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57. 血の盟約

 


     *



「―――鍍金(メッキ)、ですか?」

「うん。新しいスキルを修得したら、できるようになってね」


 武具店を出た後に、シズはそのことをプラムに打ち明ける。

 折角スケルトン達用の鎚矛(メイス)と盾を用意したのだから、それに『アルカ鍍金』を施すことで、より武具を強化しようと考えたのだ。


 アルカ鍍金による強化は、現在のスキルランクだと1日で効果が切れてしまう。

 けれど逆に言えば、1日は効果が切れずに持続するわけだから。今日、都市南方の森で行う予定の狩りでは、充分に役立つ筈だ。


「ふむふむ……装備品への付与というのは、どのような感じなのでしょう。実際にそれを施したものがあれば、見てみたいですわね」


 シズからアルカ鍍金について説明を受けたプラムが、そう口にする。

 彼女の言う通り、まずは現物を確認して貰うのが手っ取り早いだろう。


「私がいま着ている鎧にも『アルカ鍍金』による付与が施してあるから。ちょっとこの性能を確認して貰っても良いかな?」

「まあ、喜んで♥」


 シズの要請に、プラムが嬉しそうに返事をして。

 いきなり―――正面からがばっと、シズのお腹に抱き付いてきた。


「……別に抱き付く必要は無いんだけど?」

「うーん、鎧のせいで抱き心地がイマイチですわね。お姉さま、脱ぎませんか?」

「なんか前もあったな、こんなこと……」


 以前にユーリから、急に抱き付かれた挙句に『抱き付く時には金属鎧は着て欲しくない』と理不尽な要求をされたことは、まだ記憶に新しい。

 まさかそれとほぼ同じことを、プラムからも言われるとは思わなかった。


「……なるほど。確かに【鍍金(メッキ)付与】というものが付いていますわね」


 文句を言いつつも、抱き締める手は緩めないままに。

 ようやく装備の情報を確認してくれたらしく、プラムが静かにそう告げた。




+----+

初心者用ガームアーマー


 物理防御値:46 / 魔法防御値:18

 装備に必要な[筋力]:36


 【鍍金付与】:[敏捷]+3(▲あと約20時間後に消滅)


 防具チケットと引き換えに交換可能な、初心者向けの防具。

 武具店に持ち込めば、再び防具チケットに戻すこともできる。

 全身を護る金属鎧なので、初心者向けの割に防御性能は高い。

 但しかなりの重量があるため、機敏さは失われるだろう。


+----+




 シズが現在着用している鎧には、アルカ鍍金により[敏捷]が『3』増える効果が付与されている。

 この効果は例によって、ピティを乱獲して得た〔敏捷増強Ⅰ〕の錬金特性を用いて付与したものだ。


 ちなみに鎧にアルカ鍍金を行った際に、錬金特性は『3つ』消費した。

 錬金特性の消費量は少し多めだけれど。他に材料を何も用意しなくて良いから、アルカ鍍金はわりと気軽に利用しやすい。


 霊薬の調合と同じく、挑戦する前にアルカ鍍金も『成功率』は判るんだけれど。シズの場合は〔敏捷増強Ⅰ〕の特性付与なら、成功率は『100%』だった。

 錬金術系の生産は、失敗すれば『爆発』を引き起こす。これはアルカ鍍金も例外では無いので、もし1%でも失敗する可能性があるようなら、作業に抵抗感を覚えたのは間違いないだろう。


 ちなみに、シズが他に所有する錬金特性―――例えば水蛇の〔生命回復Ⅰ〕や、グーグーの〔移動速度向上Ⅰ〕、ゴブリンの〔筋力増強Ⅰ〕、ゴブリン・スカウトの〔加護増強Ⅰ〕、ゴブリン・ファイターの〔強靱増強Ⅰ〕などでも成功率を確認してみたけれど。これらの付与はいずれも『100%』成功するようだ。

