95. ダンジョンに罠は付き物
残った2体のゴブリン・ファイター達は、5分ほど掛けてイズミとスケルトン達の手によって討伐された。
イズミはゴブリンの攻撃を上手く躱しながら戦ってみせるのだけれど、問題はスケルトン達のほうだ。
ゴブリンの攻撃から受けるダメージが思いのほか多く、影の中に待機させている別のスケルトンと、プラムが適切に入れ替えることで何とか持っている状態だ。
「根本的に、盾の性能が足りていない気がしますわね……」
「うん、それはありそう」
プラムが呟いた言葉に、シズもすぐに頷く。
前衛のスケルトン達は右手に鎚矛を持ち、左手にレザーシールドを持っているわけだけれど。レベル『13』の魔物の攻撃を防ぐには、レザーシールドでは性能が不足しているように見えるのだ。
実際スケルトン達は、ゴブリンの攻撃を盾で受け止めているにも拘わらず、結構な量のHPを減らされていることが少なくない。
このクラスの魔物の攻撃を受け止めるには、もっと上位の盾が―――少なくとも金属製のものが、必要とされているように思えた。
「ではスケさん用の新しい盾を、後で私が作っておきましょう。金属の鉱石なら、幸いこの『迷宮地』で沢山採取できていますし」
「あら、それはとても助かりますわ。お願いしても?」
「うん。ついでに武器も作ろうか?」
プラムとイズミの2人がスケルトンの装備について話している間に、シズは先程の戦闘で発射した分のクロスボウの装填作業を行う。
しっかり装填を行っておかないと、次の戦闘で連射ができないからだ。
+----+
▽魔物を討伐しました。
戦闘経験値:2275/スキルポイント:1
獲得アイテム:カワベル鉱石×2、アルマ鉱石×2、銀鉱石×3
《特性吸収》により錬金特性〔毒属性Ⅱ〕を吸収しました。
▽魔物を討伐しました。
戦闘経験値:2275/スキルポイント:1
獲得アイテム:カワベル鉱石×2、アルマ鉱石×1、毒薬×4
《特性吸収》により錬金特性〔毒属性Ⅱ〕を吸収しました。
▽魔物を討伐しました。
戦闘経験値:2275/スキルポイント:1
獲得アイテム:カワベル鉱石×1、アルマ鉱石×2、鉄鉱石×4
《特性吸収》により錬金特性〔強靱増強Ⅱ〕を吸収しました。
▽魔物を討伐しました。
戦闘経験値:2275/スキルポイント:1
獲得アイテム:カワベル鉱石×2、アルマ鉱石×2、鉄鉱石×5
《特性吸収》により錬金特性〔強靱増強Ⅱ〕を吸収しました。
+----+
装填作業を行いながら、視界の隅に表示させているログウィンドウを確認してみると。強敵なだけあってかなりの報酬が手に入っていた。
たった4体の討伐なのに、戦闘経験値が合計で9000以上手に入っている。また獲得アイテムのほうも、良さそうな鉱石が色々と手に入っていた。
そして何より―――とうとう〔毒属性Ⅱ〕や〔強靱増強Ⅱ〕のように、今までのものよりランクが上の錬金特性が手に入っているのが嬉しい。
たぶん討伐した魔物のレベルが『10』以上の場合は、ランクが『Ⅱ』の錬金特性が手に入る、みたいな感じになっているのだろうか。
「シズお姉さま、シズお姉さま」
「……うん? どうしたの、ユーリ」
「戦闘が終わりましたので、ご褒美を下さい♡」
そう言いながら、シズのすぐ傍に顔を寄せてくるユーリ。
そんな彼女の頬に優しく触れて、シズはそっと唇を触れ合わせる。
《なんと尊い……》
《ありがとうございます! ありがとうございます!》
「何のお礼なの……」
妖精が読み上げる視聴者のコメントを聞きながら、シズは小さく苦笑する。
なんだか―――今日から急に、ユーリ達は甘えてくることが多くなった。
頬や額へのキスぐらいなら、視聴者が見ていてもお構いなしにねだってくる。
……まあ、原因は判ってる。
昨晩は4人でとってもイチャイチャしたからね。
+----+
▽特殊経験値を『50』獲得しました。
+----+
ちなみにユーリやプラム、イズミの3人とキスをしたりイチャイチャしたりすると、地味に特殊職の経験値が手に入ることが既に判っている。
どうやらシズが得た〔白百合の天使〕という特殊職は、『恋人』とコミュニケーションを取れば取るほど経験値が手に入るらしい。
だから、ユーリ達が戦闘が終わる度に軽く甘えてきてくれるのは、シズにとって二重の意味で嬉しいことだと言えた。
―――それからも地下2階に滞在して、4戦ほど戦闘を繰り返してみたけれど、特に問題は無いように思えた。
もちろん魔物が強いぶん、無傷での勝利とは全くいかないのだけれど。それでも適切に回復を行ったり、スケルトンの入れ替えを行いながら戦えば、それほど危険も多くはないように感じられた。
「もうこの辺の戦闘だと、自分に前衛が務まる気は全くしないや……」
但し、イズミとスケルトン達の戦闘を見ていて、シズはしみじみとそう思う。
―――次元が違うのだ。何も考えず両刃斧を振り回していた、嘗てのような戦い方で通用する相手でないことは、もはや明らかだった。
「そうですか? 私は少し楽しくなってきたところですが」
「イズミが仲間で、本当に良かったよ……」
心からそう思いながら、シズはそう言葉を零す。
パーティ内で最も小柄な体躯のイズミは、同時に最も勇敢な戦士でもあった。
ところで―――『ゴブリンの巣』の地下2階だけれど、魔物のレベル以外にも、地下1階に較べて明らかに変化したところが1つある。
それは、通路に時折『罠』が設置されるようになったことだ。
これは特定の地面を踏むと起動する『罠』で、壁から同時に2~3本のボルトが発射されるものとなっている。
しかもゴブリン・アーチャーの矢と同様に、鏃には毒が塗られていることもあるようだ。
本来であれば、結構危険な罠だとは思うのだけれど……。
シズ達は現在のところ、この罠を何の問題も無く回避することができていた。
シズ達一行が居る空間は、すぐに地面が緑の自然に覆い尽くされる。
これはユーリの特殊職〔自然の守護者〕の力によるものなわけだけれど。
「……流石に、ここまで露骨だと、引っかかりようもありませんわね」
「そうだねえ……」
この自然は、何故か罠がある場所だけを避けて繁茂するのだ。
つまり、罠がある地面だけは一切緑の植物に覆われず、地面が剥き出しになったまま取り残されるものだから―――明らかに『そこに罠がある』と、逆に一見しただけで判る状態になってしまっている。
ちなみに、そこに『罠』があると判れば、解除は簡単に行うことができた。
どうやら『罠』もまた『アイテム』の1つらしく、軽く触れるだけで〔操具師〕の職業特性で、その構造や操作方法がすぐに理解できてしまうのだ。
『罠』を発見する度に、壁の中に埋め込まれているクロスボウの存在を看破し、取り外してイズミにプレゼントする。
後で鋳潰して金属素材にするつもりらしく、彼女は結構喜んでくれた。
-
お読み下さりありがとうございました。
ポカリスエットを超美味しく感じることで、逆に体調の悪さを自覚する昨今です。
どうして病気の時にはこんなに美味しく感じられるのでしょうね。




