72. 操具師とクロスボウ(後)
〈武器強化術〉のスキルについては、シズももちろん把握している。
何しろゲームを始めた当初から、取得可能なスキルの1つだったのだ。
スキルの効果は『所有する武器の性能を10%強化する』というもの。また、スキル修得者の[知恵]の能力値に応じて効果は更に高まるようだ。
もう片方の〈機械操作〉というスキルについては、いま初めて知った。
シズは普段ゲーム内の『掲示板』を全く見ていないし、ネット上で攻略情報などを探したりもしていないので、どうしてもこのゲームの知識に疎かな部分がある。
だからこういう情報を教えて貰えるのは、とても有難かった。
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シズ
白耀族の聖翼種/能力倍率合計【190%】
〔操具師〕- Lv.8 【90%】
〔錬金術師〕- Lv.10 【100%】
HP: 35 / 35
MP: 71 / 71
[筋力] 9 (5)
[強靱] 13 (7)
[敏捷] 60 (32)
[知恵] 60 (32)
[魅力] 11 (6)
[加護] 60 (32)
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◆異能
《操具術》《特性吸収》《落下制御》《呪詛無効》《天使の輪》
《天翔る翼》《調合の妙》《盟約の主Ⅰ》《星白の友好者》
◇スキル - 1091 pts. / 得意化:残り1回
〈☆操具収納Ⅰ〉〈☆効能伝播Ⅰ〉〈○服薬術Ⅱ〉〈○食養術Ⅱ〉
〈☆アルカ鍍金Ⅰ〉〈☆特性注入術Ⅰ〉〈☆錬金素材感知Ⅰ〉
〈○初級霊薬調合Ⅹ〉〈○植物採取Ⅰ〉〈○素材収納Ⅰ〉
〈○生産品収納Ⅰ〉【○伐採Ⅰ】
〈☆聖翼種の浮遊能力Ⅹ〉
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視界内に自身のステータス画面を表示させて確認してみる。
スキルポイントは現時点で『1091』も貯まっている。これは、この5日間で戦闘職と生産職のレベルアップがそれぞれ2回ずつあったり、デイリークエストを消化してコツコツと貯めた分がそのまま残っているからだ。
というわけでシズは早速イズミから教えて貰った通り、〈武器強化術〉のスキルを新たに修得。更に、スキルランクを『3』まで伸ばしてみる。
するとイズミの情報通り、シズが修得可能なスキルの一覧に〈機械操作〉というものが新たに追加された。
早速シズは〈機械操作〉のスキルも新たに修得してみる。
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〈☆武器強化術Ⅲ〉
所有する武器の性能を『30%』強化する。
このスキルは[知恵]が高いと効果が更に向上する。
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〈☆機械操作Ⅰ〉
機械構造を持つアイテムを巧みに操ることができる。
所有する該当アイテムの性能が『20%』強化される。
また損耗や故障状態が徐々に、ごく僅かずつ回復するようになる。
この効果は収納中のアイテムにも適用される。
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〈武器強化術〉スキルがランク『3』で、武器の性能が『+30%』。
更に〈機械操作〉スキルで性能が『+20%』なので、合計すると『+50%』という大きな補正が得られることになる。
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ゴーツフット・クロスボウ/品質[72]
物理攻撃値:101(64)
装備に必要な[筋力]:35
片足で固定して梃子の原理を利用して弦を引くクロスボウ。
非常に高い武器攻撃力を誇るが、代わりに武器操作者の能力値が
ダメージに一切影響しないという重大な欠点がある。
『インベントリ』に収納するとボルトの装填状態が解除される。
- 鍛冶職人〔イズミ〕が製作した。
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イズミから受け取ったゴーツフット・クロスボウの、アイテム情報を改めて確認してみると。武器の物理攻撃値が『101』まで増えていた。
元々の物理攻撃値が『64』なので、スキルの効果で『37』も増えている。
明らかに『+50%』より多めに攻撃値が増えているのは、おそらく[知恵]の高さが影響しているせいなのだろう。
(攻撃値『101』は凄いなあ……)
以前シズが結構良いダメージを魔物に与えていた、あの両手用の両刃斧でさえ、武器の物理攻撃値は『46』しか無かったのだから。
一気にその2倍以上もの攻撃力が、手に入ってしまったことになる。
もちろんクロスボウには、[筋力]が高くても魔物に与えるダメージが増えないという、明確なデメリットがあるわけだけれど。元々、雀の涙ほどの[筋力]しか持たないシズにとっては、それこそ些細な問題だった。
「シズ姉様。クロスボウは5つ用意してありますので、全て受け取って下さい」
「……え、5つも作ったの?」
「はい。生産の難易度が手頃で、鍛冶の練習にも丁度良かったので」
「さ、流石に代金は払わせて欲しいな」
以前にプラムと一緒に、スケルトン達に持たせる武器を見繕う目的で、武具店の中を見て回った時に判ったことだけれど。
この世界で、武器というのはなかなかの高額商品だ。だからこのクロスボウも、武具店などへ売却すれば結構な値が付くことは、容易に想像できた。
「無用です。ペットが飼い主のために奉仕するのは、当然のことですから」
「ええ……?」
自身の首に嵌っているチョーカーを指先で撫でながら。そう言い切って、支払いを拒むイズミ。
そう言われても、シズとしては困惑するしかない。
……というか、『ペット』て。
「じゃあ、せめて霊薬を幾らか貰ってくれない?」
「わ、シズ姉様手製の霊薬を頂けるのは、もちろん嬉しいです!」
