82. ゴブリン炎上案件
目的地である『ゴブリンの巣』へは、わりとすぐに到着した。
元よりミーロ村から徒歩5分―――つまり400m程度の距離にある『迷宮地』なのだから。見つけるのにも苦労はなかった。
「……なんだか、判りやすく違和感がありますね」
「そうだね……」
ユーリの言葉に、苦笑しながらシズも頷く。
森の中に、突如として樹木が一切生えていない空間が広がって。不自然に隆起している小高い丘があり、その片側に洞窟の入口が設けられている。
まるで森という自然空間の一部を削り取り、後から丘と洞窟を無理やり配置したかのような。この空間は、そうした違和感を強く覚えさせる場所になっていた。
洞窟の内部を覗き見ると、入ってすぐ地下への階段が続いている。
中はとても暗く、照明の類は一切置かれていないようだ。
《歩くLEDちゃんが大活躍ですな!》
《一家に一台! 蛍光灯ちゃんにお任せあれ!》
「どんどん変な呼び名が増えていく……」
妖精が読み上げるコメントに苦笑しながらも、シズは『天使の輪』が発する光量を少しだけ強めて、パーティ全員が充分に周囲を見渡せるようにする。
何だかんだで夜の森を探索している時から、この『天使の輪』を便利に使っているなあという自覚は、シズにもあった。
翼による『浮遊』も、普段から移動の際に便利に利用しているし。現在の種族と部族でキャラクターを製作したのは本当に良い選択だったと思う。
お勧めしてくれたサポートNPCのユトラには、感謝しかない。
「念のために、誰か照明を持っているなら使った方がいいんじゃないかな?」
照明役をシズひとりだけが担ってしまうと、魔物の攻撃によりシズが最初に倒された場合、真っ暗になってしまうリスクがある。
できればもう1人ぐらい、照明役が居たほうがいいだろう。
「シズ姉様を護りきれなかった場合は、どうせ後を追うつもりですので」
「そうですわね、照明など不要でしょう」
「私達は全員がシズお姉さまに依存しておりますから♡」
「わぁお、愛が重い……」
3人の言葉を聞いて(これは絶対に先に死ねないな)とシズは思う。
まあシズは前に出るつもりがないので、多分大丈夫だとは思うけれど。
「通路の幅は3mといった所でしょうか」
「これは、あまり数が多くても仕方ありませんわね」
プラムの言う通り、狭い通路に大人数で居れば、動きが制約されてかえって不利になりかねない。
少なくとも屋外で戦闘する時と同じように、スケルトンを10体全て出してしまえば、もう空間はギチギチになってしまうだろう。
というわけで、シズは持たせていたクロスボウを回収した上で、スケルトン達を自分の影の中へ全て格納しておくことにした。
クロスボウは予めボルトを装填した状態で〈操具収納〉に収納しておけば、撃つたびに持ち替えることで連射ができる。
狭くて後衛のスケルトン達を出せないぶん、5台全てのクロスボウを自分で使うことで、ダメージはシズ自身が稼ぐことにしよう。
プラムも鎚矛と盾を装備したスケルトンの内、3体を影の中に格納したようだ。
前衛はイズミの他に2体いれば充分という判断なんだろう。
「イズミさんと2人のスケさんが前衛に立ち、ユーリさんとお姉さまがその後ろに居て下さいまし。私は最後尾に立って常に後ろを警戒することにします。もし後ろから魔物が来た場合には、影からスケさんを出して対処しますので」
「お願いします。それなら挟撃にも備えられますね」
……なるほど。挟み撃ちにされる可能性なんて、全く考えてもいなかった。
ユーリ達3人は、元々ゲームなどをそれなりに遊ぶ方らしいから。『迷宮地』を探索する上でのセオリーなどは、彼女達から学べることが多そうだ。
「シズ姉様の光は、遠くまで届いてよく見えるので便利ですね。なんだか、部屋の天井に付けるシーリングライトみたいです」
