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64. 森の中のフライト

 



 付近のヒールベリーを回収してから、シズ達はさらに森を南下していく。

 川を渡ってからというもの、明らかに魔物と遭遇する頻度が増えたように思う。

 勘違いでないようなら、たぶん渡河前に較べて1.5倍ぐらいは魔物が出現しているだろうか。

 魔物が2体で出ることが稀になり、かなりの確率で4体以上がセットで登場するのだ。お陰でこれまでのように戦闘が簡単にはいかなくなった。


 特にゴブリン・アーチャーは、その傾向が強い。

 アーチャーだけで出てくる分には、イズミがあっという間に斬り伏せてしまうから楽なんだけれど。実際には他のゴブリンと―――特に耐久力が高めのゴブリン・ファイターと一緒に登場することが多いので、厄介さが増している。

 前衛に立つゴブリンがいると、イズミもなかなか相手のアーチャーが居る場所にまで、斬り込むことができないからだ。


 それに、ゴブリン・アーチャーは前衛に立つイズミやスケルトン達よりも、後衛のシズやプラム、ユーリを狙って矢を射てくることが多いのが怖い。

 放たれた矢の7割ぐらいは、スケルトン達が盾で止めてくれるけれど。逆に言えば残りの3割ぐらいは、しっかり後衛のシズ達が居る場所にまで届くのだ。

 そのせいで、ここ何回かの戦闘では、後衛であっても全く気を抜くことができなくなっていた。


 実際にプラムが、一度アーチャーの矢を腕に受けてしまう場面もあった。

 ただ幸い、その攻撃で彼女が毒に冒されることは無かったようだ。

 どうやら毒矢を受けたからといって、必ず身体に毒が回るものでも無いらしい。


 とはいえ、毒を受ける確率がどの程度なのかは判らないし、また実際に毒に冒された場合に、どの程度の被害が出るかも判らないから。

 やはり、なるべく毒矢自体を受けないよう、気をつけるのが大事だろう。


「3人とも、良かったら念のためにこれを持ってて」


 ユーリとプラムとイズミの3人に、アンチドートを2本ずつ手渡しておく。

 もし仲間が毒に冒されても、シズがアンチドートを飲めば〈効能伝播〉のスキルで毒状態を回復できる可能性が高い。なので仲間に渡しておく必要が、必ずしもあるわけではないのだけれど。

 とはいえ―――現状のままだと、もしシズが魔物の攻撃で真っ先に倒されることがあれば、毒を治療できる人間がいなくなってしまう。

 リスクを考えると、やはり幾つか仲間に渡しておく方が賢明だろう。


「霊薬は有難く頂戴します。ですが―――間違ってもゴブリン如きに、シズ姉様を絶対に傷つけさせたりは致しませんが」

「ふふ、イズミは頼もしいね」


 『絶対に傷つけさせない』と、そう言葉にして言われるのは少し照れくさい。

 けれど―――それ以上に、大事にして貰えるのはやっぱり嬉しくもあって。

 シズが優しくイズミの頭を撫ぜると。彼女もまた、少し照れくさそうにその頬を赤らめてみせた。


「お姉さま。そろそろ街に帰ったほうが良い頃合いかもしれませんわ」

「お、もうそんな時間?」


 視界の隅に表示されている時計を確認してみると、時刻は午前の11時40分に差し掛かろうとしていた。

 シズは一人暮らしなので、時間なんてどうにでもなるけれど。ユーリやプラム、イズミの3人はたぶん、昼食を家族と一緒に取る筈だ。

 それを思うと、彼女達全員が問題無く12時までにはログアウトできるよう、そろそろ都市に戻ったほうが良いだろう。


 ゲームからのログアウトは、やろうと思えばどこででもできるけれど。なるべく安全な場所で行うことが、ゲームとしては推奨されている。

 ここで言う『安全な場所』とは、即ち『都市』や『村落』のことだ。多くの人が住む領域の中でなら、何の問題も無くログアウトを行うことができる。

 もちろんその際に宿屋を利用すれば、ログアウト時間に応じたボーナスも得ることが出来て更にお得だ。


 逆に、安全ではない場所―――つまり都市や村落の外でログアウトする場合は、ログアウトした後に身体がその場に10分間残ってしまう。

 当然その10分の間に魔物から発見されれば、一方的に攻撃を受けて、ほぼ間違いなく死ぬことになるだろう。


 死亡すればデスペナルティが発生するので、一時的に身体能力値が大幅に低下することになる。

 但し2時間が経過するとデスペナルティは回復するので、それより長時間に渡ってログアウトする場合は、実質ノーペナルティとも言える。

 とはいえ魔物に倒されてしまうと、最後に訪れた都市まで強制的に戻されることにはなるけれどね。


 今回は『昼食』のためのログアウトなので、1時間ぐらいでまたゲームに戻ってくることになるだろう。

 それを思うと、あまりリスクがあるログアウト手段は取りたくない。


「シズお姉さま。この位置からですと、森都アクラスまで戻るより、この先にある村落まで向かった方が近いかもしれません」

「そうなの?」

「はい。先程の河川がある辺りで、この先にある『ミロー村』までちょうど半分の距離という話なので」


 河川というと―――先程ゴブリン・アーチャー達から浮遊しているところを狙い撃たれた、あの川のことだろう。

 渡河した後にも、魔物を狩りつつそれなりの距離を移動しているから。現在位置からだと『ミロー村』のほうが近いのは間違い無さそうだ。


「じゃあ一旦街道に出て、そこからミロー村を目指して飛ぼうか」

「はい、是非お願い致しますわ」


 街道を徒歩で移動するよりは、地面から近い高さを飛ぶ方が確実に速い。

 折角取得した浮遊スキルなのだから、積極的に使わなければ損だ。


(どうせなら、今のうちにスキルランクも上げちゃおうかな)