イズミがそう言ってくれたので、クロスボウ5個と専用の矢である『ボルト』を100本受け取ることの、せめてもの謝礼として。シズの手持ちにある『逸品』のベリーポーションを30本ほど彼女に譲渡しておいた。
ベリーポーションでも『逸品』なら、時間経過で劣化することはない。
イズミのような近接戦闘職が、保険で持っておくのは良いことだろう。
「えっと―――〈操具収納〉スキルでなら、装填した状態のままクロスボウを収納することができるんだっけ」
「はい、そう聞いています」
試しにシズは、受け取ったばかりのクロスボウにボルトを装填してみる。
クロスボウの先端にある輪っかを足に引っかけて、胴体部に備え付けられているレバーを、梃子の原理を利用してゆっくりと引く。
……これって本来は、結構力が要る作業だと思うのだけれど。
[筋力]が全然無いにも拘わらず、シズは軽々とレバーを引き倒して、ボルトを装填することができた。
おそらくは〔操具師〕であることの恩恵が、クロスボウという道具を扱うことを容易にしてくれているのだろう。
「おお……。本当にそのまま収納できた」
ボルトを装填したクロスボウを〈操具収納〉の中へ収納し、数秒待ってから取り出してみると。シズの手元には、ちゃんと装填済のクロスボウがあった。
一応『インベントリ』にも収納してみたところ、どうやらこちらは収納した瞬間に『クロスボウ』と『ボルト』という、2つのアイテムに分別されるようだ。
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〈☆操具収納Ⅰ〉
装備品・道具・薬品・飲食物が『5』枠まで収納可能になる。
このスキルで収納しているアイテムは状態が保存される。
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〈操具収納〉スキルだけに限った話でも無いけれど。スキルでの収納には、多くの場合『収納したアイテムの状態を保つ』という特殊効果が付いている。
だからクロスボウを収納した場合も『装填状態』が保たれるのだろう。
但し武器は1個収納する毎に、〈操具収納〉スキルを1枠分占有するようだ。
だから5個のクロスボウを全て収納するなら、全部で5枠空ける必要がある。
既に〈操具収納〉の中には霊薬などを保管しているから、5枠全てを武器で埋めるというのは流石に辛い。なのでシズはスキルポイントを消費し、〈操具収納〉のスキルランクを『2』へと伸ばすことにする。
これにより収納枠が『5』から『10』へ拡張される。シズはクロスボウ5個にそれぞれボルトを装填してから、その拡張された収納枠の中へ武具をしまった。
「とりあえず、試しにクロスボウを使って戦闘してみたいな」
「では、積極的に魔物を捜して回りましょうか」
そう提案したユーリの言葉に、その場の全員で頷く。
森都アクラスの南に広がる森は、河川を越えると魔物の生息数が大幅に増える。
だからシズ達は1分と歩かないうちに、魔物の集団と遭遇した。
「ゴブリンのファイターが3体と、アーチャーが1体です」
「了解。じゃあ私がアーチャーを狙ってみるね」
「お願いします」
飛び出してきた4体の魔物のうち、前衛のゴブリン・ファイターはイズミとスケルトン達に任せて、シズはその後ろにいるゴブリン・アーチャーと射撃戦を行う。
ゴブリン・アーチャーはシズ達の姿を死人すると同時に、素速く弓に矢を番え始めるけれど。
言うまでもなく、既に装填済のクロスボウを構えているシズのほうが、それよりも圧倒的に早く攻撃を放つことができる。
『プレアリス・オンライン』では弓を扱う場合、[筋力]が矢の威力に影響し、命中精度には[敏捷]が、クリティカル率には[加護]が影響する。
このうち、クロスボウの場合は[筋力]の影響が無いわけだけれど。[敏捷]が高ければ命中精度が高まり、[加護]が高ければクリティカル率が高くなるのは、クロスボウでも同じことだ。
そして―――[敏捷]と[加護]の2つは、どちらもシズが普段からしっかりと伸ばしている能力値でもある。
矢を番える動作を行っているゴブリン・アーチャーは、棒立ちで隙だらけだ。
動かない的ほど撃ちやすいものはない。素速く照準を定めてシズが放ったボルトは、その狙い通りにゴブリン・アーチャーの頭部へと深々と突き刺さり―――。
あまりに高いその威力のせいで、ゴブリン・アーチャーの頭部を引き千切った。
「うわぁ……」
すぐに魔物の身体が、光の粒子に変わってくれるから良いけれど。一撃でゴブリンの頭部がもぎ取られる様子なんて、想像するだけでもグロテスクでしかない。
物理攻撃値が『101』なのだから、高い威力が出るとは思っていたけれど。
―――まさか、これ程とは思っていなかった。
《ヒエッ》
《ああっ! ゴブリンさんがゴ/ブリンさんに!》
《これが妖怪『首置いてけ』か……》
《おいおい。ちゃんと天使『首置いてけ』ちゃんだと言いなさい》
《つまり首狩り天使ちゃんだな》
《ウム! そっちのほうが可愛い》
「変なあだ名を付けるのはやめて⁉」
視聴者からのコメントに抗議しながらも、シズは打ち終えたクロスボウを〈操具収納〉のスキルへと格納し、代わりに別の装填済のクロスボウを取り出す。
スキルによるアイテムの持ち替えは、射撃の姿勢を維持したままでも一瞬で行うことができる。だから、やろうと思えば本当に『連射』も可能だろう。
この威力の射撃を、最大で5連射まで出来るというのは、率直に恐ろしい。
試しにゴブリン・ファイターへも射撃してみたところ、一撃で魔物のHPバーを4割ほど削ることができた。
今度は胴体に命中していたので、頭部へ当たった時よりもダメージは落ちている筈なのだけれど。それでも、ゴブリン・ファイターのタフなHPを4割も削れるというのは、充分に凄い。
これなら間違いなく、戦力としてパーティに貢献することができそうだ。
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お読み下さりありがとうございました。