《流石は歩くLEDちゃん……》
《お部屋の中が隅々まで明るくなります!》
《ゴブリン「LED天使ちゃん1つください」》
「ゴブリンに買われるのはいやだなあ……」
「うふふ、シズお姉さま。早速お客さまが来たみたいですよ」
「―――何体?」
「ファイターが3体ですね」
「了解」
天使の輪を煌々と光らせているので、離れていても魔物達からはこちらの存在がよく見えるのだろう。
勢いよくシズ達が居る側へ駆け寄ってきたゴブリン達のうち、1体の眉間にシズはクロスボウのボルトを突き立てる。
しっかり頭部に命中させれば、一撃でゴブリン・ファイターのHPを6~7割ほど削れることは、既に確認済―――だった筈なんだけれど。
シズの予想に反し、ゴブリン・ファイターのHPは4割程度しか減らなかった。
「―――! 気をつけて、地上のゴブリンより強い!」
確認してみると、ゴブリン・ファイターのレベルは『8』と表示されていた。
地上に棲息する個体はレベルが『4』だった筈だから。『迷宮地』の中だとレベルが一気に倍まで増えているようだ。
とりあえずシズはクロスボウを3連射し、その全てを頭部に命中させることで、ゴブリン・ファイター1体の命をあっさり刈り取ることに成功する。
続けて4射目を撃とう―――としたのだけれど。その時にはもう、こちらの前衛と肉薄してしまったことで、狙いをつけるのが容易ではなくなっていた。
『プレアリス・オンライン』では、味方は攻撃することができないようになっている。
もし味方に攻撃を命中させてしまっても、与えるダメージが『0』になるので、被害を与えることが絶対に無いのだ。
だから誤射のリスクは考慮しなくてもいいんだけれど……。
それを抜きにしても、近接戦闘中の魔物はとにかくよく動くものだから、狙いを定めるのは難しいものがあった。
「―――【火炎弾】!」
シズが射撃を躊躇する状況下でも、遠慮無く攻撃魔法を行使するユーリ。
ユーリが放った炎の弾丸は、間違いなくイズミの右側に立つスケルトンの背中に直撃するコースを取って―――その背中を貫通すると。
そのままスケルトンの正面に立つゴブリン・ファイターの腹部に命中し、一見して判るほどの火傷を負わせることに成功していた。
「……え。もしかして精霊魔法って、味方を貫通するの?」
「あ、はい。原則として魔術や魔法は、味方に命中せず通り抜けますね」
「そうなんだ……」
いま初めて知った事実に、シズは驚く。
そういうことなら、近接戦で狙いが定まらない状況になったら、魔法での攻撃に切り替える方がいいのかもしれない。
そう考えたシズはクロスボウを〈操具収納〉に収納、代わりにインベントリから昨日手に入れたばかりの杖を取り出し、魔物に向けて掲げた。
『狂気に惑う三精霊の杖』。
呪われた杖だけれど。その呪詛も『白耀族』であるシズには意味を為さない。
「―――【炎上弾】!」
ユーリが行使した魔法がゴブリンに有効だったようなので、シズも同じ火属性の魔法の魔術語を唱え、杖の能力を用いて行使する。
シズが掲げた杖の先端から、先程ユーリが放ったものより、更に2回りは大きい炎の球体が放たれた。
発射体はスケルトンの身体を通り抜け、その正面に立つゴブリン・ファイターに命中して―――魔物の身体を激しく炎上させる。
対峙するスケルトンが慌てたように、少し後退して魔物と距離を取った。
炎上したゴブリンが、激しく身体を振り乱すけれど。それでも魔物の身体から、炎が消えることはない。
身体が盛んに燃え続けている間、ずっとゴブリンのHPバーが減少を続けて。
6秒ほど掛けてHPを全て喪失した時点で、ゴブリンは光の粒子へと変わった。
(……これ、魔法の威力ヤバくない?)
