決めることになり、こちらについては当然議論にシズも積極的に参加した。
自分の水着については特に拘りを持たないシズだけれど。好きな子に着せる水着については、こちらにも一家言があるからだ。
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お読み下さりありがとうございました。
誤字報告は体調回復後に修正反映させて頂きますので、今少し猶予を下さいませ。