 街道がある西側に向けて移動しながら、シズはそんなことを考える。

 《天翔る翼》の異能(フィート)があるお陰で、シズは浮遊や飛行に関するスキルを、通常の半分のスキルポイントで修得したり、ランクを成長させることができる。

 そのこともあって、近いうちに空を浮遊するスキル―――〈聖翼種の浮遊能力〉のランクを最大まで上げようかとは思っていたのだ。

 折角の活用機会なんだから、別に今ランクを上げてしまっても構わないだろう。


 戦闘職のレベルアップやデイリークエストの達成によって、スキルポイントの量は十分に貯まっている。

 というわけで早速シズは〈聖翼種の浮遊能力〉スキルのランクを、現在の『5』から上限の『10』まで一気にアップさせた。

 5ランクも上げたのに、スキルポイントが『250』点の消費で済むのだから、とってもお得だ。




+----+

★〈☆聖翼種の浮遊能力〉スキルをマスターしました!

 スキルの効果に一部変化が加わりました。


★新たに〈☆聖翼種の飛行能力〉のスキルが修得可能になりました。

 このスキルを修得するには[加護]が『200』必要です。

+----+




 すると、以前〈初級霊薬調合〉のスキルランクを『10』に成長させた時と同じように、〈聖翼種の浮遊能力〉スキルにも効果に一部変化が生じたようだ。

 同時に『浮遊』の上位と思われる、『飛行』スキルの修得も可能になる。


 但し『飛行』スキルの修得には、[加護]が『200』も必要らしい。

 現在、シズの[加護]は『50』をちょっと超えたぐらいしか無いから、条件を満たせるのはかなり先になりそうだ。

 ログウィンドウに『修得可能になりました』と表記されたにも拘わらず、現状でまだ全然『可能』でないのは、ちょっとどうかと思う。

 とりあえず『飛行』のことは当分忘れてしまっても良さそうだ。




+----+

〈☆聖翼種の浮遊能力Ⅹ〉


 最大で『60秒』までなら、空中を浮遊することができる。

 一度着地すると『10秒間』は再浮遊ができなくなる。

 この効果は手を繋いでいる相手にも適用される。(最大5名まで)

 持続時間を超えてもMPを消費すれば浮遊を継続できる。


+----+




 上限のランク『10』まで成長させた〈聖翼種の浮遊能力〉スキルの詳細は、こんな感じ。

 変更点が主に2つ。1つは、今まで説明文にあった『空中をゆっくり浮遊することができる』という表記から、『ゆっくり』という文言が消されていること。

 もう1つは、『持続時間を超えてもMPを消費すれば浮遊を継続できる』という効果が追加されていることだ。


 前者は単純に、浮遊移動の速度が今までより上がったという意味だろう。

 《天翔る翼》の異能があるお陰で、浮遊の速度と持続時間が2倍に向上しているから、元々の移動速度が上がればその倍の恩恵が得られることになる。

 実際に試してみなければ判らないけれど。『飛行』とまではいかないにしても、結構な速度で移動できるようになったんじゃないだろうか。


 もちろん後者の、MPを消費すれば持続時間を超えて飛べるというのも嬉しい。

 このゲームではキャラクターの最大MPが[知恵]と[魅力]の能力値に応じて増加する。シズは[魅力]は低いけれど、一方で[知恵]のほうは積極的に伸ばしているから、最大MPの量はそこそこ多いのだ。

 今まではMPが多くても全然使い途が無かったけれど。これからは、浮遊時間を伸ばすために役立てることができる。

 随分と限定的な使い途ではあるけれど。それでも全く役に立っていなかったものが少しでも活用できるようになるのは、嬉しいものがあった。


「お姉さま、街道ですわ」

「―――おっと、そうだね」


 考え事をしていたシズの思考を、プラムの言葉が引き戻す。

 早速シズはその場の4人で手を繋ぎ、街道上を浮遊して移動することにした。


「わぁ……! シズお姉さま、以前より速くなっていませんか……!」

「うん。実は浮遊スキルのランクを、最大まで伸ばしたんだ」

「これなら、隣の町までもひとっ飛びですわね!」


 風を感じながら、かなりの速度で4人一緒に空中を翔ける。

 正確な時速は判らないけれど、体感で言えば自転車よりも明らかに速い。

 たぶん原付と同じぐらいの速度は出ていそうな気がする。


 〈聖翼種の浮遊能力〉スキルの持続時間は『60秒』だけれど、《天翔る翼》の異能があるお陰で、実際にはその倍の『120秒』までは浮遊できる。

 それ以上飛び続けていると、今度は2秒ごとに『1』ずつ、シズのMPが減少を始めた。

 シズの最大MPは『60』よりちょっと多いぐらいなので、持続時間が切れても追加で2分間ぐらいは延長して浮遊することが可能だ。


 ―――というわけで、4分間のフライトを行ってからシズは一旦街道に着地し、10秒間だけ街道を歩いた後に、更にフライトを行う。

 追加で2分ほど飛行したところで、先程ユーリが話していた『ミロー村』へ無事到着することができた。





 

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お読み下さりありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新乙い
[一言] 配信要素が少なめだけどそりゃかわいい女の子に囲まれてたら気にしてられないよね
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