 成功率は霊薬と同じで、〔錬金術師〕の[敏捷]と[知恵]が影響するらしい。

 現在シズの[敏捷]は『52+3』、[知恵]は『52』なので、その能力値で必要量に足りているということなのだろう。

 もちろん、より上位ランクの錬金特性―――〔敏捷増強()〕などを付与する場合には、成功率が変わってきそうな気がする。


「こんな感じのをスケルトン用の武器に付与したいんだけれど、いいかな?」

「もちろん、お姉さまさえよろしければ是非」


 承諾が得られたので、プラムと手を繋ぎながら錬金術師ギルドへ移動する。

 錬金術師ギルドは、言うまでもなく〔錬金術師〕のための施設なわけだけれど。別に部外者を連れて利用してはいけない、というほど厳格な場所でもない。

 『工房』の中へプラムを同伴しても、特に問題は無いはずだ。


「縫製職人ギルドにも『工房』はありますが、あちらは大勢で一緒に利用する作業部屋ですから。個室があるというのは、ちょっと羨ましいですわね」

「あはは……」


 ギルドまで歩く道中に、プラムがそう口にしてみせるけれど。事情を知っているシズとしては、苦笑することしかできない。

 錬金術師ギルドの『工房』が個室なのは、失敗時に発生する『爆発』の被害が、生産者以外に及ばないようにするためのものだ。

 要はただの『隔離部屋』なので、羨ましがられるようなものではない。


「―――ですが、ちょうど良かったですわね。わたくしからお姉さまに少し、お話したいことがありましたので」

「うん? いま聞けることなら聞くけど?」

「いえ、ここではちょっと……。その、少し恥ずかしいですので……」

「そ、そうなの?」


 かあっと、恥ずかし気に顔を赤らめてみせるプラム。

 一体どんな話をするつもりなのか、シズには凄く気になった。


「また『工房』を借りたいんですが、同伴者が居ても構いませんか?」

「ええ、全く問題ありません」


 錬金術師ギルドに到着した後、1階販売店のカウンターに立っていたギルド職員の人に訊ねてみると。案の定、即座に許可を貰うことができた。

 もう朝の8時を過ぎているんだけれど。この時間でもまだ、カウンターに立っているギルド職員は先程と同じ人だった。

 いつものお姉さんは、今日はお休みなのかもしれない。


 ギルド職員の人の話によると、『工房』はちょっとした話し合いや飲食スペースとしての利用目的で、作業もしないのに友人等を伴って利用する職人が、普段から結構いるらしい。

