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61. 剣客イズミ

 



 一応、採取の手だけは止めて、シズ達は状況を見守る。

 イズミが負けるとは思わないけれど、必要であればいつでも加勢できるように。


「ああ―――。上手いですわね」


 戦闘の状況を見て、プラムがそう言葉を零す。

 先行してきた2体のゴブリン・スカウトの片方だけをスルーして、スケルトン達がもう1匹の進路を阻んだのだ。

 更に遅れてやってきたゴブリン・ファイターの進路もブロックすることで、イズミがゴブリン・スカウトと1体1で戦える状況を作り出している。


 戦闘を優位に進める最適解が、判っているとしか思えない動きだ。

 そんなスケルトン達の立ち回りを眺めていたシズは(やっぱりプレイヤーが操作しているのでは?)という疑念を、なお深めたりするわけだけれど。


 1対1での戦いでイズミが遅れを取る筈もない。

 鯉口を切ると同時に、イズミはまず横薙ぎの一閃を浴びせて機先を制する。

 ゴブリン・スカウトが怯んだところに、間隙を置かず頭部への刺突を入れ、更には踏み込んでの袈裟斬りまで加えて。魔物の身体を斜めに切り裂いた。


 鮮やかに連なった一連の斬撃で、魔物のHPゲージはあっさり全損。

 すぐにゴブリン・スカウトの身体が、光の粒子へと変わった。


「―――次!」


 イズミが一言そう告げると、ゴブリン・ファイターを受け持っていたスケルトン達がその意を察し、イズミの背後側まで下がってくる。

 その背を追いかけて来たゴブリン・ファイターに、イズミは納刀した本差の代わりに脇差を抜刀し、魔物が剣を持つ右腕に切っ先を突き立てる。

 傷みに喘いだゴブリン・ファイターが剣を取り落とし、その場で(うずくま)ったのを見て、肉薄したイズミが顎の下から膝で蹴りを入れる。


(剣だけでなく、体術まで使いこなすんだ……‼)


 小柄な体躯から放たれたとは思えないほど威力が籠められた膝の一撃を受けて。ゴブリン・ファイターが堪らず、その場で仰向けに転倒した。

 ―――その倒れたゴブリンの喉元へ、イズミが()かさず脇差を突き立てる。

 そうして、タフである筈の魔物のHPさえ、あっという間に『0』になった。


「凄っ……」


 その様子をつぶさに見ていたシズは、瞠目して言葉を失う。

 北方の森で戦っている姿を何度も見たから、イズミの凄さは理解しているつもりだったけれど。実際には、判った気になっていただけらしい。


 どうやら北方の森に出現するレベル2以下の魔物達では、イズミが実力を発揮する相手としては不足だったようだ。

 いや―――それどころか、この場所に生息するレベルが『4』のゴブリン・スカウトとゴブリン・ファイターでさえ、まだまだ力不足のように思える。


 ちなみに残ったゴブリン・スカウト1体は、イズミが手を下すまでもなく4体のスケルトン達により、あっという間にボコボコにされた。

 可哀想だけれど、数の暴力って割とどうにもならないよね……。うん。




+----+

▽魔物を討伐しました。

 戦闘経験値:100/スキルポイント:1

 獲得アイテム:銅鉱石、鉄鉱石

 《特性吸収》により錬金特性〔加護増強Ⅰ〕を吸収しました。


▽魔物を討伐しました。

 戦闘経験値:100/スキルポイント:1

 獲得アイテム:鉄鉱石

 《特性吸収》により錬金特性〔強靱増強Ⅰ〕を吸収しました。


▽魔物を討伐しました。

 戦闘経験値:100/スキルポイント:0

 獲得アイテム:鉄鉱石

 《特性吸収》により錬金特性〔加護増強Ⅰ〕を吸収しました。

+----+




 魔物とのレベル差が小さいお陰で、スキルポイントが高確率で手に入るのが嬉しいところだ。

 魔物を倒した後に得られるアイテムは、パーティメンバー全員になるべく均等に行き渡るよう、自動的に分配される。なので魔物がドロップする鉱石が4個なら、1人あたり1個ずつが行き渡るはずだ。

 それなのに鉱石が2個手に入っているケースがあるというのは。即ち、この辺に棲息するゴブリンは1体あたり5個以上の鉱石を落とす場合もある、という証拠に他ならない。


「それは嬉しいですね。銅や鉄は使い(みち)が多ので、沢山集めておきたいです」


 その事実を〔鍛冶職人〕を選択しているイズミに伝えると、彼女は俄然やる気を出した様子だった。

 ゴブリン達に苦戦する素振りさえ見せないイズミからすれば、有用な素材がわざわざ向こうからやってきてくれるようなものだ。


「あとで私に回ってきている分は、全部イズミにあげるね?」

「私の分も差し上げます」

「もちろん、わたくしの分もですわ」

「ありがとうございます!」


 都市南方の森はイズミにとってメリットが多い場所になりそうだ。

 となれば、あとは〔縫製職人〕のプラムにとっても、何かメリットのある素材が採取できれば良いんだけれど―――。

 そう思いながら森の中を探索していると。程なく、その希望は叶えられた。




+----+

クラナビ/品質[86]


 【カテゴリ】:素材(繊維植物)

