08. 初フレンドと初パーティ
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世界地図を見れば一目瞭然だけれど、『プレアリス・オンライン』の世界は明らかに現実の世界を参考にして作られている。
……いやまあ、結構違っている所も多いんだけどね。
ゲーム内の『日本』に相当する島なんか、九州から北海道までが完全に繋がっていて、徒歩だけで縦断できるようになっちゃってるし。
ちなみに世界全体の名前は『アースガルド』って言うらしい。
『リリシア・サロン』で聞いた話によると、北欧神話に登場する単語だとか。
ゲームではわりとよく登場する名称らしいんだけど、残念ながらその辺の知識はシズには無かった。
シズがユーリと一緒に初期地点として決めた『ファトランド王国』は、現実世界で言えば『アイルランド島』がある辺りに位置する国家になる。
つまり島国で、すぐ東にはグレートブリテン島に相当する島もあるわけだ。
但し現実のアイルランドと違って、島の全域がファトランド王国の国土。なので北側の一部が隣島国家の領土になっているということは無いようだ。
ファトランド王国は、初期地点として選択可能な『大都市』の中では、やや地味な印象を受ける場所かもしれない。
国家全体を見ても、人口は『大都市』を擁する国の中で非常に少ないほうだし、目立って発展した技術分野などもないからだ。
強いて言えば木工分野に秀でた国らしいけれど……。それは多分、国土の大半が森で占められているからだ。
木材の調達に苦労しないので、自然とその分野だけは伸びたんだと思う。
鉱山が幾つもあるので金属鉱石の産出量も多い国なんだけれど。鉱石はそのまま隣国へ輸出してしまうらしく、金属加工の技術はあまり高くないそうだ。
あ、高性能な帆船を多く保有しているらしいから、そういう意味では海洋国家として結構優れているのかな?
まあ島国で木材が豊富なら、船の技術が高くなるのは当然かもだけれどね。
首都は『森都アクラス』。これは国土東側の海沿いにある『大都市』だ。
アイルランドで『ダブリン』がある位置と言えば判りやすいかもしれない。
海沿いにある都市を『森都』と呼ぶのは、少し違和感があるけれど。要はそちらがメインになるぐらい、国土が森ばかりってことなんだろう。
ちなみに近隣国との海洋貿易、特に金属鉱石の輸出で潤っているので、財政面では十分に豊かな都市らしい。
森都アクラスは『大都市』の中では珍しく、人口全体における『人間種』の割合が5割を切っている。
公式サイト内に記載されていた説明によると、これは『森林種』や『妖精種』のように、自然を愛する種族が多く住んでいるからであるそうだ。
都市の外に出れば森ばかりだから、自然を愛する人達にとっても住みやすいし、同時に『大都市』ならではの利便性も享受できて暮らしやすい場所なんだろう。
この世界の『大都市』には必ず『転移門』が設置されており、プレイヤーはこの門が設置されている大都市間を自由に移動することができる。
だからゲームを開始する初期位置をどこに決めるかは、あまり重要ではない。
気に入らなければ、すぐに別の『大都市』へ移動できるからだ。
プレイヤーは初期地点に選んだ都市内の、ランダムな場所でゲームが開始されるらしいけれど。シズの場合は森都アクラスの中央広場すぐ近くだった。
ユーリとは中央広場にある噴水を目印に落ち合う約束になっているので、とても都合が良い。目と鼻の先に見えていた噴水の元まで移動したシズは、その縁に腰掛けてから『メインメニュー』を視界に表示させる。
そして利用可能なゲーム内機能の一覧から、シズは『ステータス』を選択する。
すぐにシズの視界内に、大きなウィンドウが1つ表示された。
+----+
シズ
白耀族の聖翼種/能力倍率合計【100%】
〔操具師〕- Lv.0 【50%】
〔錬金術師〕- Lv.0 【50%】
HP: 19 / 19
MP: 32 / 32
[筋力] 5 (5)
[強靱] 7 (7)
[敏捷] 22 (22)
[知恵] 26 (26)
[魅力] 6 (6)
[加護] 28 (28)
-
◆異能
《操具術》《特性吸収》《落下制御》《呪詛無効》《天使の輪》
◇スキル
(なし)
+----+
ステータスの数値自体は、キャラクター作成時に見たものと同じままだけれど。ウィンドウの下部には『異能』と『スキル』の欄が増えていた。
スキルはまだ1つも無いけれど、異能は既に5つも所持しているらしい。
心の中で(異能の詳細情報が見たい)と念じると、シズの視界に追加で1つのウィンドウが表示された。
+----+
《操具術》
あらゆる装備品を『装備条件』を無視して装備できる。
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《特性吸収》
倒した魔物から『錬金特性』を得る。
『錬金特性』は一部を除く錬金術の生産時に利用できる。
-
《落下制御》
落下速度が常に遅くなり、落下によるダメージを受けない。
この効果は手を繋いでいる相手にも適用される。
-
《呪詛無効》
状態異常の『呪い』を完全に無効化する。