 だからシズも他の人達と同様に、どういう目的で『工房』を利用しても構わないし、友人などを中に同伴しても全く問題無いそうだ。

 親切なことに、ギルド職員の人は『工房』内に椅子が1脚しかないから、廊下に置いてある椅子を自由に持ち込んで構いませんよ、とまで助言してくれた。


「後で私を訪ねてくる人が2人ほど来るかもしれないんですが。もしそういう人が来た時には、『工房』へ案内してあげて貰うことってできますか?」

「はい。『シズ』さんが利用している工房へ行きたいと仰る方が来られた場合は、ちゃんと私どもでご案内させて頂きます」


 追加でシズが訊ねたことにも、ギルド職員の人は笑顔でそう回答してくれた。

 ユーリとイズミの2人も、たぶんそろそろログインしてくるだろうから。これで彼女達にも『工房』へ直接来て貰うことができそうだ。


 プラムを連れて錬金術師ギルドの中を軽く案内する。

 自分が所属していないギルドの様子は結構気になるものらしく、いかにもプラムは興味津々といった様子で、施設内の様々なところを見回していた。

 それからシズ達は、借りる手続きをした3階『工房』の一室へ入る。

 後でユーリ達に来て貰うかもしれないから、廊下の椅子は3脚ぶん持ち込んだ。


「ず、随分と、工房にしては狭い部屋ですのね……」


 『工房』の中を見確かめて、呆れたようにそう呟いてみせるプラム。

 個室の広さは大体4畳半……いや、もう少し狭いぐらいだろうか。


 シズからすれば、それほど狭さを感じる空間でもない。ネットカフェの個室とかなら、もっと狭いところなんて幾らでもあるわけだし。

 とはいえ―――昨晩の高級宿を「普通ですわね」の一言で片付けていたプラムからすれば、この空間を狭く感じるのも無理はないだろう。


「狭い所は嫌だったりする?」

「いえ。お姉さまと一緒でしたら、狭い分にはむしろ歓迎ですわね」


 膝を突き合わせるほど椅子を近づけてから、朗らかに笑ってみせるプラム。

 シズとしても可愛い女の子と一緒に居られる分には、狭い部屋のほうが嬉しい。


「―――それで、話って?」


 道中で気になっていたことを、シズは率直にプラムに訊ねた。

 耐爆仕様である『工房』の個室は、防音の点でも非常に優れている。

 だからこの場所でならどんな話をしても、誰かに聞かれる心配は無い。


「お姉さまは、わたくしのキャラクターの『種族』をご存じですか?」

「……ごめんね、知らないや。私が知っているのはユーリの種族だけかな」


 ユーリの種族が『森林種(エルフェア)』であるのは知っている。

 以前に本人の口から教わったことがあるからだ。


 けれどもプラムとイズミの種族については、シズは何も知らなかった。

 もしかしたらゲーム慣れしている人なら、プラムやイズミのキャラクターの外見特徴などから、彼女達の種族を看破できるのかもしれないけれど。

 残念ながらシズは普段からほとんどゲームを遊ばないから、その手の知識の持ち合わせが全く無いのだ。


「―――実は、わたくしの種族は『吸血種(カルミラ)』と申しまして」

「かるみら?」

吸血鬼(ヴァンパイア)みたいなもの、と言えば判りやすいかもしれませんわね」

「おー、それなら何となく判るかも」


 架空の物語などで、よく登場する単語であればシズにも判る。

 文字通り人間の『血』を吸い、それを糧にして生きる不死の存在のことだ。

 血を吸われた人間は吸血鬼の『眷属』として、その支配下におかれる―――なんて設定も、小説や映画などでよく見かける気がする。


「よろしければ私に、お姉さまの血を吸わせて下さいませんか?」

「ん、いいよ」

「……よ、よろしいのですか?」

「プラムがそうしたいなら全然いいよ?」


 元より『リリシア・サロン』で僅かに付き合いがあった頃から、プラムの人柄に関しては信用している。

 だからプラムがそうしたいなら、シズに断る理由なんてない。


「えっと、どうすれば良いのかな? 鎧を脱いで肩を出せば良い?」


 なんとなく吸血鬼は血を吸う際に、相手の肩を咬むイメージがある。

 だからシズはそう訊ねたんだけれど。プラムはその問いに(かぶり)を振って否定して、代わりに1本の『まち針』のようなものを差し出して来た。


「これは?」

「『出血の針』というアイテムです。このゲームでは基本的に、どのような怪我を負おうと出血することはありませんが。その特別な針を指先に刺しますと、少しだけ血を出すことができます」

「へえー、なるほどね」


 言われてみれば……プラムの言う通り、このゲームでは『出血』が発生しない。

 何しろ、魔物の身体を刀で真っ二つに切り裂いた場合でさえ、その断面から血が出ることが無いぐらいなのだ。

 おそらく血を伴う表現を嫌うプレイヤーに配慮して、ゲーム自体がそういう仕様になっているんだろう。


 ちなみにイズミは以前、これに関して『刀の血糊を落とす手間が無くて良い』と言っていた。

 なんとも剣豪らしい台詞だと、シズは感心したものだ。


 プラムから受け取った『出血の針』の先端を、左手の人差し指に刺す。

 針を刺した場所からじんわりと血が染み出すけれど、痛みは全く無かった。


「失礼します、お姉さま―――」

「わっ」


 血が床に滴るよりも速く、シズの指を口に(くわ)えるプラム。

 ちぅちぅと指先に吸い付く彼女の仕草が、何だか妙に可愛らしかった。




+----+

★『血の盟約』により、吸血種(カルミラ)のプラムを眷属にしました。

 眷属には1日に1回まで血を与えることができ、回数が多くなるほど

 あなたの近くに居る時に眷属の能力が強化されます。

 14日間血を与えないと関係が解除されますのでご注意下さい。


○実績『吸血種の主』を獲得しました!

 報酬として異能《盟約の主》を獲得しました。

+----+




「………………え?」


 ログウィンドウに現れた表示を見て、シズは驚かされる。

 血を吸われたから、もしかしたら吸血種の『眷属』にされたりするのかなあと、そう思っていた部分はあったんだけれど。

 まさか―――『眷属』になるのがプラムの側で、自分が『吸血種の主』になるだなんてことは、全く予想もしていなかったからだ。


「ふふ♥ これでわたくしは、おねえさまのモノですわ♥」


 同様の表示は、おそらくプラムのログウィンドウにも現れているんだろう。

 いま吸ったばかりのシズの血で、僅かに唇の端を汚しているプラムが。

 そう告げながら―――なんとも嬉しそうに、満面の笑みを浮かべてみせた。





 

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お読み下さりありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] こりゃあ食わされたな....いろんな意味で....
[良い点] 待ってた!吸血種が吸った相手に従属するパターン!! [気になる点] 一般的には逆に従属させられる物なのに、躊躇もなく吸わせる宣言しちゃう、 シズ嬢の御姉様っぷりよ…
[良い点] 更新乙い
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