杖を見ながら、シズはそう思う。
本職の〔精霊術師〕であるユーリさえ、上回る威力の精霊魔法が放てる杖というのは、流石に強すぎではないだろうか。
ちなみに残った1体のゴブリンは、イズミとスケルトン達にボコボコにされた。
数の暴力はやっぱり偉大だ。
+----+
▽魔物を討伐しました。
戦闘経験値:600/スキルポイント:1
獲得アイテム:アルマ鉱石×1、鉄鉱石×3
《特性吸収》により錬金特性〔強靱増強Ⅰ〕を吸収しました。
▽魔物を討伐しました。
戦闘経験値:600/スキルポイント:1
獲得アイテム:アルマ鉱石×2、銅鉱石×1
《特性吸収》により錬金特性〔強靱増強Ⅰ〕を吸収しました。
▽魔物を討伐しました。
戦闘経験値:600/スキルポイント:1
獲得アイテム:鉄鉱石×2、銅鉱石×1
《特性吸収》により錬金特性〔強靱増強Ⅰ〕を吸収しました。
+----+
3体しか討伐していないのに、経験値は合計『1800』も手に入った。
地上のゴブリン・ファイターは1体当たり『100』の経験値だった筈なので、獲得量が6倍にも増えている。
薄々気付いてはいたけれど……魔物のレベルが上がると、討伐した際に得られる経験値は飛躍的に増大するようだ。
ドロップする鉱石素材の数もかなり増えていることが判った。
また、『アルマ鉱石』という今までに見たことが無い鉱石も手に入っている。
「こ、これは、美味しいです……!」
鉱石素材に目が無いイズミが、それを見て大喜びしているようだった。
魔物がこの数の鉱石を落としてくれるようなら、別に『採掘』なんてしなくても数を揃えるのは充分に可能かもしれない。
「シズお姉さま、その杖は一体……? 強い精霊の力が感じられるようですが」
戦闘の完了後に、早速そう問いかけてくるユーリ。
精霊魔法の使い手としては、当然気になるものがあるのだろう。
シズが杖を手に入れた経緯を話して聞かせると。
ユーリはどこか納得した様子で、頻りに何度も頷いてみせた。
「呪われた道具には強力な物が多いと聞いたことがあります。先程シズお姉さまが行使なさった【炎上弾】は、私が修得している【火炎弾】の上位魔法ですね。特に炎上効果を強化したものになります」
「……炎上効果?」
「命中した魔物に確率で『炎上』という状態異常を与える効果です。【炎上弾】は魔法の威力自体は【火炎弾】とあまり変わらないのですが、上手く炎上を付与することができると、魔物のHPをみるみるうちに減らすことができますね」
「おお、なるほど」
確かにユーリの言う通り、ゴブリンのHPは【炎上弾】が命中した時点では殆ど減らず、そのあと燃えている間にかなりの勢いで減っていったように見えた。
ちなみにユーリの説明によると、精霊魔法の威力は術者の[魅力]に依存するのだけれど、状態異常の付与成功率や効果の高さは[加護]に依存するらしい。
つまりシズは[魅力]を伸ばしていないから魔法自体の威力は低くなるが、一方で[加護]はしっかり伸ばしているので、『炎上』の付与成功率やダメージは高いものになっているらしい。
「じゃあこの魔法って、実は私と結構相性が良い?」
「はい、とても良いと思います。MPをかなり消費する魔法ですが、シズお姉さまは元々MPを余らせがちですので、そういう意味でも相性は良好ですね」
ユーリの言葉を受けて、慌ててMPを確認してみると。彼女の言う通り、たった1度魔法を行使しただけで、シズのMPが『73』から『3』まで激減していた。
どうやら【炎上弾】はMPを70も消費する魔法らしい。
ユーリが行使した【火炎弾】はMPを10しか消費しないそうだから。燃費の面で言えば、あまりに差が大きい。
なのでユーリは今後も、この魔法を修得するつもりは無いそうだ。
「お姉さまにMPの使い途ができたのは、良いことですわね」
「それは本当にそう」
今までシズはMPを消費することが殆ど無かったから、いつも仲間のMPを回復させるためだけに焼き菓子を食べていたところがある。
どうせなら自分のMPも有効活用したいと思っていたから―――消費が激しい分だけ強力な魔法が撃てるなら、望ましいことだと言えた。
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お読み下さりありがとうございました。




