92. 特殊職の獲得(後)
「いい職業を引いたんじゃない?」
「ふふ。シズお姉さまがそう言って下さるなら、良かったのでしょう」
そう告げて、ユーリは嬉しそうに微笑んでみせる。
早速ユーリに続けて、シズもまた『特殊職』を得るために、神像の前に跪こうとしてみたのだけれど。―――それは、プラムとイズミの2人から止められた。
「まずは前座の私達からです」
「そうですわ。シズ姉様が一番の本命なのですから」
「ええ……?」
良く判らないが、シズが『特殊職』を貰う順番は最後らしい。
プラムとイズミの2人が、じゃんけんをして順番を決める。
数度のあいこを経てプラムが勝利したようで、彼女が先に神像前に膝を突いた。
ユーリの時と同じように、目を閉じて祈りを捧げ始めたプラムの身体を、七色の鮮やかな光がゆっくり包み込んでいき―――。
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★プラムが〔死霊の友〕の特殊職を獲得しました!
プラムが《死霊の忠節》の異能を獲得しました!
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10秒ほど経って光が収まると、シズが視界の隅に表示させているログウィンドウに、そんな文章が表示される。
どうやらプラムは〔死霊術師〕に関係した特殊職を得たようだ。
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〔死霊の友〕 - 特殊職
死霊を大切な友として扱う〔死霊術師〕に贈られる特殊職。
使い捨てではない死霊達は、より強い忠義を主に捧げるだろう。
【選定条件】
・戦闘職が〔死霊術師〕である
・使役する死霊に200体以上の魔物を討伐させている
・使役する死霊を過去に1度も死なせたことが無い
△能力成長修正
[知恵]+5、[魅力]+5
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《死霊の忠節》
使役する死霊がより優れた思考能力を有するようになる。
魔物討伐時に使役する死霊がスキルポイントを得るようになり、
これを消費して一般スキルを修得させることが可能となる。
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「おおー。またスケさん達が強くなるね」
「そうですね。こちらの特殊職も大変に強力そうです」
シズがつぶやいた言葉に、イズミが頷きながらそう答えた。
一般スキルだけとはいえ、生成したアンデッドがスキルを修得できるようになるというのは、決して小さな違いではない筈だ。
〈剣術〉や〈盾術〉などのスキルをしっかり身に付けさせれば、スケルトン達の戦闘能力が一段と高くなることは間違いない。
前衛としてより頼もしい存在になるのはもちろん。クロスボウを持たせた後衛のスケルトン達も、スキルの効果でより射撃精度を向上させられそうだ。
「うふふ、これでもっとみんなが強くなりますわね」
職を得たプラム本人も、非常に嬉しそうな表情をしていた。
本人が満足していることが、何よりも大事だろう。
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★イズミが〔弁慶〕の特殊職を獲得しました!
イズミが《単身要塞》の異能を獲得しました!
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プラムの次には、イズミが神像に祈りを捧げる。
彼女が手にした『特殊職』は―――〔弁慶〕という非常に変わったものだった。
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〔弁慶〕 - 特殊職
単身でパーティの前面を受け持つ、豪傑に贈られる特殊職。
あなたが倒れない限り味方の安全は堅固に護られる。
【選定条件】
・種族が『人間種』である
・4人以上でパーティを組んでいることが多いにも拘わらず
自身ひとりで前衛を担う場合が殆どである
・自身の後ろに立つ味方を殺された経験が一度も無い
△能力成長修正
[筋力]+6、[強靱]+4
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《単身要塞》
3人以上でパーティを組み、かつ前衛があなた1人の場合。
パーティ全員の被ダメージが半分に減少する。
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「………?」
特殊職の詳細を見て、何よりまずシズは違和感を抱いた。
説明文によると〔弁慶〕は『単身でパーティの前衛を担っている』プレイヤーに与えられる特殊職であるようだけれど……。
「……イズミって、別にひとりで前衛やってるわけじゃないよね?」
「そ、そうですね……」