 【錬金特性】:〔強靱増強Ⅰ〕

 【品質劣化】:-0.1/日


 葉を付けない長い茎が纏まって生える草本。

 表皮を剥ぐと沢山の繊維が詰まっており、縫製職人に愛用される。

 地下茎を伸ばし群落を作るため、1つ見つけると大量に発見できる。

 土の栄養が豊富な場所で採れるものほど品質は高くなる。


+----+




 森の一角に、大量に生えている『クラナビ』という植物が発見できたからだ。

 繊維植物なので〔縫製職人〕のプラムにとって、非常に利用価値が高い素材だ。

 しかも森の腐葉土の中で育っているためか、品質値もかなり高いようだ。


「これは素晴らしいですわ……!」


 満面の笑みで採取を行うプラムを、もちろんシズ達3人も手伝う。

 採取の最中に、ゴブリン・ファイターが1体襲ってきたけれど。これはイズミが刀を抜くまでもなく、スケルトン達が例によってボコボコにしていた。

 いかに屈強なゴブリン・ファイターでも、4体1ではそうなるよね。うん。


「そういえばシズ姉様。先程の戦闘で消費したぶんの、MPの回復をお願いしても良いでしょうか?」

「あ、何か攻撃スキルを使ってたんだね」

「厳密に言えば『攻撃スキル』では無いのですが。【抜刀術】と【納刀術】というスキルを有効化しているので、刀を出し入れする度にMPを消費していまして」


 そう答えた後に、イズミはシズの視界にスキルの情報を開示してくれた。




+----+

【抜刀術】

 MP消費:10 / 冷却時間:-


 身体に装着した収納具から武器を取り出す際に自動発動する。

 その武器で魔物に与えるダメージが10秒間『20%』増加する。


-

【納刀術】

 MP消費:10 / 冷却時間:-


 身体に装着した収納具に武器を収納する際に自動発動する。

 10秒間収納しておく毎に1秒間ずつ、取り出した後の武器に

 『防御力無視』効果を付与する。(最大で30秒間持続する)

 持続時間が余った状態で再収納すると、その分は持ち越せる。


+----+




 どうやらこのゲームでは、意志操作によりパーティメンバーの視界に任意の情報を直接表示させることも可能らしい。

 説明文によると【抜刀術】は身体に取り付けた収納具、つまり『鞘』に収まっている刀を抜いた時に自動発動するスキルで、10秒間だけその武器で魔物に与えるダメージを高まるようだ。

 【納刀術】のほうは『鞘』に刀を収納しておくと、その時間に応じて最大30秒まで『魔物に防御力を無視してダメージを与える』ことができるらしい。


 確かに『攻撃スキル』というより、攻撃を補助するスキルという印象だろうか。

 どちらのスキルも『居合い』を主体にして戦うイズミのスタイルと合っていて、非常に有用であることは疑いようもない。

 但し、これらのスキルを有効化していると、刀を抜いた時と収納した時の両方でMPを『10』ずつ自動的に消費してしまう。

 先程の戦闘でも2回ずつ抜刀と納刀を行っているから、MPを合計『40』点も消費しているわけだ。

 イズミはMP最大値がそれほど多くないから、40点も消費すれば、ほぼMPが底を突きかけていることだろう。


 シズは〈操具収納〉から取り出した『ブリュッセルワッフル』と『イチゴジャムクッキー』2枚を食べながら、『アンセルジュース』と『コーヒー』を飲む。

 これでイズミが消費した分のMPを全快させると共に、パーティメンバー全員とスケルトン達の[筋力]・[敏捷]・[知恵]を『11』ずつ増加させた。

 [敏捷]の増加は6時間、[筋力]と[知恵]の増加は3時間も持続するから、これで当分の間は戦闘を有利に進めることができる。


「シズお姉さま、こちらもお使い頂けますか?」


 そう言いながらユーリが差し出して来た、何かの小箱を受け取る。


「これは?」

「私が製薬した『デボールコーム』という飲み薬です。『最大HP』を底上げする効果がありますので、是非いまお使い下さいませ」

「おおー。そういえば、作るって言ってたね」

「はい。今日の狩りの為に、ちゃんと用意して参りました」


 小箱には霊薬のものより少し容積が多そうな小瓶が、全部で10本入っていた。

 その中の1本を取り出し、早速シズは飲み干してみる。


(……苦っ!)


 多分そうだろうと予想していたから、覚悟はしていたけれど。

 『薬』なだけあって、デボールコームはかなりの苦味を伴うものだった。




+----+

△『デボールコーム』を服用しました。

 シズの最大HPが1時間に渡って『18』増加します。

 仲間全員の最大HPが1時間に渡って『11』増加します。

 ミニオンの最大HPが1時間に渡って『11』増加します。

+----+




 とはいえ、その苦味は良薬の証なんだろう。

 ユーリが生産してくれた薬はしっかりとその機能を果たして、全員の最大HPを増加させてくれた。


 元々のHPが少ないシズからすると、非常に嬉しい効果だ。

 これを服用するだけで最大HPが『30』から『48』まで、一気に6割も増えるのだと思うと、苦味を味わうぐらいは些細な問題だと思える。


「……あの、シズ姉様。ひとつ質問しても良いですか?」

「うん? もちろん、何でも訊いて?」

「今日は『配信』をしていないみたいですが、よろしいのですか?」

「………………あっ」


 慌ててシズは、意志操作により『配信』機能をオンにする。

 そういえば―――今の今まで、すっかり失念していた。





 

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投稿前に確認したところ、VRゲームの月間1位に本作が入っておりました。

正直月間のほうは無理だと思っていましたもので、とっても嬉しいです。

いつもご支援を下さり、ありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 月間1位おめです!!
[良い点] 更新乙い [一言] 今日は配信しない日だと思ってたわ
[一言] 視聴者兄貴たちも色々察しそう こいつらVRぴょいしたんだ!
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