また呪われた装備品のペナルティを全て無視できる。
-
《天使の輪》
常に自分の周囲が明るく照らし出される。
『隠密系スキル』を一切修得できなくなる。
+----+
(なるほど……)
どうやら異能というのは、選択した戦闘職や生産職、種族や部族に応じて、最初から幾つか所持しているものらしい。
公式サイトの職業詳細ページは確認済なので、《操具術》と《特性吸収》の内容については既に知っていた。
またキャラクター作成時にユトラから説明があったので、《呪詛無効》と《天使の輪》についても既に把握している。
けれど《落下制御》の異能については、シズもいま初めて知った。
シズの種族である『聖翼種』は、スキルを取ると短時間だけ飛べるようになれる種族らしいから、おそらくその関係で所持している異能なんだろう。
この異能があれば、途中で飛べなくなって墜落しても安心というわけだ。
背中に翼があるのに『落下死』なんてしたら、恥ずかしいもんね。
「よっと」
試しに噴水の縁の上に登り、そこからジャンプして降りてみる。
するとジャンプした際に最高点に達するまでは普通なのに、そこからふんわりとしか身体が落下せず、2~3秒ぐらい掛けてゆっくり地面へと着地した。
正直、予想以上に長く浮いていられたので、自分でも結構びっくりした。
「なんだか楽しそうなことをしていらっしゃいますね、シズお姉さま」
「あ、ユーリちゃん。おはよう」
「はい、シズお姉さま。おはようございます」
いつの間にか待ち人のユーリが来ていて、すぐ横に立っていた。
ユーリの見た目―――身長や体形、そして顔などは『リリシア・サロン』で普段見ている姿と、ほぼ変わらないものだった。
但し、普段の彼女と違っている箇所が2つだけある。
1つは彼女の髪の色が綺麗な緑色に変わっていることだ。透明感があり、実際に陽光に透けているようにさえ見える、明るい緑の髪はなんとも美しく。どこか人間らしくない不思議な魅力を放っているようにさえ思える。
また、それに輪をかけているのがもう1つの違いで、ユーリの側頭部から生えているピンと尖った特徴的な耳だ。
これはおそらく、種族『森林種』ならではの特徴だろう。ファンタジー小説によく登場する『エルフ』らしい容姿と言えば判りやすいだろうか。
普段と異なる2つの特徴に加え、シズと同じようにユーリもまた民族衣装っぽい雰囲気の衣服を着ていることもあって。
今のユーリには本当に、ファンタジー世界に住んでいる少女のような、不思議な可愛らしさが完成されていた。
見ているだけで、シズの心になんだか幸せな感情が溢れてくる気がする。
「シズお姉さま。何だか今、ゆっくり落下していらしたように見えましたが……。それがシズお姉様が選ばれた種族の特徴なのでしょうか?」
「あ、うん、そうそう。今ちょうどそれを確認してた所でね」
ステータス欄に表示されていた『異能』の話をすると、ユーリは得心したように頷いてみせた。
「なるほど。『聖翼種』にはそのような特徴があるのですね」
「ユーリちゃんは『森林種』だよね? そっちも何か特徴があるの?」
「はい。シズお姉さまほど、面白いものではありませんが」
ユーリの話によると『森林種』には、職業に関係無く弓を扱うことができたり、聴覚が優れているので周囲の魔物を感知するスキルが有利になるといった特徴があるらしい。
また、スキルを取れば暗い中でも物が見えるようになったりするそうだ。
『聖翼種』ほど際だったものではないかもしれないけれど、充分に実用的な特徴だと言えるだろう。
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★ユーリから『フレンド登録』申請が届いています。
受諾しますか?
★ユーリから『パーティ参加』申請が届いています。
受諾しますか?
+----+
続けざまに〔ポーン♪〕という効果音が鳴り、2つのメッセージが表示される。
もちろん大歓迎だ。シズは両方共に受諾することを、心の中で念じる。
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▲ユーリと相互に『フレンド』になりました。
お互いのログイン状態やステータスなどが確認可能になります。
▲ユーリが『シズ』をリーダーとするパーティに参加しました。
現在2人パーティです。経験値は全員に均等分配されます。
○実績『初めてのフレンド』を獲得しました!
報酬として〔スキルポイント:20〕を獲得しました。
○実績『初めてのパーティ』を獲得しました!
報酬として〔スキルポイント:20〕を獲得しました。
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「おお……⁉」
視界内にログウィンドウが表示されて、一気に何行もの文章が表示される。
とりあえずフレンド登録とパーティを組むのは、どちらも上手く出来たらしい。
あと一緒に『実績』とかいうのを2つ獲得したらしいけれど、こちらはシズには意味が判らなかった。
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お読み下さりありがとうございました。