シズに問いかけられて、イズミも困惑した表情でそう答えていた。
イズミは普段、プラムが生成したスケルトン達と共に前衛を務めてくれている。
だから間違っても『単身』で前衛を務めているわけではない、のだけれど。
……おそらく、この〔弁慶〕という特殊職が与えられる【選定条件】には、使役した魔物の存在は考慮されていないのだろう。
プレイヤーだけを考えるなら、シズ達は常に4人でパーティを組んで行動しているし、そしてイズミ1人が前衛で他3人は後衛ということになる。
この〔弁慶〕の取得条件にも合うというわけだ。
「色々と言いたいことはありますが……。強力な特殊職ではあるみたいですね」
「ん、それは間違いないと思う」
イズミの言葉に、シズも即座に頷いて答える。
『パーティ全員の被ダメージが半分』という効果は、それだけ大きなものだ。
選定条件と同じと考えるなら、実際にはイズミだけでなくスケルトン達が一緒に前衛に立っていても、異能の発動条件は満たされるとみて良さそうだ。
だとするなら、シズ達のパーティはこれまでと同じ戦い方をするだけで、異能の恩恵を充分に受けることができる。
「ただ、どうせなら《侍》関係の特殊職であって欲しかった気もしますが」
「その気持ちもちょっと判る……」
イズミの武器は、言うまでもなく《侍》に相応しい『刀』なわけだけれど。
弁慶―――つまり『武蔵坊弁慶』というと、どうしても『薙刀』がメイン武器だという印象がある。
彼は『荒法師』だからもちろん《侍》とは関係が無いし、刀を使うことも無いだろう。だからそのことに、イズミが小さな不満を抱くのは理解できる話だった。
「取り消して、また100時間経過後に特殊職を貰ってみる?」
「……いえ。多少の不満はありますが、強力な特殊職なのは間違いないですから。当面はこの職業で頑張ってみようと思います」
「そっか。……ん、それが私も良いと思う」
「ありがとうございます、シズ姉様」
特殊職が『自動的に決定されるもの』である以上、そこに完全な満足を求めるというのも、なかなか難しい話だろう。
小さな不満ぐらいなら妥協してしまうのも、1つの選択だ。
「それでは、トリを飾るのはシズお姉さまですね」
「うふふ、きっと凄い特殊職が選ばれるのでしょうね」
「楽しみです」
「う、うーん……」
何故か3人から随分重い期待を掛けられているのを感じつつ、シズは神像の前にゆっくりと跪く。
それから目を閉じて、祈りを捧げた。
『―――あなたに〔白百合の天使〕の職業を授けましょう』
瞼を閉じた暗闇の世界の中で、誰かの声がシズの耳に届く。
もしかするとこれが、この世界の『神様』の声なのだろうか。
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〔白百合の天使〕 - 特殊職
同性と深い絆を結ぶことに長けた、女性に贈られる特殊職。
職業名の後半部分は、その者の種族や部族に応じて変化する。
【選定条件】
・女性である
・『恋人』の全員が同性である
・最も『恋人』の人数が多いプレイヤーに与えられる
△能力成長修正
[魅力]+6、[加護]+4
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《白百合》
同性としか『恋人』以上の関係になれなくなる。
あなたの恋人は関係に『依存愛』を選択可能になる。
『恋人』以上の関係にある相手は、1日に1度まで
瞬時にあなたが居る場所へ転移することが可能になる。
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「えぇ……?」
自身が得た特殊職の詳細を見て、シズはただただ困惑を深める。
普段から霊薬の生産ばかりに没頭しているから、多分それ関係の『特殊職』を得ることになるんだろうと、シズはそう予想していたのだけれど―――。
シズが得た『特殊職』は〔錬金術師〕とは全く関係が無くて。
『沢山の同性を恋人にしている女性プレイヤー』に与えられるという、とっても奇妙なものだった。
(……っていうか、この職業、弱くない?)
ユーリが得た〔森の守護者〕も、プラムが得た〔死霊の友〕も、そしてイズミが得た〔弁慶〕も。
どの特殊職も、職業と一緒に手に入った異能には、判りやすい『強力さ』のようなものがあったように、シズには思えたのだけれど―――。
何故かシズの〔白百合の天使〕だけは、それが欠如している気がする。
恋人が自分の居場所へ『転移』できるからといって、それで戦闘や生産が有利になるわけでも無いだろうし。
《天使ちゃんが『百合天使』ちゃんに……!》
《これはもう天使ちゃん専用職と言っても過言では無いな》
《天使ちゃんの女好きが公式に認められたぞ!》
―――ただただ、困惑するばかりのシズとは対照的に。
何故か妙に、視聴者の人達は楽しそうにしているみたいだけれど……。
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